俺のこの気持ちは絶対に実る事はない。
俺のこの願いは絶対に叶う事はない。
彼女と俺とでは立場があまりにも違いすぎる。
俺は彼女の様な優駿ウマ娘を育てた実績はあるが、所詮はしがないトレーナー。勿論名家の出身なんかではない。
しかし彼女は様々な重賞レース、ひいては悲願の天皇賞をも勝ち抜いてきた名優。さらには名家メジロ家出身のお嬢様。
だからこんな俺と彼女は釣り合わない。
彼女には俺なんかよりふさわしい相手がいる。
何より彼女が俺を好いてくれる、好いてくれている訳がない。
だから、この気持ちは心の奥底に秘める事に決めた。
人バ一体となって彼女を支える誓いは秘める事無く。
俺の抱く事すら烏滸がましい恋慕という感情だけを。
「トレーナーさん。トレーニングが終わったらお祭りに行きませんか?」
俺の担当しているウマ娘、メジロ家のお嬢様メジロマックイーンが夏合宿の為に組んだトレーニングメニューを一通りこなした後、俺に提案をしてくる。
いいぞ、俺もそのつもりだったしな。
「まあ、ありがとうございます!」
なんか、毎年の夏合宿の恒例になったな。初めて俺と一緒に祭りに行った時にはしゃぐ事を覚えて、去年はそれ以上にはしゃいで。今年はどのくらい羽目を外して楽しむんだろうな。
「もう、そんな意地悪言わないでください!良いじゃありませんか羽目を外したって、楽しいんですもの。それに、少しくらい羽目を外して楽しんだ方が良いと教えたのはトレーナーさんですのよ?」
あはは、そうだったな。じゃあ、午前中のトレーニングは一通り終わったから、後はクールダウンしよう。昼の休憩を挟んだら午後のトレーニングだ。少しだけ軽めにするから終わって準備したら、祭りに行こうか。
「ええ、分かりましたわ。ふふ、今から楽しみです」
午後のトレーニングが終わり、俺とマックイーンはそれぞれが準備の為一旦別れて、合宿所前で再度合流する手筈だ。その際に、
「トレーナーさん。少し準備に時間が掛かってしまいますから、ちょっとだけ待っていては下さいませんか?」
と言われた。勿論二つ返事で了承したが、去年はそこまで時間もかからずに出発した覚えがあるから、なんで今回は時間が掛かるんだ?と疑問を持ちながらマックイーンを待つ。
「お待たせ致しました、トレーナーさん」
おお、来たかマックイー…ン…。
そこに居たのは、髪を一つに纏め上げ白を基調とした浴衣を身につけたマックイーンだった。
「申し訳ありませんトレーナーさん。浴衣の着付けに思いのほか手間取ってしまいまして…。トレーナーさん?」
普段とは違う髪型や浴衣姿に見惚れて呆けてしまう。そんな俺を見てマックイーンが疑問符をつけて俺を呼ぶ。
あ、ああ、済まない。マックイーン、その浴衣似合ってるぞ。それに普段髪を下ろしてるから結んでるのは新鮮だな。
「ふふ、お褒め頂きありがとうございます。トレーナーさんとお祭りへ向かう事を見越して、浴衣の準備や着付けの練習をして正解でしたわ」
まるで俺に見せたかったから、という様な事を言うマックイーン。多分そんなつもりはないのだろうけど。
じゃあ、祭りに向かうか。…ん?下駄も履いてるのか。普段から履きなれてる訳じゃないだろうから、脚に違和感あったら遠慮なく言えよ?
「ええ、そうさせてもらいます」
俺たちはゆっくり祭りの会場へ向かった。
祭りの会場に着いた俺たちだったが、相変わらずの人の多さに辟易していた。
やっぱ祭りなだけあって人も多いな。
「ですが、祭りは賑やかな方が楽しいですわ!」
マックイーンは目を輝かせながら言う。しかし…。
でも、マックイーン今下駄履いてるだろ?こんな人混みじゃあ歩きにくいだろ。前に来た時みたいにはぐれるかもしれないし、どうするかな…。
「あら、そんなの簡単ですわ。こうすれば良いんですもの」
そう言ってマックイーンは俺の手を握る。瞬間俺の心臓は跳ね上がり早鐘を打つ。
「手を繋いでしまえばはぐれる事はありませんわ。なので離しませんわよ?」
マックイーンに他意はない、ある筈がない、あってはいけない。俺はそう自身に言い聞かせる。
そうだな、その方が良さそうだ。これならはぐれる心配は無いし、歩きにくさも多少良くなるだろ。
「どうせ手を繋ぐのですから、離れづらくするためにこうしましょう」
マックイーンが自身の指を俺の指に絡めるように手を握る。いわゆる恋人繋ぎだった。俺の心拍数は更に上がる。ギリギリの所で理性を保つ。
よ、よし…。…それじゃ何処から回る?
