転生特典が動体視力?これ、無理ぞ   作:マスターBT

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FGO、炎上汚染都市冬木にて、サーヴァントとして影辰が召喚されたストーリーです。二話完結です。


炎上汚染都市 冬木
祈り願いはその先へ 上


 炎の熱と巻き上がる煤に肺を痛めながらも彼女は軽く力を込めるだけですら、崩れていく煤の地面を全力で走る。背後からカタカタと音を鳴らし、粗末な武器で彼女を追いかける10数体以上の骨の怪物から逃げる為に。

 どうしてこうなった……訳が分からない。私は私が出来ることをただしてきただけで、その結果がこの命を賭けた追いかけっこなんてあんまりじゃない!!そう心の中でいや、口にも出しながら逃げる彼女だが今まで以上に力を込めすぎたのが原因なのだろう。ただでさえ、不安定な足場に足を取られ派手に転んでしまう。

 

「きゃぁぁ!……来るな!来ないでよぉぉぉ!!」

 

 優れた魔術師である彼女はガンドと呼ばれる魔術を放ち、近くに迫ってきた骸骨兵を砕く。だが、所詮は焼け石に水。次々と現れる骸骨兵を処理し続けるだけの力はない。

 

「いやぁ……レフ!!何処にいるの!!私を助けなさいよぉ……いや……こんな所で死にたくない……誰でも良いから私を助けてぇ!!」

 

 足を挫き立ち上がる事が出来ない彼女は力一杯叫んだ後、頭を抱えてその場で蹲る。そんな彼女に向けて骸骨兵がその手に持つ凶刃を勢いよく彼女に向けて振り下ろし──

 

「その役目、引き受けよう」

 

 男の声が聞こえると同時に女性に振り下ろされようとしていた凶刃は突き出された拳によって砕かれ、そのままの勢いで骸骨兵は粉微塵となる。そのまま動きを止めず、凄まじい勢いで次々と骸骨兵を砕いていき、一切の抵抗を許す事なく数分後には追加で現れた骸骨兵も含めて塵と消えていった。

 

「はぁ……ただでさえ色々と状況が分からないというのに。怪我はしてないか?オルガマリー」

 

「え……どうして私の名前を……貴方、誰?」

 

 オルガマリーが安堵からか涙を流しながら自分を助けてくれた存在を見る。体格は平均的な男性より大きく、草臥れた黒いコートを着ており、そこに白銅色の髪が彩りを添えていた。オルガマリーの言葉を聞いてか、少し目付きは悪いが優しい印象を与える顔に困惑と寂しさを浮かばせていた。

 

「あー……なるほどね。とりあえず、自己紹介といこうか。俺はサーヴァント、バーサーカーのクラスで現界したらしい。あー、名前は影辰と呼んでくれ。そっちの方がしっくりくるから頼む」

 

「バーサーカー!?そんなにはっきりと喋れてるのに?……それに影辰なんて英雄を聞いた覚えはないわよ。助けてくれた事に感謝はしているけど、嘘を吐いて背後からなんて考えてるんじゃないでしょうね……」

 

「違う違う!サーヴァントではあるけど、今こうして話してる人格や姿は真名の方とは違うんだよ。だから、呼び慣れてる肉体の名前を教えたんだ」

 

 オルガマリーから向けられる疑いの視線を手を大きく振ってまで否定する影辰。その何処となく気が抜ける動作を見て、オルガマリーはとりあえず疑うことを辞め、目の前の存在に当たりをつける。恐らく、彼は擬似サーヴァントと呼ばれる類で本来、英霊として姿を現す事が出来ない神霊や半端な存在が適正のある人間を依代に顕現したというもの。

 

「……擬似サーヴァントねぇ。ニワカには信じられませんけど。そういう事にしておきます」

 

「お?少しは落ち着いた?なら結構。君の他には誰かいないの?」

 

 影辰がそう聞くと同時に遠くから少女達の声が聞こえてきた。どうやらオルガマリーには心当たりがあるらしく、マシュ?と溢していた。

 

「あっちか。んじゃ、ちょっと失礼して」

 

「え、ちょ!?な、なにするのよ!!」

 

 倒れたままのオルガマリーを横抱きで抱き上げる影辰。俗に言うお姫様抱っこというものだ。当然、いきなりそんな体勢で持ち上げられた彼女は顔を真っ赤にしながら、大して威力のない拳を影辰の胸に向けて放つが、ポスポス鳴るだけでなんの意味もない。

 

「足、怪我してるんだろ?魔術で治せるだろうけど今は合流が先だ」

 

 そう言って影辰は聞こえてきた声の方向へ歩き出す。今までの扱いから苦手意識のある部下の目の前にお姫様抱っこの状態で行きたくないオルガマリーは必死に抵抗するが、残念な事に全力で走ってきていたマシュと藤丸立香にがっつりとお姫様抱っこをされ顔を真っ赤にしている所を見られるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 危ねぇ……あと少し遅れてたらオルガマリーちゃんの頭が柘榴になってる所だったよ。しかし、突然召喚された場所が燃え盛る冬木で逃げ惑うオルガマリーちゃんの近くってどういう偶然?というか、俺がサーヴァントって何かの冗談かよ。

