「アンサズ!」
「よいしょっと」
クー・フーリンが放った火球が進路を塞ぐ、敵エネミーを燃やし開いた空間を俺が駆け抜け、残り2体の敵エネミーを一息で蹴り砕く。数だけ多いけど、1体1体は非常に脆くて助かる。
「マシュちゃん、そっちは大丈夫か!」
「は、はい!お二人が大半を倒してくれてますから……っと!」
地面から湧く性質上、俺やクー・フーリンが抜けた後の道でも平気で敵が湧くが、それを立香ちゃんの護衛担当であるマシュちゃんが大振りではあるが盾で潰してくれる為憂いはない。現在、俺たちはクー・フーリンから聞いた情報からこの特異点の発生理由が狂った聖杯戦争に在ると定め、シャドウサーヴァントの元締めという騎士王がいる大聖杯の元へと向かっていた。……セイバーが考えも無しにこんな事をするとは思えないが、その辺は直接会って問いただすとしよう。まぁ、その前にアイツと話をする事になると思うが。
「戦闘を避けるって手段はなかったのかしら……」
「それも良いけど、キャスターとバーサーカー、それにシールダーが隠れる事に適してると思う?」
それに騎士王の守護をしているという弓兵。俺の予想通りの相手であれば、何処に隠れたとしても射抜かれるだけだろう。最大の脅威であるバーサーカーを退けた今なら、寧ろ敵が準備を整えるより早く進軍した方が早い……ってクー・フーリンが言ってた。
「幸い、敵は弱いしね。それとも疲れた?運んであげようかオルガマリーちゃん」
「べ、別に大丈夫よ!」
言葉通りオルガマリーちゃんに疲れた様子はない。チラッと立香ちゃんの方も見るが、彼女も同様にあまり疲れてなさそうだ。カルデアに来る前に陸上でもやっていたのだろうか?まぁ、これなら大空洞まで休まずにたどり着ける。
「危ない!」
「え?」
オルガマリーちゃん目掛けて放たれた剣を弾き飛ばす。後方でもマシュちゃんが剣を防いだ様だ。サーヴァントではなく、マスターを真っ直ぐに狙い飛来する剣……やっぱり、騎士王の守護者という弓兵はお前だな士郎。となれば……遮蔽物が無い此処をこのまま進むのは愚かか。瓦礫と化した建物越しぐらい簡単に射抜けるとは思うが、物理的に視界を遮るのは有効だ。
「マシュちゃん、立香ちゃんを運べる?」
「はい!大丈夫です」
「キャスター、可能な限り攻撃を防いで貰っても良い?」
「たくっ、しょうがねぇな。任せろ、アイツとは長い付き合いだ。射撃のコースを見極めるぐらいやってやるよ」
よし、確認すべき事は終わった。第二射を弾くと同時にオルガマリーちゃんを抱き抱え、全力で走る。こちらに向かって飛んでくる剣は、クー・フーリンによって燃えていき、俺たちは無事に見えていた建物群へと辿り着く。此処から大空洞まではそこまで離れている訳じゃない……人間の頃は無理だったけどサーヴァントになった今なら行けるか?
