見所さんの前のシーンが想像以上に伸びたので分けました。今回、影辰ふざけてないのでシリアス気味です。
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「……知らない天井だ」
目を覚まして取り敢えず有名なセリフを言ってみる。知らない天井って訳じゃないけど。多分、此処は切嗣が拠点として用意したホテルの一室だ。
「起きましたか」
「うおっ!?舞弥さん、居たんですか……」
声をかけられた方向に首を向けると、舞弥さんが珈琲片手に座っていた。机の上には、恐らくこのホテル周辺に仕掛けた隠しカメラの映像を映し出すテレビが置かれており、俺を見ているがそこから注意を逸らしてはいない。流石の視野の広さだな舞弥さん。
「サーヴァント同士の戦いに参加するなど、何を考えているんですか影辰?」
「うぐっ……い、いや、あれはその。アーチャーが俺を狙ったから対処しただけで……」
「対処しただけ?影辰、貴方に命じられたのは奥方の護衛。護衛対象から離れる護衛が何処にいるのですか?貴方の機転でセイバーが最悪の状態にならずに済んだ事は、事実です。それは褒められるべき事でしょう。ですが、道具であるのなら命令には忠実に。私達はそうある存在です」
なんの反論も出来ねぇ……舞弥さん、無表情で淡々と叱ってくるから怖いんだよなぁ。まぁ、それだけの事をしてしまった俺が悪いんだけどさ。でも、頑張ったんだから少しは褒めて欲しいなぁと思ったり。
「ですが、セイバーが致命的な傷を負わずに済んだ事、アーチャー及びバーサーカーを貴方が惹きつけた事で此方の被害が軽微で済んだ事。そして、サーヴァント相手に生き延びた事。これは、褒められるべき結果です。よく頑張りましたね影辰」
「ッッ……そこで褒めてくるのは狡くないですか?」
まるで俺の心を読んだように、いつもより若干優しい顔で褒めてくれた舞弥さん。肉体は兎も角、魂の年齢を考えれば良い歳した男が何をと思うかもしれないが、めちゃくちゃ嬉しい。思わず、目に涙が浮かぶぐらいには。
「大人は狡いですから。……あとは、切嗣から直接説明を受けてください」
舞弥さんが立ち上がり、部屋を出て行く。すると、入れ替わりで切嗣が入ってくる。多分、交代で俺の面倒を見てくれていたのだろう。切嗣はアイリスフィールも居るから、きっと舞弥さんの方が長い時間見てくれていたはずだ。今度、何かお礼しないとなぁ。
切嗣は何を言うわけでもなく、舞弥さんが座っていた場所へ座る。相変わらず、死んだ魚の様な目で俺を見てくる。が、その瞳の奥にしっかりと俺に対する心配を感じ取り、申し訳ない気持ちになる。ただでさえ、色々と背負ってる切嗣に余計な重みを上乗せしてしまった。
「腕は動くかい、影辰?」
「ちょっと待ってくれ……イッ!?すまん、無理そうだ」
右腕をほんの少しだけ動かすだけで激痛が走る。こんなにダメージを受けてたのか。
「少しはアイリの治癒で回復させたが、彼女の治癒魔術は錬金術の応用。生きてる人間に対して使い過ぎると、治癒を受けてる筈なのに死んでしまう。だから少しだけにしたが、まだ完治には程遠いか」
考える様に顎に手を置く切嗣。どこか悩んでいる様な姿を見ながら、俺はふと思った。こうして起きた今なら、アイリスフィールの治癒を受けても大丈夫なんじゃないだろうか?と。それを口に出そうとした瞬間、切嗣が俺を見る。
「まだやれるか?」
その目は言葉は俺が必要だとしっかり伝えてきた。俺は道具として切嗣のお眼鏡に適った様だ。右腕は動かないが、左腕は未だ動く。それなら、答えは決まっている。同じように切嗣と視線を合わせ、言葉を伝える。
「もちろん。使い手が健在で動かない道具などいないだろう?」
「ふっ、そうか。なら、城に戻るよ。道中で君が気絶していた間にあった事を教えよう」
城に戻り、ギプスで右腕を固定したまま俺は切嗣達の話し合いに参加していた。とは言え、何か意見を求められない限り口を開く事はない。道中で説明を受け、今がキャスター陣営により聖杯戦争が中断されたタイミングだと分かった。という事は、既にケイネスの拠点だったホテルは爆破されてしまったのか。ちょっと見たかったなあれ。
キャスター陣営に対してどうするかだが、セイバーをジャンヌと勘違いしているならキャスターが向こうから来るだろう。だから動かず、寧ろキャスターを狙う他の連中を倒そう(要約)となっている。それに対してセイバーが文句を言っているが、切嗣は全くセイバーを見ていなかった。まぁ、英霊嫌いだもんな。そのまま、切嗣の意見が採用され話し合いが終わった。
「影辰、少し良いですか?」
「あ、はい。今は切嗣からの指示もないので良いですよ」
部屋を出ようとしたタイミングでセイバーに話しかけられる。くるりと向き直り、セイバーを見る。
「先ずはお礼を。貴方がランサーの宝具を見抜いてくれたお陰で、深傷を負わずに済みました」
「別に感謝される事じゃないですよ。でも、次からは相手の宝具が一個だけとか不意打ちが無いとか思わないで下さいね?」
「うっ、肝に銘じておく……それと、一つ聞きたいのだが貴方は、切嗣の方針に文句はないのですか?話し合いの間、ずっと無表情で聴いていましたが」
