転生特典が動体視力?これ、無理ぞ   作:マスターBT

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後編なのに前編より長いぜ!
VS言峰綺礼、お楽しみ頂ければ幸いです。

感想・評価・お気に入りありがとね!


人は多くの矛盾を抱えて生きる生物だ。だからこそ、その時の感情を大切にしたい(後編)

 衛宮切嗣。私は彼に問わねばならない。その人生の意味はなんなのか、聖杯に望む願いはなんなのか。その答えを知れば私の長年の問いにも答えを得られる筈だ。衛宮切嗣という男を知ってから、私の頭はこれしか考えていない。無論、時臣師の為に彼が聖杯を手に入れる手伝いをしなければと思っているが、正直興味が湧かない。私には根源への到達などなんの興味もないからだ。

 万人が美しいと言うものを私は美しいと思わず、家族を持っても幸せなど感じなかったこの身がただの師匠の目的に共感できる訳がなかった。だが、弟子とは師匠を手伝うもの。それが普通なのだからそうしなければならない。なんと生き辛い事か。

 

「……違う。私はそんな醜悪なものではない」

 

 そうだ。醜悪でないと知るために衛宮切嗣に会わなければならない。だから、命じられてもいないのに此処にいるべきではないのに来てしまった。一応、アサシンにセイバーの動向を見張らせてはいるが、英霊が本気で向かってくればアサシンの報告より早くこの場に現れ、私など簡単に死ぬ。

 

「ん?」

 

 銃声と共に弾丸が向かってきた。黒鍵を取り出し、発射場所と思われる場所に投擲するが効果はなく、弾もこの身に当たる事はない。二回目の銃声も同様のものだ。幻術の類か。そう当たりをつけ歩を進める。実態のない弾丸などに今更怯える様な精神ではない。

 背後から殺気と共に銃弾が飛んでくる。恐らくこれが本物だろう。術者を炙り出す為、衝撃が伝わると同時に倒れる。この身を包む僧衣は銃弾など通さない。ゆえに、わざわざ防ぐ理由もない。……かかったか。後ろから出てきた女に黒鍵を投擲する。

 

「舞弥さん!」

 

「……ほぅ」

 

 衛宮切嗣が二年ほど前に拾った子供。白銅色の髪で夜の闇を彩りながら現れ、左手に持ったナイフで私の黒鍵を弾き飛ばす。気づいた所でどうしようもない速さで投げていた筈だが、それを捉えたか。銃を構えた女は子供に礼を言いながら、ゆっくり距離を取る。ふむ、完全に私の間合いから外されてしまったな。

 

「やはり意味はないか」

 

 ものは試しに女に向かって投げた黒鍵は先ほど同様に子供によって弾かれる。これで確信した、あの子供は完全に私の投げた黒鍵を捉えている。まぐれで弾き飛ばした訳ではない様だ。あの衛宮切嗣がわざわざ拾ったからにはただの子供ではないと思っていたが、これは認識を改めねばならぬな。

 

「魔術師崩れが連れている者など簡単だと思っていたが、二対一の状態ではなかなか面倒かもしれないな」

 

 もう一人隠れているのは気づいているが、それをわざわざ教える必要などあるまい。右手が使えないのか少し不自然な構え方をする子供と銃を構える女を正面に見据えながら私も構える。黒鍵が意味をなさないのであれば、この身も使っていくしかあるまい。

 

「……少年、行くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……少年、行くぞ」

 

 わざわざ指定しないでくれませんかねぇ!そうやって教えてくれるのは助かりますけど。動かない右手を庇いながら、左手でナイフを突き出す様に構える。近距離戦しか出来ない俺、全距離で戦える舞弥さん、魔術師のアイリスフィール。必然的に俺が言峰綺礼と接近戦を行い、その支援を舞弥さんが熟し、此処ぞと言うときに魔術で攻撃してもらうのがアイリスフィールの役目となる。

 

「頼みますよ。舞弥さん」 

 

 言峰綺礼に向かって走り出す。どう足掻いても無理ゲーな相手だ。せめて、先手ぐらいは取りた……かったです!俺の目が一歩踏み出しただけで、地面そのものを縮めたんじゃないかってぐらいに距離を詰めてきた言峰綺礼を捉える。短距離の瞬間移動みたいなものをこの男は魔術を用いずに己の肉体だけでやってみせる。あぁ、くそっ!この人外め!

 俺の腹部に向かってきた拳に手を置き、宙を舞う様に避ける。すれ違いざまに顔を狙ってナイフを振るってみるが、簡単に避けられた。結構、アクロバティックな動きで襲ったと思うんですがねぇ……俺みたいな目を持ってます?