「そうですわね、ではあの屋台から……」
そうして俺とマックイーンは色々な屋台を回った。射的や輪投げ、ヨーヨー釣りにくじ引きなどの出し物の屋台。焼きそばやりんご飴、ニンジン焼きやニンジンジュースなどの飲食物の屋台。色々と回った。最初に向かった焼きそばの屋台とは別の屋台に、見覚えのある被り物を頭に付けた芦毛のウマ娘が居たが、俺もマックイーンも絡まれたら面倒だと、意見が一致しそちら側には行かなかったりした。一種のトラブルを未然に防ぎ、祭りの屋台を楽しんでいると、
「そういえば、トレーナーさん。今年のお祭りでは花火が上がるそうですよ?」
と言ってきた。
花火かあ、最近見てないし見たいな。じゃあ、何処か良さげな場所を見つけないとな。
「でしたらご安心下さいませ!事前に花火が良く見える場所を探しておきましたの」
用意周到だな、よっぽど楽しみだったのか。
「はい!」
マックイーンの案内の元、花火が良く見えるという場所へ向かった。
「さあ、この当たりですわ」
花火が何処で上がるのか分からないからなんとも言えないが、周りに高い建物や木も無く、明かりも少ないため花火が綺麗に見えるだろう。
周りに何も無いから花火が上がれば良く見えるだろうな。それに人も居ないし、穴場なのかな?
「他の方が居ないとは思っていませんでしたわね。まあ問題ありません、楽しめれば良いのですから」
そうこうしている内に花火が上がり始めた。距離はそれなりにあったが、充分綺麗に見える。花火を見ていたら不意に右手に圧力を感じる。そういえば今の今までマックイーンと手を繋ぎっぱなしだったと思い、途端に心臓の鼓動が強くなる。何気なしにマックイーンの方を見る。花火の光に照らされたマックイーンの綺麗な横顔…ではなくこちらを見ているマックイーンの顔。
互いに目が合う。
吸い込まれてしまうのではないかと思う程に綺麗な瞳、花火の光の色味とは明らかに違う赤く染った頬、何かを決意したかのように真っ直ぐに結ばれた口元、しかし何かを不安に思っているかの様に垂れた耳。
そして周りには誰もいない、俺とマックイーンだけの世界。
俺の本能と理性がせめぎ合う。
打ち勝った理性が俺に告げる。
このままではいけない
と。
まだ花火はが上がってるけどこれ以上見てたら帰るのが遅くなる、今日は早く帰って休もうか、明日もまたトレーニングがあるからな。
「待ってください!」
矢継ぎ早に言葉を発し、繋いだままになっていたマックイーンの手を引こうとしたが、止められてしまう。いくら彼女が小柄な少女だろうが、ウマ娘であるマックイーンに力では敵わない。いくら引っ張ってもビクともしない。覚悟を決めて彼女の方を向く。
「伝えたい事がありますの」
マックイーンはそう前置きをする。聞きたいという気持ちと、聞いてはダメだという気持ちがぶつかり合う。そんな心情は彼女に伝わらない。彼女は言葉を続ける。
「わたくしは貴方の事が好きですわ。…いえ、愛しておりますわ。いつまでも隣に寄り添いたい、隣に寄り添って欲しいと思う程に。だから、わたくしの永遠の伴侶となってくださいませ」
彼女が俺を好いている、好いていてくれた。その事実が俺の理性を襲う。それでも、俺はここで嘘を付いてでも、拒絶しなければならない。彼女の為に。
…そうか、君の気持ちは嬉しいよマックイーン。でもそれに頷く事は出来ない。
「…何故、ですか…?」
そんな目で見ないでくれ、俺の決意が無駄になってしまう。
当たり前の事だよ。君はまだ学生の身だ、社会人の俺と一緒になる事は許されない。それに君はメジロ家のお嬢様だ、何の変哲もない一般人の俺と婚約だなんて、世間もメジロ家も許すはずがない。仮に一緒になったとしても、世間からは避難されて君の経歴、ひいてはメジロ家にすら泥を塗る事になるんだ。
「そんなの関係ありませんわ!愛する人と共にいたいという願いを、何故否定されなければならないのですか!」
そうか、そんなに思われているとは思わなかった。でも、済まないが、別に俺は、君に特別な感情なんか抱いちゃいない。ただの担当ウマ娘、としか思っていないよ。
言ってしまった。前半は本心だとしても、最後は完全な嘘だ。でも、これが彼女の為になるんだ。
「…嘘、ですわね。トレーナーさん、知っていましたか?貴方が嘘を付く時は必ず目線を右下に逸らしますの。それに左手をご自身の腰に当てます」
…!
