理解のあるトレピ君   作:ゆーり

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マックイーンとライアンの選抜レースタイミングとかドーベルのデビュー時期とか、細かい設定はダストボックスにシューッ!


メジロの令嬢

 自分がこんなにも変わってしまったのは、いったい何が原因だっただろうか。

 

『メジロマックイーンが抜け出した! 先頭はメジロマックイーン! 速い! 一バ身、二バ身、差が開いてく! 後続を突き放し、いま一着でゴールイン!! 圧倒的な強さを見せつけました、メジロマックイーン!』

 

 メジロ家の、私の悲願であった天皇賞(春)連覇。才気溢れるライバルに打ち勝ち、盾の栄誉を賜れたことは生涯の自慢になるだろう。かつての自分なら、感涙していただろう大望の成就。

 

 だが、自分が勝ったという事実を認識したとき、浮かんできた思いは悲願達成の喜びでも、心の重石から解放されたという安堵でもなかった。

 

「天皇賞連覇おめでとう、マックイーン。最高のレースだったぞ」

 

 これだ。この笑顔が見たかったのだ。なんと浅ましいことだろう。幼少より目標としてきた天皇賞。メジロ家の願いを、たった一人から認められ、褒めてもらうための場として利用しているのだ。

 

「いかがでしたか、トレーナーさん。私はメジロの家名と貴方に相応しい走りができたしょうか」

 

 正直、家名云々は今更どうでもいいし、なんと答えが返ってくるかも分っている。それでも声にだしてほしい。自分の目を見ながら言ってほしい。それだけで、法悦に体が震え、腰が砕けそうな快感が全身を奔るのだ。この瞬間はなにものにも代えがたい。 

 

「ああ、もちろんだ。お前は俺の誇りだよ、マックイーン」

 

 ……おっと、いけない。脳内麻薬がブシャって公衆の面前で晒してはいけない状態になってしまうところだった。まだだ、まだ耐えろメジロマックイーン。令嬢としての奥ゆかしき仮面を外すのはまだ早い。ウィニングライブも控えている。そこで高貴な美しさを全開にして、トレーナーさんに近づこうとする有象無象の駄バ共を牽制しなければならないのだ。

 

「それにしても素晴らしい走りだった。表情の美しさも相まって、改めて見惚れてしまったよ」

 

 耐えろ、あとちょっと我慢しろ私の表情筋。くっ、ダートや重バ場でもここまでのパワーは要求されませんのに……っ!

 

 このままではだらしなく緩んだ顔を見られてしまう。それはダメだ。いや、トレーナーさんになら全然見られても構わないというかむしろウェルカムなのだが、その他大勢に対してはNGだ。取り繕っている外面もあるし、自分を安売りしてはいけない。

 

「本当に、いつまでも見ていたくなるレースだった。いや、それもマックイーンのこれまでの努力が勝利という結果を結んだからこそか」

 

 精神統一!全身全霊!貴顕の使命を果たすべく!……ふぅ。

 

「さすがに疲れましたわね……」

 

「激しいレースの後だものな。気付けなくてすまない。ライブもあるし、控室で少し休もうか」

 

 疲れたのはレースが原因ではなく、表情筋と格闘しているからですけどね。

 

 そう考えながらターフを去る間際、スタンドを振り返る。鼓膜を破らんばかりの歓声、熱狂とさえ言える会場の空気。今になってやっと、天皇賞を連覇したことの実感が湧いてきた。

 

 

――――――――――

 

 

 勝つためになにが必要か。幼い自分が出した結論は『捨てる』ことだった。弱い自分、甘い自分、情けない自分、持っていても意味はない。使い分けられる器用さもない。おばあさまに至らぬ自分を見せられるはずもなく、メジロの名を持つ同朋たちも究極的には競争相手だ。

 

 ならば、捨ててしまうのが一番手っ取り早い。そうすれば、後に残るのは完璧なメジロのウマ娘だ。強く気高く、堂々と胸を張って歩みを進める。そんな自分だけを残していく。

 

