ギンガ団のボスになるinガラル   作:サマル

3 / 5
3話

「続けてくれ」

 

 ヒバニーは先を促した。

 『ポケットモンスター』。今のヒバニーにとっては複雑な気持ちを抱かせるゲームタイトルだった。

 あるいは、その記憶さえもが消えれば楽になれるのかもしれないが。

 

「えっと、あの後、思い出したことがあって……。私の遊んだそのゲームの中に、ギンガ団っていう悪の組織が出てきたんです。私を襲ってきた変な人にそっくりのトレーナーさんもその中に……あ、あはは。変、ですよね……。ここは現実で、ゲームじゃないのに……信じられませんよね……」

 

 ラルトスは話しながら自信を失ったようにうつむき、最後の方などは消え入りそうな囁きだった。

 

「信じる」

「え?」

「信じる、と言ったんだ。あんたの知るギンガ団の話はもう、ないのか? 他に思い出したことは? 以前、どんな姿をしていた?」

 

 矢継ぎ早に質問を繰り出すヒバニーに、ラルトスはうろたえた。

 

「えっと……」

「……いや、すまない。ゆっくりでいい。ほかに思い出せたことは?」

「すみません、自分のことはあまり……。でも、ギンガ団の目的は分かります。空間の神パルキアと、時間の神ディアルガを制御することで新世界を作り出すということだったはずです」

「空間の神……パルキア……」

 

 呟いたその名は、不思議とヒバニーの耳によくなじんだ。

 かつての自分は、間違いなくその言葉を知っていた。

 根拠はなく、しかしヒバニーにはそう確信できた。

 

「でも、ギンガ団の企みは主人公に阻止されちゃうんです。物語ではそのまま解散して……」

「なぁ……ラルトス」

 

 ヒバニーがラルトスの両肩に手をのせた。

 

「もしも、もしもだが……その空間の神の力を借りることができれば……ボク達は、故郷に帰れる、だろうか」

「古郷……」

「ああ、そうだ。ボクは、もう8年になる」

 

ラルトスは困惑の色を浮かべたが、ヒバニーの苦しげな、うめくような声にはっとする。

今にも壊れてしまいそうなヒバニーに、ラルトスは優しく答えた。

 

「……はい。きっと、帰れますよ。ヒバニーさん」

 

 ヒバニーはこの世界で暮らすなかで、様々なポケモンと会ったことがある。

 作り物めいた世界だが、そこに住むポケモンたちの力は本物だ。

 エスパータイプは他者の念を読心し、強力な鳥ポケモンたちはマッハを越えた速度で飛翔する。

 格闘タイプの一撃は山をも崩し、フェアリータイプは草木をよみがえらせる力を持つ。

 空間の神とまで言われるポケモンならば、あるいは世界の垣根を超えた転移をも可能とするかもしれない。

 

「ラルトス……」

 

 ヒバニーは目の前のポケモンが自分と同じ存在であることを確信した。

 記憶喪失なのは、ヒバニーと同じ症状だ。

 同胞の存在と、帰還手段。

 それは、ヒバニーが8年間求めてやまなかった希望だった。

 

「ありがとう、ラルトス」

「え? わひゃひゃいっ!?」

 

 ヒバニーはラルトスを抱きしめた。

 ラルトスは突然のことに、一泊遅れて顔を赤くする。

 

「ギンガ団。そいつらの狙いが空間の神パルキアならば……ボクは、それを利用してやる」

「あ、あの……ヒバニー、さん?」

「心配するな。ラルトスも必ず、連れ帰ってやる。絶対だ」

 

 自らに言い聞かせるように、うわごとのようにヒバニーはつぶやいた。

 青白い月光が2人を照らす。雲はいつのまにか晴れていた。

 

「あ……あの……そろそろ、寝なきゃ、ですよね……?」

 

 ヒバニーの耳元で、ラルトスがもじもじしながらささやいた。

 その顔は心なしか赤い。

 熱でもあるのかとヒバニーは一瞬思ったが、それならオレンの実で治っているはずだ。

 

