追い風を受け、ヒカリへと飛び立つ者 作:モルモット0816番
後、(恐らく)オリジナルの役職みたいなのも出てきます。
「…ふぁ、れ?」
「「「フライト!!」」」
叫んだ3人の内2人はもちろんタキオンとモルモット君である。そしてもう1人は…
ガシッ!
ズザザザザザザ…!
「はぁ…はぁ…あっぶな…!」
「あれは…!」
「良かった…!君がいて助かったよ、スカーレット君…!」
タキオンのかつての後輩にして、恐らくこの学園で唯一、タキオンの事を全面的に信頼し尊敬していたウマ娘、『ダイワスカーレット』である。
「タキオンさん!それにタキオンさんのトレーナーさんも!?」
スカーレットは驚きながら2人の事を呼ぶが、それをタキオンは慌てて制す。
「今ここで私の事を話すのはやめておいた方が良い。それより…」
「あ、はい!すいません!この娘を保健室へ連れて行きます!」
「分かりました!」
近くの係員に伝え、ダイワスカーレットは保健室に走る。
その時、モルモット君にはヒカリフライトを見て薄く嗤うウマ娘たちが一瞬だけ目に入ったが、優先順位を考えタキオンを背負って保健室へ走り出した。
「すまないね、トレーナー君…」
「モルモット呼び出来てないぞ…焦る気持ちは分からねぇでもないけど、保健室に誰も居なけりゃ原因が分かりそうなのはお前くらいなんだ。落ち着いてくれ」
「君も口調が荒ぶってるよ…」
「おっと…だいぶ焦ってんな、お互い」
ただでさえ広い学園ではあるが、2人とも元々はこの学園に在籍していた身。すぐに保健室に辿り着いた。
そしてヒカリフライトの様子を確かめた保健室の担当者とタキオンの所見は
「「誰かに睡眠薬を盛られたようですね(だね)…」」
「「はぁ!?!?」」
急な意識の消失からただ事ではないと思っていたが、薬を盛られたとは到底思わないだろう。
「まさかと思って、スカーレット君に控え室のカギを貰って正解だったねぇ…フライトの水筒から睡眠薬の成分が出てきたよ…」
「まさか…」
「犯人に心当たりがあるのかい?ト…モルモット君」
「タキオン、無理すんな。呼び方は気にしてないから。さっきのレースに出てた奴で、倒れたフライトを見て笑ってた奴がいた…多分そいつらだ」
「はぁ!?勝ちたいからって薬に手出して良いと思ってるの!?」
「スカーレット君…」
スカーレットはレースを引退した後も、現役のウマ娘の為に自らのノウハウを教えたりする、準教官と言うべき立場にいた。
「フライトがどれだけ頑張ったと思ってるの!?タキオンさんの走るはずだった道を代わりに進むんだってどれだけ努力したと思ってるの!?」
ヒカリフライトも、スカーレットから教えを授かったウマ娘の1人だ。
トレーナーとの練習だけでなく、先行策についてのヒントや走り方について、熱心に聞いていた。
これはタキオンが、『もし走る事について悩みが出来たなら、スカーレット君を頼ると良い』と言っていたからでもある。
「スカーレット君」
だが、スカーレットの怒りは止まらない。
「ここまで無敗で来れたのも!他の娘の何倍も努力して!プレッシャーにも負けずにちゃんと自分のペースで走って!ただ『お母さんとお父さんが褒めてくれるから』って!それを何より大事にしてたからじゃない!そんな娘を薬で眠らせる!?ふざけるのも大概に」
「スカーレット君!!」
そんなスカーレットの慟哭を止めたのは、タキオンの悲痛な叫びだった。
「…!すいません…」
「そう…そうだ。今はこうしてフライトが眠ってるんだ。そっとしてあげてくれ」
「ごめんなさい…私…」
「いや、むしろフライトの事をしっかり見ていてくれて感謝してるんだ。俺たちは既に学園から去った身だからな…スカーレットが学園に残ってくれていて助かったよ」
「でも私…タキオンさんの時にも何も出来ませんでした…事実無根な『あんな記事』はおかしいって…みんなにも言ったのに…」
「良いんだよ…こうして退学してから、君が私に信頼を置いてくれていた事に気付けた。今でもこうして『タキオンさん』なんて呼んでくれるだけでもありがたいのさ」
「…レースに出てたウマ娘のリスト持ってきますね…」
そんな事を言って保健室から出て行ったスカーレットは、1分ほどで帰ってきた。
