「俺たちフォーリナー陣営は、英雄王ギルガメッシュと復讐者アルケイデス。貴方達、二人との停戦および同盟を希望するが如何か?」
椿ちゃんのサーヴァント、まっくろさん改め『ペイルライダー』と一つになって分かった事だが、どうにもこの聖杯戦争には厄介な存在が紛れ込んでいる。
死徒は別に俺やハンザが対応すれば、打ち滅ぼせるだろうが神話の時代に存在していた女神の残滓──イシュタルだけは他のサーヴァントの力も借りないとまず勝てないだろうという直感いや、知識が病に犯された魔術師達の苦痛に喘ぐ言葉と共に俺の脳に叩きつけられたんだよな。
「ほぅ。英霊を身に宿したとは言え、傲慢にも人で在り続けようと死と生を行き来する貴様がこの我と並び立とうとは大きく出たな」
「……」
王様は相変わらずというかなんというか、俺を否定する言葉振りだけど声が弾んでいるし表情が楽しげだから一先ず、好印象ではあると思って良いだろう。
問題は俺をじっと見ているであろうアルケイデスか。
「貴方にも無縁ではありませんよ王様。現実に戻ってくる時に別の場所に送りましたが、俺が討ち倒したいのは女神イシュタルです」
「フハハ!!如何にアレが意地汚く現世に張り付いているだけの残滓と言えど神は神だ。人間の貴様が勝てる相手ではあるまい……完全なサーヴァントへと成るのならあり得るやもしれぬがな」
「それで貴方の協力が得られるのならしましょう。ですが、俺が知る英雄王は人が必死に足掻く様を認められる方だと思っていましたがね」
「道化がこの我に落胆を抱くと?ふっ、良かろう。貴様のその傲慢さに免じてこの我と共に神を討ち倒す名誉を与える──光栄に思えよ影辰」
この聖杯戦争では貴方の機嫌が良くて助かるよ本当に。
機嫌次第では今此処で、俺に無数の宝具が飛んできてもおかしくないしその上で同盟なんて結ぶのは世界が七回滅んでも無理だったろうから。
「……で、マスターとの意思疎通は取れたかアルケイデス」
「神殺しは我が宿願でもある。だが、お前が裏切らぬ保証が何処にある?」
アビーという異端の力を知っているからこその慎重さか或いは、俺が身に宿していた病魔が自分に届き得る可能性を考えたか……どちらにしろ、人間らしい臆病さだな。
「ないな──だから、そっちのマスターにギアススクロールを作って欲しい。そっちの対価は軽くても良いさ。俺は神殺しの最中にもしも、其方に害を与える行動を取れば命を差し出す」
「……正気か」
「正気さ。俺はアンタを……英雄ヘラクレスが誇る武を信頼している。死にたい訳じゃないが、俺の命一つでその武が力を貸してくれるならこの命を賭ける価値がある」
今でもはっきりと思い出せるよ対面した時の凄まじい威圧感と、イリヤを助ける為に共闘した時の頼もしさを。
アルケイデスはヘラクレスの威光を望んではいないだろうが、自分で幾ら否定しようとも彼がヘラクレスとしての一面を持っている事に変わりはないのだから神殺しなんて難題を前に借りないという選択肢はない。
「……マスターより言伝だ。明日、迎えを寄越すと」
「あいよって俺の場所分かって──もう帰りやがった」
まぁ、言い出したのは向こうだし俺も別に隠居してる訳じゃないから迎えを寄越すというなら簡単に寄越せるんだろう知らんけど。
「来たか」
「うん。来たよギル」
「っと……ランサーか」
ランサーとは既に危害を加えない事で同盟になっているがって、近いな!?
「ふむ……これは驚いた。泥と病魔がそれぞれ別の働きをする事で上手く混ざっていない。これならボクが危惧した事は避けられるだろう」
「お、おう。それは良かったよ……ただ、その近いから離れてくれ?」
「ただ、君の身には相応の負荷がかかっているね。平気かい?」
王様と云い、ランサーと云いどうしてこんなあっさり俺の状態を見抜いてくるかね。
「ん。まぁ、慣れてるから」
死んで生き返ってまた死んで……絶えず、全身を激痛が襲ってるがそんなもんは無視できる。
流石にこのまま一生を過ごせと言われたら、カレンがいる都合上無理だが。
「……慣れるべきではないというのはもう遅いかな」
「心配してくれてありがとうランサー」
「そうか。強いね人の子は」
「ソレを基準にするのは些か間違いが過ぎるがな。さて貴様の知っている事を全て話して貰おうか影辰」
「そうですね……じゃあまぁ、彼等も一緒で良いですかね王様」
俺はそう言ってこっちに向かってくるセイバー達とクランカラティンの面々を指さした。
「あははは!!!見た見た?人が人の身のままサーヴァントを宿しちゃった!!人の英霊じゃなかったのが良かったのかな?かな!?」
「星に属する英霊を人の身に宿して器が持つわけないのにねぇ!!」
「壊れ続けた果てには何が待ってるのかなぁ?人としての終わり?それとも新たな英霊の誕生?──世界の終わり?あはは!!なんにしても面白い事に代わりはないか!!あー、本当に良い拾い物をしたよ私!!」
ゲラゲラと愉しげに聖杯戦争というお茶会を眺める黒幕の歓談は終わる事を知らない。
聖杯という莫大な魔力リソースは欲しいが、もはや彼等にとってはあのオモチャが何処まで動き続け、何を成し遂げるのか──そしてその果てにどんな絶望を見せてくれるのだろうかという楽しみの方が重くなり始めていた。
「死にたくない、帰るべき場所があると言いながら死地を歩む事をやめない君の末路……楽しみにしてるねぇ?」
フランチェスカ・プレラーティーは何処までも悪辣で悪趣味であった。
「やってくれたわね……」
憎き王を殺す為に鍵をわざわざ拾ったというのに絶好のタイミングを伺っているうちに、その機会を逃してしまった女神は苛立ちを隠そうともせずソファに深く腰かける。
気まぐれで拾った少女がその怒気に怯えた声を漏らすが彼女の耳には届かない。
「しかも挙句、何を言うかと思ったらこの私を殺すですって?矮小な人間如きが言ってくれるじゃない」
天の女神である彼女にとって、別の場所に放り出された程度で何も隠そうとしていない彼等の会話を聞き逃す訳もなく、自分勝手に盗み聞きしたにも関わらず更に苛立ちを深めていく。
そんな彼女はやがて窓の外を見ると苛立ちを追い出すように小さく息を吐き、いつも通りの余裕たっぷりの笑みを浮かべる。
「まぁ良いわ。私の声を聞いてあの子も来ているし、ギルガメッシュ諸共──殺してあげる」
金星の女神、その残滓は何処までも人を見下す天高き視点を持ち合わせていた。