戒め用   作:羽虫の唄

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文字数がどんどん増えてくんですけどなんですかねこれ、バグ???


イェーイ、彼氏くん見てるー?

(……ヒロインNTR阻止RTAと同時進行で間男抹殺RTA、はっじまるよー)

 

 俺こと、瀬々楽木 陽夏の朝は早い。と言っても、セットしたアラームが起動してその猛威を奮うまではまだ1時間強はある。基本的に寝付きは良いが音などで簡単に目を覚ます部類に俺は入るのだが……つまり何が言いたいか、俺を起床させる要因が他にあったと言うことだ。

 

 

 

『──これかぁッ、これが良いのかい燦子(よしこ)ォッ! ふん! ふん! ふんッ!!』

『ああ、良いッ! 凄いわ久志(ひさし)さん!! んおおおぉっ!!』

 

 

 

 …その正体だが、朝っぱらから盛っている両親の声である。

 ギシアンでは到底収まらず、ずっこんばっこんとその激しさが窺える『衝突音』が住み慣れた我が家の二階に位置する両親の寝室から絶えず発せられて来た。

 うーん、結構なお金をかけて防音・吸音機能を持たせた造りとなっていたはずだが、この有様か。これは少し予想外である。

 

 さて。いい年こいて発情してんじゃねーよと思われるかもしれないが、俺の両親が情事に耽っているのにはきちんとした理由があるので、そう邪険にしないでほしい。

 と言うのも俺……と言うか、より正確に言えば『ヒロイン・陽夏』の母に当たる『瀬々楽木 燦子』は寝取られキャラの1人なのである。

 仕事などで2人だけの時間が減っていき、満たされない燦子は1人寂しく自分を慰める毎日を送るのだがそこを間男に付け込まれ…と言った、人妻ならよくあるパターンだ。因みに間男はノブなんとか。親娘丼ですか、たまげたなぁ。

 ……奴自体は3年前に俺が既に抹殺(比喩表現)済みなので、あとは2人の間を取り持ってやれば燦子の寝取られは阻止出来る訳だ。

 

 この阻止の方法なのだが、俺は原作に登場する数々の『薬品』に目を付けた。催眠アプリと同じく一舐めでどんな淑女も色狂いに早変わりする媚薬に加え、ライ◯ップも裸足で逃げ出すレベルで結果にコミットする精力強化剤もろもろをネット通販──もちろん、ノブなんとかの金を使った──で購入。

 さすがである。例え媚薬だろうと精力剤であろうと密林にはなんでもあるのだ。

 

 そうして後日、『ペロッ。これは…凄惨ほぉっ♡!』やら『デカマランMAXΩ』に『ゼツリンリンZZZ(トリプルゼータ)』などと書かれたそれらが届いた。

 その驚愕の商品名にドン引きしつつ市販飲料の容器に移し替え、出張で地方に居る両親へ配達。「仕事も大事だとは思うけれど、偶には夫婦水入らずの時間も大切では?」などと、メッセージを添えたのだが……結果はご覧の通り。見事父は間男たち同様にマジカルな半身を手に入れ、母は俺を産み落とす以前の燃え上がる熱い日々を取り戻したのだ。

 

 既に3年経った現在でも2人の相思相愛さは絶好調であり、息子の俺もすっかりと慣れたものである。既に両親の情事によって奏でられるオーケストラは日常生活の一部に組み込まれているのだ。

 

 喘ぎ声がBGMとかエロゲーかな?

 そうだよ(殺意)

 

「行ってきまーす」

 

 朝食を終え、時刻は朝の5時。学校で二度寝をする為に、大分早い時間から俺は家を出る。

 ──え、その時間だとまだ学校は開いてないだろ、って?

