「なるほどね……両親の期待に全力で応えようとした訳だ。優しいね椿ちゃん」
「えへへ」
子が親の期待に報いようとするのはよくある幸せな光景だというのに、悉く魔術師という人種は人の心がないな。
ここが椿ちゃんの精神世界だとするのなら、現実の彼女は殆ど動けない或いは、命そのものすら怪しい状態と考えておいた方が良いかもしれない。
「椿ちゃん。これは大事な質問なんだけど」
「うん!なにお兄さん?」
俺が道具であり続けた様にこの子が親の願いを自分の意思で叶え続けると言うのなら、アビーには悪いが俺に出来る事は何もない。
けれど、もしもこの子が見果てぬ先へと手を伸ばすと言うのならその手助けを俺はしたいと思う……だって、笑って過ごせるのならどんなに過酷な道程であったとしてもその方が良いだろうから。
「君は自由を望むかい?親の願いではなく、これから先の長い人生を自分の願いの為に生きたいと思える?」
……やっぱり分かっていた事だが、この子の親に向ける愛情というのはかなり強いな。
俺の知る一般的な魔術師の多くは、例え自分の子であろうとも魔道の探求の為に必要な道具として愛する事はあってもただの子供として愛する事はなかったし、恐らくだがこの子の親もそうなのだろう……愛しているのなら泣き叫ぶ程に痛いと告げる子供をそのままにはしない筈だ。
「え」
「残酷な事を言ってしまうが、君がご両親への愛を貫けば貫く程に彼等は君を道具として扱う。覚えはないかい?どれだけ泣いても叫んでも、彼等はソレを止めず寧ろ、君が自分で選択しているかの様に追い込んできた事とか」
椿ちゃんの瞳が恐怖に揺れ動くのを見逃さない。
魔術師の娘という奴は本当に何処までも、自分を殺し我慢するのが上手で嫌になるなほんと。
「……誰かの願いじゃなく、君が望む願いを教えて欲しい。俺は弱い人間だが、一人の大人として君の願いを叶える手助けがしたいんだ」
俺は自分に問いかける様に黙り込んでしまった彼女の小さく暖かな手を俺の冷たい手で包み、視線を合わせ答えを待つ事にした。
痛くて、辛くて、苦しかった。
大好きなお父さんとお母さんが望んでいる事だから、どんなに苦しくても我慢すればその先に頭を撫でてくれるから頑張ったよ。
でも、本当はもう二度とこんな苦しい思いはしたくなかったし、何もしたくても抱きしめて欲しかった。
だからね、お父さんとお母さんが急に優しくなって何も痛い思いをしなくても撫でてくれるのは嬉しくて、嬉しくて、こんな毎日がずっと続けば良いなって思う様になった。
まっくろさんと出会っていつのまにかお庭には動物が増えて、一人ぼっちだった街には沢山の人が居て私は寂しくなくなったけど、同じ時間を過ごすだけになった様な気がする。
苦しいことも痛いことも何もないけど、何もしなくても二人が撫でてくれるそんな毎日──そこに変化が起きたのはアビーがやって来た時だった。
「ツバキ、今度は何をして遊ぼうかしら!」
初めて出来たお友達、それもきっと同じ年くらいの子!!
お部屋で集めていたぬいぐるみを二人で動かして、まるでお伽話の様な物語を演じあったり、お庭で動物達と一緒に鬼ごっこをしたり……とっても楽しい時間を過ごせた。
「ツバキはとっても良い子よ。でも、もう少し我儘になっても良いの思うの」
「わがまま?」
「えぇ!!パンケーキにたっぷりと蜂蜜をかけるとか、こっそり夜にお散歩するとか!!」
「お父さんに怒られちゃう……」
アビーは時々、私をわるいこと?に誘ってくるからその度に断っていたんだけど、心の何処かでアビーの言葉にワクワクを感じていた気がする──だって、そんな自由は今まで一度もなかったから。
暖かい手に包まれているのが分かる。
お顔はちょっと怖いけど、アビーが連れて来てくれたお兄さんは出会ったばかりなのに私と遊んでくれて優しい人って思えた。
「……わるい子になりたい。パンケーキにたっぷり蜂蜜をかけて、お外には自由に遊びに行って、沢山の友達を作りたい。もっともっと色んな事を知りたいし、お父さんとお母さんに褒めて欲しい」
だから──わがままになってみた。
嘘偽りなく、今、私が思っている事を全て口に出してみたらお兄さんは驚いた様に目を丸くして
「ぷっ、あははは!!アビーの影響か?良いんじゃないか子供らしくて」
目に涙を浮かべるほどに笑ってくれた。
「わっ」
一通り笑ったお兄さんは私を抱き締めてくれる。
「──その願いきっと俺が叶えてあげる。椿ちゃん、俺を信じてくれるならまっくろさんを貸してくれ」
「まっくろさんを?」
「あぁ。君のお願いならまっくろさんは聞いてくれる筈だ」
いつの間にか私の前に移動していたまっくろさん。
一人ぼっちだった私にお友達をたくさん連れて来てくれた優しいまっくろさんなら、私がお願いしなくても手伝ってくれると思うけどお兄さんがそう言うなら私からお願いをしよう。
「まっくろさん」
【──】
「お兄さんを手伝ってあげて」
右手の甲が熱を発するのと同時に私は眠ってしまった。
「……おやすみ椿ちゃん。きっと良い明日が君を待っているよ」
真名:衛宮影辰/ペイルライダー
クラス:ライダー
マスター:繰丘 椿
筋力:B
耐久:A+
敏捷:B
魔力:C
幸運:E
宝具:EX
ペイルライダーが椿の願いに応じる形で、衛宮影辰と同化した状態。病そのものである存在の為、人の肉体を維持している影辰は死に続け、泥により蘇り続けている。椿の夢を介さずとも、現世に介入する事が出来るようになり、影辰自身の優れた技量もそのまま扱えるが、人間の身を捨てていないため魔力は低下し、幸運値が著しく下がっている。