言葉も出ぬほどのスゴイ・シツレイをやらかしてしまい申し訳ございません。
詫びの気持ちで一応1分空けて2話同時更新です。
斎賀さん。
去年同じクラスだったってだけで正直それ以外は全然知らない。
雰囲気的にいいトコのお嬢さんっぽい感があるけど、その真偽も定かではない。
で、なんで斎賀さんがここにいるのか。
そしてなぜ俺に声をかけたのか。
俺を不審に思うのはわかる。昼に授業終わってんのに夕暮れ時まで教室にいるような奴なんて、怪しまれて当然だ。部活動で残っているのなら不思議はないが…斎賀さんはそのクチだろうか。
だが、そこで態々声をかける理由が無い。気味悪がってスルーして帰るのが普通だと思う。
そうしてほしかったのに。
「…あー、昼寝してたら寝過ごしただけで…」
斎賀さんは据わった目つきで俺をじっと見ている。
どうして、責められているような気分になるんだろう。
むしゃくしゃする。
「もう帰るから…じゃ」
あまり彼女の印象に残るのは良くない。夏休み明けに変な事を考えさせてしまうかもしれない。
さっさと去って、こんな奴のことは忘れてもらわないと。
斎賀さんの横を通り過ぎ――ようとして手を掴まれた。
「待ってください。」
なんなんだよ。
俺はもう帰るんだよ。
俺みたいな奴なんてほっといてくれ。
「…離してよ」
「いいえ、離しません。」
間近で見た斎賀さんの顔。
その目に、俺はたじろいだ。
何か、とても、強く、堅い意志を秘めた眼差し。
なんで、そんな目を俺に向ける。
俺を止めようとする。
まるで――
「自らの命を絶とうとしている人を、見過ごすなんてできません。」
――俺の考えを見透かしているかのようじゃないか。
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「…は、はっ。じさ、つ…?何いってんのさ。変な事を言うなぁ。それより」
「誤魔化さないでください。」
話題を逸らそうとして、叩き伏せられる。
眼差し同様に、その声色からも意志を感じ取れる。
自分の考えに確信を持ち、俺を止めようとする意志を。
鬱陶しい。
「………」
どうすればこの場を切り抜けられるだろうか。
この手を振りほどくのは訳ない。逃げるのも簡単だ。
だが、そうすれば斎賀さんは、俺の事を自殺志願者として覚えてしまう。
そのまま俺が死ねば、まず間違いなく斎賀さんの今後に悪影響が出る。
立つ鳥は後を濁したくないのだ。なんとか穏便に済ませなければ。
「………」
至近距離で見つめ合う。互いに相手の表情から内面を読み取ろうとしているのか。
目、引き結んだ口。頑として俺を離さない手。
うん、無理だわこれ。
「……わかったよ。認めるよ。で?どうして斎賀さんが俺を止めようとするんだよ。単に去年同じクラスだっただけだろ。仲が良かった訳でもない。そこまでする義理が…あるとは思えないけど」
ささくれた苛立ちが口調に表れている。随分と刺々しい言い方をしてるな。
「…知りたいからです。」
斎賀さんの表情に、小さな迷いが見えた。
本心を隠しているのか。俺みたいに。
「何を」
「陽務くんに何があったのか。どうしてそこまで自分を追い詰めているのか。何故…誰にも打ち明けようとしないのか。」
どうしてそこまで俺の心に踏み込もうとする。
どうして俺を一人にしてくれない。
どうして…俺なんかに構うんだ。
苛々する。
「…思春期の男子高校生なんだから悩みの一つや二つあるよ。誰にも言いたくないような悩みが」
「だとしても、自殺を選ぶ程の悩みがあるのなら、放っておけません。」
まぁ、そうだよな。浅い言い訳だ。もっとなんかあるだろ。
…なんで、思い付かない。
「言いたくない」
「言うまで離しません。」
頼むから
「離せよ」
