今日は休日だ。俺はトレーナーでトレーナー業に日々邁進している。休日も返上する事は珍しくない。だが、自分の担当するウマ娘がレースで勝てば、自分がレースに出て勝利を飾ったと思える程に嬉しいから、休日が無くなろうがなんて事はない。しかし今日は休日だ。担当ウマ娘の休養日と俺自身の休日、更に至近に大きな予定がなく仕事も少ない、これらが重なり今日は完全なオフだった。だからこそ、
…二度寝するか。
きっかり朝5時に目を覚ましたが休日なのを思い出し、至福の時間、二度寝をかますのだった。
「……おい。トレーナー、起きろ。いつまで寝ているつもりだ」
…誰だ?俺を起こすのは…?
聞き覚えのある声によって至福の時間は終わりを告げる。若干寝ぼけているが起き上がり声のした方へ振り向く。そこには俺の担当ウマ娘、エアグルーヴがいた。
「貴様、休日とはいえいつまで寝ているつもりだ」
呆れた目で俺を見てくるエアグルーヴ。休日だというのに身嗜みも完璧で、母親と同じだというアイシャドウを使った化粧もしていつも通り綺麗だ。
…ああ、済まない。ちょっと待っててくれ、今起きて着替えるから。
「たわけ!わ、私がいるのに服を脱ごうとするやつがあるか!着替え終わったら呼べ!」
顔を赤くしながら部屋を出ていくエアグルーヴ。そういえば男性との関わりが少ないんだったか、なら男性への免疫は低いか…。などとポケーっと考えながら未だ覚醒には程遠い状態でダラダラと着替えていく。着替え終わりエアグルーヴを部屋へ呼び戻す。
「着替え終わったか。貴様、まだ朝食を食べていないだろう。待っていろ、私が作ってやる、キッチンを借りるぞ」
そう言って手際良く料理をしていくエアグルーヴ。
「ほら、簡単にではあるが朝食を作った。早く食べろ」
短時間で料理を終え、出てきたのは焼いたベーコンにスクランブルエッグ、トーストに付け合わせの野菜。ザ・朝食といった手軽なものばかりだが、料理の腕が良いのだろう、どれも美味しそうである。
…いただきます。
「ああ。どうだ?味の方は。簡単に作りはしたが味は保証する」
うん、美味い。
「そうか、なら良かった」
そんなやり取りをして、寝ぼけていた頭が回り始める。今更ながら、エアグルーヴに疑問をぶつける。
…なあ、なんでエアグルーヴが俺の部屋に居るん?
「貴様が休日だからと言ってだらしない生活をしていないのか見に来てやったんだ。そしたらこんな時間まで寝ているとは思わなかった、もう9時を過ぎた所だぞ。いくら休日だからと遅すぎだ。それに扉の鍵も開けっ放しだったのだ、不用心にも程がある。今後は気を付けろ」
かなり早口で理由を説明しようとするエアグルーヴ。まるで何かを誤魔化そうとしている様に見えるし、何より質問の答えが答えられてない。
心配してくれてありがとな。だけど、それと俺の部屋に入ってくるのは関係ないのでは?よく掃除しに俺のところに来るし、怒るつもりなんかないから、本当の事を言ってくれよ。
「ぐっ…。朝、こちらから連絡を入れた時に電話に出なかった。その後折り返しもなかったから心配になったのだ。その…体調でも崩したのではないかと」
それで、俺の部屋にまで来たって事か?
「…ああ!そうだ!呼び鈴を鳴らしても応答が無かったからいよいよ心配になってドアノブに手をかけたら鍵が開いていて、無礼を承知で上がらせてもらったんだ!そしたら貴様は…貴様は呑気に寝ておって…!貴様が全て悪いんだぞ!」
連絡や呼び鈴に気が付かなかった俺にも非はあるが、ほぼほぼ逆ギレだった。かなり怒っているのかまた顔を赤くしている。だが、俺を心配しての行動だったので嬉しかった。
そうか、ありがとうエアグルーヴ。…ん?朝連絡したって言ったよな今。その要件はなんなんだ?