「これがさっきのレースの出場者リストです…どのウマ娘かわかりますか?」
「あの会長程ではないが、俺も記憶力には自信があるからな。こいつと、こいつとこいつ…あ、後こいつとこいつもだ」
「…トレーナー君」
「あぁ…コイツら、フライトを囲ってた奴らだ…!」
「てことはあの時抜け出せたって…!」
「恐らくフライトは嵌められたね…抜け出すのにパワーを使い、ゴールへ向かうためにスピードも上げた。それにより体力を使い切った状態…今回の場合なら眠気への耐性は0。それにほぼ全速…そんな状況で転倒したら?」
「まさか…」
「無敗がそこまで妬ましいのかと聞きたくなるねぇ…私からすれば!全力で走れるだけでも妬ましいというのに!!!!」
「タキオン…」
モルモット君は、タキオンの叫びを聞き無力感に苛まれた。自分がもっと彼女に尽くせていれば或いは…?そんな想いでいっぱいだった。
「スカーレット君。このリストによればこのウマ娘たちはフライトの出るはずだった、昼からのレースにも出るみたいだねぇ…そこでなんだが…」
だから、タキオンが次に言った言葉を聞いて、感情が爆発した。あとなんか身体が発光した。黄緑色に。
「と、トレーナーさん!?」
「おや、昨日飲ませた薬が今効いたようだねぇ…となると感情の起伏で発光するのか…いやしかしそれなら…まぁ良い。スカーレット君、よろしく頼むよ」
「はい!!!!!」
「…私置いてけぼりですね…」
保健室の担当者さん、ドンマイ。
「チッ、作戦失敗だったわね…」
「まさかあの女に邪魔されるなんて…!」
「あの準教官、『ドーピング女』の事めちゃくちゃ庇ってる奴でしょ?そのまま巻き込まれれば良かったのに」
「まぁ、あいつのいないレース…のんびり走らせて貰いましょうよ?」
「さんせー」
裏で色々と進んでいる中で、この犯人たちはのうのうと笑いながら昼食を食べていた。
『スカーレットに受け止められる所までは完璧だったのに』などと平気で言う。
「努力したって意味ないんだから、薬使って引き摺り落とすのなんてセオリーでしょ。気付かない方が悪いのよ」
「無敗とか調子乗ってるからこうなんのよ」
そうして地べたで這いつくばっているからこそ
『ふれあいレース、出走メンバーの変更のお知らせです。ヒカリフライトさんに代わり、親御さんの【アグネスフライト】さんが出走する事になりました』
ポールの先にあるスピーカーから流れる、この放送に気付けなかった。
「タキオンさん…!」
スカーレットは歓喜に震えていた。
「脚は、本当に大丈夫なんだな?」
『トレーナー君』は脚の心配をしていた。
「もちろんさ。芝の1600、確かに苦手な距離ではあるが…遅くとも走り切れなくとも、私はこのレースに出なきゃいけない。薬は可能性を探るためのものだ。潰すためのものじゃない。それより出走者の名義は…」
「はい、きちんと言われた通り『アグネスフライト』にしてきました」
「これで私とバレてもシラを切り通せるねぇ…トレーナー君にスカーレット君。もし私が1着じゃなかったら、全力で私を慰めたまえ。
…睡眠薬はごく少量。恐らく最悪の事態が発生した際にバレないためならそろそろ…」
「ん、んぅ…あれ…?お母、さん…?」
ここでようやくフライトが目を覚ました。
「フライト。大丈夫か?」
「あれ?お父さんに、スカーレットさんも…」
「…スカーレット君が居なければ、命の危険があった。フライト、まずはスカーレット君にお礼を言っておきたまえ」
「え…?あ!ありがとうございます!」
「良いのよ、パワーと根性ならタキオンさんにだって負ける気はしないんだから」
「いや、あの速度を身体一つで受け止めて倒れなかった所を見れば、説得力が強すぎてねぇ…返す言葉もないよ」
「そういえば、今何時ですか!?」
「昼食休憩が終わって、もう少しでふれあいレースの時間ね」
「私出なくちゃ…!そうだ、こんな所で寝てられない…!」
「…フライト?」
しかし、起きたヒカリフライトの表情は、明らかに焦燥に駆られていた。
「お母さんは何も悪い事なんてしてない。私なんかよりずっと苦しみながら努力して走ってきたんだ。それを証明しなきゃ…レースに出なきゃ…」
「フライト!落ち着いて!」
