転生特典が動体視力?これ、無理ぞ   作:マスターBT

72 / 86
遅くなりました。ちょっと、色々なものに浮気してました。


集うは厄災

 人の姿はなく、明かりもなく喧騒もない、ただ静けさだけがそこに熱もなく佇んでいた──この時までは。

 スノーフィールドという街から切り取った様に街を構成する無機質なものだけが存在し、動物は全て同じ動作を繰り返すだけの命なき夢の世界に轟音が響き渡っていた。

 

「……オォォォ!!」

 

「……」

 

 ビルの窓を破り地に足を着けるが、ゴムの焦げる嫌な匂いを充満させながら背中から反対の窓を破り勢いよく飛び出す影辰を弓も従えていた地獄の番犬も何一つ持たないアルケイデスが追走する。

 空中で追いついたアルケイデスを迎撃するべく身を捻り蹴りを入れる影辰であったが、ただの人間が真正面から放つその一撃は英霊であるアルケイデスにとっては、蚊を叩くほど容易い事であり狙った胸部へと当たるより早く、横から掴み上げられそのまままるで人を棒の様に振り回し、落下しながらビルへと叩きつける。

 

「ふん!」

 

 人体から大凡鳴って良い音ではない音を響かせながら掴まれている足を自ら曲げる事で、灰錠を展開した拳でバーサーカージャック・ザ・リッパーの宝具を奪った事で悪魔化しているアルケイデスの顔面を勢いよく殴り着ける影辰。

 本来であれば意に介す必要のない一撃であるのだが、悪魔を取り込んだ事で神からの聖別を施されている灰錠による攻撃はその肉体に僅かばかりのダメージを与える事が可能となっており、そこに加え未だ身を蝕むヒュドラの猛毒そして両者が身に宿す泥の魔力を纏った一撃はアルケイデスの拘束を緩める事に成功する。

 

「……その身で聖職者。ふん、笑わせてくれる」

 

 目の前で逆再生の様な動きで元の形へと戻っていく影辰の足を見ながら、アルケイデスは追撃の一手として両手を合わせ脆い頭を砕こうと振り下ろす。

 常人の目では決して捉えきれないその攻撃を持ち前の動体視力で見切った影辰は直撃コース上に空中で掴んだ瓦礫をねじ込み盾とすることで衝撃を緩和し受けた力を最大限利用する事でアルケイデスより数瞬早く着地。

 その力でコンクリートの地面に波紋上のヒビが広がるが、それは抑えきれずに溢れた余波に過ぎず得られた暴力的な力を自分の身体全体に流し右手の一点に収束させ空から降りるアルケイデスへと真っ直ぐ正拳突きを放つ。

 

「ぬぅん!!」

 

「はっ!」

 

 鋼鉄の城門でさえ、砕くであろう影辰の一撃をアルケイデスの剛腕が迎え撃つ。

 両者の拳が触れ合った刹那、その力のぶつかり合いから突風が巻き起こり影辰が弾かれる様に外側へと飛ばされていく。

 その腕からは血が垂れておりぶつかり合った衝撃が影辰の右腕の血管をズタズタにし破裂した事が窺える──それほどまでのダメージを受けてなお、傷は再生していき未だに痛覚から影辰が意識を失う様子はない。

 

 黒い風にアルケイデス諸共、飲み込まれた影辰は今警官隊の援護もなくただ一人でアルケイデスという災害と戦っている。

 この場所がどの様な場所なのかは分からないがそれを考える必要性も余力も影辰にはなく、自分という存在に焼き付いたヘラクレスを殺そうとしているアルケイデスに全ての神経を注いでいた。

 

「ネメアの獅子であれば、首を三日三晩絞め続ければ殺せる。だが、再生する貴様はそうもいかぬか」

 

「……だったら使えば良いだろ?猛毒を」

 

「ふっ、確かにあの死毒も使えるが──」

 

 ただの筋力を用いた移動でまるで、瞬間移動の如く距離を詰めるアルケイデスをいつもの様に決死の覚悟で迎え撃つ影辰。

 震脚により巻き上がる衝撃波とコンクリートの破片が散弾銃の様にアルケイデスへと迫るが、暖簾を潜るが如く軽い動作で全てを防ぎきり影辰の腹部を殴り飛ばすアルケイデスだったが、その手応えの無さに攻めの手を緩める事はなく顔を掴み地面に叩きつける。