「……いや、特に何でもない用事だった。忘れてくれ」
目を逸らして言うエアグルーヴ。どう見ても絶対に何かある。
誤魔化せてないぞエアグルーヴ。そもそもそっちから連絡するなんて今まで殆どなかったじゃん。連絡があった時は大体重要な事だし。
「ぐっ…、大した用事では無かったのは本当だ。……いつも休日には貴様から連絡があって外出をしていただろう。そう、いつも貴様からだ。ふと思い返したら私から連絡する事は無かったのだ。だから…たまには私から誘ってやろうと…」
ほんのり頬を染めながら、こちらを見ることなく言うエアグルーヴ。
…つまり、エアグルーヴからデートのお誘い?
「デッ!?デ、デートなどではないわ!ただの外出だたわけ!何故貴様とデートなど……」
真っ赤になって叫ぶエアグルーヴ。うーん可愛い。
了解了解、せっかくのお誘いを無碍になんて出来ないな。少し待っててくれ、食器片付けてから出掛ける準備するから。
「食器なら私が片付ける。貴様はさっさと準備しろ、待っているだけは座りが悪い」
そいつはありがたいんだが…、俺また着替えるから部屋から出てもらって、待ってくれた方がいいんだけど…。
「………問題ない。ただ手早く済ませてくれ」
いや流石に女性の前で着替えるのはちょっと…。
「私が良いと言ったのだから気にするな!」
あ、はい。
エアグルーヴの気迫に押されて着替えを始めた。その間エアグルーヴは俺の使った食器類を洗っていた。
…なにゆえ顔を赤くしながらチラチラこっちを見てるんですかね?なんでしっかり目を逸らさないのですか?
これについて言及したらまたエアグルーヴが声を荒らげそうだから言わないでおこう。
手早く着替えを済ませると丁度エアグルーヴの作業も終わったようだ。
食器の片付けサンキューな。さ、こっちの準備も終わったぞ。で、本日のご予定は?
「ああ、それなんだが実は決めていないのだ。今日突発的に思いついたからな。トレーナー、貴様は行きたい場所などないのか?」
俺か?うーん、特にはないかなぁ。もともと今日は一日寝てるか、ゲームやるかくらいしか考えてなかったからさ。
「不健康だな。ウマ娘を導くトレーナーとしてどうなんだそれは」
平日はまともなのはエアグルーヴも知ってるだろ。てなワケで、エアグルーヴが行きたい場所でいいぞ。
「それでは貴様が楽しめないだろう」
いやいや、自分の担当ウマ娘の喜びはトレーナーの喜びってな。お前が楽しんでくれれば俺も楽しいってもんだ。それが理想のトレーナーってものだよ。
「フッ、そうか」
強いて希望があるとすれば、エアグルーヴが凛々しい微笑みじゃなくて、女の子らしい可愛い笑顔を見せてくれればもう大満足よ。エアグルーヴは大人びた美人だけど、やっぱり年相応の可愛い所がみたい訳だ。
「フン、可愛げのない女で悪かったな。第一、私にそんなものを求めるな」
表面では不機嫌に見せているが、耳がピコピコ忙しなく動いているし、尻尾もかなり揺れている。多分美人って言ったのが嬉しかったんだろう。珍しく感情だだ漏れである。
「まったく…。では私の希望で良いんだな?では出発するぞ」
エアグルーヴの案内のもと、連れてこられたのは有名なスイーツショップだった。
へえ、意外だな。エアグルーヴがこういう所を選ぶとは。
「失礼な、私だって甘い物は好きだ。それにクラスメイトに誘われて訪れることも多い」
ま、俺も甘い物はかなり好きだしな、楽しみだ。何食う?
「そうだな…無難にショートケーキにブラックコーヒーにしよう」
俺は…ティラミスと…カフェラテにしようかな?…お、なあエアグルーヴこれどうよ?