 でぇじょうぶだ、鍛え上げた肉体に成せないことは無いんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひぃちゃんおはよーっ」

「ハヨーッス☆!」

 

 さてさて、そんなこんなで学校だ。

 変わらず尻軽ビッチなメス男子キャラとして通しているが、先日の一件から立花は以前のような距離感で接してくる為、こうして普通に挨拶を行ってくる。彼女のお陰で『仲良し組』の他のメンバーも…少しぎこちなさはあるが声をかけてくることが多くなり、それに釣られてクラス全体も段々と話しかけてくる人物が多くなってきていた。

 

 人を見た目で判断しないとはなんて良い子なのだろう。そのピュアなまま育つんだぞ立花。

 

「よ、よっす陽夏。一緒に帰ろーぜ!」

 

 放課後。

 立花のお陰で、ビッチからちょっと変わった子と言う立ち位置に落ち着いた俺に、帰り支度を済ませた椛が声をかけてきた。引っ越す3年前と比べ今の彼女は大分育っており、あの頃と比べても数十センチは下らないだろう。

 言わずもがな身長の話である。別のことと勘違いした人は挙手をしなさい。

 

 ──まだ立花の様に現在の俺の出立ちに慣れていないらしく若干頬をひくつかせる椛に、俺は快活に笑って答えた。

 

「いーよー! 帰りマックよろー♪」

「この辺マック無いぞ?」

 

 そマ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──でさー、マジヤバじゃな〜い?」

 

 椛たち『仲良し組』が暮らす累町は都市部と比べるとやはり分類的には田舎に入ってしまう。なのでいわゆる…『都会に染まった』陽夏の外見や言動は必然的に周囲から注目を集めることとなる。…自身が浮いていることを自覚しているのかしていないのか。偶に彼に向けられる男性からの舐る様な視線に気付き、彼らに睨みを効かせる椛に対し、当の陽夏はと言えば「どしたのー?」と呑気なものである。

 

 今まさに他校の生徒を散らしていた椛だが、陽夏の疑問の言葉に答えようと彼の方を向いたときであった。

 

「──馬鹿、陽夏! ちゃんと前向いて歩け!」

 

 並んで歩く、季・うらら・立花の前に出て談笑に花を咲かせていた陽夏。後ろ向きに歩いていた彼の話に意識の向いていた3人からは気付かなかったのだろう、少し離れて歩いていた椛の注意も虚しく、陽夏は背後から迫っていた歩行者の男性……2人いたその片方とぶつかってしまった。

 ドンっ、と少し強めの音が鳴る。

 

「うわ!? ごめんなさい──」

「ぶぎゃあああああ!!?」

 

 慌てた陽夏が謝罪を口にするも、直後に響いた男性の悲鳴に、んぁえ? と間抜けな声を漏らすことになる。

 今し方陽夏にぶつかった──スキンヘッドで恰幅の良い男性は己の右肩を押さえながら倒れると、そのまま地面の上をのたうち回り続けた。それを見た片割れの──こちらはサングラスにオールバックの幾分か若い男性──が慌てた様子を見せる。

 

「大丈夫ですかい兄貴ィ! …た、大変だァ肩が折れちまってる!」

「今時いるのねこんな奴ら………もがっ!」

 

 あわあわと慌て始める立花を他所に、呆れた様子で思わず呟いたうららの口を即座に季が手で塞いだ。

 ナイスである。

 

「おいおいおい、どう落とし前つけてくれんだァ!」

「わざとぶつかって来といてよく言うよ、避けれただろ! それにこんなくらいで骨が折れるなんて──」

「あァ!? 舐めてっと殺すぞォッッッ!!」

 

 ──ッ!! と、声を荒げたサングラスの男性に椛の体が竦んで震え始めた。

 流石に男子ほどでは無いにせよ、女子の中ではまず間違いなく高い身長と抜群の運動神経。男勝りな性格も相まって何かと頼られることの多かった彼女は、幼い頃から誰かを守る為に脅威に立ち向かうことの出来る性格の持ち主であった。学校の不良がイジメを行っていれば、迷うことなく立ち向かう程度には。

 

 …しかし、『とある日』を境に椛はそうではなくなってしまう。端的に言えば、異性──大人の男性に対して恐怖心を抱く様になってしまったのだ。陽夏を守るべく割って入ったはいいものの、サングラスの男性の怒号に恐怖を感じてしまい、彼女は動けなくなってしまう。

 顔は青ざめその体を震わせる椛の姿を見て、男性は気を良くしたのだろう、その口角を釣り上げた。

 

「ひっ」

「なぁー…ケジメはつけねーとダメだよな? こいつらどうしますか兄貴ィ! …兄貴ィ?」

 

