総隊長の孫娘〜その者、最凶の料理人につき…〜 作:名無しのナナ
私…いや、ボクは今、ボクに宛てがわれた部屋でこれまでの事を振り返りながらこれから自分が何をすべきかを考えていた。
ボクの“今の名前”は山本千歳、山本元柳斎重國の孫娘にして七番隊の隊長をしている。
だが、あの戦いで前世の記憶が蘇った今のボクからしてみれば肩書き自体は些細なものだ。
「…どう考えても尸魂界だよね…此処…」
呟いてもボクしか居ない部屋から返ってくるのは沈黙のみ、当たり前か…逆に返事が返ってきたらそれはそれで怖い。
ボクの前世はしがない社畜だった、毎日が退屈で仕方のない日々であった。
「死因は…確か交通事故だったかな…」
あぁ、確かそうだ…親子連れを庇ったのを何となく思い出す。
100年も前の出来事だったのにも加え、本能が拒絶反応を起こしているのか生前の事を思い出そうとすると霞がかかったかのようにぼんやりとしか思い出せない。
が、こと
「…先ず、今から約1000年後に起きる藍染の反乱…あれを利用しない手は無いね」
結果だけを言えば千年後に蘇るユーハバッハを倒すには死神全体の質を上げた上で生き残りの破面、何より藍染の協力も不可欠だ。
勿論、ボクという異物がこの世界にどう影響を与えるかは未だわからない。
もしかしたら全体の流れで見たら何も影響を与えないかもしれないし、大きく変化するかもしれない。
「真似…させて貰うしかないよね、千年掛けて」
だが、生憎だがこと死神陣営に於いては強化の目星は既についている。
曳舟桐生、彼女が原作内で一護達に振舞ったように料理を通じて死神達の霊圧を向上させる。
勿論、1回に全霊圧を使っていては効率が悪い、何より料理人としては未熟なボクだ…少しずつ、永い時を掛けて強化して行くのが一番だろう。
(…幸い、ボクの斬魄刀に協力して貰えば十分可能な話だけどね…)
『呼んだ?主〜』
腰に帯刀したままの斬魄刀の柄を一撫ですると“彼女”から声を掛けてきた。
「何でもないよ、
『そ?なら良かった〜』
間延びした声は可愛らしく思わず口元を緩めてしまう。
星葉身、それが
炎熱系最強の斬魄刀、流刃若火が最強の火力を誇るなら星葉身はそれすら喰らう可能性のある最凶の斬魄刀だ。
少しBLEACHに詳しい人物ならばこう言えば伝わるだろうか。
此処とは違う世界線で護廷十三隊を半壊させ、そして
それがボクに与えられた
「…星葉身、これからもボクに力を貸してくれるかい?」
『んゆ?』
何言ってんの?とばかりに眠たそうな声をあげる星葉身であったが、浅打から寝食を共にしていた彼女はすぐに納得したように笑い声を上げる。
『いーよぉ?
ご飯、か…。
まぁ、霊圧を高める為にも
ギリアン、アジューカス、欲を言えばヴァストローデを喰って力を蓄えれば…。
「…うん、勿論。そうしなきゃボクのしたい事が出来ないからね?」
『主のしたいことってなぁに〜?』
「……本来は死んでしまう人達に少しでも長く生きて欲しい、かな…」
自分でも自分が言っている事は傲慢であるという事は認識している。
例えば黒崎真咲さん、彼女の死で主人公である黒崎一護は主人公足り得る性質を持つし多くの人達を救ってきた要因の一つでもある。
死神サイドなら志波海燕さん、彼と彼の奥さんの死が朽木ルキアに戦いの意味を刻み付けた。
即ち、命を守る為の戦いと誇りを守る為の戦いだ。
だが、ボクはボクのエゴの為にこういった本来死ぬ運命にある人々を何とか救おうとしている。
それが間接的なものにしろ、或いは直接的なものにしろ、意図して行うのであればそれは大変傲慢である事は間違いない事だ。
そんなボクの意図を汲んでも尚、星葉身は笑う。
『そっかぁ…主は優しいね、大丈夫!ほっしーも頑張るねっ』
優しい…という認識が正しいかどうかは兎も角、自身の分身にも似た斬魄刀にこうまで言われてはボクとしても覚悟は決まった。
「あはは…優しいかどうかは正直わからないけどボクも頑張るよ」
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山本元柳斎重國side
「…ふむ…───」
深夜、各隊から提出された報告書に目を通していたが…儂の唯一の血縁である千歳の報告書…否、最早報告書の体を成してすらいない我儘に久方振りに全身がワナワナと震えるのを覚える。
『拝啓、総隊長殿へ
此度の侵略で尸魂界にも甚大な被害が出た事は私も存じていますが、だからこそ今一度体制を見返し死神全体の兵力の質を上げるべきと忠言申し上げます。
同時に、死神全体の質を上げるならばそれに見合う食事の供給も急務であると愚考します…堅苦しい前置きは置いといて私、料理人を目指したいと思います、つきまして、暫くして落ち着いたら旅に出ようと思いますさがさないでください( ˙꒳˙ )キリッ』
「あの…バカ娘があぁぁァァッ!」
ボッッ!!
と、勢い余って書類を燃やしかねん勢いで滾る霊圧を抑えるが…あのバカ孫めがッ、今の状況を判っておるのか…!
「…失礼します、総隊長」
「…卯ノ花隊長か…すまぬな、呼び付けたのは儂だというのに」
「いえ、気持ちは理解出来ますから」
思わず握り潰しそうになった報告書擬きに目を通す卯ノ花隊長…
「……どう思う?彼奴の剣の師としては」
「…──この100年、まるで乾いた大地の如く教えた事を吸収する彼女を指導してきた身としては彼女が無駄な事をするとも思えません」
ですが、と、八千流は続ける。
「同時に、彼女の事を偶に測りきれない部分もあるのも事実。…旅を通じて何かを探すのか、
「…世話を掛けるのぅ…」
愉しげに微笑む八千流の背を見送りながら近く護廷十三隊を揺るがす騒動に儂は深い溜息を吐く。
(……死ぬ事は赦さぬぞ、千歳)
願わくば、両者の何方かが死ぬ前に孫の真意を知りたいと…柄にもなく願うばかりだ。