推しが家にやってきた   作:ぞでょ

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Part3

自室へ戻ってきた私達はもう一度机を挟み向かい合って座っていた。テーブルを挟んだ私達の間にはどう動くか探り合うような空気が漂い続けている。…ぶっちゃけ気まずい。先ほど買ってきたスイーツは相談の末、今食べるには少し多すぎるということである程度時間をおいて小腹を空かせてからという話になった。どうやら彼女も手持ち無沙汰なのか、目の前に出されたコップをしげしげと眺めている。さて、どうするか…この状況を打開する糸口はないかと私が助けを求めるように首を回す。するとパステルカラーの赤と青の持ち手が特徴のゲーム機が私の目に止まった。これだ。直感的にそう思った私は、おずおずと正面に座る少女に声をかけた。

 

「ゲーム、しませんか?」

 

突然声をかけられたことに驚いたのかぱちくりと目を瞬かせていた彼女だったが、私の発言の意味を理解すると頷きながら微笑み、賛同を重ねてくれた。

 

「ええ!ぜひやりましょう!」

 

ふわりと金木犀が香る。

 

 さて、ゲームをやろうとはいったものの何をするのが吉なのだろうか。とりあえずわかりやすいようにゲームソフトに仕舞われている引き出しを開けながら声を掛ける。

 

「なにします?FPS、格ゲー、RPG、アクションと一応一通り揃っているつもりですが。」

 

「どれどれ〜うわ、いっぱいありますね〜ちょっと触ってみてもいいですか?」

 

私が静かに頷くと彼女はほ〜とかへ〜とかなどと声を上げながらゲームソフトの物色を始めた。しかし、あまりに多すぎるため容易には決まらない。

 

「いっぱいあるので迷っちゃいます。なにかおすすめはありませんか?」

 

「そうですね〜これとかどうですか?」

 

そういって私が取り出したのは国民的に有名な赤帽の男性が目印のレーシングゲームだ。これならば彼女も知っているであろうと思い選んでみた。

 

「お〜!それならういせも知ってます!アイテムが大事なやつですね!」

 

「まあ、だいたいそんな感じです」

 

反応は上々といったところだろうか。私は密かにほっと一息をつきながらも準備をし、二人揃っていそいそとコントローラーを握りながら画面の前へと腰を下ろした。電源をつけ、流れ出すファンファーレに呼応するように自然と胸は高鳴る。

 レース設定はお互いにほぼ初心者である(持ち主な訳だが、私はほぼ遊んでいない)ため100ccを選択し、カートのカスタム決めを開始する。私はスタンダードなカートを選択。キャラクターはいつも乗り捨てられることに定評がある緑色の怪獣だ。対する彼女は靴そっくりのカートにきのこ頭が特徴的な女の子が乗っている。両者ともにカートが決まり、CPUに紛れながらスタートラインへと立ち並んだ。

 

———さあ、レースの始まりだ。

 

 

 

「なっ!!そのバナナは卑怯ですよ!」

「ほらほら〜どんどん置いて行っちゃいますよ〜」

 

 

 

「ここに青甲羅があります。あなたが一位ですね。さてどうしましょう?」

「いいいったん落ち落ち着きましょう!そのボタンから一度手を」「ぽちっとな」

「ちょまっっ!!ああああああ〜〜!!!!」

 

 

 

「くらえ!ファイアボール!あ…」

「なに自分であたってるんで…熱っ!

ヨシッ!

 

 

想像以上に白熱したレースは僅差で彼女の勝ち越しという形になった。一息ついたところで、私は自身の空腹に気がつく。時計を見てみるとちょうどいい頃合いを少し過ぎているくらいだ。私は隣へ水をむけた。

 

「そろそろいい時間になってきましたね。お腹空きませんか?」

 

「そうですね。ういせもちとおなか空きました。ということは?」

 

「ケーキしますかっ!」

 

私達は傷まないようにと入れておいた冷蔵庫から、購入したケーキ箱を各々手に持ち三度、机を挟み向かい合った。抱えあった箱をススっと前に出し合い、息を合わせながら同時に開く。刹那に走るは緊張と期待。開かれるとともに暴かれるその姿は華やかな紅白のコントラスト、そして深みと光沢のあるダークブラウン。その美しい姿に、思わずどちらともなく歓声が上がる。

 

「「お〜〜〜〜〜」」

 

「これは…ザッハトルテですかね?」

 

「ご名答…!なにやらこの店一押しなのだとか。あなたのは…いちごのタルトですか…?」

 

「そうです。試食した時のいちごが忘れられず…」

 

「あれも美味しかったですからね〜」

 

 お互いに選んだものを見せ合ったら、いよいよ待ちに待ったおやつタイムだ。事前に用意していた白湯で紅茶を淹れて、せっかくだからということで互いに買ってきたものを等分し、分け合うことにした。準備が整い、いざ実食。

 

「「いただきます」」

 

まずはタルトを一口。まず主張してくるのはやはり主役であるのいちごの旬であることの自覚、そしてそれに追随するように広がるカスタードクリームのとろけるようなバニラの香り。サクサクとしたタルト生地は焼きたてそのものであり、それが絶妙なアクセントとなり食感に飽きがこない。ひとしきりタルトの美味さを味わったところで向かい側に目を向けると、彼女は今まさに私が買ってきたタルトを口に入れるところだった。反応は劇的。大きく目を見開き、感動に打ち震えているといった様子でこちらを見つめてくる。何か言いたげだが口に物が入っているため聞こえるのは言葉にならない歓喜のみである。

