Ariadne;Yarn   作:鯨蓮根

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時空迷宮のオーバーチュア

 4月6日 20:41 リーンボックス ライブ会場

 

 

 人々がいまだ冷めやらぬ興奮を顔に浮かべながら、大きな塊となって一斉に駅やバス停に向かう。5pb.のバースデーライブは熱狂の中終わり、すっかり暗くなった中で警備員の赤い誘導棒が輝く。MAGES.はその流れから抜け出し、待ち合わせの場所で5pb.に電話をかけると、数回のコールののち応答。

 

 「はい、もしもし」

 

 「もしもし、私だ、今待ち合わせの場所にいるぞ」

 

 「あ、ごめんねMAGES.、今楽屋を出たところだよ」

 

 「お前...喉は大丈夫なのか?」

 

 数時間歌い続けたため当然ではあるが、少し枯れたような声を発した5pb.をいたわるMAGES.すると5pb.はコホンと咳払いをして、

 

 「大丈夫だよ、ケアはちゃんとやってるから」

 

 「そ、そうか、ならよいのだが...」

 

 MAGES.はその後に、お前が歌えなくなったら私も困ると言いかけ、やめた。

 

 「あ、いたいた」

 

 MAGES.が声のする方を向くと、そこにはステージ衣装を着替え、白のワンピースに変装の眼鏡をかけた5pb.が。

 

 「お待たせ、じゃあ、行こっか」

 

 その声に、MAGES.は少し笑って返した。

 

 

 

 

 

 4月6日 21:59 リーンボックス 市街地

 

 

 今やゲイムギョウ界№1といってもよい5pb.のコンサートの後という事もあり、今宵のリーンボックスの街はいつもより少し騒がしい。MAGES.が見る限り、飲食店はどこも人でごった返している。

 

 「やはり予約を入れておいたのは正解だったな、これも私の灰色の脳細胞が導き出した完璧な(こたえ)...」

 

 「中二病も、ほどほどにね...」

 

 5pb.が苦笑しながら言う。

 

 「私は狂気の魔術師だからな、たとえ近しい運命を持ち、盟友たる5pb.といえど、止めることはできないのだよ」

 

 「あはは...」

 

 プラネテューヌほどではないとはいえ、近代的な街並みの広がるリーンボックス。今日こうしてライブを行った5pb.、そしてMAGES.の故郷であり、そこを久しぶりに2人で歩くことに、MAGES.の心は弾んでいた。

 

 「あっ、ねえねえMAGES.」

 

 「なんだ?」

 

 5pb.が早歩きを始め、見つけた公園の中に入ってゆく、それにMAGES.もついて行き、やがて目に留まった遊具はブランコ。それに腰かけて5pb.が漕ぎ出すと、MAGES.もその隣に陣取る。

 

 「この公園、小さいころ一緒に遊んだよね。懐かしいなあ」

 

 「ふっ、私がまだ機関の陰謀に気付いていなかった頃の話だな」

 

 昔話をしながら、5pb.のブランコは次第に高さ、速さを増してゆき、それと対照的にMAGES.は動かない。

 

 「ふふっ、あの頃のMAGES.には、いつも助けてもらってた気がするなぁ...あっ、今ももちろん助けてもらってるけどね」

 

 「何?」

 

 MAGES.は返す言葉を失った。自分が5pb.に助けてもらった記憶こそあれ、自分が5pb.を助けた記憶はなかった。ましてや、「いつも」など。

 

 「5pb.よ、私がお前を助けていた、といったな、それはいつの話をしている?」

 

 「えー?MAGES.、忘れちゃったの?ほら、昔...」

 

 そこまで5pb.が言ったとき、一発の銃声が響き、直後に地面が音を立て、少量の砂煙が上がる。

 

 「え?」

 

 先ほどまで5pb.の乗っていたブランコは、その操縦者を失いながらも元気に振り子運動を続ける。その光景は金具がきしむ音と相まって、不気味に映ったことだろう。

 

 「5pb.!?」

 

 しかしそんなことを考える時間もなく、MAGES.は5pb.に駆け寄り彼女の身体を抱きかかえる。

 

 「おい!5pb.!5pb.!」

 

 必死に声をかけるも応答はなく、眉間から出る赤い液体が5pb.の顔を濡らし続ける。

 

 「あ、あぁ...はは...」

 

 死んでいる。そのことを理解してしまった脳による信号を、体と心は処理しきれなかった。中腰になっていた体は力なくへたり込み、感情は涙のない嗚咽の後に笑いという感情を選択した。しかし、世界はMAGES.に放心することすら許さなかった。

 

 「MAGES、だな?」

 

 5pb.の遺体とMAGES.を、男達があっという間に取り囲む。軍隊のように統率された動きの後全員銃を構え、その先は円の中心に向けられる。映画のスクリーンから飛び出して来たかのような、あまりにも街中の公園には似つかわしくない光景。

 

 「ぇ...?」

 

 男の言葉から数泊置いて、MAGES.の口を衝いて出た言葉は、春の優しい風にもかき消されそうなほどか細かった。次の瞬間、MAGES.の目には涙が今になってあふれ出し、それと同時に脳も回転を始めた。

 

 「一緒についてきてもらおう、その娘みたいになりたいんだったら、抵抗することを進めるよ」

 

 男達の内の1人が銃口で5pb.を指しながら言う。

 

 男が話す間、MAGES.は自分でも驚くほど冷静に現在の状況を分析していた。男の話から、5pb.は自分との要件に邪魔であったというだけで殺されたのだという事を。

 

 「もっとも、君のような頭の良い子なら、どうすべきかは分かると思うけど」

 

 本来であれば怒りで男たちに向かっていったであろうが、銃に囲まれているという状況を判断したためか、はたまたあまりの悲しみに心が壊れてしまったためか、表面上は大人しくしつつも、MAGES.は自分がすべきことを結論づけた。

 

 (タイムマシンだ、タイムマシンを使って時間を戻せば...)

