輝けなかったウマ娘トレーナーは芽吹く新芽に何を思うか 作:にらたま定食
あ”つ”い”。いや、ただ暑いのはいいんですけど湿度が高いのはどうも苦手です。。。
これから更に湿度、気温共に上がっていくと思いますので、皆様お体にお気をつけて日々をお過ごしください。
~あらすじ~(読み飛ばしていいよ)
トレセン学園にサブトレーナーとして所属していた主人公の栗毛のウマ娘は、ある事を理由に一時トレーナ業を離れていたが、この度理事長の辞令によりトレーナーとして正規雇用され、チームを持つこととなった。
新たに結成されたチーム「サルガス」のメンバーは、サブトレーナー時代に担当した「芦毛の怪物」オグリキャップ、「黄金の不沈艦」ゴールドシップ、「驀進王」サクラバクシンオー。
またトレーナーによって新たに選抜されたダイワスカーレット、メジロマックイーン、ライスシャワー。
そんなチーム結成初日、歓迎の意味合いも込めて「鬼ごっこ」と称される実践トレーニングが開かれることとなった。
第4話、スタートです。
「おっ、来たなトレーナー!」
「アップは済ましている。いつでも大丈夫だ。」
―体は……温まっているみたいだね。
「それにしてもトレーナー、最近は根を詰めていたそうだが…」
―ありがとうオグリちゃん。でも余計な心配をしてると尻尾を掴まれますよ。
「それは……困るな。」
「おい早くやろうぜ!さっきからウズウズしてんだよ!」
スーツではなく、丈の長いインナーの上に緩めのスポーツウェアを身につけたトレーナーを見つけるやいなや、ゴールドシップとオグリキャップが声をかけに来た。
二人から発せられる気迫、というか威圧に近いものから彼女達の好調ぶりが伺える。
そうこうしているうちに残りのメンバーもやって来た。
距離は2000m。スタートの合図はコイントス。落ちたら全員一斉にスタート。
走る速度は自由だが、スパートをかけられるのは1000m以降から。
ちなみに私は1000mの所に移動した後全員が通過した後、そこから彼女達を追う。
柵の内側にカメラを設置し、ゴール板の代わりにゴールテープを簡易的に用意した。
―それじゃあ位置について、よーーい……
コインを高く弾き、音が消えた瞬間に風が吹いた。
100mの時点でサクラバクシンオーが2バ身離して先頭に立つ。担当していた頃よりスタートダッシュに磨きがかかっている。
オグリキャップはサクラバクシンオーの後ろにピッタリと着けている。
ゴールドシップは……どこを見ているんだろう。また焼きそばのレシピでも考えてるんだろうか。
ドアを修理させた後に作らせようかな。
―でも出だしは上々。新しく来た子達も頑張ってる。
メジロマックイーン。ウマ娘なら一度は耳にしたことのある『メジロ家』のウマ娘。
彼女の目標は天皇賞、だったと思う。生涯で一度きりの皐月賞とか東京優駿とかじゃなくて良かったと少しばかり思っている。
走りの方は流石メジロの出と言ったところか、同年代に比べれば基礎がしっかりしている。でもまだレース経験が浅い為か、ハイペースで飛ばしていくバクシンちゃん達に引っ張られ気味だ。
ダイワスカーレット。中等部……なんだよね。アレは少しばかり憧れる。
やたら一番にこだわってるみたいだけど、何がそこまで彼女を執着させるのだろう。もし今まで一度も負けていないというなら、ここで一度しっかりと折れて自分と向き合ってもらわないといけないかもしれない。
少し遅れてライスシャワー。スカーレットちゃんとは逆に高等部なんだよね。写真で見た時よりずっと可愛らしい。
走っているところを見ると少し……いや、かなり身体が固そうだ。よくマッサージしてあげればもっといい走りができるだろう。
…………マックイーンちゃんの好敵手になってくれればいい刺激になりそう。
彼女達の走りを見ながら、どう育てていこうか更に計画を練る。
でも今はそんな事よりも今日はあの3人と走りたかった。
トラックの反対側に着き、パーカーを脱ぎ捨て、柵を飛び越えてやや外側で軽く準備運動をする。
手首の柔軟でサクラバクシンオー。
足首の柔軟でオグリキャップ。
体側、背筋を伸ばし、体を仰向けに反らしてそのまま倒立した頃にゴールドシップ、ダイワスカーレット、メジロマックイーン、ライスシャワーの順にやってきた。