「暫く、此処で待っててくれ」
オルガマリーちゃんをその場に降ろし、手頃な瓦礫を持ち上げ、彼女の静止も聞かずに俺は少し離れたところから飛び出す。予想通り、俺に向かって剣が飛んでくる。その発射先をしっかりと確認しながらフェイクで持っていた瓦礫を落とし、剣を空中で掴み取り、屋根上へと着地。
「そこだぁ!!」
先程確認した発射先へと、全力で剣を投げ返す。力の込めすぎで足場にしていた建物にヒビが入り、崩れて落ちるが投げた剣は追撃で放ったと思われる剣と空中でぶつかり、大きな花火となった。暗い辺り一面を照らすほどの閃光だ、きっと今頃アイツは目をやられた筈だろう。某大佐の様に目を押さえている士郎を想像し、思わず笑いが溢れた。
「楽しそうね……最初はバーサーカー?って思ったけど貴方、バーサーカーが適任よ全く」
笑っているところをオルガマリーちゃんに見られ、凄い呆れた声で言われてしまった。むぅ……そんなに狂戦士っぽいかな俺。
「っとそうだった。そんな事より早く進もう。今なら、あの閃光で目がやられて攻撃は来ないだろうし」
「そうね。マシュ、藤丸!動ける?」
「「はい!」」
「良い返事ね。それじゃ、行くわよ」
予想外に弱く、色々と慌てふためいてしまうがこうして落ち着いていれば、立派なリーダーだなぁ。先陣切って歩き出す彼女にマシュちゃんと立香ちゃんも心強いと感じているのか不信感など見せずに続いていく。この世界でも無事に育ってくれたオルガマリーちゃんにほっこりとしていると、先頭を歩いていた彼女がクルリと振り返り俺を見る。
「何してるの?貴方は、こっちよ」
そう言って彼女は自身の隣を指差す。一応、仮契約は立香ちゃんなんだけどなぁと思いつつそれを口に出さずに彼女の隣へと並ぶ。だって、そんな事を言ってしまえば絶対に拗ねる姿が目に浮かぶのだから。
目が回復したら攻撃が再開されると思っていたが、そんな事はなく無事に俺たちは大空洞の前まで来ていた。だが、当然その入り口にはアーチャーが立っており、此処から先に進ませてくれる気配はしていない。
「飽きもせず騎士王の守護者か。よくやる」
「別にそのつもりはないがね。侵入者の排除くらいはするさ」
「へっ。やってる事変わってねぇじゃねぇか!っとなんだ、兄ちゃん」
杖を構えてアーチャーと戦う素振りを見せるクー・フーリンの肩に手を置く。その行動に振り返り俺を見た彼は、たくっしゃあねぇなと言いながら、杖を納めてくれた。
「んで、オレはあんたの代わりに嬢ちゃんを守れば良いのか?」
「あぁ頼む。アイツとは少し話がしたいからな」
そう話した後、俺は一歩前に出て構える。アーチャー……士郎も俺の構えを見て弓から干将・莫耶へと武器を持ち替えた。その行動、合ってるとは思うがアーチャーがやる行動じゃないな。
「お前らは先に。此処は俺が引き受ける」
「ちょ、バーサーカー!?」
「オルガマリー。戦う場所を間違えるな、君はカルデアの所長としてこの先に進まなければならない。違うか?」
俺を引き留めようとする彼女に忠言をし視線を士郎へと戻し、自分が動く気のない事を伝える。俺の方に僅かに手を伸ばしかけていた彼女だったが、すぐに手を下ろし、立香ちゃん達に指示を出して先へと進んだ。以外な事に士郎がそれを邪魔することはなかった。
「侵入者の排除、それが仕事じゃなかったか?」
「そうだとも。だが、彼女らを撃とうと私が隙を見せれば貴様は、即座に霊核を砕きに来ただろう?これだけの殺気をぶつけられれば、余程の愚か者でもない限り分かるとも」
肩をすくめて答えるその姿は記憶にある士郎のもので、懐かしさを感じながらも俺は気を抜かない。何故なら、士郎から放たれる殺気は先程から全く変わらずに向けられているのだから。
「それで?私に話とはなんだね。折角だから聞いてあげよう」
「それはどうも。と言っても、そんなに長々と話す内容でもない。騎士王に味方し続ける理由、あるんだろ?」
「……ふっ。話すと思うかね?」
「いいや、その返事で十分だ。それじゃあ、始めようか。兄弟喧嘩を」
