追い風を受け、ヒカリへと飛び立つ者 作:モルモット0816番
この話だけでも問題はない筈ですが、前の話の要素(ヒカリフライトの出たホープフルの話だったりとか)もほんの少し加わったりしてるので、よろしければどうぞ。
なおファン感謝祭の競技に関しては想像上のものです。こんなのあったりするかなぁ…くらいのレベルです。
ここは病院。タキオンは脚の調子を確かめる定期検診に来ていた。のだが、いつもの病院は予約が埋まっており、急遽別の病院に行く事になったのだが…
「…え?」
「まさか…この十数年で医学が一歩も進まず停滞しているとお思いでしたか?アグネスタキオン『博士』」
「いや、体質故のものと思っていたからねぇ…治る時代になっているとは…」
なんと、タキオンの脚は治る見込みがあるそうで。
タキオンは驚きを隠せてませんが、内心はめちゃくちゃ喜んでます。
ちなみにタキオンはトレセン学園を退学した後、研究の成果が認められ一部の人間からは『博士』付けで呼ばれています。このお医者さんもその1人で、現役時代のタキオンの大ファンだったそうで。
もちろんこちらも内心めちゃくちゃ喜んでます。
「もちろん、治療を施したとしても全盛期のようなスピードを出せるか…と言われればそうはいきません。そうですね…上手くいって8割から7割、場合によっては5割ほどかと。これが発症したてなら或いは…」
「構わないよ。むしろ7割程でもなければ、また脚が壊れかねないからねぇ…」
「いや本当に…本当に全力のダッシュは極力やめて下さいね?貴女の脚、シンデレラの履いてたガラスの靴みたいに脆いんですから」
「失敬な。私はプリンセスだぞ?」
ツッコミ所がややおかしいと思います。
「おや失礼。では、『超光速のプリンセス』様はどのようなご決断を?」
「もちろん、受けさせてもらうよ。で、どんな治療法なのかね?」
「あー…治療自体は何なら日帰りで終わります。終わるんですが…念の為に数日は安静にしといてくださいね?」
「んん?一体どういう」
「鍼灸、つまり笹針です」
「(ガタッ!)」
無言で立ち上がり逃走を図ろうとしますが、
「逃がしませんよ」
ウマ娘でもないのに膂力がやたら強い目の前の医者に、強制的に座らされました。
「ぜっっっったいに嫌だ!あの女みたいなのが出てくるんだ!絶対そうだ!」
「落ち着いて下さい!貴女の言う『あの女』の心当たりはありますが、担当されるのは別の方ですから!」
「…本当かい?」
「えぇ、なんなら三女神の像にでも誓いましょうか?」
「分かった。そこまで言うなら受けようじゃないか」
「そういえばモルモット君、2週間後はトレセン学園のファン感謝祭だが…予定はしっかり空けているのかい?」
「勿論だ。急に大量の書類作成とかチェックとかをぶち込まれない限りは、ノーパソ持って行ってフライトの競技見ながらやるさ」
「そう言った時に限って山のような仕事が降りかかるのが君だろう。杞憂であれば良いが…」
2人はヒカリフライトの出るファン感謝祭を見学しようとしてました。モルモット君も大量に仕事が来ない限りはなんとか見れそうです。
「そういや、フライトの出る競技なんだっけ?」
「まず中距離模擬レース、芝2400の左回りからだね」
「どういう路線になるかは分からないけど、日本ダービーにオークス、ジャパンカップも芝の2400mの左回りだから、距離の感覚を掴むにはもってこいだな」
「あと、生徒の親や地域の子供も参加出来る、こちらは芝の1600左回り…安田記念ベースのファンとのふれあいレース…なんてのにも出るらしいが…」
「まぁ、ファンも増えてきたし交流しとく事に越した事はないだろ。そもそもファン感謝祭ってそういう催しだからな?」
「それはまぁ、知識としては知っているが…」
タキオンはトレセン学園のファン感謝祭に出た事がありません。そんなものに出るなら研究に時間を費やすという方向性だった上、デビューから皐月賞までの4戦の中でファン感謝祭が実施されていなかったためです。
「それはそうと、脚はどうだ?いつもの病院とは違ったんだろ?」
「あぁ、カルテは送ってもらったがね。
「悪化してないだけマシと考えるべきなんだろうな…」
「…君が気負いする必要はないさ。なにせこれは私の身体の問題だ。どうにも出来ないならどうしようもないさ」
「そうだな…けどもし、もしもだ。また走れるようになったら…もう一度タキオンの走りが見たい…遅くたって良い。走りきれなくたって構わないから…フライトと一緒に走る、君の走りが見たいんだ」
「随分と期待されているねぇ…この十数年トレーニングもしてない鈍り切った私に何を期待しているのさ」
「とか言いながら基礎練習は部屋で欠かさずやってるよな」
「あくまで健康のためさ。誰かさんにこっぴどく叱られたからねぇ…」
「…そういう事にしとくよ」
そんな夫婦の会話から2週間後…
「ふぅ…」
ヒカリフライトは緊張していました。
なにせ、レース場で行う何時ものレースとはかけ離れた、レースに出るウマ娘全員が皆等しく声援を受けるレースだからです。
今のところ勝ち星のみでここまで来てはいますが、このヒカリフライト、1番人気には未だなったことがないんです。なっても2番人気まで。
それだというのに…
「なんで私が1番人気なんだろ…?」
何故かって?ホープフルステークスでの勝利を皮切りに、弥生賞では動揺した他のウマ娘が掛かり気味になってスタミナが切れた所を突き抜けて勝利。皐月賞は短い直線での勝負でかなりギリギリ。ハナ差での勝利となりました。
そんな次代を背負うような活躍を見せるウマ娘が注目されないなんて事あるでしょうか。いいえ、ありません。
模擬とはいえレースはレース。
人気というのは計上されるもので、ヒカリフライトは『1番人気』というプレッシャーを真っ向から浴びる事になった。
「んっんっ…ふぅ…よし!」
スポーツドリンクを飲み、パドックへ向かいます。
「(…んぅ?少し眠い…テスト勉強で夜更かししたからかな…)」
「あれを飲んだみたいね…」
「下手すればそのまま…!」
が、迫る悪意にヒカリフライトは気付きません。
そしてパドックでの顔見せを終え、ゲートに入り息を整える。
お母さんもお父さんも客席から見ているはず。
負けられないし、負けたくない。
そんな想いを胸に、開いたゲートから飛び出す。
いつも通りの先行策。違うとすれば、自分を囲むウマ娘が異様に多い事である。
「(随分警戒されてるなぁ…けど、私は私のペースで…!)」
一方その頃。
「…おかしい」
「タキオン?」
「1番人気とはいえ、周りのマークの仕方が異常だ。アレでは接触も当たり前だぞ…それにフライトのフォームも少し…まさか」
「あ、おい!待てってタキオン!」
そうして団子状態のまま、最後のコーナーを曲がり切る。
依然として囲まれた状態でここまで来たヒカリフライト。しかしココで
「抜け…出す!!!」
ほんの少しの隙間を縫って囲いから抜け出した。
そのまま残り300mに差し掛かり、このまま1着でゴール
出来なかった。
ガクン
「…ふぁ、れ?」
「「「フライト!!」」」
聞こえる
それを聞いた直後、ヒカリフライトの意識は落ちた。
まぁ…一つも黒星がないウマ娘が、妬まれないなんて事、無いですよね…