輝けなかったウマ娘トレーナーは芽吹く新芽に何を思うか 作:にらたま定食
◯オグリキャップ
適性はマイル~中距離。長距離でも工夫すれば得意な距離と遜色ないくらい走ることができるはずだ。
脚質は先行。ありえないくらいに体が柔らい上に、あの暴力的な末脚を持っている彼女のことだ、差しの走り方でも十分通用するだろう。
◯サクラバクシンオー
適性はオグリキャップと同じ……はずなのだが走り方に難有り。今の状態ではせいぜい中距離が限界か?
脚質は逃げ。スピードはピカイチだが、彼女はともかくペース配分というものを考えない。体に教え込んでいくしかないのか、それとも……。
◯ゴールドシップ
適性は中、長距離。
脚質は主に追込。スタミナは頭二つ抜けている。それを知ってか知らずか、気分次第で走り方を変えて自滅しそうになるから厄介だ。
普段はああだが中々聡い子だ。ちょっとした小技でも教えることとしよう。
早朝、いつもの耳障りな目覚まし時計の音ではなく、遠くから聞こえたピアノの音で目が覚めた。
やけにスッキリとした目覚めだったから、二度寝はないと考えてアラームをOFFにした。
同室のウオッカはベッドから半分落ちながら、まだ気持ちよさそうに寝ている。
「ほんっとだらしないんだから。」
ため息をついて、新しく入ったチームの朝練の支度をする。
トレーナーから支給された運動着に袖を通し、髪を整えて、母から貰った
トレーナーから渡された運動着は学園支給の体操服よりも軽く、幾分か着心地も良い。数日前もオグリ先輩がトレーニング用のシューズを履き潰していたが、次の日には真新しいシューズを履いていた。
聞けばトレーナーに言えば大抵の物は用意してくれるから、遠慮せず言えば良いそうだ……トレーナーというのは相当に稼ぎが良いのだろうか?
ピアノの演奏は続いていた。
明るく、忙しない曲だ。聴いているだけで指があちこちに動いているのがよく分かる。
栗東寮の脱靴場に着くと、自分と一緒でトレーナーへの応募から選ばれたメジロマックイーンと鉢合わせた。
「あら、スカーレットさん。おはようございます。」
「おはようマックイーン。」
トレーニングシューズに履き替えていると、マックイーンの靴が違うものになっている事に気づいた。
「ねえマックイーン。そのシューズって……」
「この靴ですか?ゴールドシップに聞いて試しにトレーナーさんに尋ねてみたら直ぐに見繕って下さいましたの。」
「話には聞いてたけど、本当だったのね。」
「ええ、昨日いただいたばかりで、早速自主トレーニングで履いてみたのですが、トレーニング用というのもあって少し重たく感じましたわ。でも脚への負担は思ったよりも軽かった様に思えますわね。」
「へぇ、見たことないシューズだけどきっといいヤツなのね。」
今度……いや、今日にでも頼んでみようと思いながら集合場所に向かうと、そこにトレーナーの姿はなかった。
代わりにカロリーバーを食べているオグリ先輩とゴールドシップが、ドリンクタンク上でオセロをしていた。
「あれ、ライスさんとバクシンオー先輩は?」
「あの二人か?じきに来るだろう、と噂をすれば来たぞ。」
「みなさん!おはようございます!!」
「はぁっ、はあっ……おはようございます。」
何やらドタバタしていたのだろうか、バクシンオー先輩の頭には緑色の葉っぱが生えており、運動着はすでに汚れていた。
そしてライスさんはなんだかとても申し訳なさそうだった。
まあなんとなく予想はつくが、口には出さないでおいた。
「さて、お前ら!今日はトレーナー来ねえからこのゴルシ様が仕切るぜ!」
「そうでしたか!それならば仕方ありませんね!ではゴールドシップさん!まず初めに何から始めましょうか!!」
「今日はずーーっと走るぞー!!行くぞライス!アタシに着いてこい!!」
「え?わっ、ひゃぁぁああああ!!!!」
「ハーッハッハッハ!私も負けていられません!バクシンバクシンバクシーーーン!!!」
チームメンバー全員が揃った途端、ゴールドシップとバクシンオー先輩がトレーナー不在の中、ライスさんを小脇に抱えて走り出していった。
とりあえず私とマックイーンはゆっくり走り出したオグリ先輩について行くことにした。
「トレーナーさん、今日は来ないんですの?」
「そうよ、何の連絡もなしに休むなんてトレーナーとしてどうなのかしら。」
「その事なんだが、さっきまでピアノの音が聞こえただろう?」
「そういえば。」
「今は聞こえませんわね。」
「細かい事は後にするが、アレがトレーナーが来ないという合図なんだ。とりあえず、今日はあの二人の言う通りにするしかない。」
