GE3の世界設定は、前作レイジバーストから十数年ほど経過している。
西暦2080年代初頭に発生した厄災──「灰域」により、人類最後の砦と呼ばれたフェンリルによる支配体制は崩壊した。 三賢人に引き起こされた『大災害』により発生した未知の現象、食灰がユーラシア大陸を中心に、中国大陸、アフリカ大陸と広範囲に拡がり、侵蝕を今尚、世界規模で続けている。
電波などの通信手段は悉く阻まれて大陸外部との連絡は断絶、灰域により移動手段は困難を極め、未だ見ぬ驚異のアラガミが跳梁跋扈する。
残された人々は新たな居住区「ミナト」を作り上げると共に、灰域に適合した新たな神機使い「AGE」を生み出しアラガミとの戦いを続けていた。
ミナトの一つ「ペニーウォート」で過酷な日々を送っていた主人公やユウゴ達AGEは、あるミッションの際に灰嵐に遭遇してしまう。
偶然居合わせたキャラバン「クリサンセマム」に保護されたAGEは自分達を戦力として売り込み、成り上がるための新たな戦いに身を投じていく。
そんな暗闇に閉ざされた明日も見えない世界で生きる主人公と仲間たちとの揺るがない絆を描く物語。
────なのだが。
「ちょっ、カラシ入れ過ぎだッ! それッ俺のウィンナーだぞッ! キースッ! こらぁッ!!」
「だからって、こっちに嫌いな昆布巻きばっか入れるなよっ! ジーク兄ちゃんッ!」
ジークとキースが箸を互いに素早く交差しバトルする。
「フィムはハンペン? 餅巾着? どっちがいい?」
「どっちもッ!」
クレアに取り皿へと湯気立つ具材をよそってもらうニコニコ顔のフィム。
「いいねえ若い子たちは。オジさん最近腹周り目立つから炭水化物控えてるんだよね…………」
「だからさっきから大根とコンニャクと芋ばっかなのか…………」
リカルドが遠い目でしみじみと大根を突つく。
それを見ながらニールが熱々ガンモをハフハフ頬張る。
「たまにはこうして和気藹々騒ぎながら食事も悪くないわね」
「そうですねー。はい、オーナー」
イルダの皿に具材を盛り付けるエイミー。
アインは静かに黙々と食べる。
デッキ棚の上には寝子もいて、おでんを貰って食べている。
「みんな、おかわりならたっぷりとあるからな。じゃんじゃん食べてくれ。すべての具材をコンプリートしたパーフェクトおでんパーティーだ」
可愛い動物キャラ絵エプロンしたルルが張り切って土鍋おでんを猫のキャラクター鍋掴みで持ってくる。
「………………」
オレの目の前で開催されたおでんパーティー。
ラボから目覚めたオレは引っ張り出され、この場へと連れて来られた。
「どうした? オロチノカラサビ。……長いな、カラサビ、でいいか? おでんは初めてか? まあ、アラガミだからな。見るのも初めてじゃないか?」
ユウゴが隣りに座り、反対側に女主人公が座っている。
「凄く美味しい。カラサビ、食べてごらん?」
いや、いきなりおでんパーティーに強制参加させられて戸惑っているんだが。
ていうか距離近いな。二人とも。オレを挟んで真横にいる。あと名前、略称されてるし。フレンドリー過ぎない?
