総隊長の孫娘〜その者、最凶の料理人につき…〜   作:名無しのナナ

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黒ノ天女

 桜の花弁が舞う中、ボクは今日という日を迎えて少し涙ぐんでいた。

 

「卒業おめでとう、皆」

「うぅ…山本たいちょぉー…」

「俺まだ隊長の授業受けてたいっす…!」

「…うん、私もだよ…でも皆なら各隊に配属されても上手くやってけるって信じてるから」

 

 何百年も教師をしているが矢張り慣れないものだ、ボロボロと泣いている教え子達の頭を撫でながらボクも涙を堪えていた。

 

「山本隊長…、ありがとうございました」

「私の方こそありがとう、藍染君。教えているようで改めて教えられる時間だったよ」

 

 藍染君も思いの外感傷に耽ているように見受けられる、…彼は何故かボクに懐いてくれていたからボクとしても今日だけは純粋に言葉を選ばず接していた。

 

「そんな…僕は何もしていませんよ、でも山本隊長にそう言って貰えて光栄です」

 

 気恥しいのか視線を一瞬だけさ迷わせたようにしながらも穏やかに微笑む彼は、矢張りボクが知っている道を歩むのだろうか…。

 

 600年前、利用しようとした彼の計画とこれから歩んで欲しいと願う彼の道、それ等が決して交わらないものと知りながらボクは優しく微笑む。

 

「ふふ…、藍染君は多分これから忙しくなるだろうけど何かあったら何時でも相談に乗るからね?」

「ありがとうございます、山本隊長に学んだ事を糧に精進していきます」

 

 今浮かべている笑顔を偽善と知った上で、ボクは彼等が歩むであろう(未来)に思いを馳せるしか出来なかった。

 

-------❁ ❁ ❁-------

 

 場所は変わり十三番隊舎内の某地。

 

「今頃千歳ちゃんは卒業式に出席かぁ、…体調はどうだい?浮竹」

「…不思議なものだな、布団から出て畑を耕すなんて少し前の俺からは想像が出来ないよ」

 

 手拭いで顔についた泥を拭う浮竹と新しく出来た畑に肥料を撒く京楽は二人で此処には居ない千歳の話題をしていた。

 

「まぁ、浮竹とは付き合いが長いボクも驚きなんだけどねぇ」

「何時も助かってるよ、…それにしても…」

「…千歳ちゃんの事かい?」

 

 小さく頷きながら浮竹はあの夜起きた事を思い返す。

 

-------❁ ❁ ❁-------

 

 ただそこに存在するだけで圧死しそうな程の霊圧とそれに見合うだけの存在感を身に纏う黎い羽衣を身に纏う天女、…いや、普段の虹色の瞳から血よりも紅い瞳を俺達に向ける千歳に俺は息を呑む。

 

「千歳…なのか?」

 

 思わずそんな当たり前な事を訊ねてしまう、それ程目の前の女は千歳とは佇まいからして違っていた。

 

「…私は千歳であり星食みでもある者」

「斬魄刀の人格と一体化していると言うのかい?」

 

 千歳であり彼女の斬魄刀であると無表情で語る女の言葉に京楽が問う。

 

(斬魄刀と死神の同化だと…?)

 

 斬魄刀とは本来浅打から持ち主である死神の魂の形を型取り、やがてその死神の霊力で形や能力が出来上がるもの。俺の双魚理も京楽の花天狂骨もそうやって今の形になった。

 

 だが、千歳と千歳の斬魄刀(星葉身)はそうするのが自然とばかりに根底の部分から完全に同化してしまっている。

 

 五倍から十倍なんて比ではない、それ以上の霊圧とそれを漏らす事無く圧縮した力を隠そうともせず、目の前の女は銀色に変色した髪を夜風に靡かせている。

 

「そうなるな、…さて、私がこの姿になった本来の目的を果たすとしよう」

「…っ…」

 

 彼女の霊圧が闇を支配すると俺の身体から何かが抜け落ちたのと同時に暖かな温もりが俺の中に溶け込むのを感じる。

 そして、長年苛まれていた苦痛から解放されたように身体が軽くなるのを感じた。

 

「……これは来るべき時迄、私が預かっておこう、そして…(千歳)より早く死んでくれるなよ?彼女が哀しむのを(星食み)は望まない」

 

 痛みを与える事もなくミミハギ様を摘出し、俺の方を向き無表情で語る彼女に底知れないものを感じるが問いかける。

 

「…君は一体何者なんだい?」

「───私は千歳であり星食み、そして___それ以上でもそれ以下でもない」

「…なるほどねぇ…」

 

 長年体内に入っていたものを摘出し、他者の魂を受け入れるという未知の疲労感で肝心な部分が聞き取れなかったが京楽は今のやり取りで何かを察したようだ。

 

「…千歳は無事なのか?」

 

 一番大事な部分を問う、俺が救われたとしても千歳が無事でないならば意味が無いからだ。

 

「問題無い、…私が表に出て来るのも今となっては珍しい位だ…さて、役目は果たした、さらばだ」

「千歳…!」

 

 自ら卍解を解いたのだろう、崩れ落ちる千歳を抱き抱えながら俺もまた意識を手放した。

 

-------❁ ❁ ❁-------

 

「…これからどうする気だい、浮竹」

「…どうもしないさ、アレも千歳の一面なら俺は共に生きるだけだ」

 

 浮竹の覚悟は硬い。

 それは千歳が自らの魂を掛けて自身を救おうとしたというのもあるが知っていたようでいて斯様な化物を持て余しながらも長い間独りで抗っていた幼馴染に唯一出来る親愛の表し方であった。

 

 が、浮竹の背中を京楽は軽く叩く。

 

「…ボク達が、の間違いだろう?」

「…京楽…」

「アレが本当はどういった存在か、というよりも千歳ちゃんが自分自身を見失わないようにボク達でフォローした方が建設的だよ」

 

 京楽は敢えてあの夜に姿を現した千歳がどういった存在であるかを答える事はしなかった。

 それは親友の為か、将亦(はたまた)別の思惑からか定かではないが思慮深い彼の事だ、必要に迫られれば何れ彼の口からアレがどういった存在であるかは語られるだろう。

 

「…すまない、恩に着る」

 

 今はただ、親友の配慮に感謝を述べ長年床に伏せる事の方が多かった身体を動かす浮竹であった。


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