「それは何故ですの?」
「
「「ああ、なるほどですね(わね)。」」
その後、予想通り途中で放置されていたライスさんと一緒に、オグリ先輩に檄を飛ばされながら、本当に一時間走り続けた事以外はいつもと変わらなかった。
普段はどこか気の抜けているようなオグリ先輩が、物凄い覇気を出してくることには驚いた。
しかし、ふと考える。今まで有名なウマ娘の中に
中央はともかく、地方でも聞いたことのない名前だった。
今尚あれほどの実力がありながら、その事実は実に奇妙に思えた。
「おい、何を考えている。真面目に走れ。」
「うわあ!すいません!!」
学園に帰ってくると、スタート地点に空になったドリンクタンクとノートが二冊だけ残されていて、ゴールドシップとバクシンオー先輩の姿は見当たらなかった。
オグリ先輩はため息を一つついて、ノートを拾い上げた。
ゴールドシップの事だ、きっとバクシンオー先輩を言いくるめてとっとと帰ってしまったのだろう。
「三人とも、喉が渇いただろう。トレーナーのところに行こう。もう少しの辛抱だ。」
案内されて着いたのは他のチームが使っている簡素な小屋が並んでいる中、他より寂れているが、かなり広めの平家が建てられていた。
「ここだ。トレーナー!入るぞ!」
オグリ先輩が大声でトレーナーを呼ぶが、もちろん返事は返ってこない。いや、返ってくるわけがないと、マックイーンとライスさんも思っているだろう。
正直な感想、こんな薄気味悪い場所があるとは知らず、ましてやここにトレーナーが居るとは微塵にも思わなかった。
「まだ寝てるのか?まぁいいか。三人とも、こっちだ。」
ギィ〜…と音を立てて開くドア。
しかし外観の割には、そこそこ手入れがされていた。
オグリ先輩が言うには、昔は夏場にチームの合宿所として借りることができた所らしいが、今の合宿所ができてからは見向きもされなくなったという。
そしてトレーナーがこの場所を見つけ、学園側に申請して自由に使わせてもらっている、と言う事らしい。
鶯張りのようにギシギシと軋む床に不安を覚えながらオグリ先輩についていく。
そして奥の方の部屋に入ると、他の部屋よりも明らかに修理が行き届いている部屋に着いた。
綺麗ワックスがけされたピカピカのフローリング、バレエ教室で見る様な壁一面の手すり付きの鏡、温水も出るウォーターサーバー、大きな冷蔵庫となんだかよくわからない高性能そうなゴミ箱。
そして一段上がった部屋の奥には真っ黒なグランドピアノと横長のソファが一つ。
窓は開放され、入ってくる風でレースのカーテンがゆらゆらと揺れていた。
「とりあえず水でも飲んでてくれ、あと冷蔵庫の中の名前の書かれていない物は好きに食べてもいいことになっている。では、私はトレーナーを起こしてくる。」
オグリ先輩はそう言うと、早速冷蔵庫の中段からバナナを一房取り出して、もちゃもちゃ食べながらピアノの方に向かっていった。
「なんだか……ここで暮らせちゃいそう、だね。」
「そうですわね。スポーツドリンクにプロテイン……羊羹なんかもありますのね。」
「マックイーンって意外と図々しい所あるわよね。」
「なっ!?これは偶然目に入っただけですわ!」
「でも手に取ったソレを手離さないあたりはちゃっかりしてるわよね。」
「もう!やめて下さいまし!」
「ふふっ、じゃあライスは……りんごさんにしよっ。ひんやりしてて美味しそう!」
「私は、そうね……スポーツドリンクでいいわ。」
スーパーで売っているミニ羊羹の開け方をマックイーンに教えつつ、私たち三人はいつもとは少し違った朝を過ごしたのだった。
トレーナーノート2
◯ダイワスカーレット
適性はマイル、中距離。脚質は先行。
気性難とトレーナーの間で噂されていたが、そうでもないように思える。
初めの鬼ごっこで理解してくれたのか、それとも単にキツめのメニューが好きなのか……。
あの高い闘争心と向上心はとても良い武器になるが諸刃の剣だ。うまく舵をとってあげなければいけない。
◯メジロマックイーン
適性は中、長距離。脚質は先行。
天皇賞を目標に掲げているためか、ペース配分の良し悪しにかなり偏りがある。(特に2500mの模擬レースは酷かった。)
よくハロン棒を見ているので、まずはその癖を矯正しなければならないだろう。
◯ライスシャワー
適性は中、長距離。脚質は先行。
スタミナはあるが、スピードはあまりない。また、集団に割り込んでいけるような性格ではないため、よく集団に飲まれてしまう傾向にある。
もっと自信をつけられるように成功体験を積む必要がありそうだ。