ギンガ団のボスになるinガラル   作:サマル

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4話

「………………まあ、いい」

 

 予想以上に使えなさそうだったギンガ団員の男、アキトだが、ヒバニーは気を取り直した。

 一応ギンガ団員だというのは本当のようだし、と情報源としてはまだなんとか使えると判断した。

 

「ギンガ団はポケモンの捕獲以外に、他にはどんな活動をしている?」

「俺、まだ入社して1週間だからそういうのよく分からないんだぜ。機械とかエネルギーが有名ってことくらいしか」

「……」

 

 これ以上下がるまい、と思っていたアキトの株がまた下がる。

 その評価はもはやマイナス方向に天元突破していた。

「いっしゅうかん」ヒバニーは天を仰いだ。「いっしゅうかん……」

 

 つまりアキトは、ギンガ団員としては新米も新米だったのである。

 情報源としての価値すら消え失せた。

 

「で、でも! いい会社なんだ。都会なら働けると思って田舎から出てきたはいいものの、どこにも雇ってもらえず路頭に迷っていた俺に職と飯を恵んでくれたんだ!」

「聞いてない。興味もない。調子に乗るな」

 

 げしげしとアキトのすねを蹴りつける。

 期待外れもいいところだった。

 

「もしかしてヒバニーもギンガ団に入りたいのかいたたたたた痛い痛い」

「そんなわけないだろ」

 

 すねを抑えて涙目になるアキトに、ヒバニーはぺっと唾を吐きかけた。

 

「し、支給のカッチョイイ制服がー!?」

 

 返事を返すこともなく、たださげすんだ目でアキトを見る。

 情報をくれれば人類圏まで送ってやるつもりだったが、こうなってはそのやる気もでない。

 泣きたいのはこっちだ、とつぶやく。

 さっさとその辺のポケモンに食われてしまえ。あとその制服はダサい。

 

「……あ、あれ!? クスネ!? 俺のボールがないぜ!?」

 

 そりゃそうだろう。ボクが捨てたからな。

 内心で吐き捨て、ぎゃあぎゃあ騒がしいアキトを置いて、踵を返す。

 

「結局情報はゼロか。まったく、こんなところ来るんじゃなかった。ま、頑張って帰るこったな。幸運は祈ってやる」

「え……そ、それって……」

 

 クスネに見捨てられたのだ、という現実をようやく理解してアキトが青ざめた。

 人間が一匹で生き抜けるほど、ポケモンの森は甘くない。

 

「ままま待ってくれ!」

 

 ヒバニーは自分の片足が急激に重くなったような感覚を抱いた。

 まさか、と思ってみると、アキトがみっともなくヒバニーの足にしがみついている。

 鼻水がヒバニーの毛皮についた。汚い。

 

「俺一人じゃ帰れないぜ! ま、街まで一緒にいってくれないか!?」

「知るか!」

 

 足を振り回すが、アキトは必死にしがみつく。

 パワーこそヒバニーが上だが、体格ではアキトが大きく勝る。

 振りほどくには体勢が不利だった。

 

「ええい、くそ、この! くっつくな気色悪い!」

「ぐんぬぬぬ……ふんむむむ! 頼むぜ! ご飯おごるから!」

「そんなのでつられるか!」

 

 つかまれているのとは逆の足でアキトの顔を踏みつける。

 ぎゅむぎゅむと顔の形を変えながら、それでもアキトは諦めない。

 

「ギンガ団に紹介する! わかった! なんでもします! なんでもしますから! お願いします!」

「……ん?」

 

 そこでヒバニーは蹴るのをやめた。

 アキトの口走った言葉が気になった。

 

「おい、ギンガ団に紹介するとはどういうことだ」

「俺の所持ポケモンとして申請すれば、ご飯や道具なんかを支給してもらえる制度があるから……」

「だが、ボクはボールに入るつもりはないぞ?」

「それは多分大丈夫。そういう人もいるとは聞いたことがあるぜ」

 

 それを聞き、ヒバニーの脳裏である計画が持ち上がった。

 閃いたぞ。ヒバニーがにやりと笑う。

 

