推しが家にやってきた   作:ぞでょ

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Part1

「ん?なんだこれ?」

 

暇持て余した挙句本棚を整理していたら、記憶にない(おそらく遥か昔に買ってそのまま放置されていた)古本の中に、紙切れが挟まれているのを発見した。見るからにチープな見た目のわら半紙で名刺大のその紙には表にでかでかとゴシック体で『あなたの会いたい人を喚び出せます』と書かれている。

 

「…………………?」

 

にわかに信じがたいことが書かれているがために理解ができなかった私は、もう少し情報を得ようとその紙を裏返した。

 

するとそこには細々と箇条書きで注意事項のようなものが書かれており、表側とのギャップに私は若干面食らいつつも、その文章を読み始めた。

 

 

曰く、人とはいったもののなんでもいい。人でも、動物でも、次元が違っていても。

 

曰く、これによって喚びだされる人というのは正真正銘の本物というわけではなく、『製作者』が確認できる範囲で限りなくリアルに本人を模倣した赤の他人である。そのため、実際の本人とは齟齬が生じる可能性もあるということだ。

 

曰く、これは一度使うだけで効力を失ってしまうため、くれぐれも喚びだす対象となる人間は熟慮の上で決めるべきである。

 

曰く、喚びだす方法は『紙を持って頭に思い浮かべろ。』とのこと。(これに関しての詳細情報は一切なかった。)

 

 

ざっくりと内容をまとめるとこんな感じだ。会いたい人……生憎私はテレビなどをあまりみないので、芸能人などに関しては名前すらわからない。両親はつい最近帰省して顔を見せたばかりだし、連絡の取れなくなった友人がいるわけでもない。ぼんやりとした思考と空回りする視界がふと、つきっぱなしになっているパソコンに()まった。

 そこには本棚整理中につけっぱなしにしていた動画サイトで私が推している配信者の放送アーカイブが流されていた。

 

「……コロ…り方…っすね」

 

漠然とその様子を見ていたら、私の中にぷかりと『こういう人は普段どんな風なのだろう』という疑問が浮かんだ。

 

そう思い浮かべた途端に、握りしめていた紙は(もや)のように私の手から消え去り、代わりに沈黙がその場を支配した。

 

 

「…あれ?」

 

 

手の中にはすでに何もなくなっており、私は白昼夢を見たかのような不思議な気分に包まれていた。狐につままれたような気分とはおそらくこのような時に使うのだろう。

 

つい怪訝な表情を浮かべながらも、とりあえず一度落ち着くために紅茶を飲もうと思い立ち、電気ケトルで湯を沸かし始めた。

 

じきに湯は沸き、ケトルはカチッという音を立て稼働をやめた。それを受け、私は戸棚からマグカップを二つと紅茶のパックを取り出した。湯をマグカップに入れ、紅茶パックを放り込む。

 しばらくするとフルーティーで独特な香りが部屋に満ちる。ふわふわとその香りが鼻腔をくすぐるくらいになったそのマグカップからパックを取り出し、事前に出しておいた牛乳を注いだ上で私は部屋に設置しているローテーブルへと運んだ。

 そこには先程パソコンに写っていた少女が座っており、私はそのまま彼女の前に片方のマグカップを置き、テーブルの向かい側へと腰を下ろした。

 

「いいですね、アールグレイ。ういせも良く飲むんですよ。」

 

「まあ、私はあなたのおかげでこういうのを飲みはじ………は?

 

突如襲ってくる強烈な違和感に言葉を止めながら、明らかにその原因であろう少女を凝視する。すみれ色の髪とアメジストのような瞳、直接触れてしまえばその時点でなくなってしまうのではないかと錯覚するほどに頼りない肢体…間違いなく彼女だ。よし、現状確認完了。ちゃんと冷静でいらららててているるるあばばばばいやいやいやいやまてまてまてまてちょっと待て!おかしいよね?!なんでいるの?!

 

戸惑いと理解のできない情報の嵐で乱れ狂い、軽いパニック状態に陥る私の脳内で刹那にきらりと、先程発見した紙に書かれていた文字が煌めいた。『あなたの会いたい人に出会えます』…いやあれが本物だったということなのか?あんな世にも奇妙な物語でもありえないようなものが現実に存在し「難しい顔をしていますけど、大丈夫ですか…?」

「はい!問題ないです!」

 

思考の途中に唐突にねじ込まれたその言葉をきっかけに私は一度考えることを止め、声の主へと反射的に向き直る。彼女はこてんと首を傾げながら少し眉を下げ、こちらの様子を伺っていたために私たちは暫しテーブルを挟み見つめ合うこととなった。

 

もう…どうでもよくね?

 

その間、わずか0.03秒。私はあっさりとそれ以上思考することを放棄した。そんなことはあとでいくらでもできるのだ。今私がすべきことは目の前の少女を全力でもてなすことだ。そうに違いない。

 とりあえずお茶菓子のひとつでも出さないことには始まらないだろう。そう考えた私はいつも嗜好品を仕舞っている戸棚の扉に手をかけた。

 

しかしながら、中身はもぬけの殻。中にはお菓子はおろか、嗜好品の類ですら先ほど出した紅茶のパックが入っている瓶が転がっているだけのなんとも殺風景な光景が広がっていた。

 

 

「まいったな…」

 

 

「どうしたんですか?」

 

 

ふわりと金木犀(きんもくせい)の香りが私を包み込む。振り返ると三寸にも迫るほど近くに彼女の顔があり、私の肩越しに戸棚を覗き込んでいる。

 

 

「………いや、実はお茶請けをちょうど切らしてしまっていて…」

 

 

想定を超える近さに思わずたっぷり一秒くらい思考が停止したが、腿を抓って自分自身を強制的に再起動させて返事をすることに成功する。彼女はその返答を聞いた後に、何か思いついたように手をパチリと合わせた。

 

 

「だったら一緒におやつ、買いに行きませんか?ちょうど近所にスイーツ店があることですし!」

 

 

彼女は目をきらきらとさせながらこちらに提案してきた。…なるほど確かに名案だ。一緒に行く姿を想像し、少なからず心が動かされた私はその提案に賛同した。

「いいですね。ぜひ行きましょう。今すぐ行きましょう。」

俄然やる気の出た私は大急ぎで準備を済ませ、ニ人で肩を並べて街へと繰り出した。

 


 

「そういえば、おばけって日の光を浴びても平気なんですか?」

「大丈夫です!気合でなんとかなります!」

「気合なんだ…」

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