オレ氏、デウスエクスマキナ的なアラガミになる   作:真鳥

27 / 31




前話に加筆した続きからです。


27 迫る悪夢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 飢えた獣が目前に投じられた食事に喰らい付くことは、一体誰の責任であろうか。

 

 貪る獣は何を思うか。

 

 感謝か、あるいは新たな獲物の到来を待ち望むのか─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白い獅子の鬣を持つ、ネロと名乗る少女。

 

 自分と同い年くらいだろう、綺麗な真っ白な少女は薄ら笑いを浮かべて対峙する。

 

 その寒気を憶える笑みに警戒心を高めるフィム。知っている。この少女はオロチノカラサビと敵対する者だと。それにこの少女からは、とても嫌な臭いがする。

 

「アバドンはどこ?」

 

「ああ、アレね。邪魔だから別の場所に閉じ込めたよ。そんなことよりボクと話をしよう、フィム」

 

 そう嘯き、ネロはフィムに一歩踏み出す。

 

「…………ッ! アバドン、返して」

 

 一歩下がるフィム。

 

「そんなに警戒しなくてもいいよ、戦いに来たわけじゃないからね」

 

 また一歩近づくネロ。

 

 また一歩後ろに下がるフィム。

 

「…………やれやれ。これじゃまともに会話も出来やしない。何がそんなに気に入らないんだい?」

 

 ネロはふぅっ、と軽く溜め息を吐き、問う。

 

「…………臭い」

 

 フィムはしかめ面して呟く。

 

「…………え? 臭い? ボクが? おかしいなぁ。ちゃんと体細胞の代謝機能は機能しているし、無臭のはずなんだけど…………」

 

 フィムの臭い発言に疑問顔のネロが着ているワンピースっぽい衣装や身体をスンスン嗅いで確認している。

 

「…………違う。血の臭いが、する。たくさんの、人の」

 

 フィムはキッとネロを睨み付ける。先程からずっと感じていた匂いの正体。

 

 それは人間の血肉の汚臭。

 

 睨み付けられ、指摘されたネロがキョトンと首を傾げて、ややあ、と納得したように大仰に頷いた。

 

「あぁ、なるほど。そういうことか。ふふ、おかしなこと言うから、ちょっと分からなかったよ、あははっ」

 

 さも面白そうに笑うネロにフィムが逆に疑問顔になる。

 

「人間食べるのダメッ! 良くないっ!」

 

「ふぅっ、キミはアラガミなのに変わってるね。偏食嗜好の隔たりかな。中途半端に『創られ』たからだと思うけど」

 

 ネロは哀れむような視線でフィムを見る。

 

「…………創られた? フィムが…………?」

 

「そうだよ。ボクたち、アラガミはすべて創られたんだよ。この母なる星によって、ね」

 

 ネロはその場で両手を広げて戯け、クルクル廻る。

 

「その中でも特別なのがボクたち『人型アラガミ』だ。キミもそのひとり。もちろん知ってるよね、自分のことなんだから」

 

 フィムは目を見開き驚愕する。

 

 もしかしたらと思っていたが、この少女も自分と同じ、人の姿形、知性を持つアラガミだった。

 

 アラガミとは地球意志により、誕生したと仮説されている。その中でも特異な人の似姿のものが『人型アラガミ』と呼称される。

 

「ボクたちは人間じゃない。それなのに人間に混じって暮らしているキミの方がよっぽど変なんだよ。アラガミのクセに。おっかしーのっ! ぷークスクス」

 

 ネロは嘲笑う。

 

「お、おかしくないッ! 変じゃないッ! フィムは、フィムは…………ッ」

 

 戸惑うフィム。自分が人間でなく、アラガミであることは理解している。だけども、みんなは普通に接してくれる。人間と同じに。人間のように。

 

「ふふ〜ん、キミは人を食べないからね。だから、人間たちはキミと仲良くしている『ふり』をしているんだよ。もしキミが人間を傷付け、食べちゃったら…………どうなるのかなぁ?」

 

 ネロは紅い瞳を爛々と燈らせ一歩ずつフィムにゆっくりと近づいていく。

 