「ほう…どれだ?…な!?」
俺が指したのはカップル限定のジャンボパフェ。値段と量を考えればかなりお得だし、エアグルーヴが沢山食べても今なら大した問題もないし、俺も沢山食べられるしで良い事づくめだ。それに、エアグルーヴがこれに慌てふためく姿も見たい。
「ふ、ふざけているのか貴様は!?誰が貴様なんかとカ、カ、カップルにならなければならんのだ!」
まあまあ、良いじゃないのさ。エアグルーヴにも分けてあげるからさ。
「そういう問題では…!」
あ、すみませーん。注文良いですかー?
「おい!話を聞け!」
エアグルーヴがまた顔を赤くしながら抗議を続けるが、構わず注文を進める。すると「では、カップル証明して貰ってもよろしいでしょうか?」と店員に言われた。
うぇ?
完全に予想外だった。
「別に私達はカップルでは無い!だからその注文は無しだ!」
どうしたものか。せっかくだからあのジャンボパフェを食べてみたかったのだが、カップル証明をしなければ注文出来ない。…苦肉の策ではあるが試してみるか。ダメなら諦めよう。
エアグルーヴ。一回席から立ち上がって俺の方見ながら手を出してくれない?手の甲を上にして。
「何をするつもりだ?」
エアグルーヴが俺の言う通りにしてくれる。それに対して俺は、
好きですよ、私の愛しい女帝様。
そう言ってエアグルーヴの前に傅き、差し出された手の甲を手に取り口付けをする。
「なななな何をしている貴様!?」
エアグルーヴが真っ赤になって叫ぶ。ここまで過剰に反応するとは思わなかったが、珍しいものを見れたって事で良しとする。
これでどうです?店員さん。
「あ、OKでーす。ショートケーキ一つ、ジャンボパフェ一つ、ブラックコーヒー一つ、カフェラテ一つですね。少々お待ちください」と言って何故か満足そうな顔をした店員が注文を受け取り下がっていく。
注文出来て良かった。ありがとエアグルーヴ。…エアグルーヴ?
「ッ!?こ、今回は許してやる。だが次やったら許さんからな!」
未だ真っ赤のエアグルーヴが俺に釘を刺し席に着く。そしてチラチラと俺が口付けをした手の甲を睨みつけている。そんなに嫌だったのか、ちょっとショックだ…。
その後は持ってこられたジャンボパフェの大きさがなんかメニュー表に書いていた大きさより大きくて、唖然としつつもしっかり二人で食べ切った。
いやー、流石有名なスイーツショップなだけあるな、かなり美味かった!まあちょっと大きすぎた気がしなくもないけど。
「クッ…、緊張で味が全く分からなかった…」
ん?なんか言ったかエアグルーヴ。
「え!?あ、いや、確かに良い味だったなと」
じゃあ次、どこ行く?
「ああ、そうだな…完全に私の趣味だが、フラワーショップに行きたいと思うんだが、どうだ?」
エアグルーヴの行きたい所ならどこまでもお供しますとも。
着いたフラワーショップは沢山の種類の花を飾り、販売していた。
色とりどりで綺麗だな。ここにはよく来るのか?
「ああ、そういえば一緒に来たことは無かったか。ここは豊富な種類の花を扱っているから、それを眺めるだけでも楽しめる。さらに花を育てる上でも良い品が揃っているんだ」
ほうほう…確かに綺麗な花達を見てると心が安らぐな。…お、この花とか綺麗じゃん。
「どれだ?…ゴデチア…!」
ふーんゴデチアっていうのか。エアグルーヴなら花言葉とかも知ってるんじゃないか?
「花言葉は…か…」
か?
「変わらぬ愛…、お慕いいたします…」
なんだって?
「…すまない、ど忘れしてしまった」
ありゃ、珍しいな?
