めぞん一刻 二次小説 桜の園   作:今津晶

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第3話  不器用な二人

~その翌日管理人室の電話が鳴った~

 

“ジリリリリ~~ン”

 

[はい、もしもし、五代ですけど。]

[・・・あら、郁子ちゃん?久し振りね。どうしたの元気?]

[え!・・・・お義父さまが・・・・・。]

 

郁子からの電話の内容は、音無義父が病院に緊急入院していると言うものだった。

 

急いで身支度を整え、タクシーを拾い病院へ向かう響子さん。

 

― 時計坂総合病院 ―

 

[おばさま!]

病院のロビーでは郁子が待っていた。

 

[それでお義父さまの容態はどうなの?郁子ちゃん。]

開口一番郁子に病状を尋ねる響子さん。

 

[この所おじいちゃん体調が思わしくなくて、気にはなってたんだけど・・・。]

[突然昨日倒れて救急車で運ばれて・・・・。]

郁子がつらそうに話す。

 

[そう・・・なの・・・・。]

言葉が見付からない響子さん。

郁子の話を聞く限り、病状はあまり芳しくないようだ。

 

[面会は出来るのかしら?]

[ええ、今はだいぶ落ち着いてるみたいだから大丈夫みたい。]

とりあえず面会は可能なようなので、音無義父のいる病室へと向かう二人。

 

[おお、響子さん。]

病室を訪ねると、そこには音無義父の顔があった。

しかし、その声には力がなく、頬はこけ、顔色もすぐれないようだ。

 

[郁子ちゃんから電話いただきまして。びっくりしましたわ、本当に。]

[ははは。郁子もおおげさじゃな。]

[もう、おじいちゃんたら、みんな心配したんだから!]

音無義父の言葉に呆れてみせる郁子ちゃん。

 

[じゃあ私は一度帰ってお母さんと一緒にまたすぐ来るね、おじいちゃん。]

[行ってらっしゃい。それまでは私がいるから安心して。]

郁子は義父の入院用の荷物を取りに一度家へと帰って行った。

[すまんのう、響子さん。つまらん心配かけて。]

[どうせ郁子が電話したんじゃろう。申し訳ない。]

[なにをおっしゃいます、お義父さま。つまらん心配だなんて。]

[ははは、私はもう、あんたの義父ではないよ。]

[そ、そんな事ありませんわ。お義父さまはいつまでもお義父さまです。]

 

音無の義父は響子さんに自分が倒れた事を知られたくなかったようだ。

そして、自分はもう義理の父ではないと突き放したように響子さんに言った。

そんな音無義父の言葉に“そんな事はない、いつまでも義父は義父だ”と優しく笑いかける響子さん。

[響子さん・・・・・。]

[はい・・・・。]

音無義父は病室の白い壁を見やりながら、ぽつりと響子さんの名を呼んだ。

[もうここへは来てはならんよ。]

一言、響子さんに告げる音無義父。

[どうしてですか?お義父さま?]

 

“いきなりそんな事を何故?“

困惑の表情を浮かべる響子さん。

[あんたはもう、この家とは関わりあいのない人間だ。]

[そして・・・今は五代君の妻であり、五代家の人なんじゃよ。]

[義理の父は、私ではなくて・・・。]

[五代君のお父さんなんじゃよ、わかるね?響子さん。]

優しく語り掛ける音無義父。

 

[それは、それは分かっています。]

[ですけど、ですけど、私・・・。]

そんな話は聞けないですと、子供のように駄々をこねる響子さんを見て音無義父は・・・。

[ありがとう。]

 

[わしは、その気持ちだけで嬉しいんじゃよ。]

[時間は生き物と一緒じゃよ。]

[無常にも過ぎて行ってしまう・・・。]

[惣一郎が死んだように、私が老いていくように・・・。]

[過去ではなく、これからを生きなさい。響子さん。]

[ここへ来る時間があるなら、五代君をもっと労わってあげなさい。]

もっと、もっと、前を見て生きていきなさいと響子さんに諭す音無義父。

[もうわしは・・・そんなに長くはないじゃろうから。]

[な、なにをそんな、お義父さま!]

[はは、自分の体は自分が一番よくわかるもんじゃよ。響子さん。]

自らはもう長くないと語る音無義父。

病室の窓からは暖かな日差しが差し込んでいた。

 

しばらくして郁子と郁子の母がやって来て、病院からの帰路につく響子さん。

そのまままっすぐ一刻館に帰る気にはなれず・・・。

 

“カランカラ~ン”

 

[いらっしゃあ~い。あれ?管理人さんじゃないの、どうしたの?突然。]

少しばかり気だるいような朱美さんの声がする。

響子さんは茶々丸へ寄り道した。

 

[いえ、あの・・・・。]

音無義父が倒れた事を朱美さんに話そうかどうか悩む響子さん。

 

[前のご主人のお父さん緊急入院したんだって?]

