文系と呼ぶには英語が苦手。理数と呼ぶには数学が苦手。
部活動は天文部…の、幽霊部員。アウトドアからはかけ離れたインドア派。しかしオタクと名乗るには見聞は狭く浅い。
映画好きと言うにはメジャーな物しか知らず、読書家としてはジャンルはライトに偏りそれも一昔の有名どころばかり、音楽は好きだがライブに行ったことなんて一切無い。
そんな、どこにいたって特に影響を及ぼさない薄っぺらい人間としての毎日が唐突に終わりを告げ、新たな毎日が始まったのはそこそこ前のこと。手っ取り早く言えば転生した。
はいはい転生転生、すごいでちゅね〜と思ったそこの貴方、少し待たれよ。と言うか待ってほしい。待って下さいお願いします。
かつての俺もそうだった。人気を通り越し最早飽和状態にあるジャンルの転生であるが、その数の多さに辟易していたことは事実である。例え評価が高かろうともその2文字がある時点で閲覧を避け、苦手意識…いやこの際だ、はっきり述べよう。当時の俺は転生ジャンルが嫌いだった。嫌悪していたのである。
しかし待とう。何故ここまで転生ジャンルが流行ることになったのだろうか、と。ほんの少しで良い。そんな考えを持ってみてはくれないだろうか。
流行の原因なんてまちまちだろう。バンドワゴン効果やアンダードッグ効果と言う言葉が存在するぐらいだ。はっきりとした理由なんて述べられる筈が無い。
が、転生を果たした今なら俺はその理由を語ることが出来る。はっきりと、確信を持って言える。
──ズバリ、転生ジャンルとは〝警句〟に他ならない。
まず始めに、転生ジャンルを書いている人物はそもそも
話を戻そう。転生ジャンルは転生者たちによる警句である。これは間違いない。
だって考えてみろ、目が覚めたら突然赤子だぞ? それまでの常識が通用しない異世界だぞ? 並行世界なフィクションの世界だぞ? …そう、転生ジャンルとは実際に
彼ら彼女らは我々に伝えている。「転生はあります!!」 …と。
なのでみんな転生ジャンルを忌避せずに読もう。でないと
転生を実感したのはすぐのことだ。目が覚めたら見知らぬ場所。古き良き田舎の古民家の様な内装をした部屋で覚醒し、すわ誘拐されたかと慌てて飛び起きれば視点が異様に低いことに気づき、更に更に慌てて室内に置かれていた姿見で確認すれば、そこには見知らぬ美少女──に見紛う、美少年。
転生ジャンルの1つであるTS転生はしなかった様だ、失わずに済んだ息子に安堵の溜息を吐いたのは記憶に新しい。
よう相棒、これからもよろしく頼むぜ?
さて、頬を抓り夢でないことを確認し終えれば、嫌でも自覚せねばなるまい。自身は転生を果たし、2度目の人生を迎えたのだ、と。
幸いにも転生した先は異世界ではなく現代日本。家電などから少しばかり過去の時代であることを知った俺は、裕福ではないもののかと言って貧乏でもない生活を満喫していった。
近所の幼馴染たちと元気に野山を駆け回り、時折家族ぐるみで出かけるキャンプではなかなか体験することのない環境に、年甲斐も無く──と言っても、前世は恐らく社会人成り立て。それに現在のミニマムボディに引っ張られつつあるので年相応の精神年齢と言えた──はしゃぎ回り、みんなで倒れる様に眠ったものである。
そんな幼少期を過ごした俺──
「──陽夏! これ、持ってけよっ!!」
そう言って貝殻で作ったネックレスを手渡してきたのは、幼馴染の1人である
いやぁ懐かしい。と言うか椛、意外と女の子っぽいところあるのねー。
さて。俺は今日でこの住み慣れた町からさよならバイバイしなくてはならない。今はそんな俺を見送る為、みんなが会いに来てくれているのだ。
やだもー、俺ってばモッテモテー! ま、男だけど見た目美少女以上に美少女で可愛いから仕方ないかナ!! ……などと、楽しむ余裕は俺には無い。
何故か。それは今し方、椛から受け取ったプレゼントに原因がある。
(夏の日の海水浴……その時拾った貝殻のネックレス? それに、澄空 椛…だと???)
「ひぃちゃん、これぇ……!」
表で泣きながら裏では思考をフル回転させる俺に、次は
(スノードーム…、白銀 立花……ッ!)
