総隊長の孫娘〜その者、最凶の料理人につき…〜   作:名無しのナナ

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願い

 京楽と酒を飲み交わした翌日、ボクは講師の仕事をこなすべく真央霊術院の廊下を歩いていた。

 

「ッ〜…二日酔いかな…」

『主はお酒あんまり強くないのに昨日は沢山飲んでたからね〜…』

 

 あまりにガンガンと痛むので思わず頭を抑えてしまう。

 そりゃあ、ねぇ…あれだけ勧められたら飲まないのはかえって悪い。

 

「おはようございます、山本隊長…ご気分が優れないようですが大丈夫ですか…?」

 

 背後から声を掛けるのはザーボンさ…じゃなくて藍染君だった。

 普段穏やかに過ごしている彼が心配そうにしているのは中々に貴重だが教え子に心配掛けてばかりはいられない。

 

「ありがとう藍染君、昨日は休日だったから少し飲み過ぎちゃって…」

「そうなのですね…ご自愛ください、山本隊長の代わりは居ないのですから」

 

 原因がボクの身から出た錆だと知って幻滅させてしまったかとも思ったが本当に安堵した様に背中を摩ってくれる、男の子の掌って結構頼もしいんだなぁ…。

 

「ありがとう、でも藍染君達もそろそろ卒業しちゃうからね、卒業後はどの隊に所属したいか希望はあるのかな?」

 

 ボクが受け持つ生徒の中でも特に優秀な成績を収めている藍染君なら入隊後直ぐに席官を任せられる事だろう、…これでラスボス(ユーハバッハ)すら手玉に取る腹黒イケメンでさえなければ、或いはボク自身がその記憶を失っていれば手放しで喜んでいたが入隊後も目を光らせておかなければ…そんな想いを潜めながら問う。

 

「そうですね…僕は五番隊が良いのですが希望が通るかは分かりませんし…」

 

 やっぱり五番隊か、まぁ七番隊には来ないだろうなぁ…とは思っていたから一応平子君に忠告はしとこうか。

 

「大丈夫だよ、君は優秀だからきっと五番隊に所属出来る」

「山本隊長にそう言って頂けると自信に繋がりますね、ありがとうございます」

「ふふ、さ、授業に遅れないように教室に行きなさい、私は少し準備があるからまた後でね」

「わかりました、…それでは、また後ほど」

 

 授業に使う教材を用意するのを忘れていたボクは藍染君の背を見送りながら教材を用意するのであった。

 

 授業が終わったら浮竹の見舞いに行く為に。

 

-------❁ ❁ ❁-------

 

 時刻は夜、月明かりが照らす雨乾堂(うげんどう)に黒髪を結った千歳が姿を現す。

 

「やぁ、浮竹」

「千歳か、珍しいな…あがってくれ」

「お邪魔するよ、…気分はどう?」

「今日は(すこぶ)る調子が良いよ」

 

 そう言う浮竹ではあるが彼の顔色を見た千歳は盆に乗せた粥を落としてしまいそうになるも穏やかに微笑む。

 

「よかった…、…浮竹、今日は話があって来たんだ」

「話?」

 

 普段…というよりも600年程忙しなく動いていた千歳は昔とは違い京楽や浮竹とは疎遠になっていた。

 言葉を交わすのは隊首会のみ、それも千歳自身意見を述べるのは珍しいという徹底ぶりであったが久しぶりに自身を見舞ってくれた幼馴染(千歳)の言葉に浮竹は首を傾げる。

 

「…私がユーハバッハを斬ったのは知っているだろう?」

「…あぁ、知っている。元柳斎先生じゃなく何故千歳が、と思っていた時期もあるからね」

 

 600年も死神をしている者も珍しい昨今では千歳は隊長というよりも手製の料理を振舞い優秀な死神を次々と排出させている女教師という側面ばかりを知られている。

 

 無論、あの山本元柳斎重國の血縁者であり卯ノ花八千流としての卯ノ花を師に持つ者だ、その実力は当代の剣八である刳屋敷剣八ですら一目を置く程である。

 

 それ故に、彼女の実力を“正しく”評価出来る者は限られている…。

 

 そう、幼馴染である浮竹ですら。

 

「…当時はお爺様より私の方が斬魄刀の能力を込みでユーハバッハに対し“有利に”戦えたから、というのが真相だね」

 

 だが、今はその様な些事(さじ)はどうでも良いとばかりに千歳は続ける。

 

「なるほど、それが今から話す事と何か関係があるのかい?」

「……私の斬魄刀の能力は喰らう事、霊圧や鬼道、虚閃…能力すら喰うこと。だけど───」

 

 私の卍解は、と一旦区切りながら

 

「──私の卍解の“一部の能力”は喰った対象の能力を完全に私自身の能力として扱う事…始解の時でもごく一部は使えるけど卍解した状態なら100%扱える」

 

 そう、彼女の斬魄刀の最たる能力は喰らう事。

 そして喰らったものが己が血肉になるのは生物ならば理解出来る自明の理である。

 

 無論、それだけなら最凶の斬魄刀とは呼ばれないが今は割愛する…少なくとも、能力の一部であると語る千歳は基本的に嘘を嫌う性質のようだ。

 

 そして、ここまで聞いて何も理解出来ない程浮竹という男は愚かではない。

 京楽と同じく彼もまた千歳同様古くから護廷十三隊、その十三番隊の隊長を任せられてきた男だ。

 

「………そうか、“視た”んだな、ユーハバッハの未来を見通す能力で…俺の死に様を…そして」

「…待って、その続きは私が言うから。…いや、言わなきゃいけないから…───」

 

 

 

 

 

 

 ──浮竹、私と一緒に生きてくれないか、私は…ボクは貴方に生きて欲しい。

 

 虚にとって最凶の死神(千歳)は覚悟が鈍らぬように幼馴染(浮竹)の眼をじっと見つめながら身体と唇を震わせ言の葉を紡ぐのであった。

 

 ───その言葉が、あの死に様を否定していると…幼馴染の琴線に触れる事に繋がると理解した上で。

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