 

 「おーい、聞こえてる?」

 

 煽るような男の声を聞きながら隙を伺う。相手が銃を持っているにもかかわらず、怖さはほとんど感じなかった。湧き上がる怒りと覚悟がMAGES.を突き動かす。

 

 「......コキュートス」

 

 「ッ!?」

 

 MAGES.の唱えた魔法により、男達を氷塊が襲い1人を除いて一網打尽に。

 

 「チッ!小賢しい真似を...待て!」

 

 (駅前の人流に紛れ込むことができれば、連中を撒きつつ空港に行ける。そしてそのままプラネテューヌのラボに...!)

 

 「逃げるなっ!」

 

 先ほどとは打って変わり、余裕を失った声と同時に再び銃声がこだまする。

 

 「ぐっ!?」

 

 撃たれた。本来なら大事なのだが、今のMAGES.はいわばトランス状態。激痛を訴える左腕を抑えた以外には、何事も無かったように駅に向かって再び走り始める。

 

 「はぁっ...はぁっ...」

 

 日ごろの生活からくる体力不足に加え、左腕からの出血も止まっていない。息はすぐに荒くなり、体全体が限界に近いことを伝えてくるが、それでも足を止めるわけにはいかない。

 

 (駅までは...それまでは持ってくれ...!)

 

 

 

 

 

 4月7日 1:42 プラネテューヌ ラボ

 

 「料金は1500クレジットになりま」

 

 「釣りはいい!」

 

 右手で乱暴に紙幣を渡し、そのまま流れるようにタクシーを降りラボの戸を開け、MAGES.は言葉を失う。

 

 「...戻ってきたか、あいつらも大した事ねーな」

 

 そこにはラボを我が物顔で占領する男達が。しかも武装や口ぶりからして、先ほどの連中の仲間だと推測できた。

 

 「まあ良い、俺たちの手柄が増えるからな」

 

 「なっ!?」

 

 そう言いながら男が銃を構えると、別の男に背後を取られ、後ろ手に拘束される。絶望的な状況。折れそうになる心を無理やり奮い立たせ、男達に問いかける。

 

 「お前達は、何が目的だ!?何のために、5pb.を!」

 

 震えながら吐き捨てるように言うと、男はケラケラと笑った。

 

 「何が可笑しい!?」

 

 「こっちも遊びでやってるわけじゃないんでね、そうベラベラ喋れるワケ無いだろ」

 

 すぐそこにこの状況を一変させうる切り札がありながら、触れることもできない。抑えられる力はどんどん強くなっていき、撃ち抜かれた傷も相まって泣き叫びそうになる。

 

 (5pb....すまない...)

 

 薄れゆく意識の中でそんなことを思っていると、体が持ち上げられる。よく聞こえないが、どうやらここを移動するようだ。

 

 (せめて近いうちに5pb.のもとへ...いや、私は地獄か...ははは...)

 

 その時だった。

 

 「そこまでよ!」

 

 その声がラボ内に響いた瞬間、MAGES.も含めその場にいた全員の動きは止まり、声のしたドアの方を向く。おかげでMAGES.は男の手を離れ、床にダイブ。

 

 「ラステイションの...女神?」

 

 「助...手?」

 

 「助手じゃない...って、まあ今は良いわ、はぁっ!」

 

 そう言うとブラックハート/ノワールは素早い動きで距離を詰めると、男達との戦闘に入る。

 

 「MAGES.!今よ!」

 

 「え...?」

 

 何が起こっているのか整理しきれず、一瞬固まるも、すぐにタイムマシンのもとに誰もいなくなっていることに気付く。満身創痍の身体に鞭を打ち、机に倒れこむようにして何とかたどり着く。

 

 「ッ!させるか!」

 

 「危ないっ!」

 

 男がMAGES.に向けて発砲し、それをノワールが身を挺して防ぐ。

 

 「くっ!」

 

 「ノワール!?血が...」

 

 「私のことは良いから早く!5pb.ちゃんを助けるんでしょ!?」

 

 「!?なぜそれを知っている!?」

 

 「早く!!」

 

 「......っ、分かった!」

 

 聞きたいことはあまりにも多い。しかしこの状況における最善の手はそれを聞くことではない。そう判断してタイムマシンの方に振り返り、設定を行う。

 

 (6時間前に...飛ぶ!)

 

 ケータイ電話の発信ボタンをいつもより力強く押し、タイムスリップの準備が整ったその時。

 

 「かはっ!?」

 

 流れ弾がMAGES.の背中に命中

 

 「MAGES.!」

 

 口から血を吐き、その場に膝をつく。ノワールもいかに女神といえど、1人の人間を守りながら大人数の戦闘員を相手取るには苦しく、MAGES.に攻撃する隙を与えてしまう。しかし、

 

 「私は...まだ......ごふっ、死ぬわけには...」

 

 力の限りを尽くし、叫ぶ。

 

 「飛べえええぇぇぇっ!!!」

 

 MAGES.の視界は暗転し、意識が途絶えた。

 

 

 

 




MAGES.ちゃんと5pb.ちゃんの公式供給をいつまでもお待ちしております
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