「本当の事を教えてくださいまし。トレーナーさんの仰っていたことは重々理解しております。ですが、それでもわたくしは自分の気持ちを貫きたいと思っているのです。それほどまでにわたくしは貴方を愛しています」
お…れは、俺は…、君が…、メジロマックイーンが好きだ。愛している。君のその目が、声が、顔が、性格が、走りが、…全部が好きだ。俺も、君をずっと支え続けたい、ずっと君に支えてもらいたい。だから…。
強い力で頭を引き寄せられる。俺とマックイーンの唇が重なる。
「…そこまで言ってくだされば充分ですわ。というか恥ずかしいくらいです…」
マックイーンはさっき以上に顔を赤く染めていた。
「トレーナーさん、わたくしは貴方と共に幸せになりたい、それだけが願いなのです。そしてそれは、貴方だけが叶える事の出来る願いです。わたくしの願いを叶えては頂けませんか?」
ああ、誓おう。俺は必ず君を幸せにしてみせる。君の幸せこそが、俺の幸せだ。
再び俺と彼女の唇が重なる。今度は俺から。
………さて、帰ろうか。恋人になったからってトレーナーとウマ娘の関係は変わらない、明日からもみっちりトレーニングだ。恋人だからってトレーニングメニューを甘くはしないからな?
「ええ、勿論です!」
でも、それ以外の時は甘えてくれて良いからな?俺も、そうするからさ。
「はい!…今後とも末永くよろしくお願い致しますわ、トレーナーさん」
そう言うマックイーンの表情は、名優というウマ娘としての輝かしい呼び名も、メジロ家のお嬢様という肩書きも、全てを忘れ、ただ幸せを手に入れた一人の女性としての最高の笑顔だった。
後日。俺とマックイーン、主に俺はマスコミの対応に忙殺されていた。どこからか、俺とマックイーンが恋人同士になった事が流出していた。マックイーンはマックイーンでメジロ家の総統である自身のおばあ様に連絡を取ろうとしていた。
なんでこんな事に…。
「おばあ様?わたくしは彼と別れるつもりはありませんわよ?…え?」
開口一番にそう言うマックイーンが唐突にスマホをこちらに持ってくる。どうやらスピーカー機能をオンにしているようだが…。スピーカーから彼女のおばあ様の声が聞こえる。
「トレーナーさん、マックちゃんの事よろしくお願いしますね。誰に似たのかとても頑固ですから、好きな人が出来たら絶対に譲らないのは分かっていました。だからこの子にはお見合い等、こちらからパートナーを紹介するつもりはありませんでした。それと、メジロ家の事など考える必要はありませんよ?一人の女の子としてマックちゃんを幸せにしてあげて下さいね」
一方的にそう告げて通話が切れる。
つまり、メジロ家公認?
「そのようですわ。もう!誰が頑固ですか、誰が!」
プンスカ怒るマックイーン。可愛い。
「おう!やっとくっついたのかお二人さん!全く、一体いつくっつくのかアタシもハラハラしてたんだぜ?」
「ゴールドシップ!?」
歩く災害ことゴールドシップが、いつの間にか窓枠に腰掛けていた。ここ三階だぞどうやって登った。
「ファンの間でもマックちゃんとそのトレーナーがいつ付き合い出すのか心配してたからなー。このゴルシ様が人肌脱いでやったぜ!」
そう言ってゴールドシップが一枚の写真を取り出す。その写真は各社の新聞や雑誌に使われていた俺とマックイーンのキスシーンだった。
「いやー、あんな熱いベーゼを交わすなんてなあ。流石のゴルシちゃんもドキドキしちゃった」
聞きなれない可愛い声でそうのたまうゴールドシップ。
「貴女が犯人ですのねゴールドシップゥ!」
「え?マックちゃん?何?え?そっちに腕は曲がら…ぎゃああああ!?」
トレセン学園中にゴールドシップの悲鳴が響き渡った。
読了ありがとうございます。
やっぱりマックイーンはメジロ家の名前を壁にして書くと書きやすいな!(なお壁どころかハードルにすらなっていない模様)
ちなみにオチは感想を下さった方から参考にさせて頂きました。
アンケートを実施してますので、良かったら投票していってください。
それと感想もお待ちしております。
どちらも作者のモチベーションに繋がります。
次は…どのウマ娘にしよう?
今後書いて欲しい短編の内容を教えてください
-
まだ出ていないウマ娘
-
既出のウマ娘で後日談
-
既出のウマ娘で別世界線
-
コメ欄に要望書くから俺(私)の愛バを書け