「見返さなきゃ…お母さんを悪く言ってきた人たちを…」
「フライト…」
そんなヒカリフライトを、タキオンは優しく抱きしめた。
「うぷっ…お母さん…?」
「フライトには、随分と重い荷物を背負わせてしまっていたねぇ…」
「私が勝手に背負っただけ!お母さんたちは悪くない!」
「気付けなかった時点で、私たちに非があるのさ。私たちに掛けられた疑惑を知ったんだね」
「…」
無言で頷いた。
「そうだね…ならコレは謝罪とお礼、かな」
「え?あ、お母さん!その服って…!」
「客席から見ていたまえ、私にも意地があるからねぇ…負けてやる気はないさ」
「ならなおさら!私も一緒!一緒がいい!」
タキオンの服装を見て、急に駄々をこね始めるが、
「落ち着けってフライト。さっきまで睡眠薬で眠らされてたんだ。身体になにか異常があったらマズい。それに、これからはタキオンが無理をしない範囲でなら、いつでも一緒に走れる。
…過去の映像で見るのは飽きただろ?20年弱ぶりのタキオンの生の走りだ。3人で一緒に特等席で見ようぜ」
「…うん!」
トレーナー君の説得を素直に受け入れ、喜色満面な様子だ。
「なら、タキオンさんはレース場へ。2人はこっちね」
訂正、スカーレットも同様の様子です。尻尾がめっちゃブンブン動いてます。
クリーニング済の勝負服を身に纏い、アグネスタキオンは約20年ぶりにターフに脚を踏み入れました。
あ。ちなみにサイズや体格はほとんど変わってません。基礎トレーニングと栄養バランスの考えられた3食により、昔のタキオンを知る者からすれば、学園にいた時のままに歳を取ったと思われるレベルです。
「(さて…フルゲート18人…私の娘の命を奪おうとした不届き者は…なるほど、やはりフライトを囲めるように近くのゲートからの出走か…)」
「あれ誰…?あそこ空白になったんじゃないの?」
「変更の知らせとかあったっけ?」
「そんなの無かったと思うけど…」
不届き者のヒソヒソ話は、まるで聞こえている様子がありません。ウマ娘の聴力なら聞こえるはずなんですがね…
「(先ほどの走りを見る限り、このウマ娘たちはマイル〜中距離型…となれば距離の適正のみを考えれば不利なのは私だが…)」
「さすがに見ず知らずの奴囲むとヤバくない…?」
「そうね…ここはひとまず様子を見て…」
そんな事を言ってたら
「負ける気は無いから覚悟しておきたまえ」
「「「「「!!?」」」」」
タキオンがそう言った瞬間、ゲートが開きました。
『しまった!』と、5人は思ったでしょう。なにせタキオンの発した一言に気を取られ、大幅に出遅れたんですから。
「お母さん、すごいスタートだ!」
「いや…多分あれゲート内でなんか言ったな…変な疑いかけられたくなかったから、極力するなとは言ったけど…あれ絶対なんか言ってるよ…」
トレーナー君は頭を抱えてます。ある種の常套手段ではありますし、今回は事が事。「絶対にするな」とは言いませんでしたが、変な事だけは言ってくれるなよ…くらいに思ってました。
「てことは、相手が動揺して遅れたから相対的にそう見えるだけ…ってことね」
「あぁ、あとはどこまで走れるか…!」
「頑張って、お母さん…!」
「(なにせ急だったが故に、レースプランはある程度しか考えられなかったが…なるほど、確かに出ている速度は、あの皐月賞の7割強程度だな。だが、これなら脚を潰さずに済む)」
まだ小さなウマ娘たちが一生懸命走ったりもしている中で、ただひたすらにゴールまで駆けていくタキオン。
不届き者が追いつこうにも一向に追いつきません。どころかどんどん差を開きます。
不届き者には覚悟と努力、そして地力が足りないみたいですね。重点的に鍛えられる日は来るのでしょうか。
「何者よあの女…!」
「てか、あんな事言うって事は、アレがアイツの母親?」
「チッ、親がノコノコと!出しゃばんな!」
「そういうセリフは、私に勝ってからにしたまえ」
最終コーナーを曲がりきり、直線へ入る…
前の残り600m。最終コーナーの段階で、タキオンはラストスパートに入る。
「…アレって」
「フライトのペース配分、よね?」
「残り600mからのスパート…間違いないが、曲がり切れるのか!?」
