オレ氏、デウスエクスマキナ的なアラガミになる   作:真鳥

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26 灰底の都

 

 

 

 

 絶望の世界。

 

 

 渦巻く闇。 

 

 

 運命は、螺旋を描き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なんだッ! なんだッ、あのアラガミどもはッッッ』

 

『逃げろっ! 逃げなければっ! 逃げないとッ!』

 

『ゴッドイーターはっ!? AGEはどうした!? 防衛班は何をしているッ』

 

 乱れた画像。地平線上から噴煙が上がる。

 

『すべてのゴッドイーターは出撃済みだっ! 対処に追われているっ!!』

 

『貴様もゴッドイーターだろうっ!? 旧型だろうが戦えっ!!』

 

『ふざけるなぁッ! オレはとっくの昔に引退したんだぞっ! 今さら戦えるかッッッ』

 

『…………お終いだ…………お終いだ…………この世の終わりだ…………』

 

 混乱を極める観測所。誰も彼もが怒鳴り散らし、罵り、嘆き、苛む。

 

『フェンリル本部へ緊急通達っ! アラガミがっ! アラガミの大群がっ!! フェンリル本部ッ! 至急対策を──────』

 

 映像は途切れた。

 

「…………この映像は四時間前に南東地区灰域観測所から送られてきたものだ。この映像を最後に彼らからの連絡は断絶したままであり、こちらから連絡は一切取ることは出来ていない」

 

 スクリーンの荒い画像には、おびただしい数のアラガミらしき影が地表を埋め尽くす光景が映し出されている。

 

 エイブラハム・ガドリン元グレイプニル最高責任者、現評議員会長は重々しく会議室議事堂に集う重鎮たちに述べる。

 

「…………にわかには信じられん情報ですな。灰嵐なら日常茶飯事でしょう。それを今さら…………」

 

「その通り。仮にアラガミどもが束になろうと我々がいる。そのためのゴッドイーターではないかな? ガドリン評議員会長」

 

 貴族、ミナト経営者、政治家、軍関係者、研究者、様々な権力者トップの評議員たちが一同に会す議堂。

 

「…………」

 

 クリサンセマムの経営者、イルダ・エンリケスもミナトを代表する評議員として参加している。

 

「しかし、あれほどの数のアラガミでは、いくら神機使いといえども対策は出来るのかね?」

 

「すでに調査隊は派遣されている。確認は時間がかかるだろう」

 

「…………アラガミのスタンピード。由々しき事態ですが、何故にこのような事態に陥ったのか甚だ疑問ですね」

 

「それも含めての調査である。看過できない事態と認識している」

 

 騒つく議堂。評議員たちに淡々と説明するガドリン。

 

「オーディンは? オーディンはどうしたのだ? あれほど莫大な研究資金を提供して完成させた兵器は?」

 

「そうだ。オーディンを使えばいい。アラガミどもなど根刮ぎ駆逐してしまえばいいではないか」

 

 誰ともなくオーディンについて発言する。

 

「…………オーディンは使用しない。あれは搭乗者たるAGEの生命を糧に起動される諸刃の剣だ」

 

「馬鹿なっ! 正気か、ガドリン評議員会長っ! あれほど時間と投資を浪費したオーディンを使用しないだとっ!?」

 

「AGEなど代価品に過ぎんっ! 何を遠慮することがあるっ! 貴公とて以前にも─────」

 

 バアアアアアアアアアアアンンンッッッ

 

 議机が盛大に打ち鳴らされた。

 

 皆、ギョッとし音の原因である人物に目を向ける。

 

「…………ここは討論する場所でも、糾弾する場所でも有りません。来るかもしれない災厄に如何にして手を打つべきか、話し合いをするために我々は集まったのではないのですか?」

 

 イルダ・エンリケスがメガネの奥に怒りを募らせ立ち上がり発言した。

 

「それに先の大灰嵐終止符には私のミナトに所属するAGEたちが尽力したのです。命懸けで。お忘れなきよう」

 

 静かに座るイルダ。

 

「…………な、ならば、どうするというのかね? あの数のアラガミを…………まさか、ゴッドイーターたちを投入するのか? 総力戦? それこそ正気の沙汰ではないと思うが…………」

 

「そうだ! 神機使いたちを総動員すれば…………」

 

「そんなことをすればミナトの防衛はどうなるっ!? 手薄になったらアラガミに襲撃されるのが目に見えているっ!!」

 

「だったらどうすればいいのだっ!」

 

 ザワザワと喧騒に包まれる議堂。誰もが自分に非がないよう利益と打算を皮算用する腹黒い狸たち。

 

 イルダは内心で舌打ちをした。何も分かっていない。自分たちがどれ程の危き状況に置かれているのかまったく理解していない。

 

 いや、理解しようとしない。

 

「御集まりの方々、御静かに。今回の件について専門の科学者の方をお呼びしている────アイン博士」

 

 ガドリンが壇上から名を呼ぶ。

 

