「これは一大事やで、オグリんとこのトレーナー」
俺の目の前にいる小柄なウマ娘が神妙な面持ちで言う。彼女はタマモクロス、俺が担当しているウマ娘オグリキャップの親友である。
一大事って、一体どうしたんだよタマちゃん。
「タマちゃん呼ぶなっていつもゆーとるやろが!…まあ、その話は後や。オグリがどこかおかしいんや、それは間違いない」
いや、いきなり言われても分からんのだが…?別におかしな所は見当たらないけど…。
「そうだぞタマ、私はどこもおかしくなんかないぞ」
俺の担当ウマ娘であるオグリキャップも隣で同調する。というか本人の前で「こいつおかしい」って言うか?普通。
「いーや絶対なんかあるで。ウチも最初は見間違いやと思ったんや。でもちーっとばかし観察しとったら確信したわ。正直オグリがそないなことするはずない思っとったんやけど」
タマが先程以上に真剣な表情で言う。
「オグリが飯食っとる最中に、一瞬だけ箸を止めたんや」
オグリ!どこか具合でも悪いのか?我慢とかしないで包み隠さずに言うんだ。それとも何かすごく辛い悩みか?俺に言い難いならタマとかクリークにしっかり相談するんだ。いや、でもトレーナーとして担当の悩みを解決出来ないなんて歯がゆい事極まりない、差し支えなければ俺にもちゃんと相談してくれ。あ、もしかして俺に不満があるのか?だとしたらどこが不満なのか教えてくれ直すから。
「ト、トレーナー落ち着いてくれ。別に具合が悪いとか悩みがある訳じゃない」
いや、でもお前が箸を止めるなんてマジで一大事だぞ。些細な事でも良いんだ、教えてくれ。
「特に何も無いぞ、本当だ。おやつを食べる事を制限されているのはちょっと不満だが、私の為なのは理解している」
うん、まあ君がおやつ食べ始めたら止まらないからねしょうがないね。
「オグリ、ホンマに心当たりないんか?今まで箸を止めるなんてなかったやん」
「…心当たりはない。けどご飯を食べている時とかトレーニングで走っている時とかに、ふとモヤッとしたなにかが生まれるんだ」
多分それが原因なんだろうな。オグリ自身原因の詳細が分かってないから、心当たりがないと思ってたんじゃないか?
「…そうなのか?」
いや、君じゃないと分からないよ?
「…そうなのか」
「じゃあオグリ、そのモヤッてした時に頭よぎった事とかないか?それが原因かもしれへんで」
そうだな、教えてくれ。
「ああ、…えっと、ご飯を食べている時は美味しいなって思いながら食べているが、たまにトレーナーと一緒に食べられたらもっと美味しいんじゃないだろうか、って思うんだ。そう思うとなんだかモヤッとする」
うんうん、…うん?
「走っている時はいつも頑張っているんだが、トレーナーが見てくれていると思うともっと頑張れる気がするんだ。でも、モヤッともする」
「…他にモヤッとする時はあるか?オグリ」
「そうだな…。トレーナーが近くにいると、なんというか、言葉にさせにくいんだが、うん、モヤッとした感じがする。それにレース前みたいにドキドキするんだ、レース前とはとは何となく違う。でも、嫌じゃないんだ」
「オグリ、ちょっち待ってな?」
俺とタマはトレーナー室の隅に移動してコソコソ話す。
「なあオグリんトレーナー、あれ確実にそうやろ」
だと思うけど…、これ俺が知って良いの?なんか意図せずって感じで嫌なんだけど…。
「しゃーないやろ、基本オグリは走ってる時以外食いもんの事しか考えてへん様なド天然やで?まさかそないな感情抱いとるなんて考えつかへんわ」
流石に言い過ぎだろ…確かに食い物の事ばっかり考えてたり天然だったりなのは同意するけど。…ほらオグリの事見てみろよ。明らかにこっち見ながら耳ペターンてなってるぞ。
「うわホンマや。つーかアンタのこと見てしょぼくれてんのちゃう?」
否定出来ないな…。オグリ的には俺がタマに取られてる感じなんだろうな。
「誰も取らんわアンタの事なんて。…どないする?直接オグリにこの事伝えた所で『そうなのか?』って返ってくるのがオチやで」
かといってなぁ。このまま放置して精神的に不調になっても問題だしなぁ。タマ、お前から答えを教えてやってくれないか?