「(コーナーを曲がるのはこんなにもキツかったか…?芝に脚を取られる感覚とは、こんなにも絡みつくものだったか…?約20年…伊達に走らず年は取ってないねぇ…だが、私が勝つのを見ておきたまえフライト。自称するのは流石に恥ずかしいがね…君の母親は…『超光速のプリンセス』なのだから!)」
そして、コーナーを曲がっている最中にさらに加速。そうして達した速度は…
「おんなじだ…」
「え?」
「お母さんが走った皐月賞とおんなじくらい…うぅん。それ以上に速い、かも…」
「そうだ、これが…お前の憧れにしてお前の母親、アグネスタキオンの走りだ」
「タキオンさん…!良かった…またターフを駆け抜けられるんですね…!」
「スカーレット。言った物は?」
「もちろん用意してますよ!冷却スプレーと念のための氷水の入ったバケツです!」
「助かるよ」
「くそ、クソクソクソクソ!」
「なんで追いつけない!」
「明らかに私たちの方が走ってるのに…!」
最後の直線に入り、そんな嘆きにも似た呟きを聞いたタキオンは、セーフティーリードを保っているからか、急に立ち止まったかと思えば、わかりやすいため息を吐き、後ろを見ながら
「薬という物を、他者を蹴落とすだけに使うようなウマ娘が、私に勝てるわけないだろう」
やや大きい声でそれだけ言うと、また直線をひたすらに駆け抜けていきます。
不届き者たちは…あぁ、完全に戦意を折られてますね。止まってしまってる娘もいます。
それを見る事なく、タキオンは1着でゴールイン。
「すごいすごい!お母さんすごい!」
「はっはっはっ!フライトも見ているからね!思わず全力で走ってしまったよ!それ故か脚がものすごい勢いで悲鳴を上げていてね!トレーナー君!いつもの物を!」
「スカーレットがちゃんと用意してたよ!ていうか何が7割強だよ!フライトの目測頼りだけど、ピークの10割超えてんじゃねぇか!」
「まーた口調が荒ぶってるよ?モルモット君」
「言ってる場合か!早く冷やせ!」
「はいはい…」
やる気のない返事とはいえ、モルモット君の心配も分かる故にしっかりと念入りに冷やす。
「タキオンさん…いつかまた、私とも併走して下さいね!」
「あっはっは!引退してブランクだらけの私と併走か!弱い者いじめの間違いじゃないのかい?」
「お母さん…あの走りを見たら流石に疑わしいよ…」
ヒカリフライトはジト目でそう言いますが、
「いや、普通のランニング程度ならともかく、レースを考慮したような全力でのダッシュは、完全に治るまでは3、4か月に1回に留めてくれとの事だ…流石にまた脚を壊すのは忍びないからねぇ…」
「あ、すいません…」
「気にする事はないさ。機会があればフライトも入れた3人で走ろうじゃないか」
とまぁ…こんなことを言うくらいです。やはり走ることが大好きなんでしょう。
「分かりました!絶対無茶しないでくださいね!トレーナーさん!無茶させないように見張りとサポートを徹底して下さいね!」
「分かってる分かってる…あ、でもモルモットになるのは良いだろ?」
「もうあのレベルの全身発光は勘弁してくださいね!?サングラス無かったら失明しそうなレベルでしたし!」
「善処する。さて…フライト。すまんが今日はもう帰るからな」
「下手に騒がれても困るしねぇ…」
そう言いながら、タキオンとトレーナー君は帰り支度をします。
「また帰省できそうな時は連絡するね、お母さん」
「あぁ、今日は楽しかったよ。こんな気持ちになるのも何年ぶりか…!やはり私もウマ娘…ということなんだろうねぇ…」
「タキオン、支度終わったぞ」
「そうかい…では2人とも。また会おう」
「うん!」
「今日はありがとうございました!」
過去には戻れない。けれど未来はこれから創る事ができる。
あの時はどうしようもなかった。けれど今でなら対処法が見つかっている可能性がある。
小さい頃の『どうして』が、今は『待ってるね』に変わっていた。
いつか、アグネスタキオンと走る光景をイメージしながら、ヒカリフライトとダイワスカーレットは、帰っていく2人の車を笑顔で見送りました。
ん?不届き者たちはどうなったかって?レースが終わった直後にこれまでの余罪まで全部バレて、みんな仲良く退学&牢屋行きしましたよ?牢屋はウマ娘が全力を出しても破壊できない特別製です。