否定しなかった。それだけで十分な回答だ。そして、この冬木の特異点はオルガマリーちゃん達が考えているより根深い問題なのだろう。だが、現状彼女らに解決するだけの力はないし、当然俺にもない。なら、士郎は騎士王を守るため、俺はオルガマリーちゃんと合流するために戦うだけだ。それに、ちょっとばかり兄弟喧嘩ってやつに憧れてたんだ。
「殺し合いをそう表現するのは貴様ぐらいだろうな!」
先手は士郎からだ。干将・莫耶を構え俺に接近、莫耶を振り上げ俺をそれが避けると同時に干将を突き出してくる。二刀流という手数を活かした陽動と本命を織り交ぜた攻撃だ。既に引き戻した莫耶を構え直している辺り、連撃で俺を仕留めるつもりなのが伺える。だが、まだまだ甘いぞ士郎。突き出された干将を弾き、上に上がった腕を取り士郎の懐へ入り込み、そのまま一本背負いの要領で投げ飛ばす。
空中でクルリと身を捻り着地する士郎。そのタイミングを狙い、詰め寄りその勢いのまま殴りかかり、盾代わりに構えられた干将・莫耶を砕く。だが、それにより頭部をズラすだけの時間が生まれ俺の攻撃は空振りに終わる。真下から新たに投影された干将が振り上げられたのをその場から動かず身体を逸らす事で避け、士郎を蹴り飛ばし莫耶での追撃を防いだ。
「ぐっ……全く、本当にバーサーカーなのか?」
「一応そうだよ。Dくらいだけど」
ほんとなんでバーサーカーのクラスなんだろうね俺。力を貸してくれてる存在にもそういう要素はないと思うんだけど。……ん?つまりこれって俺が狂ってるって言われてるのか?いやいや……俺で狂ってるのなら他はどうなるのよって知り合いが多いぞ全く。
「宝具が使えれば多少マシなのだが……仕方あるまい。セイバーに敗北した私の責だ」
干将・莫耶が俺へと投擲されるが、攻撃範囲に入ると同時に全てを叩き壊す。視界の先で士郎が、弓を構えているのが見えた為、身体を捻り矢を躱し、詰めようとした直後真上から剣から降り注ぐ。話しながら器用に投影してやがったなこの野郎。バク転をしながら、降り注ぐ剣を避け適当な一本を蹴り上げ拝借。回転しながら落ちてくる剣の持ち手の部分を殴り、士郎へと飛ばす。士郎がそれを避ける為に投影が一瞬中断されたのを利用して、跳躍し、踵落としを士郎の頭部に向けて放つ。地面にヒビを作りながら、士郎は干将・莫耶で俺の攻撃を受け止めた。
「ぉおおおおおお!」
「おっと」
咆哮と共に弾かれ、その場で軽く一回転し着地する。今度は士郎がその瞬間を狙い、干将・莫耶を俺に向けて突き出す様に放り投げた。殺気と共に置き去りにされたそれに気を取られた俺は反応が遅れ、不味いと思った直後に士郎が笑みを浮かべ干将・莫耶が爆ぜた。
「ゲホッ!ゴホッ!……流石に爆破が近すぎたな……」
衛宮影辰を倒す為にあらゆる陽動を仕込み、放った
「だと言うのに不思議とあの煙幕の中から飛び出す姿が目に浮かぶよ」
座に持ち帰られた記憶を見て驚いたものだ。私に兄など居なかった筈だが、その世界の私はいつの間にか彼を受け入れており、その時間は数少ない幸福と呼べる代物だったのだから。……あぁ、やはり貴方はこれでも倒せないか。
「ゲホッ……全然使ってこないから使えないかと思い込んだじゃないか」
「その為に仕込んだのだからね。尤も、今ので私の魔力は底を尽きこれ以上の抵抗は出来ないがね」
正確に言えばまだ戦えるが、今の一撃で倒せなかった以上同じ手は使えないし、固有結界の展開ができない今彼を倒すだけの策は私にはない。事実上の敗北という奴だ。
「そうか。んじゃ!?」
私に向けて最後の攻撃を放とうとしていた彼が背後から突如として溢れた魔力に驚き、動きを止めた。黒い光が見える……なるほど、セイバーの奴宝具を使ったか。だが、あの盾はきっと君の攻撃を防ぐ事ぐらい分かっただろうに。……一時的とは言え、彼らに任せるということかね?ならば私も君の判断に従うとも。
「ほら、早く私にトドメを刺し先に進むと良い。心配なのだろう?あの女性が」
「……そうだな。んじゃ、またな士郎。楽しかったよ」