「…私にだってそういった時もある」
それもそうだな。いくらエアグルーヴがめちゃくちゃ優秀でも完璧では無いもんな。
「嫌味のつもりか貴様」
んな訳ないだろ、むしろ褒めてるんだよ。すげー優秀だってな。
「フン、そういう事にしておいてやる」
その後もこのフラワーショップやその他雑貨屋などで楽しいひと時を過ごした。
いやー悪い。すっかり待たせちゃって。
「別に問題はない」
時間は経ち、そろそろ夕方といった頃合だ。
「それより急にどうしたのだ、少し待っててくれなどと言って。何処に行っていた?」
ちょっと買いたいものがあってさ。それを買いに行ってた。
「では何故私に待てと?」
エアグルーヴにこいつをプレゼントしたくてな。流石に店の中でプレゼントするのもどうかと思ってさ。
そう言って一つの花束をエアグルーヴに渡す。
「これはゴデチア…!」
花言葉は、「変わらぬ愛」、それと「お慕いいたします」だったか?
「なっ!?貴様…聞こえていたのか…!?」
いつもの凛々しく堂々としたエアグルーヴも好きだけど、今日は珍しくオタオタしてたからな、つい楽しみたくなって。
「貴様…なんて意地の悪い…!」
そんな事よりも、その花を渡した意味、エアグルーヴなら分かるだろ?
「……分からん」
夕方の赤みとは違う色でエアグルーヴが頬を染めつつ、そっぽを向いて無愛想に言う。エアグルーヴらしいと思いながら、俺は思いの丈をぶつける。
エアグルーヴ、俺は君のことが好きだ。いつも冗談の様に言ってきたが、全部本気だった。だから今日は冗談抜きで言おう。エアグルーヴ、好きだ、俺と付き合ってくれ!
「……」
長い沈黙。
「以前…」
エアグルーヴが口を開く。
「以前…押し花の栞を渡しただろう。それ以来貴様は本をよく読むようになったと言っていた。だからまた、別の栞を渡そうと思っていたのだ。それが…これだ」
エアグルーヴが取り出した栞。それは前と同じ押し花の栞だった。しかし花の種類は違う。その花は、
ゴデチア…?
「そうだ。どうやら考えていた事は貴様と同じだったらしい。…まあ、そういう事だ。私も、貴様を慕っている。親愛ではなく、れ、恋慕としてな」
また真っ赤になるエアグルーヴ。やはり珍しい彼女の姿にまた少し悪戯心が芽生える。
もう少し分かりやすい言葉で言って欲しいかなあ。
「貴様…!」
これで素直に言葉にしてくれれば嬉しいし、怒ってしまったら俺が折れよう。そう思っているとエアグルーヴが近づいて来た。胸ぐらを掴まれた、次の瞬間。
俺の唇に柔らかな感触、目の前にあるエアグルーヴの綺麗な顔。
エアグルーヴからキスをされた。
「…これで分かっただろう。分からないなんて言ったら許さんぞ」
今までで一番真っ赤な顔のエアグルーヴ。それ以上に赤くなっているんじゃないかと思うほどに自身の顔が熱い。これは…。
…参りました。もちろん分かってるよ。
「ならば良い。…これからもよろしく頼むぞ、トレーナー」
やはり彼女は美人だ。そう思わせる彼女の笑顔は堂々と凛々しく、何より美しかった。
読了ありがとうございます。
本来ならエアグルーヴの誕生日に合わせた誕生花にしたかったのですが、しっくり来た花言葉を持つ花が無かったので同じ月の花で妥協しました。
今回だけでもないですが、サブタイトルと内容合ってませんよね…。サブタイトルに合わせて作ってる訳じゃなくて、サブタイトルはなんかカッコつけた感じにしてるだけなので当たり前といえば当たり前ですが…。
今後書いて欲しい短編の内容を教えてください
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まだ出ていないウマ娘
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既出のウマ娘で後日談
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既出のウマ娘で別世界線
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コメ欄に要望書くから俺(私)の愛バを書け