「なんでウチが伝えなきゃならんねん。アンタがバシーっと言うたればええやないか」
俺から伝えたらナルシストみたいじゃんか、頼むよ~。
「なあ、2人とも、話はまだ終わらないのか?」
ほら、オグリが捨てられた子犬みたいな目でこっち見てる。今度飯奢るからさ。
「ぐっ…ウチの弱いとこ突きよって…。しゃあない、約束はきっちり守ってもらうで」
流石タマちゃん、頼りになる~。…悪かったから睨むな睨むな。
「オグリ、アンタのそのモヤッとしたもんの正体が分かったで」
「本当か!それで、このモヤッとした感じはなんなんだ?」
「答えはズバリ、恋の病や!」
おお、なかなか直球でいったなあ。
「恋の病…私が?」
「せや。恋の病ゆわれて思い当たる節があるんやないか?」
「…ご飯を食べている時や走っている時にトレーナーの事を思ったり、トレーナーといるとモヤッとした感じと一緒に感じる胸の高鳴りだったりはそういう事だったのか」
そう言った途端オグリの顔が赤みがかっていく。
「そうか、私はトレーナーが、好き…なんだな。そ、そう思うと、急に恥ずかしくなってきたな。す、済まないトレーナー。少し気持ちの整理がしたい。今日はこれで失礼する」
ぎこちなくそう言いながら、オグリがトレーナー室から出ていく。
「あからさまに動揺しとったな、オグリの奴」
でも、意外だったよ。オグリが俺の事を好きだなんて。
「オグリも年頃の娘っちゅう訳やな。あとはアンタとオグリ次第やで、アンタだってオグリの事憎からず想っとんのやろ?なら男見せたれや」
そうだな…ありがとうタマ。
「ウチは契約守っただけや。そっちこそ約束破ったら承知せえへんからな。それとオグリはウチの親友や、悲しませる様な真似したら許さへんからな」
ああ、勿論だ。
「もし悲しませたりしたら、ウチがしばきまわして動けんくした後にクリークに引き渡すわ」
ヤメロォ!?癒されてんのか精神的苦痛受けてんのか分かんないんだよ、クリークのあれは!
「分かるわウチも被害者やし…。最近はでちゅね遊びとかゆうんにハマっとるで…ハハハ…」
ああ、タマよ、被害にあったんだな。目に光が宿ってないぞ…。
哀愁漂う背中を見せながらタマもトレーナー室を出ていった。部屋の外から「あ、タマちゃんやっぱりここにいたんですね~」「うげぇ!クリークぅ!?」という2つの声が聞こえたが、俺は聞こえなかった事にした。
オグリが恋心に気づいてから数日が経過した。実はこの期間、オグリと話していない。俺と顔を合わせるのが恥ずかしいのか、俺を見かける度に脱兎の如く逃げていく。トレーニングの時間になってもトレーニングに来ない。まあ、彼女は食べ物関連以外ではストイックだから自主トレをしているとは思うが、オーバーワークになっていないかが心配だ。それに、素直な彼女は俺が言い付けてあるおやつ制限を頑張って守っているが、如何せん食べ物の誘惑に弱い。目を離した隙に体重大幅増になっていたら頭を抱えるしかない。それにずっと悩んだままなら精神的にも悪影響を及ぼす可能性もある。まだ、答えを出すのに悩んでいるのであれば解消させてあげたい。そういう意味もあるし、この話を決着させるという意味でもオグリと話をするしかない。
ようオグリ、数日ぶりに話すな。
「…!」
俺は食事中のオグリに話かける。いくら恥ずかしくて逃げたかったとしても、オグリは目の前にあるご飯を置いて席を離れる事は出来ないだろうという考えだった。事実、顔を赤らめながら目の前の山盛りになった食事を一瞥し、目をキュッと瞑って耳をぷるぷる震わせると決心したかの様に咀嚼していた物を飲み込んだ。
「…トレーナー、済まない。ここ数日、君の事を避けていた。その、トレーナーが好きなのだと分かってから、君に会うのが、その…と、とても恥ずかしかったんだ」
そうか、それじゃあまだ心の整理はついてないのか?