「…………フィムはアラガミだけどッ、人を、襲わないッ…………人間を、食べたりなんてしないッ…………だってフィムは…………みんなのことが大好きだからッ…………」

 

 頭を抱えて蹲りイヤイヤと首を振るフィム。

 

「でもキミはアラガミなんだよ。人間とは違う。そればかりは、どうしようもないよね。みんな心の中では思ってる。アラガミだから。アラガミなんだから。所詮はアラガミ。結局はアラガミ、ああ、バケモノだって。やっぱり怪物だって」

 

「…………フィムはバケモノ? フィムは怪物…………?」

 

「誰もがそう思ってる。キミの仲間たちも本当はキミを怖がっているから優しくしているんだ。キミのお母さんも、キミのお姉ちゃん、オロチノカラサビも…………」

 

「みんな…………お母さん…………お姉ちゃんも…………」

 

 フィムの瞳が澱み、虚ろう。

 

「そうだよ。キミのお姉ちゃんもアラガミだよ。だったらボクたちと同じだ。一緒においでよ。お姉ちゃんもきっと一緒にいてくれるよ」

 

 ネロは凶々しくニチャアッと口角を吊り上げる。

 

「…………一緒に…………カラサビ…………お姉ちゃんも…………」

 

「さあ、ボクと行こう、フィム。人間なんかよりもアラガミはアラガミと共に在るべきなんだよ」

 

 ネロが小さな手を差し出す。

 

 フィムは心ここに在らず、虚ろな眼差しで、その手を掴もうと─────

 

 

 ドッゴォオオオオオオオオッッッ

 

 

 突然に鳴る大響音が白い空間を揺るがす。

 

「!? な、なにっ!?」

 

 ネロは慌てて見回す。再び白い空間が揺らぐ。立っているのもやっとの振動が襲う。

 

 すると、何もないはずの白い空間に亀裂が走った。

 

「なっ…………!?」

 

 その亀裂は瞬く間に大きく拡がり、ガラスが割れるように砕け散った。

 

『ピギイイイイイイイイイッッッッッッ!!!』

 

 割れた亀裂から小さな黒く丸い塊りの奇妙な生物が飛び出して来た。

 

「アバドンッッッ!!!!」

 

 その甲高い鳴き声に虚ろな表情だったフィムが正気を取り戻す。

 

「こ、こいつッ! ボクの虚数空間の檻を破ったッ!? い、いやまさか捕食したのかっ!?」

 

 驚くネロ。

 

「アバドンッ! 助けに来てくれたッ!!」

 

『ピギィッ! ピギィッ! ピギィッ!』

 

 アバドンはフィムを庇うように、ネロの眼前に立ちはだかりフンス、フンスと息を荒げる。

 

「えっと、オレを出し抜いたと思ったら大間違いだぜっ! ウチのフィムにちょっかいかけやがってっ! このガキンチョ泥棒猫がっ!! って言ってる」

 

 フィムがアバドンの鳴き声を翻訳する。

 

「こ、こんな雑魚アラガミなんかに…………ッ! ふ、ふんっ! だからどうしたってのさっ! そんなちみっこいアラガミが助けに来たところで、たかが知れてるっ!」

 

 ネロは困惑しながらも両手を変形させ巨大な鉤爪を形造る。

 

「あ〜あっ! お姉ちゃんには手足は無くてもいいって言われてるから、もういいやっ。やっぱり最初からこうしてれば良かったんだ。大丈夫、ちょっとだけ痛いだけだよ、多分ね」

 

 ジャキンッ! ジャキンッ! と鉤爪を鳴らしてニヤリと凶悪に笑う。

 

「アバドンどうしようッ! 神機持ってないよッ!」

 

 相手がいきなり臨戦態勢になるも、武器を持ってないことに戸惑うフィム。

 

『ピギィッ! ピギィッ! ピッギィイイッッッ!!!』

 

 アバドンが口を開く、なんとフィムの神機のヘヴィムーンが出てきたではないか。

 

「わぁあっ!! フィムの神機だっ! アバドン凄〜〜いッッッ!!!」

 

 口から何倍もある巨大な神機を取り出したアバドンを見て目を丸くするネロ。

 

「な、なんだコイツっ! 神機の持ち込みは出来ないようにしたのにっ! ここはボクが支配する領域だぞっ! こんなのインチキだっ!! ズルだっ! ズルするやつはバラバラにしてやるっ!!」

 

 顔を真っ赤にし怒り、両腕の爪を振り上げ突っ込んでくる。

 

 ガキィイイイイイッッッ!!! 