楽しかったか……全く、こちらは全力だったというのに。衛宮影辰の右手が光り輝き、私の霊核を貫く。私の身体を蝕んでいた泥が消えていくのを感じながら私は去っていく兄の背中を見送った。
アーチャーとの戦いの後、急ぎ影辰が向かった先にはオルガマリーが悲鳴を上げながら、シバへと吸い込まれようとしている場面だった。当然、それを見逃せるわけもなく、本気で走り見事にオルガマリーがシバに触れるより前に助け出す。
「……なるほどね。俺なんかが御大層な神格の力を渡されて、サーヴァントになってる理由が今の今まで分からなかったけど、こういう時の為か」
シバへと引き込まれそうになるオルガマリーを助け、地面に降ろしながらこの汚染都市冬木にて召喚されたサーヴァントは、己の役目を理解した。本来、サーヴァントと足りえる伝承も無ければ、神格の力を引き渡されるほど高尚な人物でもない男であったが、漸く合点がいく。この時のために呼ばれたのだろうと。
「影辰……?」
思えば随分と懐かれたものだ。あの列車での出会いはこの世界線では無いと言うのに。でも、だからこそこの身を賭けるだけの価値が彼女にある。涙を拭いそっと頭を撫でて、彼女の信頼を裏切りその心を絶望に落としたレフを睨みつける。
「ふん!なんだその目は、たかがサーヴァント如きに今更何が出来るというのだ!」
「今ここでお前を殺すのは無理さ。時間も力も足りない。けど、何もかも思い通りに進められると思うなよ?」
愚かと蔑むのは結構。だが、それは時として自らを蝕み愚かと蔑んだ者より愚かな者へと成り果てる毒だ。
「魔力が高まった?……貴様、宝具を使うつもりか!」
目の前のサーヴァントの宝具の発動を阻止しようと魔術を使おうとするが、その判断はあまりにも遅かった。目の前のサーヴァントはレフが準備を整える間もなく、周囲の穢れを浄化しながら光輝き始めた。
「今此処に我が真名を高らかに告げる!この身は、衛宮影辰の物なれど、宿し力、その真名は神直日神!!穢れを払い、禍を直す神なり。今此処に、その力を解放しよう!冬木を汚染せしめし聖杯よ。その穢れを我が身に!!『黄泉禊』」
サーヴァント、神直日神が宝具を発動させると同時に大聖杯から黒い穢れが溢れ出し、その全てが神直日神へと吸い込まれていく。霊体であるサーヴァントが、濃すぎる穢れに耐えられる訳もなくその霊基は加速度的に崩壊していくが、神直日神は笑みを浮かべていた。
「さぁ、穢れなき純粋無垢な大聖杯よ。魔力は十分に得ただろう?願いを叶えろ、此処にいるオルガマリー・アニムスフィアに確固たる肉体を与えよ!!」
「なぁ!?」
レフが驚愕に染まると同時に何処か存在が希薄であったオルガマリーが、しっかりとした存在となる。願った通りにオルガマリーに肉体が与えられたのであろう。
「影辰!!」
何度も自身を助けてくれた逞しい背中が消えていく中、オルガマリーは涙を流しながら呼びかける。そんな彼女の声を聞きながら彼は振り返り、最後の言葉を残す。
「オルガマリー・アニムスフィア!!君は、叫んでいい!!誰かの影に怯える事もなく、ただ生きていいんだ。君という個人の人生は、自由に決めていい。好きなように生きて、好きなように死ぬと良い!そうして、宣言するんだ。オルガマリーの生き方を!!……すぐにこっちに来たら、怒るからな?」
様々なしがらみや、悲しみに囚われ立ち止まったままのオルガマリーを激励と共に優しい笑みを浮かべ、サーヴァント神直日神は消滅した。
「……格好良く消えたからそこで終わりで良くない?あ、駄目?はぁ……サーヴァント、神直日神。召喚に応じ参上しました。俺という道具をしっかり使いこなせよマスター?」
新たに紡がれた縁を元に彼はカルデアへと召喚される。視界の端で、オルガマリーが生きているのを確認し笑みを浮かべながら目の前の少女へと手を差し出す。彼の新たな戦いが始まりを告げるのであった。
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