「…………オレはこれでもアラガミなんだが…………怖いとか恐ろしいとか感じないのか?」
オレは鋭い指の鉤爪を器用に使い箸を持つ。
おっ、この世界で初めて箸を握ったが、全く違和感なく使えるぞ。
「……正直、お前を疑っていた、最初はな。だけど、相棒がこうやって隣りで呑気にし飯食ってるんなら、大丈夫なんだなぁって思ったよ。それに似たようなヤツはもういるしな」
ユウゴが深く頷き、角がある少女を見る。巾着の餅を口いっぱい、にゅーんと伸ばして食べるフィムは可愛い過ぎる。
隣りの女主人公もお美味しそうに食べている。
周りのクリサンセマムのメンバーたちも、おでんを思い思いに頬張る。
なんだろうか、この和やかな気分。ずっと忘れていた懐かしさ、既視感。
みんなの笑顔。温かな雰囲気。心休まる安心感。
ああ、そうか。
家族、だ。
オレが人間だった頃に感じた、この気持ち。
こっちに来てからあんまり経ってないはずなのに、もう遠い昔のことのように思える。
…………唐突にこのゴッドイーターの世界で生きる事を余儀なくされたが、未練とか後悔は感じていない。元々人間関係は気薄な空虚な人生だったから。
オレがかつて人であった過去に想いを馳せていると、トコトコと小さな少女が歩み寄って来た。
「ん〜? おでん食べないの? 美味しくない?」
頭に天使の輪っかを添える褐色肌の幼い女の子、フィムが心配そうに見上げてくる。
どうやらオレの箸が止まっていたから、気になったのようだ。
「…………いや、美味しい、と思う。初めて食べたから」
アラガミになってからのまともな料理。久しぶりのおでんの味を彼方の記憶と摺り合わせる。この身体になって食べたのは初めてだ。ほとんどアラガミばっかり捕食していたので、朧げなながらも素朴なおでんの味を思い出す。オウガテイルよりは美味いのは確かだ。
「ん〜、ちょっと待っててっ!」
何か考えてる仕草のフィムが何処かに走っていった。
「極東に伝わる伝統的なソウルフードなのだが、口に合わなかっただろうか? やはり、アックスレイダーのスキヤキ、グボログボロのサシミが良かっただろうか……?」
思慮深げに顎に手を当てるルル。
「…………いや、問題なく美味しく食べられる。というかアラガミを料理しようとする発想が独特だな…………ああ、独特といえば、おでんパンがあったな、そういえば…………」
あったなぁ、あれは独特な料理? だったからな。
「お、おでんパンッ!? な、なんだそれはっ!? その暴力的かつ繊細なワードの料理名は…………ッッッ」
ルルが何やら衝撃を受けている。
アインさんがピクリと少し反応したが、寡黙に食事を続ける。一瞬だけだが、何処か懐かしげな眼をしたのをオレは見逃さなかった。
「………う〜ん、パンにおでんを挟んだシンプルな料理、だったはずだな」
「パンに……挟んだっ!? おでんを? パンに? そ、想像を掻き立てられる独創的な料理だな…………パン…………おでん…………なるほど…………そうか………そういうのもありか………」
ブツブツと何か思案顔のルル。
すると、フィムがトレーにお皿を載せて戻ってきた。
「これっ! フィムの自信作っ! 食べてッ!」
ずいっと出された平皿にスプーン。皿の上には盛られた湯気立つ炊き立てだろうか、ライス。焼き目が付いた白い目玉焼き。その上に緑色の半透明なドロッとしたレーションのような液体。皿の端には何故か苺がふたつ添えられて。
「…………コレは…………」
緑色のどろどろした半固形物体から甘ったらしいツンとした薬品の匂いが漂う。
「アンプルかけごはんッッッ!!!」
自信満々のドヤァとした可愛くはにかむ満点笑顔の天使少女。
「フィ、フィムっ! お前、それ、禁断かつ伝説の『
ジークが驚愕する。
「真っ白なライスと目玉焼きの黄色い黄身に緑のアンプルがこれでもかと、ぶっかけられた色鮮やかな至極の逸品ッ! さらに赤い苺のコントラストが彩りを添えて……っ! 流石だ、フィム……ッ! 俺が教えることはもうないっ…………立派になりやがって…………」
…………コントかな? えっ? まさか、これを食せよと申すか? オレに?
しかし、ニコニコして皿を差し出すフィム。その期待に満ちたキラキラした純心な瞳にオレが抗えるわけがない。
オレは意を決して皿を受け取り、スプーンを持ち、恐る恐る彩り鮮やかなソレを掬い、口へと運ぶ。
固唾を飲んで見守る一同。
………………………………
「────
「「「えーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ?!!!!」」」
大絶叫のハモリが木霊した。
やったぁ! と喜ぶフィムと、寡黙に食事する僅かに笑みを浮かべるアインを除いて。
ひとときの穏やかな時間が流れる。
それは暖かく、ゆっくりとココロを満たしていく心地よいものであった。