 

「……まぁ、此処が俺の知ってる世界線じゃないってのは確かだな」

 

 魔眼蒐集列車で知り合い、その後もちょいちょい呼び出されては雑用を任された俺の顔をオルガマリーちゃんが覚えていない訳がない。それに俺の記憶が正しければこんなに冬木が燃え盛る景色も見ていない。士郎がアーチャーの士郎の様にならなかった様に並行世界の一つか。

 

「あの、影辰さん……」

 

「ん?どうかしたマシュちゃん」

 

「差し支えが無ければ宿ってる英霊の真名を教えていただけますか?」

 

 あー……まぁそりゃ気になるよな。ただ、俺自身納得が出来てないというかなんで依代に俺を選んだ?って言いたくなってるからなぁ。ぶっちゃけ俺もこの状況に混乱しているから落ち着けるまで待って欲しいというのが現状だ。助けてくれないかなオルガマリーちゃん……助けて欲しいなーって感じの視線を彼女に向けると呆れた顔でため息を吐かれた。

 

「マシュ、それに藤丸とロマニ。彼も少々、特殊な状態だから落ち着くまで待ってあげなさい。少なくとも、協力的だし宝具を使わずにシャドウサーヴァントを倒せるぐらいの強さはあるのだから真名は後回しでも良いわ」

 

 そう言って歩き出すオルガマリーちゃんは俺とのすれ違い様に「借りは一つ、返したからね」と言っていた。その姿があまりにも俺の知るオルガマリーちゃんと一緒なものだからついつい笑ってしまうと、キッと睨まれてしまった。世界が違っても変わらないねぇ君は。

 

『霊脈の確保は完了したから少ないと思うけど、こっちからも物資を渡すよ。所長の分はないけど、とりあえず藤丸ちゃん。戦闘服を送ったからそれに着替えて欲しい。それでその君は』

 

「唯一の男は周囲警戒でもしてますよ。女の子の着替えを除く趣味はないから、というか妻子持ちですし」

 

「へぇ、意外。妻子とかいる風には見えなかったわ」

 

「失礼な……オルガマリーちゃん、少し話をしようか」

 

「え?えぇ、良いわよ」

 

 突然の申し出に首を傾げるオルガマリーちゃんを連れてその場を離れる。その間、ずっと頭にハテナマークを浮かばせ続けるオルガマリーちゃん。ごめんね、説明してる時間がなくてね。この辺で良いかな。

 

「……大人しく釣れてくれて何よりだよ。なぁ、クー・フーリン?」

 

「けっ、濃い殺気をぶつけて誘った癖によく言うぜ。お前さん、どうして此処にいる?冬木の聖杯は既に枠が埋まってサーヴァントを呼び出す余裕はないはずだぞ」

 

「サーヴァント!?ちょっと、影辰。気が付いてたのなら教えなさいよぉ!」

 

 そそくさと背後に隠れるオルガマリーちゃんの小心者っぷりに微笑ましくなりながら俺は目の前の英霊、クー・フーリンを見る。記憶と違って手に持つのは杖だが、あの容姿は何処からどう見てもクー・フーリンだ。

 

「さぁ?色々とイレギュラーが起きてるから、この地が俺を呼んだんじゃない?幸いな事に俺は、縁がたっぷりですし」

 

「……まぁ、そういう事にしといてやるよ。確かにこの聖杯戦争は事実、イレギュラーが起こりまくってるからな」

 

 さて未だに構えずに話してくれてる感じ、クー・フーリンは敵ではないな。強者を見つけたら戦いたくなるのがケルトだから、その辺は心配だけどシャドウにもなってないしその辺の理性は……おいおい、マジか。

 

「は……嘘だろおい、なんであの野郎が動いてやがる!?」

 

「俺のせいじゃなきゃ良いなぁ……とりあえず、オルガマリーちゃん。後で謝るから今は許してくれ!」

 

「ちょ、なんなのよぉぉぉぉーーー!?!?」

 

 彼女の手を取りクー・フーリンに向けて投げ飛ばし、彼が無事に受け止めたのを確認してから此方に向かってくる強烈な殺気に意識を向ける。進路に変更はない……明らかに俺を狙ってると見て間違い無いだろう。勝てるのか……かの大英雄に俺は。

 

「受けに回ってたら勝ち目はゼロだろうな……なら手は一つか」

 

 身を屈め俺も全力で走り出し、そのまま圧倒的な暴力を振り翳す天災が持つ無骨な斧剣と俺の拳がぶつかり合い互いに停止する。

 

「……」

 

「■■■■■ーーーー!!!!」

 

 シャドウ化……ただでさえ薄い理性が完全に無くなっている。あぁ……分かっていたがこの世界のイリヤはもう……

 

「■■■■■!!!!」

 

「ッッ……あぁ、分かってるよ。貴方、相手に余計な思考を割く余裕はない!」

 