―さて、追いかけますか。
足を前後に一歩分開き、両手をついて片膝をつけ陸上競技のクラウチングスタートの体勢を取る。
ふう。と一息入れてお尻を上げる。
体をぐっと後ろに引き、反動で体を前に運ぶ。そして足の指先に力が入った瞬間に……前の足で跳んだ。
突風が吹き、視界が一気に狭まる。
まずコーナー手前でライスシャワーが捕まった。
息が乱れたダイワスカーレットと、前半はかかり気味だったが、割と安定していたメジロマックイーンもコーナー半分までに捕まった。
コーナー感覚は覚えた。
残り3ハロン。先頭までの差はおよそ7バ身。
頭と体を前に倒す。頭の位置は柵より低い。
脚を使え。速く、無駄なく休みなく回せ。
加速しろ。一瞬の減速も、踏み込む時の停止すら許されはしない。
顔を上げるな。視界に頼って前を向くと目が乾く。
―……み~つけた。
耳をピンと張り、風切り音を取り除いて前の景色を頭の中で描く。
コーナーの終わり残り2.5ハロン。
残り2ハロンの地点に3人いる。
芝を抉る音、跳ねる音、踏み抜く音。
ほぼ横一直線。内側に入る隙間はない。いつか私が教えた通り、一番内側は必ず抜かれないようにオグリキャップが塞いでいる。
コーナーの終わり際、ほんの一瞬だけ遠心力に身を預けて外側へ行く。
少々勿体ない気もしたが、内側にガッチリ固めた3人を躱すには十分だ。
残り2ハロン。
3人ともこちらに気づいたのか足音が大きくなり、更に速度が上がった。
こちらも速度を上げて追いすがる。
そして3人に並ぶ直前でゴールドシップが体半分だけ外にヨレた。
妙に思って少し揺さぶってみると、彼女はきっちり私の前に来た。
しかしそのせいか、かなり息が上がっていた。
耳の使い方は教えたが、
残り1ハロン。
外に揺すり、サクラバクシンオーと彼女の間にできた隙間にすかさず割り込む。
一方ゴールドシップは反応が遅れ、既に自分とサクラバクシンオーの間に頭を入れられてそのまま外を走るしかなかった。
残り100m。
ジリジリとサクラバクシンオーに詰め寄る。
実直な彼女に小細工は通用しない。
正真正銘、騙し合い無しのスピード勝負。
跳ねるような彼女の足音のテンポが僅かに速くなる。
彼女と並び、加速がなくなった。時間切れが近い合図だ。
脚の感覚がなくなり始め、間もなくテープとの距離が縮まる。壁にぶつかるような気配がする。
体力がなくなったわけでもないのに呼吸が乱れる。
あと少しの所で止めようとする本能に抗うことができない
でも動かすしかないのだ。
速度を落とさないよう必死に走り続ける私にやって来たのは、幸運にも「レースの終わり」だった。
ゴールテープを耳にかけたまま走り抜けたが、足を滑らしてそのまま芝の上に前のめりで滑り落ちる。
あまり乱れていない息を整え、ゴロンと寝返りをうってもうじき暗くなる空を見上げる。
芝と土の匂いが心地よい。
やっぱり走るのは楽しい。難しい事を全部捨てて走り抜けるのはただひたすらに心地が良い。
しかし今のままではここが限界なのだ。今回だって最後まで顔を上げることはできなかった。
いつまで経っても見えるのは地面だけ、先頭のその先の景色を見る事が叶うはずもない。
だからこそ模索する。見た事のない景色をこの目で見る為に。
―とりあえずゴルシちゃんはシバく。
不完全燃焼の当てつけに、妨害紛いな事をしたゴルシへのお仕置きメニューを考えるのだった。
お疲れさまでした。
いよいよ始動するチーム「サルガス」ですが、2、3話先あたりで一度幕間的な話が入る予定です。
また、今後は週一、二日の更新になると思いますが、今後とも宜しくお願いいたします。
そういえば明日は日本ダービーですね。
皆さんの推しの馬や騎手は出てましたか?
私は競馬場で馬券を買って本物を見たいけれど、近場にないので結局お家でお茶すすりながらテレビ越しに鑑賞してます。青嶋さんの実況が大好きです。笑
実物に会ったのは幼い頃にどこかの牧場へ連れて行ってもらった時くらいだったでしょうか。
もはや記憶も曖昧ですので、一度はっきりと間近で見てみたいですねぇ。
それでは、また次のお話で。