「……? そうだな。早く長の所へ戻れ。情報提供、助かった」

 

 ヒバニーがラルトスの体を離す。

 だが、ラルトスは一向に帰ろうとしない。

 

「いや、あのう……そのう……」

「なんだ。はっきり喋れ。ボクも今日は寝ないといけない……」

 

 ヒバニーは昼行性なので、夜はあまり活発には動けない。

 本当は放置してきたギンガ団員を拾いに行きたかったが、あそこはそれなりに遠い。

 それはまた明日だ。

 

「わ、私と一緒に寝てください!」

「……なんだって?」

 

 ヒバニーは思わず聞き返した。

 

「い、一緒に寝てほしいんです……一人で寝るのはその……心細くって……」

「長と寝ればいいだろう」

「あ、あうう……だめ、ですか?」

「質問を質問で返すな……」

 

 ヒバニーは逡巡した。

 どういう訳だか、ラルトスは自分と一緒に寝たいのだという。

 これがほかのポケモンなら断っていたところだが、相手は他でもないラルトスだ。

 異世界から来た仲間として、無下にはできなかった。

 

「……仕方ない。ほら、登れるか?」

「あ、ありがとうございます!」

 

 ヒバニーが先に木のうろに入り、ラルトスを引っ張り上げる。

 2匹が穴の中に収まる。

 ため息をつきながらも、ようやく得られた手掛かりに心を躍らせながら、ヒバニーは眠りについた。

 

 が、ヒバニーはすぐに目を覚ました。

 理由は簡単である。

 

「狭い……」

 

 夜の暗闇の中、目を覚ましたヒバニーがぼやいた。

 木のうろなど、もとより大した広さではない。

 あまり広い寝床はヒバニーの好みではないのだが、かといって木のうろに小さいとはいえポケモン2匹はあまりに窮屈だった。

 安眠などできたものではない。

 すぐ隣のラルトスに目をやる。

 

「えへへ……」

「えへへじゃない。暑苦しいんだが?」

「もふもふ……ふかふか……」

「ほおずりするんじゃない。おい。話を聞け」

 

 ラルトスのそれが会話ではなく寝言であると気づくまで、ヒバニーは一人問答を繰り返すのだった。

 

 

 翌朝、ヒバニーは太陽が昇るのとほぼ同時に動き出した。

 結局昨夜はほとんど眠れなかったが、ポケモンの体は頑丈だ。この程度の睡眠不足なら行動に問題はない。

 それはそれとして、腹は立つのだが。

 

「すぅ……すぅ……ヒバニーさん……」

 

 一発くれてやった方がいいか、とこぶしを握ったヒバニーの耳が、ラルトスの寝言にぴくりと動く。

 いったいどんな夢を見ているのか知らないが、妙に幸せそうな顔をしている。

 普段ラルトスの顔は半分以上が隠れていて見えない。

 瞳は閉じられていたが、初めて見るラルトスの素顔はあどけない子供そのものの顔だった。

 

「……はぁ」

 

 毒気を抜かれて、ヒバニーはその場から立ち去った。

 こんな朝早くにたたき起こすこともないだろう。

 それに、これからする話をラルトスに聞かれたくはなかった。

 群れのポケモンたちはみんなまだ寝ている。

 誰も起こさないように、ヒバニーは静かにゆっくりと歩き回る。

 目的はガルーラだ。

 そうこうするうちに、巨岩の上で胡坐をかいているガルーラを見つけた。

 

「長」

「随分、早いのう」

「あんたもな。どういう風の吹き回しだ? いつもはまだ寝ている時間だろう」

 

 ポケモンは人間に比べ長寿だが、その中でもガルーラはかなりの老体である。

 戦闘力こそ若いころに見劣りするものではないが、一日の内の大半を寝て過ごすようになっていた。

 怪訝な声を出すヒバニーに、ガルーラが笑う。

 