 大英雄の持つ斧剣を一度、受け流し側面を取る。凄まじい反応で引き戻された斧剣をいつぞやの様に手を置き、軽業師の様に避け空中で身を捻り、ガラ空きの顔面を下から蹴り飛ばす。……軽いな、当たる直前に引かれたか。着地してから一度、後方に飛び大英雄の出方を伺う。頭を揺らしているところから見るにダメージは通っているし、即時にそれが回復していない感じ宝具すらも失われているみたいだな。

 

 大英雄が身を屈め、獣の様な体勢から飛びかかってくる。さっきの様な攻撃を潰す為だろうが、その程度ならなにも問題はない。後方に下がるのは愚か、姿勢を低し前に足を出し敢えて距離を近くする。頭部スレスレに武器が通過したのを確認してから、ガラ空きの胴体を蹴り上げ、持ち上げた後手刀を彼の心臓に向けて放つが、武器を持っていない反対側の手で横から掴まれる。

 

 例え、その理性が完全に失われようとも一流の戦士であれば本能が最適解を導き出す。

 

「■■■!!!!」

 

「ぐぅぅ!」

 

 簡単に持ち上げられ、地面に叩きつけられそのまま引き摺られる。数百メートル引き摺られたかと思うと、今度は勢いよく壁に向かって放り投げられる。可能な限り身を丸め、受け身を取りながら急ぎ立ち上がり大英雄が突き出した斧剣を白刃取する。首元まで突きつけられたソレを力任せに左へと逸らし、位置関係を入れ替える。

 

 肩で息をしながら体の調子を確かめる。流石はサーヴァントになった身か。多少のダメージこそあれ、問題なく動ける。しかし、本当に狂ってるのかって言いたくなるな貴方は。

 

「……その嘆きは主を守れなかったからですか?この世界線に俺は居ないか、既に死んでいるのに俺を狙ってきたのは、彼女の残り香でも感じましたか?」

 

 当然、答えはない。返ってくるのは言葉にすらならない呻き声のみ。それが酷く痛々しいものに俺には感じられた。

 

「ちょ!?嬢ちゃん、危ねぇぞ!!」

 

「影辰……いいえ、バーサーカー!!負ける事は許さないわよ!!貴方が負けたら、私は誰に守って貰えば良いのよ!!」

 

 あまりな言葉にポカーンっとしてしまう。そこにクー・フーリンも、戻ればマシュちゃんも居るのに君は……ふと、正面を見れば大英雄の視線がオルガマリーちゃんに向かっているのに気が付いた。同じくその視線に気がついたオルガマリーちゃんはひっっと情けない悲鳴をあげ、涙目で俺を見る。隠れなかっただけ良しとしますかね?

 

 そして、大英雄が俺に視線を戻し、見慣れた構えを見せる。左手を前に出し狙いをつけ、右手を後ろに引いた。その姿に驚きつつも、応じる様に俺も構える。

 

「■■■■ー!!!!!!!!」

 

 一瞬の内に詰め寄られ、神速の勢いで9回。その武器が振るわれる。曰く、ギリシア神話に語られる大英雄ヘラクレスは、その難業に立ち塞がる死なずの化け物を殺す為に編み出した技があるという。例え、何度蘇ろうとその悉くを鏖殺するための技、最もその真価を発揮する武器は弓とされているがただの擬似サーヴァントを殺すだけなら今の武器でもなにも問題はないと言える。

 

「バーサーカー!!」

 

 あぁ、分かっているとも。一度、助けた以上此処で放り出す選択肢は俺にはない。振るわれる圧倒的な暴力を、生前から得ている動体視力で全て避ける。正真正銘、正気の大英雄が振るったのであれば見えたからなんだとなるが、目の前のシャドウ化した大英雄が振るうソレは俺の目でも捉え切り、隙間を縫うのが間に合う。

 

「……宝具。限定解放」

 

 真名を告げず、宝具を起動。その力が及ぶ範囲を自身の右手のみに定め、その心臓を穿つ。貫かれた胸から、ヘラクレスの身を蝕んでいた穢れはゆっくりと消えていく。

 

「……お守り出来ず……申し訳ありません……お嬢様」

 

 消えいる声でそう残し、大英雄ヘラクレスは消えていった。……休む時間が座にあるのかは分からないが、ゆっくり休んでくれ大英雄。

 

「影辰!」

 

 こっちに向かってくるオルガマリーちゃんをしっかりと受け止める。ペタペタと俺の身体を触る彼女は俺が消えていかないか確かめているのだろう。全く、心配性だな。そんな彼女を安心させるために軽く頭を撫でながら視線を合わせる。

 

「無事に勝ったぞ。オルガマリーちゃん」

 

「そうね……でも、一言ぐらいは言いなさい!何か援護とか出来たかもしれないでしょう」

 

「ハハッ、そんな時間はなかったんだ。次からは気をつけるよ」

 

 この後、マシュちゃん達が合流するまでの間、拗ねているオルガマリーちゃんの機嫌を戻す為に奔走するのだった。本当に変わらないね君、そういうところ。

 




続きは明日、18:00に投稿したいと思ってます。

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