定刻となり俺とウェイバー、グレイちゃんの3人は貨物室の外まで来ていた。相変わらずの平原は眺めていても飽きるなぁ。
「外部への脱出は不可能か」
「そうなのですか師匠?」
「おいおい、外は目と鼻の先だぞ?冗談だろウェイバー」
手を伸ばせばそこには風を感じられるし、その気になれば手摺りなんて簡単に攀じ登れる代物だ。何処をどう見ても脱出が不可能には見えない。が、そういやこの列車は魔術的な存在だったか。となれば、見えてる景色が合ってる保証もないな。
「この列車は半ば異界化している。だからこその招待状だ。つまり、こちらから招待状を使って門を形成させてやれば……」
「その講義は俺たちに必要か?ウェイバー……」
「む。すまん」
呆れた声で注意をすればウェイバーが謝罪をする。職業病ってやつか?それとも教師って奴は講義はするチャンスを伺って……どうやらウェイバーをここに呼んだ奴が来たようだな。灰錠を起動させ、列車の上へと飛び上がり、空を睨む。殺気も気配もだだ漏れ……少なくとも暗殺を得手とする奴が相手ではなさそうだな。
「……ほぅ。事前に私の気配に気が付いたか。願うのならお前が征服王のマスターであって欲しいが……違うな」
空が曇り赤い雷と共に一人……いいや、この気配はサーヴァントか。ウェーブのかかった黒髪に、赤い革鎧を纏った戦士であり、右目が黒、左目が青の瞳をしているのが特徴的だ。
「ご名答。魔術も使えないただの人間さ。征服王のマスターだったのはこいつだ」
そう言って俺は後ろにいるグレイちゃんの支援のもと上がってきたウェイバーを指差す。……あのさ、ウェイバー?もう少し身体鍛えたらどう?
サーヴァントは俺に向けていた比較的、好意的な視線を呆れの混ざった失望の眼差しに変えた。どうやら、彼女のお眼鏡にウェイバーは叶わなかったようだ。ふっ、こいつ人を見る目ないな。
「貴方が師匠から聖遺物を盗んだ犯人ですか!」
「その盗賊の郎党ではあるな」
「じゃあ返して!」
飛び出そうとするグレイちゃんを手で止めると同時にウェイバーもグレイの名を呼び制止した。後ろ目で見てやれば、目の前の存在を理解できないという顔だ。何を考えているのか俺にも分かる。盗んだ聖遺物で呼ばれたのであれば、当然征服王に連なる者であろう。だが、あの征服王の宝具の中に俺は目の前のサーヴァントの顔を見た記憶はないのだ。俺はともかく、臣下として征服王を慕っているウェイバーからしたら知らない顔というだけでショックだろう。
「……お前は誰だ?」
「ふーん、気に入らない顔だな。ケチ、せせこましい、暗くて偏屈、寝起きが悪い。さも苦労人でございって顔をしているくせに終われば一番事態をかき回している……どうだ?当たっているだろう?」
おぉ、凄い見事に当たってる。さっき、見る目ないって言ったことを少しだけ心の中で詫びておくよ。でもまぁ、少しばかり言葉が足りないから足してやるとしようか。
「ついでに言うなら、諦めが悪く魔術師らしくないお人好しで意志が強い。例え、その道がどれだけ厳しいと理解していても、辿り着くと決めた場所で立つために努力を惜しまない稀有な人間ってのも追加しておこうか」
いくら王に忠誠を誓ったからと言ってその為に全力で動ける人間がどれだけの数いる?しかも、その人の目があるのならまだしもウェイバーを監視することを征服王は出来ない。既にこの世に居ない存在なのだから。頑張ることを辞めても咎める人間は居ないという状況で、どれだけの人間がその足を止めずにいられるのだろうか。
「まぁ、それが良い方向に転がるかは知らないけど」
「……褒めるか貶すかどっちかにしろ馬鹿者」
少しだけ顔色が良くなったか。まぁ、予想外の相手で動揺するのは仕方ないけども。意志が強いのにメンタル弱いよなぁこいつ。
「ふん。まぁ良い、それで?お前はお友達に庇われるだけで何も言わない臆病者か?」
「……そうだな。お前のいう通り、私は臆病者だ。だが、今此処で、あの王の臣下の1人として引き下がって良い場面ではないな。答えろ、貴様は何者だ」
宣言と共にサーヴァントを睨みつけるウェイバー。その顔からはとりあえず動揺が消えており、一先ず安心としておこう。ウェイバーに割いていた意識をサーヴァントに向けて、臨戦体制を取っておく。どうも臣下という言葉を聞いてからサーヴァントの雰囲気が荒々しくなった。これはいつ仕掛けてきてもおかしくないと勘が告げている。
「臣下だと……貴様が?……下らないな!