「昨日、あの子がそちらに行ったじゃろう。心変わりでもしたか?」

 

 ヒバニーは閉口した。

 昨晩ラルトスの面倒を見たことを見抜かれているらしい。

 そのことでガルーラに話をしに来ることも。

 ぽりぽりと頬をかいた。

 

「まあ……そうなる、な」

「それは良かった。ようやくお前さんに、信頼に足るものが現れたか」

「……悪いな、長。あんたを信頼してないわけじゃないんだが」

「ほっほっほ。構わんとも。儂は嬉しいのじゃよ……。これからもこの群れで……」

「そのことなんだが、長」

 

 嬉しそうに笑うガルーラの言葉をヒバニーは遮った。

 ガルーラの予想は半分当たりで、半分外れだった。

 己の決意を口にする。

 

「ボクは、この群れを抜けようと思う」

 

 笑うガルーラが、ぴたりと動きを止めた。

 

「……本気か?」

「ああ。今まで……世話になった」

 

 険しい声で問うガルーラにヒバニーは頭を下げた。

 ラルトスのお陰で自分のなすべきことが見えた。

 空間の神を追い、ギンガ団と関わることになる。

 厳しい道のりになることは容易に予想が出来た。

 老いた恩人と、幼いポケモンたちを巻き込むわけにはいかなかった。

 

「そうか……お前さんが決めた事ならば止めはせんよ。無事を祈ろう」

「ありがとう」

「ラルトスはどうする。随分懐いているようじゃが」

「昨日見て、話して分かった。あいつは強くないし、そもそも戦いが向いてない。旅には巻き込めない」

 

 ガルーラは頷いた。

 ヒバニーは8年の間、ガルーラの指導のもと戦闘技術を磨いている。実力差があるのは当然だった。

 

「あいつを頼む」

「うむ。任せておけ」

 

 ヒバニーの頼みに、ガルーラは鷹揚に頷いた。

 

「それじゃ」

 

 ヒバニーは手を振り、くるりと振返った。

 最後にガルーラに挨拶ができただけで上出来だ。

 世話になったな、とつぶやいて、ヒバニーは群れの縄張りから抜け出した。

 もう戻ることはない。

 

 

 

 ヒバニーはギンガ団員の元へと向かう。

 昨日の戦闘から大分時間がたっている。

 流石に目を覚まして行動しているだろうが、人間の足だ。

 そう遠くへは行けないし、体も大きいので足跡などから追跡は可能だろう。

 

 と、思っていたのだが。

 

「まさか、まだ気絶してやがるとはな……」

 

 ヒバニーは呑気に眠りこけている足元の男を見下ろした。

 よくこんなのが死なずにいるものだ。

 このあたりは穏やかなポケモンが多いが、それでも殺しにためらいのないポケモンはいるというのに。

 

 男の様子を改めてよく見る。

 ぼさぼさの黒髪おかっぱ、野暮なメガネをかけた暗そうな男で、服は黒と灰色の体にぴったりとしたタイツのようなものを着用している。

 上半身はその上にベストを着ているのでいいのだが、下半身はタイツそのままなので股間が妙にもっこりしていた。

 

「きったねえ野郎だ……」

 

 人間ならズボン位はけ、とヒバニーは吐き捨てた。

 股間をぐいと踏みつける。

 

「んぐっはあぁあああ!?」

「おら、さっさと起きろ」

 

 痛みに転げまわる男の悲鳴を無視して、ヒバニーはわき腹を蹴り上げた。

 

「ぐわはははっ!? ……な、なんだぜなんだぜ……?」

「おう、お目覚めか」

 

 ようやく目を開けたギンガ団員の男に、ずいと顔を近づけてヒバニーはその中性的な声で、人間の言葉で、できるだけ冷徹に聞こえるようにささやいた。

 無意味に暴力を振るっているわけではない。

 舐められてはならないのだ。

 ギンガ団に関する情報を、できるだけ引き出さなければならないからだ。

 最低でも、組織の指揮系統の中核、幹部のことくらいは知りたい。

 

