と言うわけで、魔眼蒐集列車編スタートです!
友になった二人の事件簿1
あれは今から10年前、聖杯戦争が終わりを迎えてから一ヶ月近く経った日だった。手持ち無沙汰で街をウロウロしている時に、同じく暇そうにしている見たことある顔と出会った。
「えーと、確かライダーのマスターだよな?まだ、冬木に居たのか」
「アンタはセイバーのとこの……カゲタツ?」
思えば、共に同じ聖杯戦争という舞台にいながら直接話したことはなかったなと、男の割には愛らしいに分類される顔付きの男、ウェイバーを見る。向こうも何か思うところがあったのか、顎に手を当てて少し考えたあと近くにあるMの文字が目立つファストフード店を指差す。
「ここで何かあったのも一つの縁だ。少し、話をしないか?」
拒否する理由もなかった俺は、二つ返事で了承しウェイバーと一緒にファストフード店に入る。魔術師の割には慣れた様子で、注文していく彼を見ながら俺もハンバーガーとブラックコーヒーを注文して席に着く。席に着いたウェイバーが何かしら細工をすると周囲の声が少しだけ遠のいた。魔術ってほんと便利だなぁ。
「簡易的な魔術だけど、これで僕達の話し声は周りに聞き取り辛くなった筈だ」
「便利だねぇ魔術」
「アンタは使えないのか?倉庫で、アーチャー相手にバーサーカーと派手に立ち回ってたじゃないか」
ポテトを食べながらウェイバーが少し驚いたような表情で聞いてくる。そう言えば、俺が魔術使えないの知ってるのってセイバー陣営の人らと言峰綺礼ぐらいか。切嗣の情報隠蔽能力の高さを感じるな。
「使えないよ。少しだけ人より目が良いだけさ」
「目が良い……もしかして魔眼か?」
「魔眼?そんな、大層なものじゃない。動体視力が良いだけだよ、試しに手に持ってるポテト何本でも良いから適当に投げてみてよ」
俺の言葉に素直に従ったウェイバーが、手元のポテトを5本手に取り投げてくる。それら全てを掴み取り、ウェイバーに向ける。ほぼゼロ距離で投げられたポテトを正確に掴み取るという分かり易い証明方法だ。
「……驚いた。目に魔力が集まった感じはない。本当にただ動体視力が良いんだな」
「分かってくれたようで何より。っと、ところでライダーのマスター。名前、教えてくれる?一々、ライダーのマスターって呼ぶのもめんどくさい」
「既に知ってると思ってたんだけど……まぁ、良いか。ウェイバー・ベルベットだ」
「ウェイバーね。よろしく、知ってるようだけど俺は衛宮影辰だ」
手元の紙布巾で手を拭き、ウェイバーに差し出す。しばらく手と俺の顔を交互に見た後に照れ臭そうに手を取る。もしかして、こいつ友達いない?まぁ、魔術師って奇人変人ばかりだし見るからにマトモそうなウェイバーじゃ友達もいないか。
「あのさ、影辰って僕より年下だよな?」
「ウェイバーの年齢を知らないんだけど……まぁ、正確には不明だけど大体10~13ぐらいだと思うよ」
「僕より最低でも6つ年下……ってちょっと待て。不明ってどういう事だ?」
グイッと詰め寄ってきた顔を押し退けながら俺は、過去に切嗣に拾われた事を教える。その時に記憶が混濁したのか失ったのかは分からないが、切嗣と出会う前の自分に関する記憶を全て失い、死にたくない一心で交渉した結果切嗣の道具として生きてきたことを。話し終えるとなんとも言えない顔を浮かべるウェイバーを見ながら言葉を続ける。
「同情とかそういう類は必要ないぞ。俺はこうしなければ生きていけなかっただけで、納得もしている。お前だって、そうだろう?ウェイバー。聖杯戦争をマスターとして、生き延びたお前はその時間を何も知らない人間に憐れみや同情を向けられて、気持ちが良いか?」
「……そうだな。今のは僕が悪かった。けど、1つ訂正させてくれ」
右手の手の甲を1度見てから、俺の目を真っ直ぐ見つめるウェイバー。そこには征服王の背中で悲鳴を上げていたあの時の情けないウェイバーは居らず、確かな意志を携えた1人の漢が居た。
「僕はただの一度もマスターとしてあの人と肩を並べられていない。僕は、あの人の背中に見果てぬ夢を見た1人の臣下だ」
セイバーが王として1番好ましいと言っておきながら、決して良好とは呼べる関係を築いていなかった俺には決して辿り着く事のない場所に立っているウェイバーを少しだけ羨ましいと思いながら、俺は笑みを浮かべる。
「な、なんだよ何か可笑しいか!」
「いや、やっぱり人生経験を多く積んでる人は違うなと思っただけですよウェイバー先輩」
「急に敬うなよ……あとそれ、なんか気持ち悪いから辞めろ」
「酷いな!?」
