「こんな所があるとはな。助かった、感謝するよアサシン」
アビーをベットに寝かせ毛布をかけながら俺はアサシンに礼を告げた。どうやら此処は彼女が呼ばれた場所らしく、魔物が居た場所に案内するのは気が引けるが街に戻るよりも近く、アビーの休息に使える場所として使用してさせて貰う事になった。それにしても、歴としたサーヴァント相手に幼子を無理させる訳にはいかないと断言する辺り本当に善い奴だな。
「構わない」
「礼ぐらい受け取ってくれ。さてと、俺のせいで具体的な話が遅れて悪かったな、同盟を結ぶにしても具体的な内容や期間はどうするんだ?」
そう言ってこの部屋に集まっているセイバーとそのマスターと思われるサジョウ・アヤカ。そして、ランサーに声をかける。流石に人語を介す訳ではないからあの狼には声を掛けなかったが問題ないよな流石に。
先ず、俺の問いかけに答えたのはセイバーだった。彼は分かりやすく手を挙げてから立ち上がるという学生か?というツッコミをしたくなる動きを見せてから話し出す。
「先程俺とランサーの方で話したのだが、この街は泥と病の危機に晒されているらしい。それらの対処をするまでがランサーとの同盟関係となった。次に魔物を討ち倒すまでがアサシンとの同盟関係としたいのだがどうだ?」
セイバーがそう問いかけるとアサシンは同意の意を示す。どうやら、過去に彼女が連なる教団の長があのセイバーと協力し死徒を討ち倒した事があるらしくその例に倣う様だ。全く、どの時代にも蔓延っている様だな連中などと考えているとセイバーの視線が俺に向けられる。
「貴方とは可能であれば、あの王の話を聞かせてほしい!特に期限を定めるつもりはないのだが、駄目か?」
「……ふむ、それなら一旦先送りだ。ランサー、お前は俺になにを望む?」
無期限なら無期限で話がややこしいから先送りにし、ずっと黙っているランサーへと質問を投げかける。アサシンの目的は理解している以上、共に死徒を倒すだけだが泥を危険視している彼或いは彼女が俺を見逃す理由が分からない。将来的に利用されるだけされて、お役御免と殺されるのは避けたい。
「そうだね。君のその身を流れる泥は確かに脅威だけど、死んだとしても聖杯に流れ込む事はないからどうにかするつもりは今のところないから安心して欲しい。僕もそっちの彼同様、無期限でも構わないさ。但し、君の連れているサーヴァントがマスターにとって有害だと認識したら容赦なく君達を敵と捉える事は覚えていて欲しい」
やっぱり、こいつはアビーを警戒している。彼女のなにがそこまでこの神代を生きたであろう英霊を警戒させているのかは分からないが、出会った時の言葉を考えるに今までのままなら見逃してくれるのだろう。……少なくとも今は敵ではないか、その事実が確認できただけ良しとしよう。
「分かった。実質、二人とも無制限だと言うなら俺から制限をつけよう。俺がお前らに敵意を向けられた、そう判断した場合どの様な状況であろうと俺はお前たちの敵になる。その時は先ず真っ先にマスターを狙うから覚えておいて欲しい」
「ッッ……」
セイバーに守られる様に彼の背中から離れていなかったサジョウが差し向けた殺気に怯え、小さく息を呑む。狼の方はランサーが守っているのだろう、差し向けた殺気に気が付いた様子はない。代わりに咎める様な気がランサーから向けられている。
「敬愛なる騎士王の輩に敵意を向ける気など無いと約束しよう。だから、その気を下げてくれるか?アヤカが怖がっている」
「輩という括りに入れて良いか分からないけどな。すまない、怖がらせたな」
「い、いえ……大丈夫です」
……なんというか戦う覚悟が出来ておらず、人らしく怯えるタイプと久しぶりに会ったせいか調子が狂うな。こう言った同盟とかは譲れないものをはっきりとしておくのが大切だから空気が一時重くなったりなんて当たり前だと思っていたが、そうか普通は怯えるよな。