 ──ここに来て漸くサングラスの男性が異変に気付く。普段であればこの辺で自身の兄貴分であるスキンヘッドの男性もやり取りに参加し始めるのだが、それがいつまで経っても加わってこないのだ。不思議に思い振り返り彼が見たものは、未だ肩を押さえてのたうっている兄貴分である。

 

「ぐぎゃぁ、肩が、肩がァ…!!」

「あ、兄貴ィ…? ──え、ぇえ!? こ、これって()()()()()()ないですかいィっ!?」

 

 脂汗を滝の様に流すスキンヘッドの男性。やっとその異変に気付いたサングラスが慌てて駆け寄るのと、同じように椛の異変を察知した季が彼女に駆け寄るのはほぼ同時であった。

 

「椛、大丈夫か椛ッ」

「ぁ──、う……うぅ…っ!」

「おぉいどうしてくれんだ、テメェら! ──ああいや、先ずは救急車、救急車…」

 

 季たちが震えて動けなくなってしまった椛を介抱する傍ら、声を荒げ……ながらも、スキンヘッドに楽な体勢を取らせつつ懐から携帯電話を取り出すサングラス。…しっかりしているのかしていないのか、チンピラなどをしているにも関わらず慌てることなく冷静に連絡が行われていった。

 

「ごごご、ごめんなさいっ、大丈夫ですか!」

 

 さて。この辺りで陽夏がやっと行動に移る。謝罪を述べつつ駆け寄って来た陽夏に対し、歯を剥き出しにしてサングラスが吠えた。

 

「ごめんなさいで済むかゴラァ! テメッ、ただで済むと思うなよ、慰謝料払えやァ!!」

「ひえぇっ。は、払います払います!」

 

 反射的に答えてしまった陽夏の言葉に、サングラスは分かりやすく笑みを浮かべる。

 

「そうかィ。…それじゃあ救急搬送料と入院費及び通院費に合わせて今回の骨折によって受けた精神的苦痛に対する慰謝料含めた諸々の料金きっちり払ってもらおうかァ!!」

 

 果たしてこいつは本当にチンピラなのだろうか。妙なところでしっかりしている男性に、ことの成り行きを不安そうに眺めつつも思考する周囲の人々。

 対して、当の陽夏はと言えば冷静なものである。彼は落ち着いた様子で「分かりました」と呟くと、取り付けられたキーホルダーをジャラジャラと鳴らしながら鞄からあるものを取り出した。手に掴んだそれを、サングラスは覗き込み疑問の言葉を口にする。

 

「…なんだこりゃァ?」

「石炭」

何で持ってんだ(なめてんのか)ァッ!!」

 

 余りのことに、人体の機能を突破したサングラスの口から2種類の言葉が同時に放たれた。至近距離でその怒号を浴びせられた陽夏だが、彼はやはり落ち着いた様子で持って次の行動へと移る。具体的に言えば、そのリンゴほどはあろう黒い塊を握りしめた。

 ぎゅっ、と握ること……10秒。どうしてかその小さな手の内にすっぽりと収まった石炭だが、陽夏が手を開くことで変わり果ててしまったその姿を露にした。

 

「どうぞ、ダイヤモンドです」

「「「どういうこと???」」」

 

 ものの見事に全員の声がハモる。

 それ自体が発光しているかのように透き通った白の塊。大きさから見て50カラットは下らないであろうそれは、現金に換算すれば男性の慰謝料諸々に利用したとしても余裕でお釣りが返ってくる筈だ。

 石炭が如何にして金剛石へと昇華されると言うのか。疑問の声に応えるべく、陽夏は解説を始める。

 

「炭素は50,000気圧をかけるとダイヤモンドに変化するんです」

「お前の握力いくらだァ!?」

「いや、握力だけじゃダメですね。1,000度強の熱も必要になって来ますから。手を振動させて超音波熱も発しました」

 

 言いながら、彼は拳を地面へ。途端、ハウリング現象に似た高音が辺りに響き渡ると同時、陽夏の拳が触れる箇所の地面から俄に煙が上がり始めた。

 

「「ふぎゃぁあああっ!! 化け物だぁぁああああ!!!」」

 

 チンピラたちはチンピラらしい叫び声を上げると、恐るべき速度でその場からの逃走を図る。

 