あー、なるほど?Fate zeroのセイバーは騎士らしい高潔さを持っている。故に外道な切嗣と反りが合わない。だからあの話し合いで何も言わなかった俺の真意が気になったのだろう。別に俺が何か言ったところで切嗣が方針を変える事は無いと思ったからだけど、それを言ったところで納得しないだろうなぁ……嫌われるかもしれないけど、答えるか。
「切嗣の考えが間違っているとは思わないからだ。セイバーの時代の戦争を俺は知らないから何も言えないけど、この聖杯戦争は最後の一人になれば勝ちだ。切嗣には絶対叶えたい願いがある。だから、手段を選ばない事も納得できる。それに、俺は切嗣の道具だ。一々、持ち手に文句をつける道具なんていないだろう?」
俺の答えにセイバーは目を見開く。そして、何かを言おうと口を動かすが声が出ていない。切嗣がセイバーと関わろうとしないから、俺もあまりセイバーと関わってこなかった。だから、彼女の中では多分、戦場に立つ可哀想な子供ぐらいの認識だったんだろう。
「……影辰、貴方は……多くの犠牲が生まれても良いと言うのですか?」
捻り出したように聞かれる。その質問に俺はすぐに答える事が出来なかった。キャスターによって起きる被害は知っているし、魔術も使えない俺が何か出来るとも思えない。それに、顔を合わせて話した訳でもない人達に何か感情が動くかと言われれば、動かない。精々、可哀想とか思うぐらいだ。俺が転生する前の世界に生きてた人達もこんな感じだと思う。それぐらい現代は他人に対する興味が薄い。
けど、すぐに答える事は出来なかった。なんとも言えない言い辛さがあった。それを無理やり呑み込み、言葉を伝えようとしたところで慌ただしく切嗣達が戻ってきた。
「敵襲だ」
切嗣が端的に告げる。そうか、今来るのかキャスター。アイリスフィールが遠見の水晶で視界を確保すると、そこには子供達を連れたキャスターが映し出される。そして、悪趣味な鬼ごっこが行われると同時にセイバーがキャスターの元へと向かい、戦い始める。しかし、無限とも言える魔力で溢れ出てくる海魔達に両手を使えるセイバーとは言え、一気に押し切るのは難しい。だが、キャスターの顔を見るに、そこまでキャスターに余裕がある様にも思えない。うん、海魔もキャスターの顔もキモい。SANチェックしてる気分になってくる。
「アイリ、君は逃げるんだ。舞弥、影辰、護衛を頼む」
「了解」
切嗣の指示を受け水晶から視線を逸らす。アイリスフィールを舞弥さんと共に護衛しながらセイバーが戦っている方向と別方向に向かう。途中でアイリスフィールさんが足を止め、新たな侵入者を教えてくれる。
「侵入者は言峰綺礼。ちょうど私達が向かう方向よ」
あぁ……来ない事を祈っていたけどやっぱり無理か。言峰綺礼、Fateの世界において人間離れした戦闘力を保有する愉悦神父。この時点ではまだ愉悦に目覚めてはいないが、強さと性格が相まって悪役としてこの上ない適性を持つ男。繰り出す拳は一撃で心臓を破壊し、倍速で動く相手にそう弁えて間合いを測れば良いとか可笑しな事を当たり前の様に考える肉体派だ。此方に三人いるとは言え、一人は体術が使えない純粋な魔術師、もう一人は人の枠組みから外れてない女性。そして、右腕が使えないただの子供。勝てる戦力じゃない。
「影辰」
「ッッ……何か?アイリスフィールさん」
ホムンクルスの人ではあり得ない美貌が俺を見る。覚悟が決まった強い瞳だ。ちらっと舞弥さんを見ると、アイリスフィールと同様の目をしている。罪作りな男だな切嗣。
「私達はこれから言峰綺礼を迎え撃つわ。衛宮切嗣の最大の障害になるあの男を。貴方はどうする?」
どうするか聞かれるだけ俺はまだ子供扱いされているのだろう。抗ってどうにかなる相手ではない。この二人の覚悟がどうなるか俺は知っている。けど、そんな事を伝えた所でこの二人は言峰綺礼に挑むだろう。
「俺も付き合う。切嗣からの命令は、貴女の護衛だ。アイリスフィール」
本当は嫌だが、此処で二人に同行しないほど俺は外道になれない。そもそも、逃げたって護衛の命令を放棄した俺はこの聖杯戦争で拠り所を失う。そうすれば待っているのは死だろう。なら、付き合う以外の選択肢はない。
「ありがとう、影辰」
アイリスフィールが笑顔を浮かべながら礼を言う。やめてくれ、そんな綺麗な笑顔を受け取る資格なんて俺にはない。返事はせずに森を進む。ある程度進んだ所で言峰綺礼を迎え撃つ準備をする。アイリスフィールによって陣地構築が行われる中、俺は目を閉じ深呼吸する。覚悟を決める時間があるのはありがたい。
そして、言峰綺礼が現れた。
後編は言峰綺礼VS影辰をお送りしたい。というか、そこも含めて書く予定だっんだけどね。
アイリスフィールの治癒を受ける前の影辰の状態を載せときます。
・右腕の複雑骨折、筋肉断裂。
・両脚の骨にヒビ
・心肺機能の低下による呼吸困難
こんな状態でした。アイリスフィールの治癒魔術により右腕の筋肉痛程度まで治りました。
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