「おっと、すまない。連絡だ」
そんな事を話していると携帯に連絡が入る。ある意味タイミングが良く、空気を切り替えるのには都合が良いだろうとアヤカの元へ向かうセイバーを見ながら思う。さてと、連絡は誰からだ……この番号はフラットか。
「衛宮だ」
──運命の歯車がまた一つ、イレギュラーによって崩れる。
「……」
ヒクッと頬が引き攣るのを感じた。麗しの暗殺者の為に意識なく街を地獄へと変えていく小娘を利用しようと考えていたが、なぜお前がここに居る!?此処は小娘とその英霊が作り出した空間の筈。そう容易く侵入できる場所ではない筈だ。
「……もしかして何処かで会ったことあるかしら?」
ッッ……落ち着け。今の『僕』は死徒としての能力が使えぬ代わりに代行者供の監視すら振り切れる無力な子供の姿だ。この様な質問をしてくると云う事はこの忌々しい英霊はまだ軽度の疑念を抱いた程度という事だ。幸い、私の心臓を蝕む呪いを注ぎ込んでくれやがったクソ野郎はこの場には居ない。ならばこの程度の幼子、英霊であろうと誤魔化すのは容易だ。
「んー?多分会っていないと思うよ。君みたいに可愛い子だったら一度見るだけで、きっと覚えているだろうし!」
偽りの笑みを貼り付けて無垢な子供を演出する。本来なら肉体に引き摺られてこの様な事をしなくても良いのだが、あまりにも予想外すぎて僕の在り方が揺らいでしまったよ。あーあー、よしよし。僕は今、ただの子供だ。その様に振る舞おう。
「……それなら御免なさいな。私の勘違いだったみたい」
「いや、大丈夫だよ。それより僕も犬を撫でて構わない?」
「ツバキに許可を取れば良いんじゃないかしら。私は……怖いから近づきたくないの」
「そっか。それじゃあそうするね!」
警戒を完全には無くせなかったけど、どうやら今この場でどうする気はないみたいだ。あー、良かった良かった。今、あの子に狙われたら僕の命がまた一つ消えるところだった。とは言え、ジェスターの名前を名乗る事は出来ないし──ッッ!?!?
「──あら。勘が鋭いのね、嘘吐きさん」
何故だ何故だ何故だ!?偽装は完璧だった、さっきまでこの女は微塵も私を疑っていなかった筈だ。それなのにどうして、
ニヤリと悪い笑みを浮かべながら数本の触手を従える英霊を睨みつけながら、動揺を可能な限り抑える。くそっ!繰丘椿を操るつもりだったが、此処は一度逃げるが吉か?だが、この空間で今の姿以外を取ればあの黒い影まで私を敵と見てしまうだろう。
「……手品か何かかな?どうやって出しているのか分からないけど凄いねその触手。でも、いきなり僕に向けて放つのはちょっと駄目じゃないかい?」
「うふふ……駄目よ。嘘を吐くならもっと上手く周りを利用しなきゃ。相手をちゃんと見てどの様に騙すのが最適か瞬時に考えなくちゃ。そうしないと、魔女裁判は生き残れないわ」
魔女裁判……?人間共の愚かしい儀式がなんだって?
「ツバキはとても良い子よ。悪意なんて一欠片も持っていないの。だからね、嘘吐きさんみたいな悪い人を近づけさせる訳には行かないわ。それにマスターの敵は私の敵よ」
嘘つきはどっちだ!と吐き捨ててやりたいが、触手に貫かれるのは御免だ。転がる様に左右から突如として現れた触手を避けながら繰丘椿の元へと走る。あの女とて、あの姿を見られるのは嫌がる筈だ!ならば、今の私が出来る事はただ一つ!
「あら……鬼ごっこ?良いわ、付き合ってあげる──せいぜい、逃げ回りなさい」
ジェスター・カルトゥーレとアビゲイル・ウィリアムズの鬼ごっこが始まりを告げるのだった。──カチリと、歯車がまた一つズレていく──
感想など待ってます。