「「「…」」」

「いや、マジックマジック。そんなん出来たら人じゃないっしょー?」

 

 ──後に残った周囲からのこれでもかと向けられる視線に陽夏が笑えば、そりゃそうだと息を吐き出す彼ら彼女らであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──陽夏が引っ越してからしばらく経った頃だったかな。椛の親父さんが経営してた工場が倒産しかけたんだ。今はもう安定してるから問題ないそうだけど、最初の頃は大変だったらしい。借金もしてたらしくて……それで、一度アイツの家に取り立てが来たんだ。その時に椛が──」

 

 持ち前の正義感の強さが災いしてしまったのだろう。

 椛を自宅へと送り届けた季たちは──その頃には、少なくとも()()()()彼女は落ち着いていた──それぞれの家へと向かうその途中、どうして椛がああなってしまったのかな原因を陽夏へと伝えている最中であった。

 家族をはじめ長年一緒に居た季たちは平気であっても、そうでない男子や男性にも大声で怒鳴られてしまうと今日の様になってしまうのだと言う。

 

 事情を話してくれたことの礼を伝えつつ、合わせて自身も協力すると述べた陽夏。それに対し、椛が克服出来るまでの間彼女を守ることを改めて決意した、季に立花とうららの3名。──しかし、彼らは気づかない。

 

 

 

『…──へぇー? 良いこと聞いたジャン♪』

 

 

 

 物陰からこちらを覗く、下卑た悪意の塊に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…──はぁっ、──はあっ!!」

 

 …そんなことがあってから、数日経った頃のことだ。

 とある時、椛のスマートフォンに動画データが添付されたメールが届く。送り主は陽夏だったが、開いた動画データに映っていたものを見た瞬間、椛は駆け出していた。

 

『ウェーイw、椛ちゃん見てるぅー?』

 

 場所は古びたどこかの部屋である。薄暗い室内の中に幾人かのチャラついた格好の男子生徒と──それから彼らに囲まれた、自身の良く知る友達の姿。

 

『今からオレら陽夏ちゃんと()()()()はじめっからw。──止めたきゃ◯×んとこの廃ビルまで来いよテメェ』

 

 そこで映像は終わる。

 …映像の中の男子生徒たちには見覚えがあった。何かと問題を起こすことで知られている集団である。校内での暴力行為や器物の破壊、万引き、更には女性に対しての…。

『仲良し組』の中で気弱である立花にも何かと絡んだりすることがあり、その度に椛が盾となっていた。…つまり、彼女は彼らからそれなりに恨みを買っていることになる。

 

 そうして一体どれほど走ったのだろうか。走って、走って、走って。

 

「陽夏ッッッ!!!」

「おーす、椛ちゃん」

 

 お早い到着だねー、などとふざけた言葉を発したのは、制服を着崩した金髪頭の男子であった。彼は立ち上がり、この場に訪れた椛へと歩み寄る。…その後ろでは彼らの取り巻きが下卑た笑みを浮かべながら、ガムテープで口と両腕を拘束された状態の陽夏を取り囲んでいた。

 

「陽夏を離、

「おいおい椛ちゃんさぁ、自分が命令出来る立場だと思ってんのかなぁ!!!」

 

 ──ッ!!

 男子生徒の出した怒声に、『あの時』の恐怖が再来した椛は身を竦ませてしまう。彼女のその反応を見た男たちは一様に笑みを深める。が…。

 

「……陽夏を、今すぐ離せ…ッ!!」

 

 彼女の抱えている事情を知っていた男たちは、予想外の椛の反応を見て俄に慌て始めた。彼女の喧嘩の強さは『これまでで』嫌と言うほど理解している。

 聞いていた話と違うぞ──そう言った念を込めつつ、1人がリーダー格である椛に近寄っていた男子生徒に「おい」と声をかけた。が、当の本人は落ち着いたものである。確かに椛の反応は予想外だったが、それでもなおこちらには人質と言う有利な()()()()が存在するのだ。冷静ささえ欠かなければ、この戦いには勝てるのである。

 

「もーみーじーちゃーんーってーばーさー。こっちには人質があんのよ、分かる? テメェが勝手なことした瞬間にお友達が傷ついちゃうけどいいわけ??」

 

