相変わらずの不定期ですわ。
ただ一騎存在するだけでも、全ての人類を殺し尽くせそうな英霊達が四騎、その顔を見合わせていた頃。
「……こわいよぉ……まっくろさん、そばにいて……」
夢の世界の主である、繰丘椿はベッドの上で身体を丸めて、布団を被り魔術師としての本能が告げる圧倒的な恐怖に怯えきっていた。
本来であれば、彼女を怖がらせる者達を滅ぼしに行きたいまっくろさんであるが、その性質から機械的に主である椿の『側にいて』という願いを聞き届け、彼女の近くをただ佇んでおり、その姿はこの世界に彼らを招いた者とは思えないほど消極的であった。
【────】
まっくろさんは、機械的に考えを巡らすが側にいてという願いを実行しながら、規格外な英霊達を屠る策は何一つとして、思い浮かぶ事がなくただ静かに、その身をゆらゆらと揺らし椿が落ち着くのを待っている。
──そこに、突如として侵入者が現れた。
「……マスター使いが荒いサーヴァントだな全く」
乾いた血でその身を染めながらも、傷一つないその身体で最初からこの場に居たように、現れた男は疲れ切った様子で呟き、黒い影──まっくろさんを視界に捉えながらも、己がこの場所に連れて来られた役目を果たすべく立ち上がり近くにあったぬいぐるみを一つ掴み上げる。
敵対行動かとまっくろさんは黒い影を広げるが、その動作に怯える事なく男は椿へと視線を合わせると慣れない裏声を使って無駄に甲高い声を出しながら、ぬいぐるみの腕を持ち上げる。
「ヤァ!僕の名前は、影辰って言うんだ!君の友達、アビゲイルに頼まれてやってきたお兄さんだよ!!」
ポカンと口を開けてしまった椿はきっと、何も悪くないだろう。
「外なる巫女よ。この我の決定を覆すとはどういう了見だ?」
「あら怖い怖い。マスターは王さまの民なのかもしれないけど、今は私の愛しきマスターよ。頼み事を聞いて貰っても罰は当たらないでしょう?」
倒れたままの影辰を門に落とす事で、椿の元へと送り届けたのはやはり、アビゲイルだった。
王の視線を嘲笑をもって受け流すアビゲイルによって両者の間を流れる空気はただ一人の男を巡って、険悪なものへと変わる。
「戯け。この我が見ていろと言ったのだから、何があろうとあの男には我を見上げる義務があった……貴様の行いによって不利益を生じるのはあの男だ」
選択の余裕なく拉致された影辰にとっては、是が非でも否定したい事なのだが悲しきかな、この場に居ない者の言葉は届くことがなく、雑談などを許すほど他の二騎も我慢強くはなかった。
先手を取ったのは真なるバーサーカーの虹色の光線であった。
戦場を裂くように降り注ぐ光線は、その場の全員に等しく降り注ぎ王は財を、巫女は触手を、復讐者は技量で持って光速の攻撃を躱し、放たれた矢と黄金に輝く宝剣が同時に、バーサーカーに降り注ぐがその外皮を傷付ける事は出来ずに地へと転がった。
『── ──!!』
「悲しい叫びね。でも、力で悲しみを訴えても何も伝わらないわ。ねぇ、戦士さん?」
「一緒にするな魔女」
音すらを置き去りに放たれる三連の矢を虚空より現れた触手で受け止めながら、バーサーカーを縛り上げるアビゲイルは変わらず、嘲笑を浮かべたままギルガメッシュを見ており、その視線は挑発の様にギルガメッシュを苛立たせた。
眩いばかりの波紋が、ギルガメッシュの背中に広がる景色を覆い隠すほど広がると全ての敵に対して荒狂う嵐の如く降り注ぐ。
「あははは!まるで流れ星の様ね!」
「財を投げ放つだけなら取るに足らん」
門を用いて、短距離ワープをしながら降り注ぐ宝具達を楽しげに嘲笑うアビゲイルと谷での戦いの様にその場から一歩も動く事なく、打ち払うアルケイデス。
『── ──!!』