 痛いと思った。辛いと思った。だけどその痛みも、捨てるたびに感じなくなっていく。自分が強くなっているのだと実感できて、さらに捨てていく。

 

 ライアンが、ドーベルが、私を褒め称える。マックイーンこそが、もっともメジロを代表するに相応しいウマ娘だと。ライアンは令嬢らしからぬ自身の性質を卑下して、ドーベルは男性に怯えを抱く自分の弱さを嫌悪して、それらを持たぬ私こそが優れていると言ってくれる。

 

 自分でもそうだろうと思った。そうなるために捨ててきたのだ。不幸自慢で競うつもりなど毛頭ないが、これで劣っているとなればいよいよ能無しだろう。そうやって自身を肯定し、やはりこの道が正しかったのだと頷く。

 

 心のどこかに居る、痛みに蹲り泣いている自分を見て見ぬフリをしながら……。

 

 

 

 

「はっ……、はっ……」

 

 トレセン学園に入学してから幾らかの日が経ち、選抜レースへの出走が間近に迫ってきた。すでにメジロマックイーンの名は学園内でも広く知られており、選抜で結果を出せば、トレーナーによるスカウト争奪戦が始まることが確実視されていた。

 

 それをどこか他人事のように感じながら、トレーニングを続行する。日も沈んでかなりの時間が過ぎ、グラウンドに居るのは自分だけになっていた。誰よりも努力する。それが当たり前になり、疑問に思うこともなくなって久しい。しかし、トレーナーか……。

 

「どういった基準で選ぶべきでしょうか」

 

 メジロの財力を以ってすれば、最高品質のトレーニング器具や環境を用意することは簡単だ。知識や理論も同様ではあるのだが、トレセン学園のライセンス持ちに匹敵する人材となると、そうもいかない。

 

「私に足りない経験を補い、走りの質をより練り上げられること。そして、メジロの誇りに対する共感を得られること。さほど敷居の高い条件とも思いませんが、上辺だけの同調では話になりません。こちらも情報を集め、慎重に吟味すべきでしょうね」

 

 ただトレーニングを施すだけでは足りないのだ。メジロの使命を果たす。その志を理解できる者でなければ、どれだけ高い能力を有していたとしても不要。

 

「最悪の場合は名前を借りるだけのお飾りでも構いませんが、どうせ用意する必要があるのなら、互いの利になる方が望ましいですわね」

 

 自身の天皇賞に対する拘りが少々常軌を逸していることは理解している。ともすれば、天皇賞のためにクラシック三冠などのレースを捨てる方針を取る可能性もあり、受け入れられない者もいるだろう。

 

「効率の面から言っても専属になってくれる方がベストですが、ベテランであればチームを持っていることも多い。案外、難航するかもしれませんわね」

 

 ……まぁ、問題とまでは言えないか。私はこれまで一人でやってきた。これから先、真の意味での同道者が現れないのだとしても、なにも変わらない。己の足だけで立って、踏破できることを証明するだけだ。

 

「おーい、もうすぐ寮の門限だぞー! そろそろ切り上げろよー!」

 

 クールダウンに移るか、いやもう一本と考えに沈んでいると、遠くから声が掛けられた。男性の声ということは学園の職員か。声のほうへ顔を向ければ、スーツ姿の青年がこっちに向かって手を大きく振っていた。

 

「こんな時間までお疲れ様。直向きな努力は感心できるが、それも過ぎれば毒になる。もう部屋に帰って体を休めたほうがいい」

 

 青年のそばまで近づいていくと、優しい声でそう言われた。

 

「心配には及びませんわ。メニューはしっかりと自己管理しています。オーバーワークなどいたしません」

 

 体の成長に合わせてメニューの強度も上げているが、限界の見極めはしっかりしている。まだ幾分の余裕はある。

 