 常人であれば頭部が柘榴の様になり血の花を咲かせるところであるが、影辰は一瞬たりとも動きを止めるとなく身体を反りアルケイデスの圧倒的な力で上半身が固定されているのを利用しバネの様に力を溜めた蹴りで、アルケイデスの顎を下から揺らす。

 

「ぐっ……」

 

 顎に受けた振動がアルケイデスの脳を大きく揺らすがそれでも手を離さずに影辰の頭を掴んだまま、持ち上げ近くの建物へとフリスビーの様に投げつける。

 激突した場所はどうやら花屋だった様で、大量に飾られていた花が衝撃を僅かに和らげ舞い散る花弁の中から手入れに使われていたであろう花鋏が五本ほど勢いよく飛び出しアルケイデスへと飛来する。

 投げたのはもちろん、影辰でありそれら全てが徹甲作用の要領で投げられておりアルケイデスの頭部と四肢それぞれに向かいながら飛んでいき中央を影辰が走りながら迫るという必中の攻撃である。

 

「舐めるな」

 

 全くの同時ではなく、ほんの僅かにズレて飛来する花鋏の全て隙間を縫う様に避けたアルケイデスは真正面から突っ込んでくる影辰に向けてじっくりと腰を落とし構える。

 それに対し、影辰も真正面から突っ込む形は変えずに腰だめに両手を引き間合いに入った瞬間に突き出し刹那の拮抗の後、影辰が後方へと弾き飛ばされるが激突するかと思われたビルを駆け上っていく。

 

「……上の利を取ったところで貴様に何が出来る?」

 

 それでもアルケイデスは影辰を追いかけて同じようにビルを駆け上がっていく。

 己がその名を穢し、地の底へと叩き落としたい男をいつまでも鮮明に映し続ける影辰の心からヘラクレスという栄光を奪い去り、その命を絶つ為に──それは、英雄ヘラクレスではなくただ人の復讐者であるアルケイデスであったからこそ見せた執着であり隙であった。

 

 確かにアルケイデスに通用する遠距離手段を持たぬ影辰が己から距離を取ったところで出来る事は何一つ無いという判断は間違っていない。

 

「俺一人じゃ何も出来ない、それは間違ってないぞ。けど、それは人間誰しも当たり前な事だろ?」

 

 ──影辰とアルケイデスが駆け上がったビルの屋上には戦闘音を聞きつけ、馳せ参じた警官隊の一部が待機しておりその全員が手に持つ宝具をアルケイデスへと向けていた。

 人が一人で成し遂げられる事など対して多くはない……何故なら人はその様な進化を選ばなかったからだ。

 強靭な牙も爪も、頑強な皮膚も捨てたが故に得た知能と群としての力。

 

 所謂、人の力が復讐者として再誕した大英雄へと襲い掛かった。

 

「オォォォォ!!」

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

 槍の宝具を持つ二人が飛び出し、アルケイデスの両足を刺し貫かんと迫る。

 

「しっ!」

 

 それを援護するべく弓の宝具を持つものがアルケイデスへと連続で矢を放ち続ける。

 

「……」

 

 大鎌の宝具を持つものが迎撃の為に振るおうとしたアルケイデスの右腕を刺し貫き、無理やり動きを止めた事により矢の雨がアルケイデスへと降り注ぎ、その多くは皮衣によるダメージ与える事はないが剥き出しになっている肌に浅く突き刺さる事で僅かに行動を阻害、結果的に槍持ち二人の宝具がアルケイデスの両足へと刺さった。

 

「全員、巻き込まれるなよ!!」

 

 アルケイデスの意識が完全に正面に立っている警官隊達に向いた直後、彼の真上から影辰が叫びそれに反応したアルケイデスが見た光景は、大楯の宝具を持つ者と一緒に魔力を纏い落下してくる影辰の姿だった。

 

「「オォォォォ!!」」

 

 鈍い音を響かせ、アルケイデスは大楯の警官と影辰と共に登ってきたビルを勢いよく落下していく。

 重力に従いながら落ちていくアルケイデスは、その胸中に己という災害に全力で抗っている人間達への賛辞を抱きながらその身に宿す暗き炎を激らせる。

 

「ぬっ!?うぉぉぉぉ!?!?」

 

 大楯持ちがアルケイデスの動きに気がつき、振るわれた剛腕を盾で受け止めるがその勢いを殺しきれずアルケイデスの上から退かされてしまうが、そのお陰で影辰が吹き飛ばされる事はなく、地面に到着し轟音と共に大きな土埃をあげる。

