4月6日 21:01 リーンボックス ライブ会場
「はい、もしもし」
「もしもし、私だ、今待ち合わせの場所にいるぞ」
「あ、ごめんねMAGES.、今楽屋を出たところだ...よ」
「そうか、待ってるぞ」
「うん...また後で.........ふぅ...」
廊下の隅で電話を切ったMAGES.は、天を仰ぐような動きをした後でスマホをバッグにしまう。2時間と少しのライブを終えたのち、一息つく間もなくマネージャーと明日の仕事の打ち合わせ。当然MAGES.がそんなことを把握しているはずもなく、無駄に時間を要し当初の予定よりも遅れて過去の自分に電話を掛ける羽目に。
「5pb.は...タフだったんだな...」
ライブ後に自分と会っても疲労の色を一切見せなかった5pb.を思い出し、自嘲気味に呟く。気が抜けそうなところだったが、自分の目的を思い出して大きな伸びをしてから
4月6日 21:40 リーンボックス レストラン
「美味しいね、MAGES.」
スパゲッティを口に運んだ5pb.が、私に微笑みかける。
「ああ、私が選んだ店だからな、当然だ」
私は自信満々に返したが、今日の5pb.はどこか変だ。
「...?ボクの顔に何かついてる?」
「い、嫌何も!」
5pb.が先ほどまで口をつけていた飲み物はドュクプェ。普段なら彼女がそれを選ぶことはなく、苦手としているくらいだ。まあ、好きになってくれたのならそれはそれでよいのだが...。もう一つ言えば、今日の5pb.からはこう...何というか...アイドルとしてのオーラが出ていないように感じる。一ファンとしての勝手な考えだが。
まずい。非常にまずい。ついいつもの癖でドュクプェを注文してしまった。ウエイトレスに言った手前訂正することもできず、「たまには飲んでみようかなと思って」などと苦しい言い訳をしてしまった。思えば、絶対に私がMAGES.だと知られてはいけないにもかかわらず練習の詰めが甘かったのではないか。こんなことを考えている間にも、自分が5pb.らしくない行動をとっているのではないかと心配になってくる。今のところ一人称「ボク」を間違えてはいないはずなのだが...。
「......」
「......」
2人のMAGES.の会話がピタリと止まり、フォークとナイフがさらに当たる音のみがやり取りされる。
(まずい、何か話題を出さねば...)
(5pb.が死ぬ時刻の22時頃までに店を出なければ...)
「「あの...っ!」」
気まずい沈黙が数十秒続いた後、5pb.の格好をしたMAGES.が切り出す。
「......ボクもMAGES.も食べ終わったし、お会計、しよっか...」
4月6日 21:57 リーンボックス 市街地
レストランを出た2人は、つかず離れずの距離を保ちながら夜道に歩を進める。落ち着かない様子で思わず早足になる私を、過去の私はどう見ていたのだろうか。
「ひ、久しぶりだよね、こうやって2人でリーンボックスの街を歩くの」
「そうだな、昔はよく2人で遊んだものだが...」
大きくなるにつれて、私と5pb.が会う機会は少なくなっていた。私は魔法と科学、5pb.はアイドルという別々の道を選んだのだから当然ともいえるが、特にここ最近は一気にスターダムを駆け上がる彼女に引け目を感じ、無意識のうちに避けていたかもしれない。
「こんな風に2人で会う機会を増やしたいものだな...」
「あ...」
その言葉で、私は思い出した。5pb.の死、そしてそれに伴う時間旅行の末にすっかり忘れてしっまっていたが、私は今日5pb.に、その言葉を伝えたかったのだと。私は道の真ん中で動けなくなり、視界がにじんだ。
「5pb.?どうしたんだ?」
過去の私が心配して話しかけてくる。麻痺していたはずの5pb.の死への悲しみが、堤防が決壊したかのように押し寄せてくる。私は自分が何のために5pb.に成り代わっているのかも忘れ、一滴が頬を伝おうとしたその時。
ダン!