「普段ならそうなのかもな。だが、コーナーで体が外にヨレていたぞ。選抜レースへの意気込みが、気負いになっていないか? 精神の不調は肉体にも影響する。本番で全力を出したいのなら、今は休息の質を高めることに注力すべきかもな」

 

 意外な指摘にしばし呆けてしまった。選抜は公式レースではないが、ウマ娘にとって今後を占う一大イベントだ。知らず知らずのうちに体に力が入っていたかもしれない。

 

「……ご指摘、感謝いたしますわ。ストレッチをして部屋に戻るようにします」

 

 変にプライドを持ちだして反論するほどのことでもない。有意な助言であるなら真摯に受け止めて活かすとしよう。

 

「素直なのは大変結構。俺は今年からトレセン学園に所属することになった新米のトレーナーだ。よろしくな」

 

 なるほど、若い見た目に折り目正しくスーツ姿なのは、彼が新入りだからか。

 

「ご丁寧にどうも。メジロマックイーンと申します。お見知りおきを、トレーナーさん」

 

「よく知ってるよ。次回の選抜レースにおける大本命。勝利が確実視されていて、もっぱら注目されてるのはどういったレース運びをするかだってな」

 

 さすがはトレセン学園のトレーナーたちと言うべきか、見る目がある。

 

「そうですか。なら、貴方もしっかりと私の走りを目に焼き付けてくださいませ。忠言の礼と言ってはなんですが、今できる最高の走りを見せて差し上げますわ」

 

 まぁ、見せるだけでスカウトを受けるつもりなどないが。デビュー前の小娘がなにを偉そうにと思われるかもしれないが、何一つとして妥協するつもりはない。トレーナーも選びうる最高でなければ。

 

「あー、確か最終レースだったよな。なら、見てる暇はないかも。メジロはメジロでも、ライアンをスカウトしたいと思ってるからさ」

 

 ……は?

 

「な、なるほど。自信過剰に思われるかもしれませんが、私のスカウトは競争率が高くなりそうですものね。彼女もメジロの名を背負うに足るウマ娘であることは私が保証します。新米トレーナーが彼女に見合うかは分かりませんが、よろしいのではなくって?」

 

 な、なかなかに身の程を弁えている若者ですわね。私、自分を客観視できる方は好ましく思いましてよ。

 

「え、ああ確かに。俺じゃライアンの相方としては力不足かもなぁ。あの溌剌として性格と心に秘めた勝負根性。汗を流して走る姿には感動したもんだよ。初めて見た時から、メジロからスカウトするならライアンだと思ってたんだよなぁ」

 

 へ、へぇ。まぁこっちも別にお呼びじゃないですし。お好きになさるのが一番かと。

 

「たしかメジロは天皇賞に勝つことを大きな目標として掲げているんだよな。俺、ライアンとなら獲れる気がしてるんだよなぁ」

 

「それは本当に気のせいですわね。ライアンが天皇賞を獲ることはありません。……全て、この私が勝利しますので」 

 

 そういってトレーナーから顔を背けて早足にその場を去る。ライアンに悪感情がある訳ではないのだが、妙な対抗心を出してしまった。恥ずかしいからさっさと帰ろう。

 

 ……歩き去る背に感じる視線は、気のせいだと思う事にした。

 

 

――――――――――

 

 

「マックイーン、是非わたしのチームに! あなたとなら、クラシック三冠も夢ではないわ!」

 

「いいや、俺のチームへ来てくれ! 一緒に天皇賞制覇の夢を果たそうじゃないか!」

 

 危なげなく選抜レースで勝利した私を待っていたのは、名うてのトレーナーたちによるスカウトの嵐だった。まぁ、当然のことである。さて、想定通りの状況ではあるのだが、どうしたものか。

 

「皆様、私にはメジロのウマ娘としての目標があることはご存知ですわね? それを果たすためのプランニングがあなた方に望むことです。その具体案を私に示してはいただけないでしょうか。それを以って、共に歩む方を選びたいと思います」

 