「まだ、少し…。でも、頑張って今日答えを出す。だから待っていてくれ」
急がなくて良いんだぞ?
「いや、トレーナーから話しかけてくれたのは、私が心配だからなんだろう?君は、いつも私のペースに合わせてくれている。君から急かすような事がある時は、私を心配してくれている時だからな」
…分かった、待ってるぞ。
トレーナー室で仕事をこなし、オグリが来ると思われるトレーニングの時間になるまで待つ。
「失礼する」
ノックしてトレーナー室に入って来たのは芦毛の少女、オグリキャップ。
答えは出たんだな?
「ああ、聞いてくれるか?」
勿論だ。慌てなくていい、ゆっくりで良いからな。
「ありがとう、トレーナー。…私は、トレーナーが好きだ。君と一緒にご飯が食べたい。君とご飯を食べながら、これが美味しいとか、あれが美味しいとか、そう話をしたい。迷惑をかけるかもしれないが、トレーナーの手料理を食べてみたい。上手く出来るか分からないが、君に手料理を作ってあげたい。…私はご飯を食べる事大好きで、食べる事に幸せを感じる。その幸せをトレーナーと一緒に、トレーナーの隣で感じたいんだ。だからトレーナー、その、えっと、私と、…付き…合って、欲しい…」
相変わらず食べ物の事ばかりで、最後の方は真っ赤になってしどろもどろとしていたが、彼女の気持ちは十分すぎる程に伝わった。
俺も沢山食べるオグリが好きだ。何よりも嬉しそうな顔で美味しいそうに、幸せそうに食べる姿が好きだ。オグリが俺と幸せを分かち合いたいと思ったのと同じく、俺も君と幸せを分かち合いたい。だから、俺と付き合ってくれ。
「トレーナー…!」
そう言ってオグリは俺に抱きついて来る。
「そう答えて貰って、すごく嬉しい。そうか…これが恋で、きっと、愛…なんだな。すごくドキドキするけど、幸せでいっぱいな気持ちだ」
オグリが俺の頬に唇を落とす。
「こ、恋人なら、本当は唇にした方が良いのだろうが…、すまない、さ、流石に恥ずかしい…」
顔を赤くして言うオグリ。何だこの死ぬ程可愛い生き物は。
オグリらしくて良いんじゃないか?それよりも、俺たちはトレーナーとウマ娘の関係だ。あんまり大っぴらには出来ないから気を付け…。
「邪魔するでー。…おおう、ホンマにお邪魔やったか。オグリと話付けたか聞きに来たんやけど、どうやら解決したようやな。あ、言いふらしたりはせえへんから安心してな。じゃあウチは邪魔やろうしさっさと出ていくわ」
突然やって来たタマが、今の俺たちを見て何かを察してさっさとトレーナー室を出ていった。
…タマにはバレたけど、言いふらさないって言ってたし大丈夫だよな?ま、まあ周りにはバレない様に気をつけようか。
「そうだな…うん。トレーナー、これから、トレーナーとしても、こ、恋人としても、よろしく頼む」
そういうオグリキャップの顔は、ご飯を食べている時やレースに勝った時よりも、嬉しそうで幸せそうな顔だった。
読了ありがとうございます。
普段はメインウマ娘セリフにカギ括弧、トレーナーセリフは段落一段下げ、地の文(トレーナー心情含み)は普通に書いて他キャラのセリフは地の文に混ぜるという形で書いてるんですが、メインのオグリ並にタマちゃんを喋らせたので今回はタマちゃんもカギ括弧です。
読者の皆様に質問なんですが、作者の作風で見てみたいウマ娘の話ってありますかね?もしいたらコメント欲しいなぁ~、なんて…。
必ずしも書くと約束は出来ませんが、頑張って書きたいと思います。まあ、ウマ娘のアプリで育成可能かつ作者が持ってる娘限定になりますが…。ちなみにファル子とブライアン以外はいます。
以上、コメント乞食でした、許してください…。
追記:今回の話までの誤字脱字等のミスを修正しました。
今後書いて欲しい短編の内容を教えてください
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まだ出ていないウマ娘
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既出のウマ娘で後日談
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既出のウマ娘で別世界線
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コメ欄に要望書くから俺(私)の愛バを書け