それは平穏なリーンボックスの夜にはあまりにも不似合いな銃声。はっとしたのもつかの間、胸元に感じるのは今まで感じたこともないような熱さ。
「え...?」
思わずその熱さの元へと手を運ぶが、何が起こったのかは手を触れた瞬間に襲い掛かる激痛に分からされた。
「ぐ、ああぁぁぁぁっ!?」
撃たれた。苦しい。死ぬ。計画通りに事は進んでいるのだが、そのあまりの苦痛に一瞬「後悔」の二文字がよぎる。
「&%$%#%@*!?」
私を抱きかかえるようにして過去の私が何か呼びかけている。が、何を言っているのかは全く聞き取れない。出血多量のためか、意識が朦朧としてきた。未来の私はこの作戦でお前が死ぬことはないと言っていたが、何せ過去を変えようとしているのだ。何が起こっても...私が死んだとしても何もおかしいことはない。それでも5pb.を救えるのならば、惜しくはない。この狂気の魔術師MAGES.、最後の実け...ん......
私はそこで、瞼を閉じた。
「......ん...ん...?」
眩しい。視界がぼやけ、意識もいまだ覚醒しきってはいない。
「良かった...」
聞きなれた声が聞こえる。思わず首をそちらに向けると...
「MAGES.!」
声の主、5pb.が私に抱き着いてくる。
「おわっ!?」
押し倒される格好となったが、その身体からは温もりを感じ、ループを繰り返す中で幾度となく抱きかかえた彼女の死体とは違う事を認識させられる。
「MAGES.が死んじゃったら、ボクもう立ち直れなかったかもしれないから...ホントに...ぐすっ...」
辺りを見渡しここが病院だと察するとともに、5pb.の言葉から自分が何らかの要因で死にかけていたこ事を知る。
「えーっと、5pb.、今日は何月何日だ?」
5pb.が落ち着いたのを見計らい、自分にとって最も重要な事を問いかける。
「え?えーっとね...」
5pb.は傍らから携帯電話を取り出すと、その画面を私に見せる。
「4月...7日...」
4月10日 12:58 プラネテューヌ ラボ
『今月6日、リーンボックスで発生した銃撃事件について、容疑者の男は"嫉妬によるものだった"などと供述しており...』
春の陽気が確かなものとなってきた4月の午後、MAGES.は薄く汗をにじませながらラボで研究に精を出して...
「ふあぁ...」
いなかった。机に突っ伏し、気の抜けた表情。
「退院してからずっとその調子じゃない?」
ソファの上で雑誌を読んでいた5pb.が呆れたように言う。
「何を言うか5pb.、私はこう見えてもこの灰色の脳細胞をフル回転させてだな...」
「やっぱりあの...タイムマシンだったっけ?あれ壊さなかった方が良かったんじゃない?出来た時、ボクに嬉しそうに話してくれたでしょ?」
5pb.が少し笑いながら、無邪気に言う。
「.........大丈夫だ、私の第六感がアレは必要ないと判断したんだ。それに......」
「それに...?」
MAGES.は何かを言いかけて止めた。
「なんでもない、それよりもあと少しでラジオが始まるぞ」
「あ、本当だ、でもMAGES.と一緒に聴くのは恥ずかしいな...」
5pb.は事件の影響により、少しの間活動を休止している。彼女のラジオ番組『ふぁいらじっ♪』は数回分収録を行っていたため、こうして放送が行われるわけだが。
『5pb.のふぁいらじっ♪』
「お、始まったぞ」
「ふふっ...」
「なんだ?5pb.」
「MAGES.と一緒に居ると楽しいなあって」
「っ...!」
5pb.が笑う。そんな彼女の笑顔を守れたことへの喜びからか口角が上がり、5pb.に背を向ける。
(私がやった事は、きっと正しかったんだよな......きっと)
ふうと息を吐き、5pb.の方を向く。
「わ、私も楽しい...ぞ?」
MAGES.は顔を赤らめながら言ったのだが、5pb.はそれに気づかずこっちに来るように誘う。MAGES.はその誘いにさらに顔を染めながら乗る...そんな2人のやり取りを、開いた窓から入る春の日差しが見つめていた。
『5pb.ちゃんはもし明日世界が終わるなら何をしますか?うーん、ボクは......大切な人と過ごすかな。例えば......従妹のMAGES.ちゃんとか!じゃあ次のコーナーは...』
完結です。閲覧ありがとうございました。