4月4日 14:34 プラネテューヌ ラボ
ホワイトボードにペンが擦れるキュッキュッという音が響く。MAGES.は書き終えてペンを置くと、冷蔵庫からデュクテュアープェップァーを取り出し、椅子に腰かける。
「んくっんくっ、ぷはぁ」
よく冷えた液体が乾いた喉を潤し、独特の香りが鼻を抜けてゆく。来る日も来る日も実験と開発に明け暮れるMAGES.にとって、数少ない至福の時である。
「さてと」
しかし今は余韻に浸る暇もなく、再びホワイトボードの前に陣取る。
「ネプギアは確かに昨日プリンを買い、それをネプテューヌが食べたといった...」
ネプギアのいう事をそのまま信じるのならば、タイムマシンによる過去の改変は成功したという事になる。
「しかしネプギアは、タイムマシンを使った記憶が無いとも言った...そしてユニも同様に...」
MAGES.はあの後、ユニにもタイムマシンを使わせ実験を行った。説得に時間はかかったものの、とにかく実験の数をこなし多くの結果が欲しいMAGES.の熱量に、ユニの方が折れるのは当然ともいえた。
「ユニの方も過去は確かに変わっていた...」
そう言ってMAGES.は、ホワイトボードに書かれた
「しかしユニがタイムマシンを起動した瞬間、私はまた頭痛を感じ気を失ってしまった、だが...」
MAGES.は眉間にしわを寄せ考え込む。
「今回も交通事故は起こっていた、しかし今回は2人は女神化して飛んできたから遅れて来てはいなかった...」
何よりMAGES.を当惑させたのは、改変した過去とそれによってもたらされた副産物とでもいうべき現象にまるで接点を見いだせないことだった。
「プリンと交通事故、カレーのジャガイモと女神...何の関係が...」
MAGES.はソファに深く腰掛け、トレードマークの1つでもある帽子を脱ぎ捨てる。
「わからないことが多すぎるな...」
MAGES.が上を向き大きく息を吐くと、気を引き締めなおす。
「やはり、さらに実験を重ねなければ...!」
4月5日 13:34 プラネテューヌ ラボ
「なるほど、事情は分かったわ、で、なんで私1人だけなのよ!?」
「できれば人数は多い方がよかったのだがな、ネプテューヌは仕事が溜まっているとイストワールに断られ、白の女神は執筆で忙しいと言っていた。緑の女神は新作ゲームの体験会...つまり今日暇なのは助手だけだったというわけだ」
「私だって仕事はあったけど、あなたがどうしてもって言うから来たのよ!あと誰が助手よ!」
昨日実験をさらに行うことが必要と結論付けたMAGES.は、四女神を実験のテスターとして呼んだ。結局来たのはラステイションの女神ノワールだけであったが。
「まあこの際、ぜいたくは言えまい。助手だけで我慢するとしよう」
「人を呼んどいてとる態度じゃないでしょ...あと助手じゃない!」
「では助手よ、さっき言った通り...」
「だから、助手じゃない!」
「じょsy...」
「助手じゃない!!!」
「相変わらず助手と呼ばれると我を失うな、黒の女神よ」
深呼吸をしてようやく落ち着いたノワールに、MAGES.が呆れたように声をかける。
「うるさいわね、私だって好きでこうなってるわけじゃないわよ」
1つ大きなため息をついて、ノワールが続ける。
「でも助手って言われたら、なぜか全力で否定しなきゃいけない気がするのよね...」
「ふむ...何か本能的なものでも働いているのか...?」
と言ってMAGES.は少し考え込む様子を見せたが、すぐに本題に戻る。
「まあ今はそんなことよりもタイムマシンの方だ、黒の女神よ、実験に協力してくれるな?」
そう言ってMAGES.はノワールの肩をトントンとたたくも、帰ってきたのはそっけない返答。
「あ、言っとくけど私、その実験に協力する気ないわよ」
「何っ!?」
ここまで会話の主導権を握っていたのはMAGES.が、初めてうろたえる。
「だって別に変えたい過去なんて無いし」
「か、変えたい過去がなくても、私の言う事をやってくれるだけでも構わないぞ...?」
「そもそももう起きたことをやり直すってのが、私の性に合わないのよね」
「なっ!?」
きっぱりと拒否する姿勢を突き付けられた挙句、間髪入れず発明の根幹を否定されてしまう。
「ほ、ほう...、なかなか面白いことを言うではないか」
引きつった顔でMAGES.が返す。
「そう?結構いると思うけど?同じ考えの人」
「どうしても協力する気はないのか?」
「悪いけど、無いわね」
ここまできっぱり拒否されてしまってはどうしようもなく、MAGES.は落胆の表情を浮かべる。しかしMAGES.とてこのまま黙っていられるほど大人しくはなく、
「そうか、では今日はもう帰っていいぞ、“助手”よ」
そう言って再びノワールの逆鱗に触れるのであった。
4月5日 21:15 プラネテューヌ ラボ
「もしもし、私だ」
「あ、もしもし、MAGES.?」
MAGES.は右手でペンを回しながら左手で電話を取り、5pb.相手に通話を始める。
「あのね、明日のことなんだけど...」
「あぁ、ライブの件か、この間貰ったチケットで入れるんだろう?」
「うん、それで、終わった後のことなんだけど...」
「お前の誕生日祝いも兼ねて、食事に行くんだったな、店はちゃんと予約してあるぞ?」
「ライブの後片付けでちょっと遅くなるかもしれないから、それについて言っておこうと思って」
「なんだそんなことか、時間に余裕はあるから、焦る心配はないぞ」
「うん、ありがとう、MAGES.」
「そうだ、機材に不備は無かったか?」
「大丈夫だよ、だって...MAGES.が作った物だもん」
「そうだな、なんといっても、狂気の魔術師たるこの私が作った物なのだからな!フゥーハハハ!」
「ふふっ、そうだね、......いつもありがとう、MAGES.」
心許せる幼馴染との会話で、互いにリラックスする2人。その後も他愛のない会話を交わし、明日のライブの成功を信じ通話を切った
このペースだと完結するまでに数年かかりそう