 

 半月斧が鋭利な爪を受け止める。

 

「むうううッ! フィムも怒ったッ! 酷いこと、悪いことするの許さないっ!!」

 

 さっきまでの弱々しかった態度は微塵も無く、威風堂々と啖呵を切るフィム。

 

『ピギィッ! ピギィッ!』

 

 アバドンも飛び跳ね、意気込む。

 

「ふんっ! ゴッドイーターの真似事したって無駄だねっ! キミよりボクの方が何倍も、強いんだカラララララァアアアアッッッ!!!」

 

 ネロが凶悪に表情を猛獣の如き歪め、両爪を超速で斬り込む。

 

「!!?」

 

「ガアアアアアアアァァァッッッ!!!」

 

 白の空間の地面ごと抉り削る、華奢な体躯から想像出来ない剛腕から鉤爪を繰り出し振るう。

 

 だが、フィムとて負けてはいない。

 

「たあァッ!」

 

 ヘヴィムーンを薙ぎ払い、

 

「てヤァっ!」

 

 切り上げ、

 

「えいィッ!」

 

 叩き付け、

 

「とオォッ!」

 

 強靭な鉤爪の連撃を防いでいる。

 

 しかしながら防戦一方。攻撃に転じる暇も与えない獅子少女の猛攻。

 

「くっウウウウッッッ!」

 

 フィムの身体に徐々に斬り傷が増えていく。

 

「ははははっ! このままゆっくり刻んであげようか? それともバッサリいっちゃおうか? 手がいい? 足がいい? 両方いっぺんでもいいよっ!!」

 

 ネロは抗うフィムを斬り付けながら嘲笑う。

 

『ピッギィイイイイイイイイイッッッ!!!』

 

「!?」

 

 そこにアバドンが乱入。口からスタングレネードを吐き出す。

 

 目も眩む閃光が包み込む。ネロは咄嗟に顔を覆った。

 

「てやぁああああっッッッ」

 

 一瞬の隙を突いてフィムがヘヴィムーンを斬り上げ、ネロを弾き飛ばした。

 

「チィっ! コイツっ! 余計な真似をっ!」

 

「ピッギィイイッッッ!!!」

 

 アバドンが再び口を開き、スタングレネードを連続で吐き出す。

 

 弾ける閃光の弾幕がネロを包む。

 

「ああああああああああッッッ!!!?」

 

 度重なる閃光弾の応酬で視神経、聴覚、バランス感覚が滅茶苦茶に翻弄され耐え難い不快感に見舞われる。

 

 さらにそこへ、ヘヴィムーンを構えた天使な少女が勢いよく来襲し、切り掛かってくる。

 

 半月斧の刃を受け止め、回避し防御に徹するネロ。さっきまでとは逆に自分が防戦一方に追い込まれる。

 

 なんとか反撃しようとするが、その度にアバドンが口から様々な何かを吐き出して妨害する。ヴェノムトラップ、ホールドトラップ、封神トラップ、神機専用のバレット、よく分からないアンプル臭い残飯まで。

 

 何で。何で? 何で! 何で自分がここまでやられているっ!? 簡単な仕事の筈だった。アイツが、忌々しいあの黒い生意気なアラガミモドキがいない間に、ゴミクズに等しい人間どもを内側からズタボロにする。手始めに半端な人型アラガミのガキンチョを洗脳して徹底的に嬲って虐めてやろうと。

 

 なのに。

 

 この有り様は。

 

 失敗したら、またネルウァお姉ちゃんに怒られるじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 防戦一方、逆転していた状況、白い獅子髪少女の気配が膨れ上がる。

 

 爆発する殺気、暴流する偏食場パルス。

 

 白の少女の身体が大きく膨れ上がり変貌する。

 

 その姿が巨大な荒ぶる白獅子の異形に形作られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。