感じていた違和感が確たるものに切り替わり始めた。彼女がスノードームをプレゼントしたと言うことは、次は…!!
「陽夏、これ…。──も、持って行きなさいよ!」
そっぽを向きつつもしっかり差し出された桜花弁の飾りがあしらわれたヘアピンを受け取る。見た目は女子とは言え性別は男なのだが、そのチョイスはどうなのだろうか。
なんて言えば彼女、
(う、うぅうううらうら、うららからヘアピンと言うことは…!?)
段々と涙の理由が別れに対するものから別の理由へシフトチェンジを果たし始めているが、そんなことに気付くことはなく、最後の1人でありこのメンバーの中で唯一の(見た目は)男であり、
「陽夏。遠くに離れても、何年経っても、俺たちは友達だからな」
──それは、その台詞が。彼の思いが裏切られることを
手渡されたのは──手渡されるのは、飾り気の無い簡素な写真立てに収められた、去年のキャンプで撮った集合写真。みんなが笑ってみんなで楽しんでいて、温かな記憶を呼び起こしてくれる、そんな写真。
そうして、この写真の様なことは──2度と訪れないことも、俺はやはり知っているのだ。
汚っさんに、キモオタに、クズ教師に、チャラ男に。
片っ端からメイン・サブ問わずヒロインを寝取られまくるNTRゲーム……『四季折々の彼女たち。〜あの日々はもう戻らない…〜』──。
それが
転生を果たし迎えた2度目の人生。そこはファンタジー溢れる異世界ではない。しかし、そこはとあるNTRゲームの世界ではあったのだ。
サイドミラー越しに手を振るみんなの姿が段々と遠ざかっていく。これから目指すのは、長期出張することとなった両親に変わり、俺の面倒を見ることになる父の弟──叔父にあたり、そして間男キャラの1人でもある汚っさんのノブ男の家だ。
(考えろ、考えろ、諦めるな! くっそ、こんなことなら嫌わずに転生ジャンルも見ておくんだった!!)
後悔先に立たず。もしを考えたところで結末には影響しない。
このままでは汚っさん×男の娘とか言うそこそこニッチなジャンルが完成してしまう! ふざけんな! 前世の記憶が確かならアイツのち◯こクッソデカかったはずだぞ!?
思い出される、両親と別れた途端に正体を露わにしたノブ男に襲われる『原作の』陽夏の姿。
腹ボコォなってたからね。あんなんケツに突っ込まれたら「んほぉ”♡♡!?」する前に「ひでぶっ!!」してしまう。何としてもそれだけは避けなくては…ッ!!
「ごめんな陽夏。お父さんたちのせいで辛い思いをさせてしまって…」
ハンドルを握りながら呟く父親。
ほんとやぞ。お前出張から帰ったら覚えとけハゲ。…フッサフサだけど。
内心で父親に悪態を吐きながら頭をフル回転。ノブ男のデカ◯ンに即堕ちをぶちかまし、出張を終えた両親に無理を言い、ノブ男の家での暮らしを獲得し爛れた性活に溺れる『原作の』陽夏。
…大まかなストーリーはこんな感じである。よく許可したな両親。
その後の展開としては、月日が経ち高校でかつての仲良し組と再会するも、文字通りその仲良し組は
眼前NTRですか、たまげたなぁ…。もしかして何かキメていらっしゃる? ああ、選択によってはキメますね。その上ハメますね、はい……(絶望)
…このままでは比喩でもなんでもなく人生が終わってしまう。
そんなことは絶対に嫌だ。と言うか普通に季を始めた、椛や立花にうららやその後に出会うヒロインたちとは仲良しでありたいし仲良くしたい。ヒロインものの親友ポジのキャラが好きと言うのもあるが、単純に汚っさんの性欲の捌け口にされるのが嫌だ。もしそうなったら舌噛み切ってやる。
(まだだ……諦めるな! ハッピーエンドを掴み取るんだッ!!)
己を奮い立たせた俺は、ヒロイン陽夏について思考を巡らせた。
彼女を寝取るのは汚っさんであるノブ男の他に、数年後に通い始める高校にて出会う、田中なる男子生徒が存在する。デブにメガネと言う、エロゲーの典型的キモオタキャラであるこの田中なのだが、彼が陽夏を寝取る手段が催眠アプリだったりする。
で、出たー! お馴染みの催眠アプリ先輩だー!!