「言ってくれたら離します。」
俺を
「言ったところで、どうにもならない。誰も何もできやしない」
「言ってみないとわからないじゃないですか。どうして決めつけるんですか。それとも、」
困らせないでくれ
その目に、一段と強い覚悟が灯る。
「――嫌われるのが、怖いんですか?」
その言葉は、俺にとって間違いなく地雷ワードだった。
俺の中で何かがプツリと切れた。
玲さんの手を強引に振り解いて、
「…ああ、そうだよ」
堰が壊れた。
「ああそうだよ!怖いんだよビビってんだよ恐れてんだよ!俺の正体を、本性を、誰にも知られたくない!俺はもう俺じゃないんだっ!俺はっ!俺は怪物で!バケモノで!人の世界に居座ってちゃいけない人でなしなんだっ!自分を騙してあの頃のフリをして俺は俺だって言い聞かせ続けてきたのに雑ピにバレた!結局俺はとっくの昔に俺を失ってて心まで怪物に染まってだからこんな場所にいちゃいけなくて誰にも迷惑かけずに消えようとしたのになんで俺を止めるんだよ放っといてくれよ赤の他人だろうがただの元クラスメイトだろうが俺に優しさを向けるんじゃねぇよ俺をどれだけ惨めにすりゃ気が済むんだよ!!!もう嫌なんだ継ぎ接ぎの身体がケダモノの心が人の首を締めてクラスメイトを殺そうとした俺の中の怪物が血に塗れて真っ黒な俺の手が人を辞めたくせに人に縋る俺の弱さが自分勝手なルールでこの場所に留まってるつもりになってた俺の浅ましさが惨めで悲しくて悔しくて腹が立ってしょうがねえんだよっ!!!だったらいいだろ消えさせてくれよ死なせてくれよこんな奴がこんな半端者がいようがいまいが関係ないだろいっそ俺が居なくなったほうがキレイになるかもしれないなぁ!死に損ないの壊れた歯車が残ってた方が不思議だったんだ俺はあの時死ぬべきだったんだナッツクラッカーの手なんか取らなきゃ良かったんだ!生き地獄を味わってどこにも居場所が無くて誰にも打ち明けられなくて苦しんで苦しんで苦しみまくって挙句最後に残った道が自殺ってなんなんだよ!?ふざけんじゃねぇよ俺が何したってんだよなんで俺がこんな目に合わなくちゃいけないんだ!!助けてほしいのに人は俺を拒絶して怪物は俺を殺そうとして誰も俺を受け入れてくれやしなかった!あんただってそうなんだろどうせ俺の姿を見りゃその聖人君子面もボロボロに崩れるんだ腰を抜かして這いずって逃げ回るんだ悲鳴を上げて走り去るんだバケモノと罵って勝手に恐れるんだっ!!何が悲しくて人を殺さなきゃならないんだよ俺がそんなマネするわけねえだろ人を見た目で判断しやがってまぁでもしょうがないよな俺は怪物なんだから見た目で判断するなってのも都合の良い世迷い言だよなぁこんな俺が人間サマの真似事しようってのがそもそも土台無理な話だったんだよ知ってんだよんなこたぁよぉ!!!でも此処にいたかった!!!俺の力が怖かった!人を怪物をあまりにも容易く壊して殺せる奴らが怖かった!!血と暴力と不条理に満ちた怪物の世界が怖かったっ!!!だからッ!!!」
今までずっと押し込めていた三ヶ月分の感情の濁流。
後に残るのは、ちっぽけでむき出しの「俺」の残り滓だけ。
立つ力も無くなり、膝から崩れ落ちて項垂れる。
視界に映る俺の身体は――人のものではなかった。
「俺は…人の世界にいたかっただけなのに……日の当たる場所にいたかっただけなのに。人だったころの、俺のままで、いたかっただけ…でも、もうだめなんだ。俺は、嫌悪していた怪物に…真の怪物になっちまうんだ。そうなる前に…少しでも理性が残っている内に…消えないと、いけない…死ななきゃ、いけない…」
「陽務くんは…死にたいんですか?」
斎賀さんの声が、思ったより近くで聞こえる。
「…そりゃ、そうだろ。俺みたいな奴は死ぬべきで…」
