夢を見ていた。
随分昔の頃、子供のオレがクヌギ林で虫捕りしている。
クワガタだ。
母方の実家は田舎で山と畑と田んぼばかり。
もっぱら夏休みは山で遊ぶことに集中する。
オレはデッカいノコギリクワガタを捕まえて意気揚々と家に帰る。
虫籠の中のクワガタに餌をやり飽きることなく毎日観察する。
だけど、捕まえた最初はあれほど元気に威嚇して暴れたクワガタは今は小さく身動ぎするだけで迫力がなかった。
爺ちゃんは言う。自然の中じゃないと弱っちまう、と。
オレはクワガタを逃した。
あのクワガタは森で元気になったのか? それとも弱って力尽きたか。
夢の画面が変わった。
オレは中学生だ。
ベッドに寝っ転がり、携帯ゲームをしている。
無印のゴッドイーターだ。
ああ、懐かしいな。あれはなかなかに難易度が鬼畜だった。何度も匙を投げたが、またやり始める。
少しずつ少しずつ慣れてくる。
最初は行動すべてでスタミナ消費したからなあ。確か。NPCはオトリにも使えないような雑なAIだったな。それでも、自分で作ったキャラクターが自分で敵を倒して集めた素材で強い神機を作って、格上の敵を倒すのは最高に楽しい。
脳汁ドバッドバッ出まくった。
また画面が変わった。
高校生のオレだ。
また携帯ゲームやってる。ゴッドイーターバーストだ。コイツは最高にハイになるゲームだった。脳天直撃弾、内臓破壊弾、作ってバカスカ撃ちまくっていたなあ。あー、ボタン壊れたwこれで本機買い替えたんだよなwペイジ振ってシュババババ移動してりゃ壊れるよ、そりゃ。
この頃かなぁ、ゴッドイーターが大好きになったのは。次の新作続編出るのを楽しみに待ってたなぁ。
それからずっと一緒に成長していったGEシリーズ。GE2マルチで知り合った知らない人らと+99倒しまくってたりしてたなぁ。メテオなんていうインフレなバレットもあったなぁ。
レイジバースト、リザレクション。強敵を沈めたあの快感。神業プレイだぜっ! なんて自画自賛してw無茶な縛りでマゾいソロプレイしたりしたっけ。
スマホでオンライン出た時はギルド入って課金しまくった。レゾナントもやった。キャラクターフォトショの変なヤツも勢いで買ったのは黒歴史だw
サービス終了してもシリーズ停滞してもずっと側にいてくれたGE。
そしてGE3。わざわざ体験イベント行ったなw戸惑ったけど楽しかった。
そして買ったGE3。賛否両論いろいろあったが、全部のアプデを楽しめて良かった。
やっぱり自分で作ったキャラクターが戦っているのは楽しかった。
子供の頃、クワガタとかカブト虫とか虎とか狼とかライオンとかに憧れていたのと似てるかな。恐竜とか。
自分もあんなふうに角とか爪とか牙とかあったらかっけーって思ってたあの時代の自分と。
自分はヒーローよりカッコイイ怪人が好きだった。
スマートなヒーローもいいが、ゴテゴテした敵役は観てて胸が熱くなった。
いつしか社会人になり、たまに休みにゲームを少しやるだけの日々。
そんな日はある日を境に強制的に終了した。
新しい日常と入れ替え変わるように。
「…………オウガ……美味……メイデ……不味……ザイゴ…………微妙……」
「この子、夢を見てるみたいだよ? アラガミの見てる夢ってどんな風なんだろうな〜」
クレアがベッドで丸まる少女型の黒いアラガミを覗く。
「ふむ。アラガミの見る夢か。フィムも夢を見るようだが、人と同じような夢なのだろうか? 非常に興味深いな」
ルルが寝ているアラガミ少女の肩をツンツン突く。
「…………柔らかい。私たち人間と同じような質感だ。ならば、この二つの巨大な塊りは……? 脂肪か……? それともオラクル細胞か……?」
ハイライトが消えた眼差しで両手をワキワキさせている。
「う〜ん、彼女、『オロチノカラサビ』の体細胞を調べてみたけど、面白いことが分かったよ」
キースがモニターに映る様々な数値のグラフを見ながら告げる。
「何が分かったの?」
「彼女の肉体構造は、俺たちが使用する神機とほとんど同じ構成なんだ」
「神機と?」
クレアとルルが顔を見合わせて、ベッドでスヤスヤ寝息を立てるアラガミ少女を交互に見る。