折角歳上だからと敬ったというのに酷い言い様だ。しかし、これでお互いの壁が取り払われたのか俺達の話は意外と弾んだ。第四次聖杯戦争中に何をしてたとか、ウェイバーが居座っていた家の人に孫では無いとバレた話とか、俺がセイバーや舞弥さんに叱られた話とか、時計塔での話や修行時代の話など歳の差こそあれ、友人同士の様に俺達は気楽に話を続けた。
「あのさ、影辰。僕、しばらくしたら世界を見て回ろうと思ってるんだ。良かったら、一緒に来ないか?」
話し込み日が落ち、そろそろ解散かなって時にウェイバーが旅に誘ってきた。世界を見て回る旅……多分、征服王の足跡を辿るつもりなのだろうな。ウェイバーと一緒に旅かぁ……楽しそうだなとは思うけど。
「いや、辞めとくよ。冬木から離れたくないし、何より切嗣や士郎が心配だ」
「そっか、そうだよな」
返事の予想はついていたのだろう。特に残念がる様子は見せずに引き下がるウェイバー。そんな彼に俺はメモ帳に連絡先を書いて破り、彼に渡す。
「魔術が使えない俺でも何か手伝える事があれば、そこに連絡をしてくれ。その時に友達のお前以上に優先する事柄がなければ、なんでも手伝ってやる」
俺が差し出した連絡先をしっかりと受け取ったウェイバー。彼もメモ帳に何かを書き、渡してくる。そこにはやはりウェイバーの連絡先が書かれており、俺はそれを落とさない様にしっかりと懐にしまう。
「冬木に残るなら、厄介ごとも多いだろう。非才の僕に何が出来るか分からないけど、お前の助けになるなら連絡してくれ」
「魔術が使える時点で俺より才能があるさ。んじゃ、旅行楽しめよウェイバー」
「言われなくても!そっちこそ、冬木に残るなら死ぬなよ影辰」
こうして俺とウェイバーは友達になり時折、連絡をし合う仲となった。たった数ヶ月で、バビロニアの遺跡にて厄介事に巻き込まれたという話を聞いた時は腹を抱えて笑ったものだ。何故なら、魔術師対魔術師となれば魔術戦で決着を着けたがるのが、魔術師だというのに死霊を活性化させ自分は、もう一人の魔術師と一緒にバイクで逃げるとか、やり口が切嗣の様な魔術師の思考の穴を突く作戦だったのだから。
そして、俺がギルガメッシュから第五次聖杯戦争が始まると予告され、切り札を手に入れる為に頼ったのも当然、ウェイバーだった。彼からの紹介でメルヴィンとも知り合い、親交を深める事になるがまぁ、これは置いておこう。第五次聖杯戦争が始まる数ヶ月前、俺はウェイバーに呼び出されあの時計塔に来ていた。此処、ただ居るだけで呪いとかそういうのが寄ってくるから長居したくないんだよなぁ。
「それで、態々イギリスまでの旅費まで払って俺を呼んだ理由を聞いてもウェイバー?突然の呼び出しだから、グレイちゃんやライネスちゃんへのお土産すら用意できなかったぞ」
「ライネスをちゃん付けで呼べるのはお前ぐらいだよ影辰。……早速で悪いが本題だ。私が保管していたイスカンダルの聖遺物が何者かに盗まれ、代わりにこれが入っていた」
ウェイバーが差し出した手紙には、聖遺物を盗んだ旨と魔眼蒐集列車に乗れという内容が記されていた。……なるほど、道理でウェイバーに余裕が無い訳だ。
「これを見せたって事は」
「あぁ。私達と一緒に魔眼蒐集列車に乗ってほしい。恐らく、荒事になるだろう。その時の戦力は可能な限り多い方が良い」
……聖杯戦争が始まるまでの猶予がどれくらいかは分からないが、言峰の奴が俺を止めなかった辺り近日中って事は無いだろう。ウェイバーには借りもあるし、手伝ってあげるとしますか。それに友達の余裕のない顔を見て断れる程、外道でもないし。
「あいよ。かのロード・エルメロイが困ってると言うなら、魔術の使えぬこの身がどこまで役に立てるかは分からないが手伝おう」
「II世付けろ。態とだろお前」
「こわーい顔をしてるから和まそうかとね。時間までまだ余裕があるんだろ、寝とけって。弟子に心配される師匠ほど間抜けなものはないぞ。ね?グレイちゃん」
「えっと……その……師匠は情けなくないと思います」
うーん、相変わらずウェイバーの事が大好きだねグレイちゃん。ニヤニヤした視線をウェイバーに向けると、呆れた様にため息を吐く。
「……分かった。少し休む」
「それが良い。んじゃ、俺は外で時間を潰すから連絡よろしくなウェイバー」
ソファで横になるウェイバーを見ながら、俺は部屋を出て急足で時計塔の敷地外へと出る。本当に落ち着かないな此処は。さてと、時間までロンドン観光と行こうか。こうして、俺はウェイバーと共に魔眼蒐集列車で起きる事件に巻き込まれていくのだった。
カレン編も引き続き書いていきますので、両方とも楽しんで頂けると幸いです。