そんな彼らと違い、触手に縛り上げられていた事で身動きの取れていなかったバーサーカーは避ける事も迎撃も思う様にいかず、数多の宝具を身に浴び、その中に混ざっていた怪物殺しの武器を受けて苦悶の叫びを漏らすと共に七色の光線が見境なく放たれた。
一つは火を巻き上げる暴風となり、一つはありとあらゆるものを凍てつかせる氷柱となり、一つは雷霆となり……七つ全ての光がそれぞれの厄災となり全てを破壊せんと迫る。
ギルガメッシュとアビゲイルがそれぞれ防御の構えを見せる中、生前にこれ以上の試練を受けた大英雄の成れの果ては、ただ一人攻勢に出る。
全ての厄災を躱しながらギルガメッシュへと迫り、取り出した矢に毒蛇を、黒い呪いを纏わせると迎撃に向けられる武具達を見ながら、何一つの迷いなく放つ。
「──『
「ふん……」
ギルガメッシュは自らの眼前へと迫る宝具に何一つ、表情を崩す事なく赤い瞳で一瞬のうちに自らを死に至らしめるであろう矢を見つめ──地面へと脳髄が散らばる事はなかった。
「やはり時間稼ぎが目的か。巫女」
「うふふ、なんの事かしら」
毒蛇の矢は横から伸びてきた触手によって絡め取られ、へし折られていた。
通常とは異なる理屈を持つ触手は例え、大英雄すらも死に至らしめる激毒であろうとも犯し殺される事はない。
「私の目的がなんであれ、王の裁決を無に返し、戦士の殺し合いを妨害し……まぁ、貴女は分からないから良いとして。そんな敵を見逃してくれるほどお優しい方々ではないでしょう?」
全てを嘲笑う外なる神の巫女の言葉を戯言と聞き流した王に返答はなく、代わりに宝具の雨が放たれる。
それら全てを触手を盾に受け止めながら、じっと王の瞳を見つめ続けると溜息と共に雨が止む。
「興醒めだ。元より、我が戦う理由は既にこの場から消え失せている。あとは貴様らで好きな様に殺し合うと良いわ」
背を向けて立ち去ろうとするギルガメッシュの背に矢が放たれ、黄金の波紋から現れた盾が受け止め金属音が響き渡り、七つの厄災の一つが降り注ぎ、去ろうとした進路に氷の壁を作り出す。
アビゲイルとギルガメッシュの間に、言葉にせずとも伝わった取り決めがあろうともそんなものは第三者には関係がなかった。
「逃すと思うか」
「……良いだろう。貴様らが働いた様々な無礼の報いを」
ギルガメッシュの怒りが我慢の限界を超えた瞬間、世界が大きく歪み燃え盛る『冬木』の街並みに切り替わったかと思うと、その次の瞬間には眩いばかりの光を放ち、戦っていた者達の目を一時的に潰す。
そして、彼らが気がついた頃には元いた場所であるスノーフィールドの病院前に立っていた。
「な、なんだ!?」
「戻ってきたのか!?」
巻き込まれた全ての者達が驚いた表情で周囲を見渡すと、日が上り僅かに明るくなった病院の入り口から濃密な死の気配を漂わせる男──衛宮影辰がその姿を現し、一目見ただけで彼の身に起きた変化を見抜いたギルガメッシュは高らかに笑う。
「ふははは!!なるほど、考えたな!元より、幾千幾万の人間を殺しきる呪いをその身に宿す貴様だ。ソレは方法が違うだけで、等しく人を殺す存在そのもの。貴様の身体にはよく馴染むであろうが……くくっ、そうか、そうまでして守るべきものを見つけたのだな影辰?」
「楽しそうで何よりですよ……えぇまぁ、友と重なって見えてしまったのが運のツキでしたね」
繰丘椿が呼び出したサーヴァント、『ペイルライダー』をその身に宿しマスターでもあり、サーヴァントでもある状態へと変化した衛宮影辰はそう言って苦笑しながら、ギルガメッシュとアルケイデス両者を見据える。
「俺たちフォーリナー陣営は、英雄王ギルガメッシュと復讐者アルケイデス。貴方達、二人との停戦および同盟を希望するが如何か?」
感想など待ってます。