 顎で指す男に釣られて彼女の視線は陽夏の元へ。彼は取り囲んでいる1人によって、顔の近くにナイフを向けられていて──

 

「陽夏ッ」

 

 椛が声を発する中、陽夏の怯えた視線が鈍く光るナイフへ向けられた。

 …その様子を見た瞬間。椛の中では覚悟が固められる。

 

「───私が代わりになれば良いんだな。早く、陽夏を、離して」

「んー?」

「離して──下、さい」

 

 ──彼女の一言に男たちが態とらしく声を発し、卑俗に囃し立てた。

 

「なんだ、分かってんじゃーん椛ちゃんさぁ♪」

 

 それじゃあ早速。

 言いながら、馴れ馴れしく男が彼女の肩に手を回した──その時だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぐしゃりと言う音を椛は聞く。

 目にも留まらぬ速度で陽夏が放った飛び蹴りが、男の股間に命中した音だ。

 

 …もう一度言う。

 

 

 

 全体重を乗せた、全力の飛び蹴りが、下手をすれば人体急所で最も脆い部位に向けて放たれた。

 

 

 

「お………………」

 

 悲鳴らしい悲鳴は上がらない。男が倒れ伏したことで発せられた音を聞き、漸く周囲の男たちが動き出しす。

 

 先ず声を荒げて立ち上がったのは、件の陽夏に対してナイフを向けていた男。袈裟懸けに振るわれた一撃。しかし陽夏は逆にその攻撃を腕の拘束を行なっていたガムテープの解除に利用。

 彼の両腕が解放されてからは早い。奪い取ったナイフは適当に放られ、パンッッッ、と続けて発せられる乾いた音とそれに続いて倒れるナイフを持っていた男。──果たして、陽夏の行った拍手に「クラップスタナー」と言うれっきとした名が付いていることを、今後の人生で彼らは知ることが出来るだろうか。

 

「な、な、なぁ………?」

 

 ただただ、突然のことに腰を抜かしてしまった椛が漏らす声だけが発せられる。目にも留まらぬ速度で駆ける……と言うか。心なしか時折その姿が両足首を残してかき消えてさえ居る、陽夏。

 

 ──どさ、と最後の1人が地に伏した。

 

 人数は全部で6名。それを、たった1人で。しかも一瞬でである。

 …本当に、今目の前に立つのはかつての『仲良し組』の1人なのだろうか。姿もこんなに変わってしまい、喧嘩慣れしているレベルでは済ませないものも見せられた。

 

「大丈夫か椛っ?」

 

 ──そんな風に感じていた不安も、駆け寄って来た陽夏の一言で霧散してしまうが。

 腰を抜かしていた椛の手を掴み引っ張り立たせる陽夏。「怖い思いさせてごめん…」と謝る彼の姿を見て、椛の脳裏に夏のある日に行った怪談で『仲良し組』を阿鼻叫喚の地獄に陥れた時のことが思い出される。

 

(──なんだ、変わってないじゃん…)

「さっさと帰ろう。……え、なに?」

 

 過去の出来事を懐かしみ気付かぬ内に笑っていたようだ。

 椛の顔を見て訝しげに首を傾げながら、陽夏は取り留めもない話を絶えず語り始める。…きっと今回の出来事は椛にとってとても恐ろしい体験として記憶されてしまっていると考え、少しでも気を紛らわせようとしてくれているのだろう。この調子だと、多分陽夏が居なかった間の出来事についても季たちから聞いて知っている筈だ。

 身振り手振りを交えながらトークを進める陽夏。部屋の出口まで歩んだ椛たちは、何故(なにゆえ)普段はあんな格好と言動なのかの話題に移行していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もぞり、と。

 陽夏の背後で、椛の視線の先で。動く影が一つあった。

 

「──ふざけんじゃねぇぞクゥッソがァああああああああああッッッ!!!!!」

 

 手にはナイフ。始めに股間に一撃を受けた男の吠えに、漸く陽夏が振り返る。──だがその動きは緩慢…緩慢? あれだけの数の男たちを一瞬で伸したのに???

 

(あ、これ───)

 

 …違う、椛の脳が異常を来している。

 怒りの感情が込められた男の絶叫に、かつてのトラウマが…かつてのトラウマ以上の恐怖を感じたこと。そして男の凶刃が今まさに友達に向かっている現実に、彼女の精神は限界まで処理能力を加速させていた。

 

 …少しでいい。少しだけ、ほんの少しだけ動けッ。

 恐怖がなんだ! 友達を助けるんだッ!