「私が聞きたいのは、『死ぬべき』かどうかじゃありません。『死にたい』かどうかです。」
軋んでひび割れた心を支えるように、斎賀さんの声が俺の中に入り込む。
「…言っても、良いのかな」
「私は、貴方の本音が聞きたいんです。」
ひた隠しにして自分自身が見失った、奥の奥にしまい込んだ本音を引き出される。
「…死にたくない。もっと、もっと生きていたい…学校に通って、クラスメイトと話して、クソゲーを買って、クソゲーを遊んで、クソゲーにキレて…」
導かれるように、俺は俺の中の最も醜い部分を曝け出していた。
なんでも無い日常が、どれだけ眩く尊ぶべきものか、俺はこの三ヶ月で嫌というほど思い知った。
今はどれだけ手を伸ばしても届かない
まだまだ遊び足りない。まだ見ぬ数多のクソゲー達が俺を待っている。たった十六年で、
「それなら生きてください。貴方の人生を歩む事を、誰も迷惑になんて思いません。法律やモラルに反した望みでもないんですから。」
「それに、どんな姿であっても関係ありません。陽務くんは陽務くんです。陽務くんの本質は、何一つ変わってなんかいませんよ。」
「…嘘だ」
「嘘じゃありません。」
「ならどうして」
「陽務くんが感じた苦しみは、私には察するに余ります。だけど、たしかにわかることがあります。」
「…?」
「想像を絶する苦痛を背負って尚、陽務くんは人の世界にいることを選んでいるからです。怪物の世界に流れることだけは許さずに、自らの命を断つ事を。それがどれほど難しいことか。陽務くんに、確固たる意志がなければ出来ないことだってことくらいは、私にもわかります。」
「…それでも、俺は、もう…」
「だったら!私がこうして、何度でも陽務くんを引き戻します!辛くなったら、いつでも私に言ってください!陽務くんの苦しみを、何度だって受け止めます!それで陽務くんが、人の世界に留まってくれるのなら、私は…私は…っ!」
あっけに取られた。毒気を抜かれるとはこのことか。
これは、夢ではあるまいか。
目の前にいるヒトは、俺の全てを知って尚、俺が俺だと肯定してくれる。
こんな人が居るなんて、思ってもみなかった。
――
かつて、俺が女々しい妄想と切って捨てた、俺が人の世界に縋った望みの可能性。
その一つが、此処にある。
俺が俺であると、俺以外の人に認められる。
自分で自分に言い聞かせるよりも、ずっと強く、俺を人の世界に繋ぎ止めてくれる。
そっと、うなだれた俺の頭に、俺の知らない感触。
これは…手?斎賀さんの手が、俺の頭に置かれている。
それが、ゆっくりと動いてる。…撫でて、る?
「…なに、してんの」
「撫でてます。」
「それはわかるよ…。なんで、撫でるのさ」
若干どころではない照れ臭さがある。できれば止めてほしいのだが…
「私がしたいから、そうしてます。嫌だったら、そう言ってください。」
なんじゃそりゃ。理由になってないじゃないか。
「…いやじゃ、ない……けど」
「けど、なんですか?」
ぱたり、と床に水滴が落ちる音。
それが自分の零した涙だと気付くのに、数秒かかった。
「っ、くそ、なんで、悲しくないのに。はは、みっともねぇ、なんだ、これ…なんだよぉ……これぇ……」
拭っても拭っても止まらない。
滂沱の涙が垂れ落ちる。
結局、俺が泣き止むまで、斎賀さんは優しく俺の頭を撫で続けた。
全ては楽玲に帰結する。
長台詞で心情を吐き出すのものっっっっそい好きなんですけど、どこから来てるんだろうと考えました。某ラノベの新約9巻でした。
Q.これホントにヒロインちゃん?
A.いくらヒロインちゃんが面と合わせるのも難しい恋愛力ピグミーマーモセットでも、サンラクサンが自殺しそうになってたら恋愛抜きにして絶対に引き留めようとするのでこうなると思います。異論は認める。