 壇上の袖から片目に傷のある白髪褐色の青年が現れた。

 

「アイン? 聞かない名前だ」

 

「一体何者だ?」

 

 壇上の卓に佇む青年。

 

「…………紹介に預かったアインだ。無駄話をしに来たわけじゃない。簡潔に説明する。今現在起きている現象について─────」

 

 評議員の一人が訝しげにする。

 

「…………何処かで見たことが…………」

 

 ハッと何かに気付く。

 

「…………まさか、いや、間違いない…………シックザール」

 

「シックザール? あの、厄災の三賢者、ソーマ・シックザールか?」

 

「そういえば古い資料に同じような人物が…………」

 

 目敏い何人かの評議員が口々に名を口にする。

 

「ソーマ・シックザールっ! そいつは大災害を引き起こした張本人のひとり、大罪人の三賢者だッッッ!!!」

 

「三賢者…………ッ! 伝送工学の権威、イェスタ・ヘイデンスタム。分子機械の権威、ジョサイア・クオン。そして、レトロオラクル細胞の権威であり始まりのゴッドイーターでもある……」

 

 評議員全員の視線が壇上のアインへと注がれる。

 

「ソーマ・シックザールッッッ」

 

「………………」

 

「よもや、生きて姿を晒すとは…………灰嵐を生み出した悪しき科学者っ!」

 

「知っているぞ。貴様の父、ヨハネス・フォン・シックザールの所業を。エイジス計画。悍ましい企みと末路を…………ッ!」

 

「その弟、ガーランド・シックザールも大層な悪人だったではないか? 人を人と思わぬ人体実験の数々…………我々が知らぬとでも思うたか…………ッ!」

 

 口々にこれでもかと名指し悪態を吐く。父であるヨハネス、叔父であるガーランドにも言及する始末。

 

「コイツら…………ッ、好き放題に…………ッッッ」

 

 これにはイルダも我慢の限界に来た。何のために彼が(おおやけ)の場に姿を現したか。自らの立場をも顧みずに。この害悪どもを、一人残らず首根っこ掴んで張り倒してやろうかと思った。

 

「親兄弟揃いも揃って科学者の面汚し。風上にも置けん。おっと母親もそうだったか。アラガミ細胞研究の失敗で無駄死────」

 

 ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンッッッ!!!!!! 

 

 議堂内に轟く大破砕音。

 

 壇上の片隅、ガドリンが拳で備え付けの卓上を真っ二つに叩き割っていた。

 

 ビシッ、ビシビシビシィィィッッッ

 

「ひいいいいいッッッ!?」

 

 壇上の一部に亀裂が走り、近場で便乗し騒いでいた評議員の卓が余波で破壊される。

 

「…………静粛に。博士の話が終わっていない」

 

 隻眼の眼光を、冷たく底冷えするほどの眼差しで睨み据えるガドリン。

 

 戦場から離れて退役した軍人として、現役を退いて老いて尚、ゴッドイーターとしての姿を見て、評議員の誰もが、ゴクリと渇いた喉に唾を飲み込む。

 

「…………そうだ。オレの名はソーマ・シックザール。かつて三賢者と謳われ、そして厄災の引き金を引いた大罪人だ。甘んじて誹りは受けよう。灰嵐を、未曾有の大災害を引き起こし、止めることが出来なかった罪を認めよう。だが、今は、オレの話を聞いて欲しい。今、この瞬間にも新たなる厄災の波が差し迫ろうとしていることを─────」

 

 

 

 

 青年は語る。

 

 己れに課せられた罪を。

 

 青年は語る。

 

 

 これより訪れる人類に待つ未来を────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィムはいつの間にか微睡んでいた。

 

 ポカポカと暖かな日差しの中で。

 

 大好きな、お姉ちゃんであるオロチノカラサビから貰ったアバドンを胸に抱きしめて。お日様の温もりに包まれながら。

 

「お姉ちゃん…………もうどこにも行っちゃやだ…………」

 

「フィム、寝ちゃったね…………」

 

「昨日は学校のみんなと遊んでいたからな。最近任務続きで流石に疲れたのだろう」

 

「少し休んでいこう」

 

 クレア、ルル、女リーダーが眠りこける天使な少女に柔らかな微笑みを浮かべる。

 

 

 

 …………………………

 

 ……………………

 

 ………………

 

 …………

 

 

 

 夢を見ていた。

 

 真っ白な、何もない何処までも白い世界。

 

「ん〜? あれ? ここはどこだろう?」

 

 見渡す限りの白墨の虚無が拡がる。

 

「アバドン? いない…………?」

 

 いつも一緒にいるアバドンの姿がない。

 

 キョロキョロと辺りを見廻す。

 

 迷子になったのかもしれない。探さないと。

 

 ふとそこ、前方に見知らぬ、いや見覚えのある少女が立っていた。

 

「こんにちは、フィム。ボクはネロ。キミに逢いに来たよ」

 

 白い獅子髪の少女が嗤った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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