 その煙の中からアルケイデスを足場にする事で衝撃を緩和した影辰が飛び出し、着地するとそのまま膝を着いた。

 

「……」

 

 傷こそ塞がっているが受けたダメージが無くなる訳でも、大英雄と対峙している精神的負荷を減らしてくれている訳でもない。

 大きく肩で息をしながら土煙を向こう側を睨みつける。

 

 ──絶望の底から黒い腕が現れる。

 完全に決まった様に見えた一撃も、大英雄を討ち滅ぼすには足りず地獄から蘇る幽鬼の如く土煙の向こうに見える影が大きくなっていく。

 

「……名を聞こう」

 

「……衛宮影辰」

 

「そうか。では、影辰よ。我が身を滅ぼすに値する人の戦士、この一撃を手向に送ろう」

 

 バーサーカーより簒奪した宝具で生やした翼で土煙を払うとその手に持つ弓を構えるアルケイデス。

 向けられた明確な死を前にしても影辰の心が折れる事はなく、震えながらも立ちあがろうと足掻き──崩れ落ちる。

 最早、その身は限界をとうの昔に超えており闘おうとする影辰の意志に応えるだけの力は残されおらず、いくら人の身を超えた力を有していようと所詮は、人に下駄を履かせただけで根本から作りの違う存在には抗えぬと示していた。

 

「……死んでたまるか……俺は、帰るんだ……カレンの居る家に……!」

 

 それでもなお、醜く這いずってでも立ちあがろうとする影辰の背中に黄金が舞い降りる。

 

「──ほぅ、女の名を呼ぶか影辰」

 

 幾重にも開かれた金の波紋から無数の宝具が射出され、弓を構えていたアルケイデスはその迎撃に追われる。

 カシャリ、カシャリと金属の擦れる音を響かせながら珍しく地に足をつけて歩く原初の英雄王──ギルガメッシュが倒れ伏した影辰の一歩前に立つ。

 

「色を覚えた様だが変わらずその在り方は、我が認めたままか。良かろう、褒美だこの場はこの我自ら戦ってやる。一瞬たりともこの栄誉を見逃す事を許さんぞ」

 

「……は、ははっ……珍しい事もあるんすね王様……」

 

 王の気配がこの世界にもある事は悟っていたがそれでも自分の為に現れるなど微塵も想像していなかった影辰は、何度も向かい合い正面から見て来た英雄王の気高き背中を見ながら締まりなく笑みを浮かべる。

 

「戯け。貴様はただ黙り、この我の庇護下にある事実を噛み締めておけば良いのだ」

 

「──それなら、マスターは私が貰って行っても大丈夫かしら。黄金に輝く王様?」

 

 無垢なる声が戦場に響き渡ると共に世界が塗り替わる。

 現代のコンクリートで作られたビルの街並みが17世紀末の素朴で質素な街並みへと。

 

「マスターを呼んだつもりなのに、私の所に来ないから随分と探すのに苦労したわ」

 

 黒き風の向こう側から影辰を呼んだアビーが突如としてこの戦場に現れ、笑みを浮かべながらギルガメッシュとアルケイデス両者に触手を放つがギルガメッシュはその無数の宝具で、アルケイデスは自身の技量で持って触手を無力化した。

 

「あら」

 

「……ただ座して待つのを辞め自ら参加する事を選ぶか外なる巫女よ。だが、それは賢い選択ではないぞ」

 

「ふふっ、だって私だけじゃないもの。もう一柱、我慢が出来なかったみたいよ?」

 

 その言葉に顔を顰めるギルガメッシュだったが直後にこの場にいる全員を踏み潰さんと言わんばかりに上空から舞い落ちる英霊というよりは巨大なロボットそう表現するのが正しい鋼で出来た『真なるバーサーカー』が現れた事で動けぬほどに疲弊した影辰を掴み上げ、その場を一度離れる。

 

『── ─ ────』

 

 この世界の全てを呪う化け物の歪な叫び声が響き渡る。

 とあるサーヴァントが、幼きマスターの為に生み出した夢の世界にて、アーチャー・ギルガメッシュ、アヴェンジャー・アルケイデス、フォーリナー・アビゲイル、そして真なるバーサーカーの四つ巴の戦いの火蓋が今、切られようとしていた。




感想など待ってます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。