「おい、喜べ。このボクがあんたを街まで送ってやる。いや、なんならそのあとも一緒にいてやる」

「ええ!? 本当なのかだぜ!?」

 

 アキトがぱあっと顔を輝かせた。

 

「ただし、条件がある」

「なんだ? なんでもいってくれ!」

 

 ヒバニーが指を立てる。

 

「1つ。ボクはあんたのポケモンにはならない。表向き、ギンガ団にはそう申請するが、実際は違う。ボクはボクの意志で動く」

「分かった!」

「2つ。ギンガ団のボスになるぞ」

「分かった!」

 

 ヒバニーはずっこけた。

 

「……あのな、意味わかってるか? ボスになるんだぞ、ボスに。んなあっさり……」

「俺も、出世を目指して田舎のハロンタウンから登ってきたクチだからわかるぜ! やっぱり、男なら一国一城の主を目指したくなるってものなんだぜ!」

「勝手にあんたと一緒にするな」

 

 ヒバニーはひどい頭痛に見舞われたようにこめかみを押さえた。

 このアキトという男、絶妙に会話が噛み合わない。

 頭が悪いわけではないのだが、かなり天然の気があった。

 

「いいか。あんたは知らんだろうが、ギンガ団は時空の神、ディアルガとパルキアを狙っている。ボクはパルキアに用がある。そのためにギンガ団とあんたを利用させてもらう」

「つまり、これから一緒に頑張ろうってことだぜ?」

 

 ぱあ、と顔を輝かせるアキトに、ヒバニーは苦い顔をした。

 確かにそういう内容ではあるのだが、そうではないと全力で主張したくなる。

 

「……利用するだけだ。勘違いするなよ」

「うんうん。ヒバニーもギンガ団に入りたかったんだな!」

「おい、やっぱり分かってないだろう」

 

 

 

 時を同じくして、ガルーラの元へ、ラルトスが訪れていた。

 ラルトスの隠された目もとには、泣き腫らした痕がある。

 苔むした大木、その木の根元で2匹は対話する。

 

「あ……あの。ガルーラさん」

「なんじゃ?」

「ヒバニーさんの行き先……本当に知らないんですか?」

 

 ヒバニーに置いて行かれたと知ったラルトスは、まずガルーラを訪ねた。

 彼女からヒバニーがどこに行ったのか教えてもらおうと思ったからだ。

 しかし帰ってきた答えは否。それどころか、帰ってくるかどうかさえも分からないと言う。

 ラルトスは当然のごとく落ち込んだ。

 「この世界が実はゲームを基にした世界である」というのは、その記憶を持つラルトスですら信じ切れていない。

 だが、あの夜、勇気を出してヒバニーに、話した。ヒバニーは信じると言ってくれた。

 受け入れてもらえた。そう思うのも無理はなかった。

 しかし現実には、次の日の朝にはヒバニーは1人で姿を消してしまったのだ。

 

「そう落ち込むな。理由はわからんが、奴は自らがポケモンであることを憂いておる節があった。それ故に、周囲とは距離をとっていたが……。ラルトス。お前さんだけは別じゃった。驚いたよ。奴が助けた子供の面倒を見るところなど、この8年で初めて見た」

「……でも、私、置いて行かれてしまいました。私がヒバニーさんの特別だとは、とても……」

 

 意気消沈するラルトスの頭にガルーラが手を置いた。

 年月を感じさせる大きな手がわしゃわしゃと優しく豪快に撫でる。

 慈しむようにラルトスを見つめていた。

 

「わ、わっ」

「逆じゃよ。お前さんを大事に思っておるから、危険なことに巻き込みたくなかったのじゃよ」

「え……?」

「あんな態度を取っておるが、それでも儂の群れの子供たちは皆奴を慕って居る。性根の優しさがにじみ出ておるからのう」

 