 そう言って期限を伝えると、周りのトレーナーたちはそれぞれに意気込みながら散って行った。随分な大口を叩いているはずだが、特に文句の声がなかったのは期待の大きさの表れだろう。

 

「そういえば、あの新米トレーナーは居ませんでしたわね」

 

 ライアンのスカウトに行っているのだろう。取り囲んできた中には見つけられなかった。

 

「まぁ、お世話になったし陰ながら成功することを祈っていますわ……って」

 

 部屋に帰ろうと歩き出すと、スタンドのベンチにへたり込んでいるナマモノがいた。見間違いでなければ、私よりライアンを選んだ見る目のない新米トレーナーと同じ形状をしている気がする。

 

「貴方、そこでなにをしていますの……」

 

 ベンチからずり落ちたような体勢で虚ろな目をしているのは、やはり先日のトレーナーだった。口を半開きにして呻き声を上げているが、知性をどこかに落してきてしまったのだろうか。

 

「ライアンに、振られた……」

 

 あらまぁ。ライアンにも選ぶ権利がありますものね。残念な結果になってしまい、私も悲しいですわ。

 

「ご愁傷様ですこと。きっと次のよい出会いがありますわよ。その日までに、相手に見合うよう研鑽なされるのがよろしいかと」

 

 少なくとも、そのだらしない姿勢を取らないように気を付けませんと、メジロには相応しくありませんわね。

 

「そういえば、選抜レース一位おめでとう。最後の加速、思っていたより脚が前に出なかったな。体調が良くなかったのか?」

 

 ……っ。

 

「気のせいではありませんか。私の華麗なごぼう抜きをあなたも見ていたのではなくって」

 

「まぁ割とすぐに振られたから見てたけどさ。言っちゃ悪いが勝てて当然の相手だったろう。距離も2000mだ。春の天皇賞で同じことやってたら勝てないぞ」

 

 才気を見抜く心眼はともかく、目の前のレースを分析する目は持っているようですわね。

 

「思ったよりも疲労が抜けていなかったようですわね。私の不徳の致すところです。今後の改善点として心に留めておきますわ」

 

 クラシックやその先まで含めれば競技生活は長い。天皇賞の連覇も視野に入れるのなら、心身のケアも重要な課題だ。気を引き締めねば。

 

「……マックイーンはライアンが天皇賞を獲ることはないって言ってたけどさ、俺は今のままだと逆になると思うぞ」

 

 話を終えて帰ろうとする自分に、そんな声が掛かった。

 

「なにを言ってますの……」

 

 振り向けば、トレーナーはじっと私の脚を見つめていた。

 

「俺は自分ならライアンの背をうまく押してやれると思ってたんだが、お前に必要なのはブレーキとハンドリング役みたいだな。ジュニア級なら敵なしかもしれないが、体とよく相談していけよ。最後までもたないかもしれないぞ」

 

 そう不安を煽るだけ煽って、トレーナーはどこかへ行ってしまった。

 

 ……ただの妄言に決まっている。なのに、ふと見遣った自分の脚が、ひどく脆いものに見えた。

 

――――――――――

 

 あの新米に変なことを言われた翌日、朝練に向かおうとベッドから起き上がると、脚に薄っすらと痛みが走った。猛烈に不安を覚えて主治医に見させたところ、骨膜炎の悪化の兆候があると診断された。以前発症して完治したと思っていたが、そうではなかったらしい。

 

「……くっ、これからという時に」

 

 最高のスタートを切れたはずが、盛大に躓くことになってしまった。長引くようなことになれば、デビューの延期やクラシック戦線の回避も考えなければならない。そうなれば、スカウトしてきたトレーナーたちの多くが自分から手を引くだろう。

 

 健在であることをアピールする必要がある。そう考えていたが、主治医からは『負担を掛け続けていれば、さらに悪化した可能性が高い。よく気付けましたね』と嬉しくもない褒め言葉を貰った。

 

 ……あのトレーナー、加速が伸びないというだけで見抜いたのかしら。いや、そもそも脚が前に出ていなかったというのは、いつの私と比べての話だ。あの夜と選抜レース以前から私の走りを知っていたのか?