 

「……」

 

 俺が触れた右手をチラッと見ながら無言で構え直す言峰綺礼。チッ、感情の一つも揺れ動かないかこの愉悦神父。いや、まだ愉悦神父じゃないんだっけ?本質に気がついてないだけで、生まれ持った性質は愉悦だよなこの人。でも、これで俺と舞弥さんで挟む事が出来た。挟撃となれば流石のこの男もやり辛い筈。

 

「……」

 

 あれ?全然、後ろの舞弥さんに意識向けてないな??切嗣みたいな死んだ目を俺に向けている言峰綺礼。背後から銃を向けられてるのに気にしないとかどんなメンタルしてんだこの人……あ、そういやあの服銃弾弾いてたな!?そうか、効かないから気にする必要がないのか!剥き出しの頭部を狙われたらどうするんだと思うが、きっと手があるのだろう。

 今度は奴から歩いて向かってきた。後ろから舞弥さんが銃を撃つが、その動きを止める事は出来ない。俺ごと撃ちそうになる距離になった為、舞弥さんの銃撃が止まる。俺と言峰綺礼の身長差はかなり大きく、俺は完全に言峰綺礼を見上げる形になる。

 

「……」

 

「ふっ!」

 

 真下から飛んできた膝蹴りを先程の拳にやった様にタイミングを合わせ、跳躍に利用する。銃弾すら通さない服だ。ナイフを通すとは思えない。ならば、狙うは剥き出しの顔だ。空中で言峰綺礼の目に狙いナイフを振るうが、その全てが弾かれ伸びてきた左腕に片足を掴まれてしまう。

 

「しまっ!?」

 

「……」

 

 棒でも振り回す様に地面に向かって叩きつけられる。流れに抵抗しない事でダメージを抑えるがそれでも、あまりの衝撃に一瞬、意識が消し飛ぶ。が、気絶してしまえばミンチになる未来が容易に想像できた為、気合いで意識を繋ぎ止め上半身の力だけで上体を起こし、ナイフを振るう。だが、空いてる手で受け止められあろう事かナイフがへし折られてしまった。人間の力じゃねぇ……

 

「影辰!」

 

「…だめだ……舞弥……さん……」

 

 掠れる様な俺の静止は届かず、投げ飛ばされ木に勢いよく激突する。崩れ落ちながら見た光景は、ナイフを振るう舞弥さんが言峰綺礼にあっさりと敗北し地面に叩き伏せられる姿だった。……化け物すぎるだろ……これが言峰綺礼か。

 あっという間にこちらが崩されてしまった。俺はまだ意識が完全に戻らず、視界は常に霞んでいる。舞弥さんも言峰綺礼に足蹴にされ動けない。となれば、うちの優しい姫さまが黙っていられる訳もなく姿を現してしまった。

 

「ただの魔術でどうにかなる相手じゃない!」

 

 舞弥さんが必死にアイリスフィールに伝えるが、アイリスフィールは俺たちの為に自身の魔術を行使する。取り出された針金が大きな鳥の姿となり、言峰綺礼へと向かっていく。あっさりと避けられ、言峰綺礼がアイリスフィールへと近づく。

 

「これだけではなくってよ!」

 

 だが、アイリスフィールの狙いはただの攻撃ではなかった。鳥の一部が針金に戻り、言峰綺礼の両腕を縛る。そのまま、近くの木へと巻き付け言峰綺礼を拘束した。はっきりとは見えてないが、原作通りの流れの筈だ。どうにか気力を振り絞って立ち上がり、二人の元へと向かう。この後の事から少しでも守らなくては。

 

「「影辰!!」」

 

 アイリスフィールと舞弥さんが同時に俺の名を呼ぶ。心配されている事を嬉しく思いながら、急かす様に二人に伝える。

 

「急いでそいつから離れて!その程度で拘束できる相手じゃない!!」

 

「ッッマダム、離れますよ!」

 

 アイリスフィールはまだ不思議そうな顔をしているが、舞弥さんには伝わった。アイリスフィールの手を取り、言峰綺礼を拘束していた木から離れてくれる。直後、腹に響く様な重低音が鳴り始める。

 

「嘘……」

 

 アイリスフィールが信じられない様に呟く。俺だって、実際に目の当たりにして恐怖している。ただの人間が、両腕を巻き付けられたからと言って、本当に大木をへし折ってしまうとは。ははっ、同じ人間だと思いたくないな。

