総隊長の孫娘〜その者、最凶の料理人につき…〜   作:名無しのナナ

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覚悟

 

 ボクは今、西流魂街一地区 潤林安(じゅんりんあん)を星葉身と一緒に歩いている。

 目的は目新しい調味料が無いかというウィンドウショッピングも兼ねた散歩だがこれが中々に楽しい。

 

「千歳の姉御じゃないですかい、先日はうちのがありがとうございました」

「こんにちは、ゲンさん。たまたま居合わせただけですから気にしないでください。ミヨさんはその後どうですか?」

「幸い産後の回復も早いみてぇで…」

「千歳様…!ちょいとあんた、何で呼んでくれないんだい!」

「あぁ、あまり無理はしないで…ふふ、こんにちは」

 

 この人達はゲンさんとミヨさん、数は少ないが綺麗な店員さん達と夫婦二人で小さな料亭を切り盛りしているのだが先日この二人の間に子が設けられた。

 

 産気づいていたミヨさんが破水した際に丁度居合わせた時に産気づいたミヨさんを介抱し、子を取り上げたのがボクという訳だ。

 

 死神として永く生きていたがこの時ばかりは師匠の弟子で良かったとつくづく思う、剣術だけではなく回道もある程度学べていたからだ。

 

「千歳様の名前を一文字頂いて千夜(ちよ)という名前にしたんです、私達の宝です」

 

 きゃっきゃと笑う赤ちゃんを見て微笑んでいるとミヨさんが微笑みながら千夜ちゃんをあやしている。

 

 ボクとしても自分と同じ字を与えられた赤ちゃんが可愛く思えてくるというものだ。

 

「ふふ、何だか照れてしまいますね…千夜ちゃん、元気に育ってね?」

「あぅ〜…」

 

-------❁ ❁ ❁-------

 

 三人が千夜と名付けられた赤ん坊を囲み仲良く談笑していると隊長羽織の上に女物の着物を羽織った派手な男が見知った背中に声を掛ける。

 

「や、千歳ちゃん。こんな所で逢うなんてボク達気が合うねぇ」

「ん、そうだね、気が合うかは兎も角珍しい…京楽、今日はどうしたの?」

 

 何時もは隊首会でしか声を交わさない二人ではあるが祖父が山本元柳斎重國である千歳と霊術院時代の教え子である京楽は昔から知己の間柄であった。

 

「ここの料亭で出されるお酒が美味しくてねぇ、店員の女の子もボク好みの可愛い子達ばかりだし」

「…そ、あまり迷惑掛けないでね、じゃないとお爺様に言い付けるから」

「山じぃに言うのは勘弁してよ、そんなにぷりぷりしてると赤ちゃんが泣いちゃうよ?」

「……まったく」

 

 まだ何も分からない赤ん坊を笠に着られては千歳としても口煩くは言えないというもの。

 時刻も夕刻、そろそろ帰ろうとしていた千歳は踵を返そうとするがそれを制すように京楽はゲンに視線を向ける。

 

「ははは、まぁまぁ、店主いつものを頼むよ、後お酒二つ貰えるかい?」

「へいっ、まいど!千歳の姉御も中に入って座ってくだせぇ、今日は奢りまさぁ」

「え、いや悪いですよ」

「まぁまぁ、あの時のお礼だと思ってください、大したものは出来ませんが…」

「…なら、遠慮なく」

「そうそう、遠慮は良くないよ、座った座った」

 

 半ば無理矢理に千歳の背を押す京楽と申し訳なさげにゲンとミヨに頭を下げる千歳、そんな二人を暖かく迎えるゲンとミヨの二人は店の中へと入り支度を始めた。

 

-------❁ ❁ ❁-------

 

 時間は少し経過し、二人の男女は各々向かい合い酒を飲み交わしながら旬の幸に舌鼓(したづつみ)を打つ。

 

「いやぁ、良い酒だねぇ…なにより何時も忙しそうにしてる千歳ちゃんに注いでもらうお酒なんて格別だ」

「お世辞をどうも、…で、何か言いたい事があるの?」

「直球だねぇ、…最近山じぃとはどうだい?」

 

 こうしている時間すら京楽が見計らったものだろうとした上で問う千歳に対し京楽は猪口(ちょく)に口を付けながら彼女をじっと見詰める。

 

「…どう、とは?」

「……虚圏の調査を言い渡されたのはボクも知ってるけど山じぃは反対したのかな、って話さ」

 

 虚圏は長い歴史の中で調査に向かった死神が戻ってこない事で有名な魔境だ、その調査を行うという事は常に死が付き纏う場所に肉親を向かわせるという事。

 

 まぁ、実際は霊力欲しさに単身虚圏で修行という名の殺戮行為に及んでいる千歳にとっては修行場と化していた訳だが、基本的に虚圏の調査=死を賭した激務と捉えて良いだろう。

 

 千歳自身もそれは理解した上で、山本元柳斎重國という個がどういう性質かを説くように口を開く。

 

「…護廷十三隊の為になるならあの人(総隊長)は何も言わないと思うよ」

「……まぁ、ねぇ…」

「それに、一死以て大悪を誅す それこそが護廷十三隊の意気と知れ、位は普通に言いそうだ」

「はは、確かに山じぃなら言いそうだ」

 

 けどね、と京楽は続ける。

 

「それでも、やっぱり孫娘(キミ)の事は案じてるとは思うよ、分かり難いだけでね」

「……そうかな?」

 

 そうだよ、と優しく見守るように千歳に酒を注ぎ返す京楽。

 

「…千歳ちゃん、何を思い悩んでるかは分からないけど話くらいは何時でも聞くよ、ボクは」

 

 京楽の言葉に嘘は無い。

 戦いにおいてシビアな考えを持つが感情を解さない男では無い、幼馴染とも言える千歳相手だからこそ案じている、というのもあるが。

 

 だからこそ、永く誰にも語る事が無かった弱音を彼女は吐いた。

 

「……例えば、死ぬ事が既に定められた存在を私自身のエゴで救うのは傲慢だと思うかい?」

「…まぁ、普通に考えたら傲慢だろうねぇ…勿論、千歳ちゃんはそういう所は理解した上で救いそうだけど」

 

 良く考えた上で出した答え。

 現状、七番隊の隊長でありながら後進を育てる講師である彼女の身になって答えたが彼女は一瞬だけ悲しげに微笑む。

 

「……京楽、もし私が道を踏み外しそうになったら…その時は「大丈夫だよ」…?」

「君が君自身を顧みれる間は“絶対に”踏み外す事は無いさ」

「…ありがとう、京楽」

 

 注がれた酒に口を付けながら、彼女は更に覚悟を決めるのであった。

 

 もう一人の幼馴染(浮竹)を何としても救うという覚悟を。





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