Ariadne;Yarn   作:鯨蓮根

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消魂でのエヴァンジェル

 4月6日 17:21 リーンボックス ライブ会場

 

 「うっ...」

 

 視界が歪むのを感じ、MAGES.はその場に膝をつく。そのまま周りを確認すると、5pb.のマークがプリントされたTシャツを着た男性が視界を通り過ぎていった。

 

 「成功...したのか...」

 

 ふと左手に触れると、先ほどまで巻いていたはずのタオルはなく、時計も17時を指している。いつもならこの時点でタイムスリップの成功を確信するが、今回は勝手が違う。迷惑になるとわかりつつも、5pb.に電話をかけ、数回のコール音ののちに聞きたかった声が。

 

 「もしもし、MAGES.?どうしたの?」

 

 「良かった...」

 

 思わず言葉が漏れる。5pb.は不審がっているが、今はそれを無視してでも、彼女が生きているという事実に浸っていたかった。

 

 「?良かったって、何が?」

 

 「いや、いや、いいんだ...また後で」

 

 「?変なの」

 

 通話が終わると、急に涙が溢れてきた。深く深呼吸をし、小さくつぶやく。

 

 「まだだ、まだ何も終わっていない...」

 

MAGES.はポケットに携帯をしまうと、手をこめかみのあたりに当て、頭を落ち着かせる。

 

 「必ず...私が助けて見せる」

 

 

 

 

 

 4月6日 20:40 リーンボックス ライブ会場

 

 ライブが終わり、5pb.のために集まった多くのファンが会場から掃けてゆく。その人だかりを華麗にかわし、MAGES.は1回目と同じ場所、同じくらいの時間で5pb.に電話をかける。

 

 「はい、もしもし」

 

 「5pb...」

 

 「ど、どうしたのMAGES.?もしかしてライブで疲れちゃった?」

 

 しまった、と思った。5pb.を救う事に気を取られ、今の5pb.を心配させるなど、本末転倒である。一つ咳払いをし、いつもの自分に戻る。

 

 「コホン、5pb.よ、私を誰だと思っている。狂気の魔術師たるこのMAGES.が、ライブ程度で疲れるなどという事があると思うのか?」

 

 「ふふっ、そうだよね、でもMAGES.、さっきも電話の時、いつもと感じが違ったから...何か悩み事があるなら、私聞くよ?」

 

 1回目と同様、少し枯れたような声でこの上なく優しい言葉をかけてくれる5pb.。しかし、相談できるはずもなく、その優しさが逆に自分への重りのようにのしかかる。

 

 「いや...大丈夫だ」

 

 絞り出すように強がって見せる。

 

 「そっか、今楽屋出たから、もうちょっと待っててね」

 

 電話越しの声は、少しかすれていた。

 

 

 

 

 

 4月6日 22:00 リーンボックス 

 

 「ねぇMAGES.、具合悪いの?」

 

 「え?そ、そんなことはないぞ。......いつも通りだ」

 

 「ほんとに?ねえ、私でいいなら、いつでも話聞くけど...」

 

 「だから大丈夫と言っているだろ!」

 

 周囲の視線が2人に集まると、考える前にMAGES.は5pb.の手を取り走り出していた。

 

 「どこに行くの!?MAGES.!?」

 

 「......」

 

 5pb.の呼びかけも無視して、不安を振り払うように足を動かす。

 

 (もう少しか...今回は...)

 

 時計をちらりと見ると、人通りが少なくなったところで足を止める。

 

 「ねえMAGES.、こんなところに連れ出して一体どうし...っ」

 

 「ぁ...」

 

 5pb.の身体が、自分にもたれかかってくる。受け止めても、重さを感じない身体が。MAGES.はそっと抱きしめると、ケータイ電話を操作し3日前にタイムスリップした。

 

 

 

 

 

 4月3日 22:03 プラネテューヌ ラボ

 

 タイムスリップの成功を確認したMAGES.は、朝起きた人間が洗面所に向かうかのように自然な動きでタイムマシンの改造を始めた。すでに何回も行っている作業であり、物の2時間程度で完成する。MAGES.はラボから少し離れたコンビニの前でケータイを操作した。

 

 4月1日 0:07 プラネテューヌ ラボ

 

 「...よし」

 

 MAGES.が行っていた改造は、タイムマシンを遠隔操作できるようにするというもの。これにより、5pb.の死を確認してすぐに、リーンボックスにいながらタイムスリップができるようになったのだが...