 汗の一つすら浮かべず俺たちの方に振り向く言峰綺礼。もはやこちらに策などない。セイバーはキャスターを倒しただろうか?切嗣はケイネスに起源弾を放っただろうか?どちらにしろアサシンが報告に来ない以上、まだ救援は来ないのだろう。

 

「……舞弥さん、アイリスフィールさん。下がってて、前線は俺が保たせるから」

 

 勝利を確信しているのか歩いて距離を詰めてくる言峰綺礼。一歩一歩、奴が近づく毎に死を間近に感じて心臓が煩くなっていく。俺が使える武器は残り一つ。切嗣から受け取ったコルトパイソンのみ。

 

「……影辰。これぐらいはさせて」

 

 アイリスフィールの手には、ランサーにぶつけた時のハリネズミ的な何かが乗っていた。そいつが、元の針金に戻り俺の左手に巻き付く。見た目は簡易的なメリケンサックみたいだ。ありがたい、これなら奴の黒鍵を殴れる。

 

「ありがとうございます。では」

 

 腰を落とし、言峰綺礼に向かって全力で走る。歩いていた奴は、黒鍵を取り出し投擲してくる。それらを全て、左手で叩き落とし──目の前に言峰綺礼がいた。

 

「よく見える目だが、視野が狭いな」

 

「ぐっ」

 

 眼前に迫った拳を無理やり、自ら体勢を崩す事で避ける。この一撃を避ける事は出来ても、次に繋がらない。死を一瞬、先送りにした程度に過ぎない行為だ。だからこそ、ここで反撃に転じる!

 

「うぉぉぉぉぉ!!!」

 

「なにっ!」

 

 地面に向かって前から倒れていた身体を気合で捻り、言峰綺礼へと向き直る。吹き飛ばされた時にギプスが外れ、自由になっていた右手でコルトパイソンを握り、言峰綺礼に銃口を向ける。激痛が右手に走るが、それを無視し引き金を引く。

 

 銃声と共に俺は蹴り飛ばされ、空中を舞った。

 

 地面を数回跳ねながら、俺は地面へと叩きつけられる。だが、まだ生きていた。俺が反撃に出た事で、言峰綺礼の蹴りはかなり威力が落ちており、俺の命を奪うほどの威力はなかった。それでも、身体中は痛いし叩きつけられた勢いで今度こそ完全に立ち上がる事が出来ない。

 

「……完全に殺したと思ったが、まだ息があるか少年」

 

 絶望の声が聞こえた。俺の決死の一撃は言峰綺礼を殺すどころか頬に一筋傷痕を残すだけだった。くそ……あの距離からでも狙ったところにいかないのか俺の射撃技術は。

 

「何故、そこまでしてあの男を守ろうとする?一体、あの男の何がお前たちを駆り立てている」

 

 ほんと、この時の言峰綺礼は切嗣切嗣うるさいなぁ。ここまでした理由?そんなん、俺だって知りたいわ。アイリスフィールや舞弥さんみたいに切嗣に惚れてる訳でもないしね。ただまぁ、一つ言うなら恩を返したかった。けど、それをコイツに教えてやる義理はない。そもそも、喋る体力なんて残ってないからね。何も答えない俺に苛立ったのか言峰綺礼が近づいてくる。そのタイミングで──

 

『キャスターとランサーが敗走致しました。程なく、セイバーが駆けつけます我が主人。ここは危険です』

 

 どこからともなく声がした。セリフ的にアサシンの声だろう。どうにか持ち堪えたか。あ、気を抜いたら急に意識が……俺、気絶してばっかりじゃね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アサシンの忠告を受け、未だに私に敵意を向けている女達と気絶した少年を殺さずに立ち去る事を選択する。セイバーが来る以上、長居は無用だ。それにコイツらが生きていようが、障害にはならない。

 

「……今一度、調べる必要がありそうだな」

 

 頬を伝う血を拭いながら、視界の端で少年を見る。私に抗って見せた者。あの子供が居なければ、女達に時間をかける事はなく、もっと瀕死にさせる事が出来ただろう。生への嗅覚が鋭いのか私の攻撃をギリギリのところで致命傷にならない様に立ち回っていた。あれは訓練で身につくものではない。天性の才能であり、刹那のやり取りでは最も重要な能力。どんな人生を送ってきた、どの様な考えを持って生きてきた?そして、何故その果てに衛宮切嗣に味方する事を選んだ?

 

「影辰。そう呼ばれていたな」

 

 覚えておこう。奴も私が欲しい答えを持っているかもしれない。

 




再び気絶の影辰!むしろ生き残っただけで十分なんだけどね。
この時の綺礼は殺すつもりが(あんまり)ないので生き残れたみたいなところあります。なお、ロックオンされた模様。

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