途轍もない規模の力が満ちる。まるで流星が爆発したかのような、輝く闇の奔流。
咄嗟に距離を取った獅子は、そこで、一体のアラガミを見た。
『……進化、そんナまさカ……ッ!』
ノコギリ刃を持つ青龍刀のような、バスターブレード、ヘヴィムーンの複合神機を彷彿とさせる曲刀の大太刀を構える美しき黒の乙女。
かつてのアメノハバキリの独特な機械的フォルムなボディを払拭しつつも、面影を随所に残す姿。
ブラックメタリックな外骨格の暖かみが感じられない鋼鉄の手足に反するように生身の部分が所々に見受けられる。長身だが女性らしさがより増し、強調された膨よかな胸部。晒された肌は蒼白いほどに滑らか。
以前の無骨な三日月の武者兜が無くなり、露わとなった濡れたように煌めく長い艶やかな黒髪。先端から淡いグラデーションでキラキラと照り返す。代わりに側頭両部から伸び生える鬼人の如き角先。鋭い眼付きの凜然とした顔は、さながら極東の市松人形に酷似している。
ハバキリ、アメノハバキリを経て進化を果たし遂げたそれは、彼女の本当の姿、素顔なのか。
白だけの空虚な偽りの世界を完全否定するように、今、黒曜の戦乙女が創世の彼方より爆誕した。
「…………てめーの敗因は……たった
大曲刀の切っ先を向けて言い放つ。
「てめーはオレを怒らせた」
あらゆる"黒"を身に纏ったそのアラガミ────
灰域種とも灰嵐種とも、ましてや灰煉種とも異なる、明らかに別の力の存在となり、復活を遂げた荒ぶる神は、絶大なオーラを放ちながらそこに佇んでいた。
『ッ、こレは……』
構築されていた空間の地形が気化していく。存在自体が世界を滅ぼすその様は、まさしく荒神。
真なる領域へ至ったアラガミ、新たな力を引き出し立ち上がった"獲物"と相対した白蓮の獅子は、咄嗟に息を呑む。
『なんだヨ…………キミは、たダの元『人間』だったハズ…………呼ばれたダケなのニ、何処にそんナ力が…………ッ』
自分は言われた。お姉ちゃんに。"やれ"と。言われた通りにやっただけなのに。これじゃ失敗したら怒られるじゃないか。
こんなのが、"
竦む。震える。これはなんだ? 怖い? 怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
────恐怖。
『──ッアアアアアアアアアア!!!!!』
そして、狂った様に絶叫した。
『認めナいッ、怖イ? 違ウッ、違ウッ、モう、そンな事はどうデもイイ……ッ!! オマエを今、コのボクが倒せバ、全部元通リになルッッッ!!!』
咆哮を谺せ、突進する白蓮の獅子の一挙種一動をスローモーションのような緩慢さで見ながらオレは思う。
自分はアラガミとして目覚めてから多くの戦いを潜り抜け、そして知った。
強者には強者の、弱者には弱者なりの"覚悟"があることに。
人にもアラガミにも。
人間であった時には、そんなことは、わからなかった。
だが、そんな世界で生き抜いていく覚悟だけは、何かしら胸を打つものがあった。
あるいはそれこそが生きるということなのだと思えるほどに。
そして、自分にはそれがなかった。
ゲームの世界の延長として、画面の向こうから客観的に覗いていただけ。
ただ、諦観者としてプレイしていただけの自分。
それは現実の世界でも同様に。社会という荒波の人生ゲームの盤上で自分という駒を升目通りに動かしていたに過ぎない。
ああ、そうだ。そうであった。
当たり障りなく、不都合から目を逸らし逃げていた。
何も感動もない、ただ嫌な気分になるだけの人生を全うすることに。
だけど、賽の目を振るうのは自分だったのだ。
オレは覚悟というサイコロを本気で振っていなかった。
だから、今度は振ろう。
おもいきり。
後悔が無いように。
この盤面の上で。
向かい合う両雄。最後の一合い。
無数の想いを、掲げ構える大曲刀に込める。
高まる力が最高潮に達し、白墨の景色が、空間が、水面を通すかのように歪んでいく。
「最後に一つ、教えておいてやる」
二体のアラガミは、遂に雌雄を決する。
「オレは───
"
刃は振り下ろされた────
******
クリサンセマムのゴッドイーターたちとヤマタノオロチとの戦いは熾烈を極めた。
