推しが家にやってきた   作:ぞでょ

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Part2

 おだやかな並木道の中を私達はのんびりと歩いていた。空は雲一つなく澄み渡っており、鳥は何にも(はば)られず自由に(さえず)っている。嗚呼、なるほどここが天国か…

 そんなふうにくだらないことを考えながら遊歩を楽しんでいると、隣を歩く彼女が伸びやかに呼吸をし、呟いた。

 

「穏やかでいい天気ですねえ…」

 

「そうですねえ……」

 

思わず私の相槌ものんびりとしてしまい、二人の間に弛緩しきった空気が流れる。このままのんびりした時間を過ごせるのであればなんと幸せなことか。私は今、生きていることに対する幸福感を深々と噛みしめながら「みてください!」ふと我に帰ると彼女は横にはおらず、私は苦笑いと共に声のする方へと意識を向けた。

 彼女は道端に座り込んで何やら熱心に地面を見つめているようであった。おずおずと肩越しから覗き込んでみると、そこにはちんまりとつくしが植っているのがみえた。

 

「つくしですか…美しいです。そろそろ暖かくなってくる時期ですからね。」

 

「…え?」

 

「え…?」

 

 

 

二人の間を、天使が通り過ぎる。

 

 

 

「…ッ!さ、さあ早く行きませんか?

   きっとおいしいスイーツが待っていますよ!」

 

意図せぬところで引っかかってしまったせいで流れる気まずい雰囲気をなんとか振り払おうと、私はさっさと歩き出した。だがしかし、それはちょいちょいと肩を叩かれることであっさりと阻止されることとなる。振り返るとそこにはたっぷりと邪気のこもった顔が。

 

「う つ く し い で す ね 〜」

 

「……ぐはっ」

 

(私に)多大なダメージを伴いつつも、私達は目的地へ着くまでの間、やわらかな日差しの中での散歩を楽しんだ。

 

***

 

 (くだん)の店は文化が雑多に交わる町の中にあった。こじんまりとした店の佇まいで、建物と建物に挟まれ、今にも押しつぶされそうな中で毅然と開店しているその雰囲気は、まさしく古くからの伝統を脈々と受け継いできたものであると感じさせるものがあった。やや雰囲気に圧倒され尻込みしそうになっている私だが、隣を歩く少女はそんなことを気にもしないという風に歩を進めている。私が動けずにいることに気がついた彼女は振り返り、少し悪戯気味に微笑みながら口を開く。

 

「早くいきましょう。おいしいスイーツが待っていますよ。」

 

それだけ口にすると、彼女は待ちきれないといった様相で店へと向かい始める。私も急がなくてはと、足早に彼女の後を追った。

 

 

 重い頑丈そうな扉を一枚隔て、踏み入れたその先は、もはや別世界。表の大きな窓からさんさんと差し込む日光と天井から吊り下げられたカンテラ風の照明によって店内は明るく照らされ、天井に届かんばかりの高さのショーケースの中にはスイーツが所狭しと並べられている。一つ息をつくだけで肺の隅々にまで何かが焼ける香ばしい香りやふっくらと広がる甘い香りで満たされる。いま、まさにここで甘味が生み出され、そして提供されているのだということが肌で感じられるこの空間は、もはや幸せの一言だ。

 

「うわ〜〜!見てください!壁いっぱいに幸せが広がってますよ!」

 

彼女はきらきらと目を輝かせながら店内を見て回る。その無邪気な様子はくるくると回る尻尾が幻視できるほどだ。あれは天使か?いや幽霊だったわ。

 そんな益体もないことを考えていると、ふとその輝いた表情と視線がこちらに向いていることに気がついた。彼女は私の服の裾をくいくいっと摘みながら誘いかける。

 

「ほらほら〜、あなたも一緒に選びましょうよ〜

   ……それとも、ういせと一緒はイヤ…ですか?」

 

私がなにも言わないのを見て不安になったのか、先ほどのはしゃぎっぷりが嘘だったかのように息を潜め、彼女は少し自信なさそうに眉を下げこちらを伺ってくる。心なしか先ほど見えていた尻尾の幻覚もペタンと垂れ落ちている気する。私は彼女を不安させてはならないと思い、手近にある試食を二つ手にとり、一つは自身の口へ、一つは彼女へ手渡した。

 

「これとかどうですか?旬なストロベリーのロールケーキですって。」

 

「どれどれ〜はむっ……!わ〜おいし〜これ、とても甘いですね〜」

 

確かに旬というだけあって口に入れると主役の上品でしっかりとした甘酸っぱさが大いに味蕾(みらい)を刺激する。それだけではなく、そのあとを間断の隙なくクリームの優しい甘さが口の中に広がる。なるほどこれは美味しい。私達は思わず綻ぶ表情のまま笑い合った。

 

***

 

 暫し店で一緒に品物を物色した末に、彼女の提案でお互いに一つ気になるものを買って帰るということに決めた。お互い何を買ったかわからないように、商品を購入次第外で落ち合うということにした。

 私が商品の購入を済ませ、外に出ると、すでに彼女は買い物を終えていたようで、手に紙袋を持ち、壁に寄り掛かりながら往来する車を眺めていた。

 

「すみません!おまたせしました!」

 

こちらから声をかけると、彼女はこちらへ向き直り微笑む。一陣の風が吹き、ふわりとスカートの裾が揺蕩い、ひらひらと舞い踊る。

 

「いえ、つい先ほどういせも出てきたばかりなので。それよりも、無事買えましたか?あなたにとってのとっておきの一品。」

 

茶目っ気を含むその声に思わずこちらの顔も崩れる。

 

「もちろんです。きっとあなたも気に入ってくれると思います。そちらは?」

 

「当然です!一番おいしそうなものを選んできました!」

 

問いかけに対し彼女はいかにも自信満々!といった面持ちで胸を張っている。暖かい日差しが差し込んでいる影響もあるのか、彼女の周りにほわほわと周囲に自信が可視化されて漏れ出ているように見える。

 

「うわかわい…じゃなくて。じゃあ、帰りますか。」

 

「…?そうですね!早く食べたいですし。」

 

私達はまた、二人肩を並べ家路を歩き出した。空を浮かぶ太陽は未だ、頂点を通り過ぎたばかり地点でこちらをにこやかに見つめている。そんな気がした。

 


 

「何買ったんですか?」

「ふっふっふ〜それは家に帰ってからのお楽しみですよ〜」

「……そうですね。楽しみです。」

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