「ただね〜、違うのは彼女は普通じゃない特別な神機という感じかなぁ。通常の神機よりオラクル放出率がズバ抜けて高いけど、偏食細胞倍率は一律安定していない。これは、神機がいつ暴発、暴走してもおかしくない数値を叩き出してるんだ。多分倒れたのはその辺が原因だと思うよ」
クルリと椅子を回して背凭れに寄り掛かるキース。
「でも不思議なんだよなー。そんなことになったらアラガミなら自分の細胞で共食い、捕食し合って自滅しちゃうのに、彼女には全然そんな様子はないよね? …………つまり、彼女は…………」
「な、なに……?」
「つ、つまり…………?」
ゴクリと唾を二人して飲み込むクレアとルル。
「────さっぱり分からないッッッ!!!」
キースが自信たっぷり胸を張って答える。
クレアとルルがその場で椅子から何処ぞの師匠も唸るぐらい見事なコケっぷりを披露した。
******
「未知のアラガミ、オロチノカラサビ………彼女はウチで保護した方が良さそうね。もっとも護衛自体は必要無さそうだけど…………」
イルダがアインとユウゴと三人で話をしている。
「ああ。そうしてくれると助かる。ここなら"奴ら"も迂闊には手を出せないだろう」
アインが腕を組み壁に寄りかかる。
「…………俺は心配だな。確かにアイツから邪気なんて微塵も感じないが、あの力を俺たちに向けられたらと思うとゾッとしない」
ユウゴは多少なり不安げな表情だ。
無理もない。山をも消し飛ばすほどの超超弩級アラガミを斬り裂いて、その身体の中から出て来たのだ。しかも元々は自らの身体の中から出現させたのだから。
「…………確かに。でも懸念はやっぱりあの謎の白い姉妹たちね。一体何者なのかしら…………それと、少し前に犬飼博士が拘束されたわ。半グレ集団の研究者の集まりと一緒にね。グレイプニル側からの報告によると、研究データを盗まれた、とか、ラケル・クラウディウスに騙された、とか支離滅裂な事を言っているそうよ?」
「ラケル? 聞かない名前だ。誰だ?」
イルダの話にユウゴが問う。
「ラケル・クラウディウス。研究者の端くれなら誰でも知っている有名人よ。神機兵の産みの親である故ジェフサ・クラウディウスは彼女たちの父親にあたり、姉のレア・クラウディウスと姉妹揃ってフェンリルでも名の知れた優秀な科学者だったの。それと孤児養護施設『マグノリア=コンパス』を経営していた人徳者ね。犬飼博士はその人を騙った誰かに騙されたみたい」
「…………」
「ん? だった?」
アインは黙って聞き、ユウゴが過去形に話したイルダに訝しむ。
「ラケル博士は神機兵起動中の事故で亡くなったわ。姉のレア博士は無事だったけど。グレイプニルの機動兵器オーディンはその神機兵を基に設計されてたのよ」
「そうだったのか……立派な人だったんだな、そのラケルっていう人は…………」
ユウゴが未来に託し志半ばに散ったかつての英雄たらん博士を称賛する。
歴史に埋もれた真実を知らぬ者たちが話す。
「…………違う」
「えっ?」
「? どうしたアイン。さっきから黙ったままだったが」
アインの片目が宙を睨むように開いた。
「…………いや、なんでもない。すまないが少し外に出てくる」
そう言ってアインはひとり船の外に出て行った。
甲板の上でアインは懐からデータベースパッドを取り出す。
それらをスライドしながら、羅列された情報を読む。
成長する神機。秘匿事項。NO.○○○
禁忌の実験。神機を成長させてしまったらいずれ神機使いがアラガミ化する可能性が高いため、実験凍結。
神機使いがアラガミ化するなら神機になれるはずだと実験したが適合せず失敗、神機使いはアラガミに変貌。
実験。依頼者。クレイドル。ホーオーカンパニー。
○月○日。実験開始。ゴッドイーターを神機に捕食させ神機化する。神機になろうとしたが、失敗。被験体アラガミと戦いつづけるうちに徐々にアラガミ化したため半人型神機になる。その神機を使うも適合せず、アラガミ化。事体収束のため実験施設を隔離、閉鎖、投機し封印。
フェンリルヒマラヤ支部重要機密案件によりデータ流出を防ぐため暗号化、若しくは廃棄…………
アインはデータベースパッドを閉じる。
「成長する神機、か…………」
アインは吹き荒ぶ強い風の中、遙かな地平線を見据え続けた。
土下座?知らないですねえ。犬飼博士ならそこで正座してますが?