カウンターからマスターがいきなりその話を振って来た。

 

[え?マスターどうしてそれを・・・。]

“まだ何も話していないのに。”驚く響子さん。

 

[おまっとさ~ん。]

“カチャ”

しばらくすると、響子さんの前に朱美さんがコーヒーを運んできた。

[ああ、さっき時計坂の商店街で買い物してたら一の瀬さんに会って・・・。]

[“音無の義父が倒れて、管理人さん血相変えて出て行ったよ”て教えてくれたのさ。]

とマスターが種明かしをしてくれた。

[それで・・・その話を亭主の五代君にどう切り出したらいいか悩んでるわけね?]

そのまま響子さんの向かいに座り、朱美さんはそう言い放った。

[・・・・・・。]

[図星か・・・・・。]

朱美さんの言葉に全く反応しない響子さん。

 

[なにをそんなに深刻に考えられるわけ?]

そんな響子さんの姿を見て呆れた朱美さんは言う。

[長い事さ五代君と“ママゴト”みたいな事やって、やっとこさ本当にちゃんと結婚したと思ったらさ~。]

[前となんっっ、にも変わってないよね?管理人さん。]

“前となんにも変わってない”そんな朱美さんの一言が響子さんの胸にズシリと響いた。

[変わってないって・・・そんな事・・・。]

[まだそんな事言ってんの?自分だけよ、気付いてないの?管理人さん。]

 

自分では全てにケジメを付けて五代裕作と結婚したつもりだった。

しかし・・・自分の思いとは裏腹に周囲はそう見てはいなかったのだ。

[五代君はさあ、“まっさらな千草響子”と結婚したつもりなんだよね。いくら“過去”があったとしてもさ。]

[だけどあんたはさ、いつまでも“音無響子”のままなんだよね。不器用なくらい。]

[たとえそれが五代響子に変わってもね。]

そう言うと、更に朱美さんは続ける。

 

[一の瀬さんから聞いたんだけどさ、前の亭主と比べてるみたいじゃない?]

[比べてるって、それ、どーゆう意味ですか?朱美さん。]

朱美さんの言葉の意味が理解出来ずに思わず聞き返す響子さん。

 

[知らないうちに出てるみたいよ?思い当たるフシないの?]

朱美さんに言われ、日常の夫との会話を思い出す響子さん。

“[響子、これちょっと味付け濃くないかな?]”

“[あら?濃いかしら?惣一郎さんにはこれでちょうどよかったんだけど。]”

 

何気ない食卓の光景が思い浮かんだ。

確かに・・・言われてみると、無意識のうちに口にしている自分がいたかもしれない。

知らず知らずのうちに・・・今は“亡き人”と比べてたのかもしれない・・・・。

それが結果として裕作を傷つけていたのかも知れない・・・・・と。

自分の余りの鈍感さに愕然として青ざめる響子さん。

 

[本当だったらさぁ、遂に長年恋焦がれた愛しの管理人さんと結婚出来て有頂天の筈がさぁ・・・]

[五代君もさ~、最近萎縮してるって言うの?何か元気ないよね。]

[前のご主人にプレッシャーでも感じてるんじゃない?]

[そうですね・・・。その通りかも知れませんね。]

朱美さんの言葉に素直にうなずく響子さん。

[だからさ~、今度の事はいい機会だと思ってさ、もう一度お互いに向き合ってみたら?]

[ま、あたしは他人の事なんか知ったこっちゃないけどね~。]

朱美さんはそれだけ言うと、カウンターの奥へと消えて行った。

夕暮れ迫る時計坂。

響子さんは茶々丸を後にした。

~そしてその夜一刻館~

 

五代夫妻の住む管理人室

[ただいま。]

夫の五代君が保育園から帰ってきた。

 

[お帰りなさい。]

それを笑顔で出迎える妻、響子さん。

[あのね・・・、ううん、やっぱりいいわ。]

響子さんは音無の義父が緊急入院した事をどう告げたらいいか迷っていた。

 

[何かあったの?]

そんな響子さんの態度に不思議そうな表情をする五代君。

 

[実はね・・・音無のお義父さまが突然倒れられて・・・。]

ようやく切り出した響子さん。

 

[え?音無さんが!それで容態の方は?]

[うん、今は落ち着いてるけど・・・あんまり良くはないみたい。]

[それなら僕も明日お見舞いに行かないと・・・。]

響子さんの言葉を聞き、早速自分も見舞いに行くと言い出す五代君。

 

だが、・・・。

[でもね、あなた。音無のお義父さんは・・・“来てはならない”っておっしゃって・・・。]

音無義父からの言葉をそのまま五代君に伝えた響子さん。

 

[どうしてそんな事を?]

[それは・・・たぶん・・・。]

 

その音無義父の言葉の真意が分からない五代君。

それをどう説明していいのか、いや、してはならないのか悩む響子さん。

[とりあえず、明日二人で音無さんのところへ行こうよ。ね、響子。]

響子さんの言動から何かを察したのか、五代君はそう言うと、

 

[さあ、お腹減ったな~、今日はおかずは何かな?響子。]

と、別の話題にさりげなく切り替えたのであった。

 

(続く)

 

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