 

 「ふぅ...」

 

 MAGES.はよどんだ目のままソファに体を預ける。何度目かもわからない長い長いループの中で、本当にいろいろなことを試した。5pb.を無理やり病院に連れて行ったり、眠たくなったふりをしてレストランで粘ったり、ルウィーやラステイションに連れ出したり、ライブ後の待ち合わせにわざと遅れて行ったり。    

 

 そのどれもが、失敗した。5pb.は、世界の定めかのように死んだ。病院に連れて行っても心臓発作による即死では無意味であり、レストランの中に武装集団が乱入してきたり、他の国に行くと待ち伏せを食らい、時間を遅らせれば敵の数は増えていた。

 

 失敗するたびにMAGES.は疲弊していった。タイムスリップにより体は何ともなくとも、5pb.を何回も看取ったことによる心労は計り知れなかった。次第にMAGES.は心の余裕をなくし、それを感づいた5pb.に対する罪悪感により、さらに心にダメージを負う。絶望の迷宮(ラビリンス)に、MAGES.は閉じ込められた。

 

 「......」

 

 そのままMAGES.が瞳を閉じようとした、その時だった。バタンとラボの扉が開くと、MAGES.の視界がまだぼやけているうちに来客が口を開く。

 

 「やっと...会えた...」

 

 「ん...?あえ...?」

 

 眠りかけていた脳が目からの情報を処理し、数秒で息を切らした相手を特定する。

 

 「じょ......しゅ...?」

 

 そこにいたのはラステイションの女神、ノワールだった。

 

 「なに呑気に寝てるの、5pb.ちゃんを助けるんでしょう?」

 

 「なっ...!」

 

 ノワールの言葉は、、間違いなく本来この世界ではMAGES.しか知りえない情報が含まれていた。眠気が消え去った脳は、現在の情報から1つの答えを導き出した。

 

 「お前も...タイムスリップしてきたのか...?」

 

 ゆっくりと、彼女が首を縦に振った。

 

 「とりあえずはそのままでもいいわ、MAGES.、私が今ここに来るまでに起こったことを順を追って話すわ、聞いてくれる?」

 

 「あ、ああ!」

 

 ずっと1人で時空をさまよっていたMAGES.にとって、初めての協力者。彼女は食いつくように肯定を示した。

 

 「まず...5pb.ちゃんが突然亡くなったわ、これは知っているわね?」

 

 今まで観測した無数の5pb.の最期を思い出し一瞬表情が曇るが、MAGES.は首肯する。

 

 「当然ゲイムギョウ界中の人が悲しんだし、陰謀論めいたものも流れたわ...」

 

 MAGES.の様子がいつもと違うと感じたのか、ノワールは子供に話しかけるかのように優しく語っている。

 

 「でもここからが本題、5pb.ちゃんの殺人容疑で、MAGES.、あなたが全国指名手配されたの」

 

 「ぇ...?」

 

 MAGES.がふるふると首を横に振る。するとノワールはMAGES.の手をそっと握り、

 

 「大丈夫、あなたがやったわけないって、ユニ達もちゃんとわかってる」

 

 その言葉でMAGES.が落ち着いた頃合いで、ノワールは話を続ける。

 

 「私と他の女神、それにケイ達教祖も一切聞いてないって言うから、おかしいと思ってみんなでずっとあなたを探してたの。このラボにも何かないか探しに来たけど、棚の一つ一つ全部が荒らされてて...」

 

 「タイムマシンは...?」

 

 MAGES.が恐る恐る問いかける。するとノワールは首を横に振り、

 

 「それも含めて、あなたが作った物はラボから消え去ってた」

 

 「っ......!」

 

 MAGES.は時間遡行を繰り返すうちに、5pb.を何度も葬った男たちの目的に薄々気づきつつあった。しかし、目を背けようとしていた、苦しい現実から。

 

 「...私のせいだ」

 

 

 「え?って、MAGES.!?」

 

 MAGES.はカッターナイフを机の上から取ると、それの切っ先を首元に伸ばす。

 

 (もう...疲れたんだ......5pb.、すまない......)

 

 刃が首元に触れた、その時。

 

 「ドリーク・ソアーク」

 

 どこからともなく声が聞こえると、MAGES.の手にはカッターナイフではなく、ペットボトルのドュクプェが握られていた。

 

 「まだ死なれては困るよ、私。もっとも、まだ私は”死ねない”んだがね」

 

 「誰...?」

 

 狐に包まれたような表情のMAGES.の前に、ほっとした表情のノワールを押しのけて、その人物は現れた。

 

 「ちょっと、押さないでよ」

 

 「フッ、助手よ、少しは状況を考えるべきだ。私のせっかくの登場シーンが台無しではないか」

 

 「どうでもいいわよそんなこと、それよりも、ほら」

 

 「そうだな、そこの死んだ魚のような眼をしている私を、早いとこ狂気の魔術師の眼にしなくてはな」

 

 「まさか...」

 

 そこにいる青髪で泣きボクロの謎の人物とノワールのやり取りに、MAGES.は既視感を覚え、その正体に気付く。

 

 「お、どうやら気付いたようだな、そうだ、私は10年後のお前...狂気の魔術師、MAGES.だ!!」

 

 深夜のラボに、その声はよく響いた。




あと1,2話で終わると思います


新作にMAGES.と5pb.が出てくれるといいなあ...
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