デンドロ遊技派の話   作:桂剥き

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村の今と黒の怪物

□商人宅にて ヘイト・インストロ 

 

 彼の店へと移動して報酬を受け取った後、そのまま去ろうと背を向けた私と馬車の護衛メンバー達だったが、そこを商人の彼に呼び止められると、おそらく商談にでも使うのであろう上等な家具の置かれた応接間に通された。

 

 あまり体験したことのない上等な革の感触に座りの悪さと、なぜ呼ばれたのか分からない不安が混じった居心地の悪さを感じている我々に、テーブル越しに対面した商人の彼の表情はいささか固かった。

 

 そのまま暫くの沈黙の後、ゆっくりと口を開いた商人の彼から語られたのは、村が今の厳戒態勢になるまでの経緯だった。

 

 村の東向こうに広がる山は、王国にあった狩場のようにモンスターも出没する危険な場所であるのだが、そこで採れる木は木材として良質なものであったから、村の人間たちはその山から木を伐採して加工し売買する仕事を行ってきたのだと言った。

 

 モンスターの出る危険な場所によく立ち入れるなと私は思ったが、この村の者たちは大体において屈強であり、戦闘のできるジョブへの適正もそこそこには高かったので何とかなっていたのだという。

 人によっては戦士の高い適正を持つものもいたらしく、村の入口で話した村長などは上級職の大戦士のジョブも持つのだと言う。

 

 あの村人たちの迫力の理由に納得した私に彼は言葉を続ける。

 

 そんな彼らが今の体制をとるようになったのはしばらく前、山のモンスター達との戦闘で違和感を覚えたのが始まりだと言った。

 普段であれば護衛としてついていった村人達で十分対応できていたゴブリンだのサル型モンスターだのの相手が、例えば攻撃を当ててくる精度が上がって手傷を負ったり、普段であれば倒せている攻撃でも相手が倒れていなかったりして戦闘時間が延びたりと手こずるようになっていったのだと言う。

 

 小さい村であるため働き手が怪我で減る事は避けたかった村の者は護衛の人数を増やすなどして対策を行ったが、その厄介者たちは数を増し、更には見たことのない人型のモンスターまでがが出現したのだと言った。

 

 生き物であるというのにその体表には一本の毛もなく、全身がなめし皮のような真っ黒い体皮に覆われた奇怪な見た目のそのモンスターは、看破を行ってもゴブリンなどと判定されたうえでレベルは今までのモンスターより上がっており、動きの速さはレベルの割にはさほどでも無いと言うが、狩人の幾発の矢に撃たれながらも生存し、樵や戦士の斧にも耐えるほどに固かった。

 

 数の差によりそのモンスターを倒すこと自体には成功したが、その討伐のために幾人も手傷を負ってしまっており、更にその謎のモンスターはその後も何体か出現しており、しかも頻度が上がっているのだと彼は語った。

 

 環境の変化が存在するデンドロでは、モンスターの生態系が変わることが無いとは言わないが、いくら何でも変化が早すぎる。

 

 さらにその謎のモンスター達が複数で組んで村を襲うようであれば、戦闘能力を持たない村人達を守り切ることができるかどうかわからない。

 

 その事に危機感を持った村人たちは警戒態勢を敷き、山の異変へと対抗すべく準備を行う事と相成って、商人の彼も村の武器を調達すべく村の外へ出ていたということらしい。

 

 「そこであなた方にお願いがあるのです」

 

 そう真剣な顔で言った彼の願いとは、その異変への解決へ力を貸してほしいという事であった。

 

 無限のジョブ適正と特異なエンブリオの力を持ち、甦るため究極的には死んでもいいマスターの協力があれば事態の解決に大きな助けになるのだろう。

 

 商人の彼が提示したこの異変解決への報酬額はなかなかのものであり、護衛メンバーの彼らはそれを受諾するようだった。

 

 私もそれを受諾するべく、彼が差し出した書類にサインを行うと、手元の画面にクエストのレベルが3である事を表示するアナウンスとクエスト画面への確認の文章が表示されていた。

 

 今回の件はさして難しいものではないらしい。

 

 「そういえば、村の前にいた変な馬車の奴らも今回の件で呼んだ奴なのか? 」

 「いえ、あの方達は違います」

 

 このクエストを始めるにあたり自分たち以外のマスターが気になったのか、盾の彼が商人の彼にそう問うと、彼はそれをやんわり否定する。

 

 彼らは以前から村に木材を買いに来るお得意様なので、木を採りに行けない今の状況では彼らとの商売ができない事を村長が説明すべく出迎えたのだ、と商人の彼は言った。

 

 彼らを出迎えたとき何か困っていた顔だったのはそのためだったか。

 

 「それに…… 」

 「?」

 

 不意に呟いた商人の彼の言葉は最後まで紡がれることなく、私の耳にのみ、かすかに届いて消えてゆく。

 

 その後、彼の口からこの件についての役割分担の相談を持ち掛けられ、メンバー共々対応しているうちに、やがてその言葉のことなど忘れてしまうのだった。




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