 ガルーラは目を閉じ、ヒバニーと過ごした8年間のことを思い返した。

 襲われている子供に気づくのはいつもヒバニーが先だった。

 助けたい、と顔に書いてあるくせに自分からは言わない。

 そのくせ、一度助けると決まればいの一番に飛び出していく。

 不愛想な面をして、つっけんどんに対応しながら毎日子供たちの安全を確認する。

 優しい心を自ら無理矢理閉ざしているような、そんな印象だった。

 

「……不思議な奴じゃった」

「ガルーラさん……」

 

 ついぞ、ヒバニーはその本心をガルーラに明かすことはなかった。

 ラルトスが心配げにガルーラを覗き込む。

 

「私、ヒバニーさんに恩を返して……ううん、もっとよく、あの人のことを知りたいんです。どうにかなりませんか」

 

 だが、ラルトスならば。

 あるいは、奴の冷え切ってしまった心を溶かしてくれるかもしれない。

 ガルーラは、そう思ってしまった。

 

「……やれやれ。奴からは、お前さんを頼むと言われておるんじゃがのう」

「じゃ、じゃあ!」

 

 希望を持たせるガルーラの言葉に、ラルトスは小さな目を輝かせた。

 

「いや。儂にはどうすることもできん」

 

 ラルトスはずっこけた。

 

「お前さんエスパータイプであろう。ならば今からでも追いつくことはできる」

「本当ですか!?」

「うむ。エスパータイプの奥義『テレポート』を使えば、望む場所へ転移できるはず」

「『テレポート』……。私にできるでしょうか」

 

 目を瞬かせるラルトスに、ガルーラは安心させるように頷く。

 

「かの奥義は、使用者の技量と、念じる思いの強さが正確さと距離をのばすという」

「私! ヒバニーさんへの思いなら負けません!」

「うむ。お前さんなら、きっと修得できるはずじゃ」

「あ、ありがとうございます!」

 

ラルトスはぺこりと頭を下げた。

 

「それで、具体的にはどうやって……?」

「まず行先を強く念じ、サイコパワーによってその場所へ自分を投影するイメージ……と、知り合いからは聞いておる」

 

 言うが早いか、ラルトスは頭の中にヒバニーを強く思い浮かべた。

 紅白の柔らかな毛の温もり、ガラスのようにきれいな瞳、ぶっきらぼうな声。

 場所は分からない。とにかくヒバニーの隣。そこに自分を投影する。

 そんな様子を見てガルーラは笑った。

 

「そうすぐにはできんよ。なに、儂と一週間ほど修行をすれば自然と身につく。ついでに戦いの技術も――」

 

 ラルトスが目を見開いた。

 

「――できた」

「へ?」

 

ラルトスの体が紫の光に包まれてふわりと浮かぶ。

そのことを自覚して、ラルトスは泣き出した。

 

「ガ、ガルーラさん。これ、できてますよね?」

「……。信じられんが、できておるのう」

「……やったぁ!」

 

そういって、ガッツポーズと共にラルトスの姿は虚空へと消えた。

ガルーラが一匹ぽつんと残される。

 

「やれやれ、隅に置けぬ奴じゃのう、あやつも」

 

 ガルーラはほほほ、と笑って手近な、岩に腰を下ろした。

 約束を破ってしまったな、とため息をつく。

 そのとき、突然の胸痛がガルーラを襲った。

 鋭い刃物を突き立てられたような、局所的な痛み。

 ちかちかと視界が明滅し、激しい虚脱感に押しつぶされる。

 

「! っげほ、ごほっ……」

 

 とっさに口を抑えた手には、どす黒い泥のような血がへばりついていた。

 誰かに見られるわけにはいかない。

 ガルーラは急ぎ足で川へ向かった。

 

 川で血を流し終わった頃、群れの仲間のホシガリスが声をかけてきた。

 

「おばあちゃーん! 遊んで―!」

「おうおう、もちろんだとも……」

 

 ガルーラの群れはヒバニーとラルトスを欠きながらも、いつも通りの日常を送っていく。

 

 

 




ガルーラ
性別:♀
タイプ:ノーマル
高さ:2.2 m
重さ:80.0 kg

腹の袋に子供がいるがフットワークはとても軽い。素早いジャブで相手を威嚇。

種族値:105-95-80-40-80-90
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