それまで劣勢であった神機使いたちは水を得た魚、否、牙を研ぎ澄ませた狼の如く喰らい付く。
ヤマタノオロチの苛立ちのボルテージは益々跳ね上がる。
少し前まで己れの優位は揺るぎないものと確信していた。
筈なのに────
「どりゃああああアアアッッッ!!!」
「せやぁあああああアアアッッッ!!!」
「はぁああああああアアアッッッ!!!」
ジーク、キース、ニールの三兄弟三位一体の攻撃が大蛇の鎧を穿ち、
「ぇええええええいイイイッッッ!!!」
「とぉおおおおおおオオオッッッ!!!」
「そうらぁああああアアアッッッ!!!」
クレアのチャージスピア、ルルの薙刃、リカルドのヴァリアントサイズが貫き、
「ゼェええええええイイイッッッ!!!」
「ぬォオおおおおおオオオッッッ!!!」
ユウゴのロングブレードが、アインのバスターブレードが斬り、
ヤマタノオロチは堪らず、口を開き力を集約させ滅却の破光を放つ。
「ダメ。させない」
フィムが祈るように手を重ねる。
彼女を中心に眩ゆい光の淡いヴェールが立ち昇り、ヤマタノオロチの破壊光線を受け止め消し去ってしまう。
これには、さしものヤマタノオロチも戸惑った。
さっきからこれの繰り返しだった。己れのすべてを焼き尽くす破壊の力が悉く無力化されてしまうのだ。
さらに、
「たぁあああああああああああアアアッッッ!!!!」
長い白髪を結んだ人間の女。
ヤツが繰り出す三日月の大斧が鋼より硬い自分の身体を容易く、なます斬りにする。堪ったもんじゃない。
徐々に、徐々に身体に傷が増えていく。治す側から傷が倍以上に増していく。
暴れる頭がまたひとつ傷を受けて力をなくしていく。
こんな筈じゃない。
自分はすべてを破壊するために産まれた。
なのにこの有り様はなんだ? 不様にも程がある。
許すな。赦すな。すべてを破壊しろ。すべてを蹂躙しろ。すべてを…………
────喰らえ。
「!!?」
雄山の如き巨龍の気配がみるみる変わった、
ドス黒い渦巻く殺気を放ち、八つの頭の両眼が不気味な輝きを帯びる。
『─────────────────────────ッッッッッッ』
凄まじい
黒いおぞましい影を這わし何処までも何処までも伸び上がり、喰らい付こうと首が追いかける。
「くっ! はぁああああッッッ!!!」
クリサンセマムの鬼神がヘヴィムーンで渾身の力を振るい、迫る蛇龍の首を寸断する。
しかし、断たれた首の断面の肉が盛り上がり、瞬く間に頭が再生していく。
「なっ!?」
次から次へと追いかけてくる首を断ち切るも、次から次へと首から首が生え替わり執拗に襲い掛かる。
そしてついに、
「くッ!? このっ! うわァッッッ!!!」
「お母さんッッッ!!!」
フィムたちが駆け寄ろうするが、黒い影の多頭が立ち塞がり鋭い燐光の眼差しで行く手を塞ぐ。
「どけぇっ!! このっ! このっ!!」
「邪魔をっ! 邪魔をするなっ!!」
「あいつをっ! あいつを助けるんだッッッ!!!」
必死に道を開こうと立ち塞がる蛇龍を払う仲間たちだが、無限に再生していく身体に阻まれ辿り着けない。
黒き蛇龍が勝ち誇ったように勝鬨の雄叫びを谺させる。
メキメキメキと蛇腹を万力のように締め上げ、鬼神の身体を絞り巻きつく。
「ぅあああああああああああああああアアアアアアアアッッッッ!!!!!」
全身をバラバラに引き裂かん激痛に悲鳴を上げる鬼神。
「お母さあああああああああアアアンンンッッッッ!!!!!!」
涙を零す少女の悲痛な叫びをバックボーンに愉悦に口裂を歪める蛇龍は、そのまま捕らえた獲物を痛ぶりながら頭から丸ごと喰らいつかんと大口を開き────
動きがピタリと止まった。
誰もが希望の芽を摘まれたと、絶望に染められる瞬間を目の当たりにするしかないと、思わされたその時、
喰らい付こうと口を開けたヤマタノオロチの頭が真っ二つに割れ、そのまま首から縦に裂けていく。
眼を覆わんばかりの眩ゆい光の流線が、夜の闇より暗い黒龍の身体から溢れ、照らし出した。
それは夜空を流れる幾つもの星々、銀河の煌めき、天の河の大剣。
長大かつ、巨大な、猛々しく真っ直ぐ聳え立つ剣閃の光柱が、蛇龍の巨体を………………
───────両断した。
決着ッッッ!!!(終わったとは言っていない)