 

「陽夏ァ───ッッッ!!」

 

 ──トラウマを剋した少女の足が一歩を踏み出し、少年の体を突き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぇ?」

 

 椛の口から、間の抜けた声が漏れる。

 

 突き飛ばしたはずの彼女は陽夏により逆に突き飛ばされていた。──(ノン)ッ。

 

(()()()()…??)

 

『仲良し組』の中で小柄な立花。そんな彼女よりも小さいその体は、150センチあるかすら怪しいところ…。

 ──にも関わらず、椛の視界に映るその姿はどんどんと大きさを増し形を変えていく。

 

 柱…。

 壁…。

 岩…。

 それともビル?

 

 ──(ノン)ッ。

 

 椛の脳裏に飛来したイメージ。陽夏を突き飛ばした時に感じた感触が、反動が、彼女に一つのものを連想させる…ッ。

 見たことがあるようで無いような、触ったことなどないのに完璧に成されるあるものの姿…ッッ。

 

 彼女の脳裏に現れたもの。それは…、

 

 

 

 

 

 ───〝戦艦〟だったッッッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 振るわれた凶刃──しかし陽夏が体勢を落としたことでそれは難なく避けられる。

 足を開き両拳を地に。相撲で馴染みのあるその姿勢から、更に低く落とす陽夏。──直後、その姿がかき消える。

 

 …技の名を、「激旺(げきおう)」。

 

 響き渡る凄まじい音。

 …その正体が自身の体がコンクリートの壁にめり込んだことによるものだとは、ナイフを振るった彼は知る間も無く意識を奪われる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「も──、みじィッッッ!!」

 

 部屋の外に倒れた彼女を受け止めたのは、どこからか滑り込んで来た季だった。

 

「うわぁ!? …え、季!? なんでここに…」

「ごほっ、走って…走ってくおまっ、お前見かけて…。ごぶっ、急いで追いか…けて、ぜひゅーッ。途中で見失っちま…まって、それでえっふ。あっちこっち聞いっ、聞いっておぉうぇぇええええー……ッ!!」

「きったないなおい!?」

 

 …そんな状態になるまであちらこちらを駆け回ったと言うことなのだろう。うずくまる彼の背中を優しく摩りながら、椛は小さく礼の言葉を吐き出した。

 

「………? なんか、言ったか?」

「…なーんでーもなーいよっ」

 

 ──今日だけで数々の恐怖を味わった椛。それでもこうして笑顔を見せられるのは、彼女を思って助けてくれる友達が居たからなのだろう。

 ある程度は回復した季と揃って立ち上がる椛。振り返った彼女は、助けてくれたもう1人の友達へ向けて声を発した。

 

「──帰ろ、みんな!」

 

 

 




澄空(すみそら) (もみじ)
名前は「秋」「紅葉」から。キャラのイメージは「狼」。東の方の天狗さんは関係ないです。
色々おっきい。ショートヘアのスポーツガール。

記者 「どうしてチャラ男たちに捕まった時すぐに彼らを倒さなかったんですか! 貴方なら出来たでしょう、怠慢なんじゃないんですか!?」
主人公「NTRイベは何時でも阻止出来たんですけど、トラウマ克服イベントもしなくてはいけなかったんです…」

・チャラ男ズ
間男。相手に逆らえない状況を作り出して寝取るタイプ。
主人公に服をひん剥かれ股間を学生証などで隠した状態で「ウェーイw、チャラ男くんたち見てるー?」と動画撮影で弱みを握られ終了。
主人公「ホモサイトに動画アップしたろ」

・石炭→ダイヤモンド
ネタ元:「刃牙シリーズ」
野見宿禰の握り拳には多種多様な機能が備わっているに違いない。

・「激旺」
ネタ元:「ケンガンアシュラ」
関林 ジュンとの戦闘で鬼王山 尊が使ったもの。
お相撲さんのお相撲さんによるお相撲さんだけの凄い技。射程の短さと前方のみにしか使えない点がネックなものの、威力と速度は折り紙付き。
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