 

「マックイーン! 大怪我したって聞いたけど大丈夫なの!」

 

 もしかして、メジロフェチのストーカーだったのか通報しておくかと悩んでいると、ライアンが血相を変えて診察室に飛び込んできた。まだ怪我とは決まっていない段階で連絡が行ったはずなのに、伝言ゲームでも起きたのだろうか。

 

「早とちり、でもないですわね。軽度の骨膜炎です。痛みも大したことありませんわよ」

 

 そう伝えると、ライアンは安心したように胸に手を当てて息を吐いた。

 

「よかったー。マックイーンはそういうの我慢して隠しちゃうからね。取り返しが付かない怪我かもしれないんだから、違和感を感じたらすぐに周りに相談しなきゃダメだよ?」

 

 なぜかぷりぷりと怒り出したライアンに説教されてしまった。いちいち声とリアクションが大きいが、そこが彼女の魅力だ。あの新米もそういうところを気に入ったのだろう。

 

「ライアン、少しよろしいですか」

 

 相性は悪くなさそうだが、なぜ新米からのスカウトを断ったのだろうか。

 

「昨日の選抜レースのあと、スカウトを受けましたわよね。ピカピカのおろしたてスーツに着られている新米トレーナーを振ったと思うのですが、理由を教えていただけませんか」

 

「えっ……ああ。あのヒトかぁ」

 

 思い当たったのだろうライアンの顔は、なにやら複雑な表情をしていた。

 

「もしかして、マックイーンにもスカウトに来たのかな。……断った理由は、なにを見られたのか分からなくて怖かったからだよ」

 

 なにを見られたか分からない?

 

「マックイーンだから言うけどさ。あたし、『勝ちたいと思っていいんだろうか』ってずっと悩んでたんだよ。今になって思えば、他のウマ娘にも失礼すぎる話なんだけどね。昨日の選抜レースで、それを簡単に見抜かれてアドバイスされた」

 

 なるほど。ライアンの快活さの裏に隠れた自己評価の低さに、一戦見ただけで気付いたという訳ですか。

 

「なんでバレたのって思ってからトレーナーさんの目を見るとさ、なんだか自分の全部が筒抜けになってるみたいで怖くなっちゃったんだよね。育成論とか今後のプランはすごくしっかりしてたから、悪いことしちゃったかな」

 

 ライアンは直情的だが頭は悪くない。そのライアンが問題なしというのなら、理論面では及第点ということだろう。……ふむ。

 

「話してくれてありがとう、ライアン。互いに良きパートナーに巡り合って、最高のレースができるよう精進して参りましょう」

 

 診察も終わったことですし、トレーニングルームへ行くとしましょうか。しばらくの間は上半身と体幹のトレーニングですわね。

 

「それはもちろんだけど、マックイーンはまずちゃんと怪我を直すこと!」

 

 ……俵のように抱えられて、ベッドに押し込まれた。ドーベル、来ていたのなら笑って見ていないで助けてくださいな。 

 

 

――――――――――

 

 

「というわけで、あなたを逆スカウトしに参りましたわ。新米トレーナーさん」

 

「悪いが俺はごく一般的な家庭の出でな。高貴な名家の理論跳躍は理解が及ばないんだが」

 

 なに言ってんだコイツという目をして訝しまれているが、一応は熟慮しての結論だ。

 

「骨膜炎が発覚したのにデビューを強行しようとしていることが分かった途端、スカウトしに来たトレーナーたちから手のひらを返されました。私の夢のためにも、無為に足踏みをしている時間はありませんの。そこで、本命に振られて何時までもめそめそしている女々しい新米さんに、救いの手を差し伸べにきたのですわ」

 

「なんだコイツ、すっげぇ上から目線だぞ」

 