貴様を呼んだのは私の興味を優先して貰ったからだ。だが、その甲斐はまるで無かったな。こんなのはもううんざりだ!!」
腰に装備されていた短剣を勢いよく引き抜くサーヴァントの動きを見ると同時に、距離を詰めて殴りかかり、灰錠と短剣がぶつかり火花を散らす。刀身には俺の顔が、灰錠の表面にはサーヴァントの顔が火花によって映し出された。
「ほぅ?戦士の顔だなお前」
「くっ……サーヴァントと真正面からぶつかるのはやっぱり、不利だな……という訳で任したグレイちゃん!」
「はァァ!」
俺の背後から鎌を手に飛び出すグレイちゃん。視界に捉えていなかったのか驚きの表情を浮かべながら、後ろに飛び退くサーヴァント。仕掛けは単純。飛び出すグレイちゃんより早く、俺がサーヴァントとぶつかり合い俺の身体でグレイちゃんを隠す。そして、声による合図と共に攻撃して貰った訳だ。即席の連携としては良い方だろう。
「逃すか!」
追撃のために俺とグレイちゃんは同時に駆け出す。その瞬間、両目の色が変わったサーヴァントが真っ直ぐ俺達を見ると同時に、俺の身体は一瞬動きが鈍り、グレイちゃんは完全に立ち止まってしまった。精彩を欠いた動きでサーヴァントを捉えられる訳がなく、俺は左肩から斜めに大きく斬られてしまい、蹴り飛ばされ列車の上を転がる。同時に雷も食らったか?身体の動きが鈍い……
「強制の魔眼に抗うとはな……だが、お前も戦士なら一瞬の隙が勝敗を分けると理解しているだろう。残念だ、お前があの男の友人で無いのならその命を救っても良かったが」
サーヴァントは俺を貶しながら歩いていく。どうやらグレイちゃんを操ってウェイバーを殺させたいらしい。幸いな事にウェイバーは魔眼殺しの眼鏡によって影響を受けていないが、視界の先でグレイちゃんの持つ鎌がゆっくりと持ち上がっていくのが見える。ああくそ、傷は塞がったけど雷撃のダメージが抜けない……ほぼ全身に影響が出てるから回復が遅いのか?
「ほぅ?その鎌で魔術回路を洗浄したか。良くやる!?」
動けるようになった俺の蹴りを避けるサーヴァント。チッ、油断してる今がチャンスだと思ったんだがな。
「お前……!」
「グレイちゃん!!」
俺の方を見たと同時にグレイちゃんがサーヴァントに向けて走り出す。だが、僅かに遅い。ウェイバーの方を向いていたこともあり、グレイちゃんの攻撃はサーヴァントに届くことなく、サーヴァント目掛けて落雷が起きる。咄嗟に後ろに飛び退いた俺の視線の先には、骨で作られた戦車と翼竜が現れていた。間違いなく、宝具だろう。
「あれは……
「師匠アレは……」
「イスカンダルの宝具だ!」
やっぱり宝具か。完全に攻撃が届かない空へと飛んでいくサーヴァントを見送る事しか出来ない。今はウェイバー達を避難させるのが先か。彼らの方へ走り出すと同時に背後から迫る圧を感じる。あぁ、戦車となれば轢き殺すのが当たり前か!?
「我が名はへファイスティオン!史上最も偉大なる征服王、イスカンダルの第一の腹心なり!」
真名をバラした!?そんなところまで征服王とそっくりかよ!!というか間に合ねぇ……あいつらを安全に逃すだけの時間がない。初撃を飛び退き、列車の淵を掴む事で避ける。ウェイバーは……グレイちゃんが機転を効かせたお陰で無事か。だが、今のは様子見。次が本気だ。
「逃げろ!!ウェイバー!!」
この身を盾にする事ももはや叶わない。せめてもの抵抗として叫ぶが、視界の先ではウェイバーが覚悟を決めた顔で一歩前に出ていた。ああくそ、あいつ無茶をやる気だ。
「貴様にイスカンダルの臣下足る資格があるものか!」
……なら、護衛を頼まれた俺が無茶をしない訳にはいかないよな。ウェイバーを視線を合わせ、俺が今からやる事を気にせず、お前の責務を果たせと伝える。それにウェイバーが小さく頷いたのを確認し、身を屈め、脳のリミッターを外す。後は、タイミングを合わせるだけという得意分野だ。へファイスティオンの動きを目で追いながら、狙ったところへ跳躍。
「それを決めるのはお前じゃねぇ!!」
全身に雷を受けながらへファイスティオンの顔面を勢いよく殴ると同時に、視界が光に包まれる。気がつくと俺は列車の出っ張りに引っ掛かっており、落下等を免れていた。奇跡的なバランスだなこれ……
「あー……負けたな。ちくしょう」
雲が消え、星が顔を覗かせた夜空を眺めながら自身の敗北を理解する。あの時、へファイスティオンは避けられる筈の俺の攻撃を笑みと共に受けた。あれはただ、最後の抵抗を受け入れた勝者の顔だった。そりゃそうだ、宝具に突っ込むアホなんて歯牙にも掛けないだろうよ。ウェイバーが何かをしてなければ、俺は雷で炭になっていただろうし。
「というか……誰かーーー!!回収してくれーー!!」
この数時間後、魔眼蒐集列車のスタッフである女性に無事、回収されましたとさ。眼帯で見えなかったけど、絶対呆れてたよねあの人。部屋に戻るとウェイバーが背中の火傷を治療して貰っていた。意識はないようだが、パナケアとかいう塗り薬をオルガマリーちゃんから貰い、命に別状はないようだ。
「そう言えば影辰さんは、怪我大丈夫なんですか?」
「ん?あぁ、そうか知らなかったよね。見ての通り、無事だよ。再生力には自信があるからね」
「……本当に傷が一つもありませんね」
「ん。まぁ、疲れたから流石に休ませて貰うよ。ごめんね、ウェイバーを守りきれなくて」
そう言ってフードの上からグレイちゃんの頭を撫でた後、適当にソファの上で横になり、俺は意識を手放したのだった。
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