「お前は昨日の! ……ていうかポケモンが喋ってる!?」

 

 混乱するギンガ団員のすねを蹴る。

 が、ヒバニーはそう悪い気分はしていなかった。

 自分の言葉が人間に通じていることを確信できたからだった。

 『人間語を喋る』というのは、ポケモンにとって至難の業だ。

 言語が違うのはもちろん、ポケモンは口や耳の構造が人間ほど発達していないため、発話の難易度がまるで違う。

 文字を読む、テレパシーで会話をするポケモンさえ少ないのに、話せるとなるともうほとんどいないと言っていい。

 それでもヒバニーが人間語を話せているのは、かつて人間だった記憶と、ポケモンの中では比較的人間に近い姿を取るヒバニーという種族のお陰だった。

 鍛えておいてよかった、とヒバニーはほくそ笑んだ。

 

「質問するのはボクだ。あんたは何も考えず、それに答えろ。さもなくば……わかるな?」

「は……はひぃ……」

 

 情けなくうめいた男に、ヒバニーは満足げに頷いた。

 

「まずは基本的なとこからいこう。あんたは誰だ?」

「いや……俺は、と、通りすがりのポケモントレーナーで……」

「嘘だな」

 

 すねをまた蹴る。

 ずい、とヒバニーが男の瞳を覗き込み、じっと見つめる。

 男はごくりと生唾を飲み込んだ。

 

「呼吸、脈拍、瞳の動き。汗もかいているな。見ればわかる。お前、まだこのボクから逃げられると思ってるな? 嘘を見抜くくらい、訳ないんだからな」

 

 嘘だった。

 ラルトスの情報をもとに鎌をかけているだけである。

 しかし、ギンガ団の男には効果てきめんだったらしい。

 ヒバニーのすごみに気おされた男が狼狽する。

 

「わ、わかった! 俺はギンガ団のアキトだ! 本当だ!」

「始めからそういえばいいんだ。で? ギンガ団がこんな場所に何の用だ?」

「えっと……上司に、『なんでもいいからポケモンを捕まえて来い』って言われて……」

 

 ヒバニーは眉間をもみこんだ。

 意味が解らなかったからだ。

 「ポケモンを捕まえろ」というのはまあ、分かる。

 ポケモンは人に比べ圧倒的に強い。

 人間社会において、ポケモンの所持数はそのまま武力の大きさを意味することは、ポケモンハンター達を観察して予測できていた。

 

 だが、それならばもっと捕まえやすいポケモンがいる。

 ここより少し離れた東の地には「ワイルドエリア」と呼ばれる地域がある。

 そこは、人間に捕まることをよしとするポケモンたちの住まう場所であり、人の知恵を借りてでも強くなりたいという修羅の者たちが集まる土地だ。

 そういったポケモンの方が人をあまり襲わないし、捕まえやすいし、捕まった後も従順だ。

 ヒバニーがいるこの森のような場所のポケモンは平気で人を殺すこともある。

 ただポケモンが欲しいだけなら、ワイルドエリアに行った方がいいのは明白だった。

 

「……ワイルドエリアはどうした」

「同僚に『お前はダメ』って言われたんだぜ」

 

 それは遠回しに死ねと言われているのではないだろうか。

 職場でゴミのような扱いを受けているのかもしれないが、本人にはあまり自覚はなさそうだ。

 ヒバニーは頭を抱えた。

 どうしよう。こいつポンコツかもしれない。

 




クスネ
分類:きつねポケモン
性別:♂♀
タイプ:悪
高さ:0.6m
重さ:8.9kg
特性:にげあし/かるわざ/はりこみ(夢特性)

他のポケモンが見つけた餌をかすめて暮らしている。ふかふかの肉球は足音を立てない。

種族値:40-28-28-47-52-50

豆知識:ふわふわ揺れる赤毛の尻尾が常に地面をなでている。地面そこ換われ、と思った人は多い。はず。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。