さてこの催眠アプリだが、性能はエロゲーに登場する基本的なものと言えよう。画面を視認させた時点で相手は操り人形と化し、ご奉仕良し、性格改変良し、常識改変良し、催眠のオンオフ切り替え良しと来た。もう別のことに使えるだろそれ…。
俺はそこに──より具体的に言えば、『催眠』に──目を付けた。と言うのも、俺こと瀬々楽木 陽夏なのだが、そこそこやばい幼少期を過ごしていたりする。
一例として上げさせて貰えば、おままごとで「お団子どーぞ」と泥団子を差し出されれば、団子うめぇ団子うめぇ! と食らいつき、粘土で出来たステーキを差し出されればステーキうめぇステーキうめぇ! と噛みちぎったり。
これだけではなく、付近で転んで泣いている子にその親御さんが「痛いの痛いの飛んでいけー!」など叫べば、ガチでその痛みを昔の俺は感じて泣き叫ぶのだ。逆に俺がそれをされるとすっかり痛みは消えたりする。
…お分かりだろうか。この陽夏と言うキャラクターになった俺は、催眠に対する耐性が
誰かがご飯として差し出せばそれがどんな汚物であろうとご飯と俺は認識し、それは勘違いなんだよと言われればどんなことでも俺は認識しなくなってしまうのだ。
どんな催眠だろうと俺はかかってしまう──そう、どんな催眠であろうとも、簡単に。
こここそが突破口。これこそが、俺の
(大丈夫、大丈夫だ…ッ。俺ならヤれるッッッ)
数時間に及ぶ父親の運転が終わりを告げた。田舎町から離れて訪れた都市部、その一角に建ったある一軒家。
さァ─────ここからだ。ここで、勝負が決まるッ。
(臆するな……………、逝けッッッ!!!)
いや逝ったらアカン、と意気込んだ気持ちを落ち着かせ、その俺の前で荷物を持った父が玄関に手をかけた。
「やぁやぁ、よく来たねェ陽夏ちゃん!」
俺たちを出迎えたのは、でっぷりとしたメタボ腹で黒光りした肌の男性である。夏故に暑いとは言え、よれたシャツと小汚いパンツのみと言う格好に母親は頬を引き攣らせ、父親は「お前そんな格好で…」と嗜めた。
が、当人であるノブ男はどこ吹く風。俺の容姿を上から下まで粘る様に視線を這わせつつ、自分の家と思ってくれていいだのと説明を始めている。人の話聞こうや汚っさん。
既に結構、出張の為の電車か飛行機の時間が迫っている両親は名残惜しそうに俺との別れを済ませた。少しでも長くみんなと居られる様に、ギリギリまで引っ越しの時間を遅らせてくれた両親の優しさには感謝であるが、俺の預け先のチョイスはクソと言わせてもらいたい。
ガチャンっ。
…音を立て、最後のラインが引かれた。その直後、ノブ男が俺ににじり寄ったことを気配で察知する。
「それじゃあ陽夏ちゃん…。──早速おじさんと
──その一言と同時、俺は即座に行動に出た。
メタボな腹に脂ぎった肌。浮かべられたその下卑た笑みに相応しい、腐敗した性欲。
兄夫婦の監視の目は存在せず、頼れる大人は誰一人として存在しない。目前に用意された
「それじゃあ陽夏ちゃん…。──早速おじさんと仲良くなろっか…!」
口臭をその涎の垂れた口から振り撒きながら呟いたノブ男。
だが次に聞いた言葉に、彼は思考と動きを止めてしまう。
「…───オイ、
……、……………。
今、この。美少女に見紛う美貌を持った少年は何と言った?? もしや、口汚く、己のことを詰ったのか……ッ!!?
怒りで血が沸騰した。このクソガキは必ずワカラセテヤル。ノブ男が咆哮混じりに襲い掛かろうとしたその時だ。
「──俺のジャブは
その脱力は液体レベル。初速から既に加速を終えた踏み込みにより陽夏の姿はノブ男の視界からかき消える。人中・鳩尾・金的。続けて放たれた三撃は、その速度故に一つの音にしかノブ男は捉えることが出来なかった。
マイナス値の催眠耐性───それを逆手に取った、最強の
これは、襲い掛かる数多のNTRイベント、忍び寄る間男たちの魔の手から、己を、ヒロインを、そして親友を。それら全てを筋肉で
あしたのおれ、ふつかよいはまかせた!
・ノブ男
間男。自分が有利な時に無理くり致して堕とすタイプ。
主人公に潰されて終了。
続く、続かない?
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続く
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続かない