 デビューのタイミングはウマ娘に委ねられているが、本格化なども考慮すると先延ばしするにも限界がある。私の全盛期がいつ訪れるか分からない以上、天皇賞に出るための準備は整えておくべきだ。

 

「ですので、あぶれた者同士で仲良くしていきましょう。ああ、お礼なら結構ですわよ。ドラフト一位を確実視されていた選手が球団の読み合いの結果、ほとんど一位指名されず弱小球団に選ばれたようなものですが、押しかけて来たのは私のほうですもの」

 

「いや、ドラフトで言うならお前はメジロの中で四位指名だったんだが」

 

 ふふ、そんなに畏まらなくとも、これからは対等の立場なのですから……ん??

 

「いま、なんと?」

 

 掲示板外しそうな順位が聞こえてきたのですが。 

 

「おまえ、四位」

 

 この、わたくしが、よんい!?

 

「どういうことですの!? いや、三位ならともかく四位ってなんですの! ライアンとパーマーしか候補がいないでしょう!」

 

「まだ選抜レース出てないけど、メジロドーベルが入学してきただろ。あの娘が三位」

 

 私は入学したてのドーベル以下の評価ですの!?

 

「女々しいだけじゃなくて逆張り野郎だったんですの!? 私を担当するという栄誉が与えられるのですよ!」

 

 いったい何の不満があって私の順位が低いのか。

 

「んー、やっぱウマ娘とトレーナーって関係を結ぶならさ、同じ目標に向かって進んで行きたいと思わないか?」

 

 それはそうだろう。見据える先が違っていては致命的な齟齬を生みかねない。

 

「私が天皇賞を目指すことに不満があるのですか? ライアンとなら獲れるとも言っていましたし、天皇賞に挑むのは望むところだと思っていましたが」

 

 あるいは、デビューを強行して危うい状態でクラシック級へ挑むことを受け入れられないのか。

 

「不満というよりは疑念。あと、天皇賞じゃなくてメジロ家に、かな」

 

「……それはどういう意味ですの」

 

 私への不満はともかく、家名を蔑むようであればこっちから願い下げだ。

 

「天皇賞に挑むことは好きにしたらいい。春天なら適正も申し分ないだろう。全力で支えることも吝かではない。けど、それはメジロのためじゃない。俺の担当するウマ娘のためだ。獲ったあとにメジロ家が大喜びするのは勝手だけどな。で、マックイーン。お前はメジロの家を切り離しても、天皇賞への挑戦に本気になれるのか?」

 

 それは……。

 

「私とメジロ家の夢は、もはや切り離せるものではありません。そこに区別も存在しません。私はただ、己に課せられた使命を果たすのみです」

 

 それが私。それがメジロマックイーン。そうでないものは捨てた。もうどこにも残ってはいない。

 

「なるほど、これは重症だな。……うん、分かった。そのスカウト、受けよう」

 

 なぜそれで答えがYESになるんですの。やっぱり逆張り野郎なのかしら。……まぁいい。私のお眼鏡に適わないのなら、怪我が治ったあとに移籍を検討すればいいだけのことだ。




〇新米トレーナー君とメジロ家

おばあさま
「どないしよ。マックイーンが天皇賞に入れ込みすぎて心配すぎる。でも、獲れなくてもいいって伝えると逆に期待されてないと勘違いして余計拗らせそう……」

新米
「Prrrr……。ちょっとメジロさん、いったい孫にどんな教育したんですか! ああいう自己犠牲は許せんのじゃ!」

おばあさま
「おっと『マックイーン』を支えてくれそうなトレピ発見伝。色々としがらみがあってなぁ。私の代わりにあの娘を甘やかしてやってくれんか?」

新米
「ふぁ!? 悪の貴族が洗脳教育してたわけじゃなかったんか」

おばあさま
「真面目で優しい娘やから重く受け止めすぎたみたいでな。今更気にすんなとも言えんのや。孫を頼むで」

新米
「ん、おかのした」

※トレーナーはステータスだのスキルだの前世だのは見えてません。
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