俺が例によって湯川の研究室を訪れたとき、中には珍しく先客がいた。いつも研究室にいる面子ではないが、こちらを振り返った少年の顔だちからしてどうやら学生らしい。湯川が俺の持ち込む事件の捜査に協力してくれているのはあくまで俺の個人的な頼みからだ。警察としての正式な依頼ではない。ならば湯川の本分の学生への指導を邪魔するわけにはいかないだろう。
「悪い、仕事中だったようだな。出直してくるよ」
そういってノブから手をはなさずそのまま閉めようとしたのだが―
「いや、かまわないよ。今ちょうど君の話をしていたところだ。燈馬君、かまわないだろう?」
「ということは、この人が草薙さんですか?僕は勿論かまいませんよ」
「だ、そうだ。こっちにこいよ。ちょうどコーヒーがもう一杯ほしかったところだ。君の分もいれてやろう。燈馬君もいるかい?」
ありがとうございます、と少年―湯川によると燈馬というらしい―が頭をさげた。礼儀正しい、なんというか育ちのよさがにじみ出ているような少年だった。手近な椅子を引いて座る。湯川がコーヒーをいれて戻ってくるのを待ってから口を開いた。
「それで、一体俺についてどんな話を?事件の詳しい内容とかについては、あまり他には話してほしくないんだがな。まあ、お前のところの学生なら口はかたいんだろうが・・・」
湯川は事件捜査に科学的意見を求める、ということで問題はないが、民間人に捜査情報を漏らす、なんてことは絶対にあってはならないことだ。つい最近も同じ一課の伊丹がその件で監察官に呼び出されたらしい。
「そのあたりはわかっているさ。それと、彼はうちの学生じゃない。今は高校生をやっている。燈馬君、先ほど話していた同級生で刑事をやっている草薙だ。学部は違ったが同じバドミントン部でね。その縁で、少し前から相談事をもってくるようになった」
「はじめまして、草薙さん。燈馬想といいます」
そういって手を差し出してくる。ちょっと戸惑いながらもなんとか手を握り返して草薙です、とだけ返した。
「少し若いなとは思ったが、高校生だったのか。将来ここに進学予定なのかい?」
「いえ、そういうわけではないんですが・・・」
少し困ったように苦笑いしている。すると、湯川が面白そうな顔をして口をはさんできた。
「彼はとっくに大学を卒業しているよ、草薙。それも首席でね。マサチューセッツ工科大学、MITとも呼ばれるが―ノーベル賞受賞者を何人もだしているアメリカのトップレベルの大学だ」
驚きでしばらく呆けてしまった。MITといえば、ずっと文系だった俺でも名前を聞いたことがあるくらい有名な大学だ。そこを、この子が?いや、しかし―
「さっきは高校生だっていってなかったか?どういうことなんだ?」
燈馬少年は指で頬を掻きながら照れくさそうに笑った。
「飛び級で卒業したものですから。普通の学生生活っていうのを体験してみたくって。日本の高校に入りなおしたんです」
どうやら目の前にいる少年はある意味湯川以上の天才らしい。どことなく感じる浮世離れしたような雰囲気は、確かに湯川に通じるものがあった。
「それで?今日は一体どんな話なんだ?できれば科学者として興味を惹かれるものであってほしいものだが」
「それは・・・」
そこまでいって燈馬君の方をちらとみる。さすがにこのまま話すわけにはいかない。
「燈馬君なら問題ない。彼は今まで僕以上に警察に事件捜査で貢献しているよ。なんなら聞いてみればいい。捜査一課の―なんといったかな?」
「水原警部です。クラスメイトのお父さんでして、よくお世話になっています」
「水原のおやっさんが?」
水原幸太郎警部。一課では高校生の娘を溺愛している親馬鹿としての方が有名だが、その実かなりの切れ者だ。
「ええ。お話次第では、僕も何か協力できると思いますよ」
そういって、燈馬君はにっこりと微笑んだ。
・・・という妄想クロスオーバー。感想の評判がよければ、続きを書きます。