 

んん?!んんんん!!んんん〜〜〜!」

 

美味しさのあまりか、手をばたばたと振り回しながら体全身で歓喜を表現している。よく味わった末にゴクリと飲み込むと、彼女はきらきらと喜びを共有してくれた。

 

「あまくて!おいしいです!」

 

「おいしいですね〜買って正解でした。ではこちらも。」

 

「どうぞどうぞ。目が飛び出ますよ。」

 

彼女はにこにこと自身の買ってきたものを勧めてくる。店のイチオシとあればさぞ、美味なことだろう。私は早速一口分をフォークで切り分け、舌の上へ招待する。瞬時に駆け巡るはビターなチョコレートのコクのある苦味とミルクの柔らかな甘味。その先にある瑞々しさすら感じる豊潤な風味とさわやかな酸味のアプリコットジャムが、ワンパターンになるはずだった味にアクセントを加えている。さらになんといってもこのスイーツは紅茶との相性が抜群なのである。前に座る彼女はどうだと言わんばかりの表情でこちらに話しかける。

 

「どうですか?おいしいでしょう?」

 

「これはおいしいですね。さすがのチョイスです。」

 

「ふふ〜んそうでしょう?そうでしょう?あなたのお眼鏡にかなったのであれば光栄だよ〜」

 

私達はお互いの買ってきた甘味に舌鼓(したつづみ)を打ちながら柔らかな談笑とともに、少し遅めのティータイムを満喫した。

 

***

 

「さて、食べ終わったわけですが何かやりたいこととかありますか?」

 

「う〜んういせ的には甘いものを摂取したわけですからちょっと外に出たいですね」

 

「わかりました。じゃあちょっくら散歩でもいきましょうか。」

 

 

勢いに任せ外に出てきて、特に行く当てのない私達だったが、私の提案で近所の河川敷を歩くことにした。この時期であれば確かあれも咲いているはずだ。

 今日は久しぶりに暖かな日だからか河川敷にはぽつぽつとジョギングしている人や、私達と同じように散歩している人が散見できる。陽気に当てられ、皆一様に穏やかな雰囲気ですれ違う人と挨拶を交わしている。私達はそれらに習うかのように他愛もない雑談をしながら歩幅を合わせて散策を楽しむ。そんなふうにのんびりと歩いていると、私達は川を横切る小さな橋に差し掛かった。

 その橋を横切った先にあるのは、川沿いを埋め尽くす黄色い絨毯。アブラナとも菜の花とも呼ばれるその植物は観光資源の一種として自治体が植えたものらしい。今はその開花の真っ盛りで、太陽を表面かと錯覚するほどの眩い黄色が一面を埋め尽くしている。

 

「どうですか?綺麗でしょう?」

 

「ほわ〜本当だ〜絨毯みたいですね!」

 

わずかにシンクロした思考におもわず苦笑しながら前を歩く彼女の姿を視線で追いかける。その彼女が唐突にくるりとこちらに向き直った。朱に染まり始めた空と合わさるような太陽の絨毯が、彼女の背後に広がっている。そのキャンバスにおさまる彼女の体が僅かに透け始めていることに私は気がついてしまった。その姿を見た私は直感的に終わりを悟りし、私は焦りを含んだ思いで話しかける。

 

「時間ですか…」

 

「そう、みたいですね…ほら、ちょっと消えかけてる。まるでおばけみたい。」

 

彼女はくすくすと笑っており、つられて私の口元にも笑みが溢れる。溢れるその笑みのまま私は別れの言葉を口にする。

 

「今日はありがとうございました。次は負けませんよ?」

 

「ふっふっふ〜どうでしょうか?」

 

そうやって軽口を叩き合っているうちにも別れの時間が迫ってきている。その焦りからか、言おうか迷っていた言葉が思わず口についた。

 

「いつも元気もらってます。これからもよろしくお願いします。」

 

すでに首あたりまで色素の薄まりの進んでいる彼女は、静かに微笑みながら私の言葉に答える。

 

「こちらこそ、よろしくお願いしますね。■■■さん。」

 

消滅する直前、彼女が口にしたハンドルネームに私は驚愕とともに疑問が湧き上がり、答えが帰ってこないことは承知で消えた彼女へ質問を投げかけた。

 

「ッ!?なぜそれを?」

 

当然誰もいない空間である以上答えてくれるはずもない。私は狐につままれたような表情を浮かべながらもしぶしぶ帰路へつこうとしたその時だった。ひらりと背筋を撫でるように寒気が突然に発生した。その寒気は徐々に背中を通じて上へ登り、そして耳元へと到達する。突如、どこか得意げな彼女の声がそよ風のように耳を撫でる。

 

「まあ、ういせを甘く見ないことですね。」

 

それだけ言い残すとそれっきり、その寒気はどこかへと消えてしまった。

 一人になってしまった私を金木犀と菜の花の甘い香りが優しく包んでくれていた。

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