オレ氏、デウスエクスマキナ的なアラガミになる   作:真鳥

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6 刺さる悪意

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大気を揺るがす強烈な振動が怒涛のごとく押し寄せる。

 

「くっ…………!」

 

 アインたちクリサンセマムのメンバーはシールドを展開して衝撃の余波に耐える。

 

 白塵が舞い上がる。凪いだ静寂とキンと痛む鼓膜は、轟音によるものだろう。

 

 荒粒の砂煙(さえん)散り撒く視界と、唸り耳鳴る惑音が止み、徐々に正常さが取り戻される。

 

 そして、垣間見た光景は、筆舌に尽くし難いものであった。

 

 

『はははははははっ。見たまえ、ラピュタの雷だ。旧約聖書にあるソドムとゴモラを滅ぼした神の火だ。ラーナマーヤではインドラの矢とも記されているがね』

 

 

 ノイズ交じりの甲高いアラガミの機械的な声が鳴り響く。

 

 中央に憮然と佇むアメノハバキリ変異種。その周囲にグレイプニルのゴッドイーターたちが軒並みボロボロになって倒れ、地に伏していた。

 

 死屍累々。

 

 そう形容するのが相応しい惨状。

 

「マジか…………あれだけの神機使い、ほとんど一体で倒しちまったのかよ…………っ!?」

 

「…………ヤバイやつだと思ってたが、コイツは想像以上にとんでもないバケモノらしいな」

 

「まだみんな息はあるようだが…………まさか、あのアメノハバキリ変異種は、神機使いたちを殺さないようにわざわざ手加減していた? というのか…………っ」

 

 ジーク、ユウゴ、ルルが肝を冷やす。戦っていたら自分たちがこうなっていただろうことは明白だ。

 

 それに死者を出すことなく、結果はご覧の甚大な有り様だが、戦闘不能状態に陥れるパワー、テクニック、ポテンシャル、どれをとっても普通のアラガミには出来ない所業だ。

 

「…………理不尽を体現したようなヤツだ。コイツの存在を知ったら、サカキのおっさんが泣いて喜ぶな」

 

 アインは苦笑いする。理不尽なシチュエーションなど過去にいくらでも体験済みだ。これぐらいなんてことはない。

 

『はっはっはっ。どこに行こうというのかね? まるで人がゴミのようだっ』

 

 アメノハバキリ変異種が、まだ何とか立っている瀕死に等しい神機使いたちをゴミを掃くように軽く蹴散らす。

 

 流石にここまで戦力差を見せつけられコテンパンにやられたグレイプニルのゴッドイーターたちが可哀そうになってくる。

 

 戦闘を止めようかとアインたちが思ったとき、アメノハバキリ変異種の背後の砂塵の中から神機使いが現れた。恐らくドリルで抉った土砂に紛れ隠れていたのだろう。

 

『あ?』

 

 鋭利なロングブレードの刃がアメノハバキリの背中を貫き、腹部から突出した。

 

「馬鹿めっ! アラガミのくせに人間のように油断したなっ!! 喰らえ、化け物がぁッッッ!!!」

 

 グレイプニルの軍人神機使いの隊長の男が吠える。刀身を捻り入れ、深々と突き刺した。

 

 だが、

 

 アメノハバキリ変異種の身体から、おどろおどろしい触手の群れが一気に伸び上がり、グレイプニル隊長に身体に巻き付き中空に絡めとる。

 

「う、うわああああああっ!? は、離せっ! 化け物っ!!」

 

『やれやれ…………まあ、不意打ちも立派な戦術だ。命を遣り取る戦いに卑怯もクソもないからな』

 

 触手を巻き付かせたグレイプニル隊長を少し強めに締めながら、オレは腹から貫通したロングブレードを見る。

 

『あーあ、乙女? の柔い肌を傷モノにしやがって…………お前ら人間には、オレの声は聴こえないと思うけど、これぐらい致命傷でも何でもないからな?』

 

 腹を通過したロングブレードの神機がメキメキと音を立てて歪み、ひしゃげ始める。

 

「なっ!?」

 

 驚愕する一同。

 

 まるで咀嚼するように腹部に刺さった神機はたちまち砕かれ吸収されていく。

 

『オレは遺された神機も喰ってるからな。探せば割りと落ちてるんだよ、のこじん。要するにオレ自身が『神機+』みたいなもんだ。それと、落ちてる神機なら誰のものでないだろ? 遠慮なく頂くわ』

 

 刺さった神機も落ちてると同じだ(暴論)。神機を失った神機使いの末路? んなこと知らん。

 

 自分の神機を喰われたグレイプニル隊長が茫然自失となっていたが、突然に大声で笑い出した。

 

 んん? ショックで頭がおかしくなったか? 

 

「くっくっく…………お前が廃棄された神機を捕食しているのは調査済みだ。お前が今しがた喰らった神機は本来の私の神機ではない…………それは、お前専用に調整された特別な神機だ…………」

 

 なに? オレ専用? 

 

 グレイプニル隊長はしたり顔で笑いながらガックリと項垂れた。失神したようだ。

 

『なんだ…………? この食った、取り込んだ神機が……なんだって────』

 

 ドックゥゥウンッッッ

 

『ぐギぃっ!?』

 

 ドッグゥゥッ! ドッグゥゥンンッ!! ドッグウウウンンンッッッ!!! 

 

『ッッッ!!!?』

 

 身体の真ん中から喩えがたい悍ましい感覚が襲う。

 

 歯を食いしばり、無いはずの心臓を掻き毟る。

 

 そこには『コア』がある。

 

 胸元のさらに奥にある厳重に格納されたブラックボックス。

 

 オレのオレたるアラガミとしての本体の部分。

 

 そこに何か得体の知れない異物が侵入してくる。

 

『ガァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ******

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 隠れるようにカモフラージュされたトレーラー。

 

 様々な複雑な機材が並ぶ車内。

 

「ターゲット侵食成功。偏食領域拡大。尚も侵攻中」

 

「パターンレッド。抗体細胞因子中和。オールクリア」

 

「…………素晴らしい。やはり私は天才だ。散々手を焼かせてくれたな、アラガミめ」

 

 犬飼はモニター画面に映るアメノハバキリ変異種を忌々しそうに見る。

 

「…………天才たる私を更迭し、あまつさえ研究資金を打ち切り、研究施設すら放棄させられるなどあり得んっ! なんたる愚の骨頂っ! 人類の宝であるこの頭脳の価値と偉大さを理解出来ないグレイプニル総統など私の方から見限る下賤な輩だっ!」

 

 狂気。憤怒。自意識過剰。凡ゆる負の側面に呑まれ、それでいて自身すら見失った天才科学者の成れの果て。

 

「…………はぁ、はあ、は、はははは…………だが、私は返り咲く。すべての愚かにも私を見下した低脳どもに知らしめてやるのだっ! この天才科学者、犬飼の名をッッッ」

 

「犬飼博士。まだ対象にさしたる変化は表れてはいません。観察経過を続けましょう」

 

 犬飼の背後から場にそぐわない可憐な女性の声が聞こえた。

 

「お、おっと、失礼。これもすべて貴女のご助力のおかげですよ。ミス・ラケル博士」

 

 犬飼が恭しく礼をする。

 

 喪服の黒いサバランのドレス、薔薇のコサージュが添えられた鍔長のベルベットの帽子を被る車椅子の女に向かって。

 

「では、犬飼博士。私と一緒に見届けましょう。新たなる歴史の1ページが刻まれる瞬間を」

 

 編み垂れから血のように濡れ光る真紅の瞳を覗かせて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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