理解のあるトレピ君   作:ゆーり

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トレピ君の主観視点があるのは何気に初めてですね。
中身を見せるとポンコツなのバレれるからね。仕方ないね。

マックイーンもライアンも掛かってはいるが、一息つけば冷静になれるのはメジロ教育の賜物。


灼熱の春

『唯一無二、一帖の盾をかけた熱き戦い! 最長距離GⅠ天皇賞(春)!』

 

 この日が来てしまったか……。

 

「おーい、トレーナー!」

 

「……ん? テイオーか」

 

 相変わらず元気のいい奴だな。

 

「どうせなら最前列で見たいからさ、一緒に応援してもいい?」

 

「久しぶりだな。皐月賞おめでとう。別に構わないが、本当に応援か?」

 

 マックイーンに宣戦布告してるわけだし、もしかしなくても偵察だろう。気の早いことだ。

 

「いやぁ、正直マックイーンへの期待度はちょっと下がってるんだよねぇ。トレーナー契約解除するんでしょ?」

 

 デリカシーがないのか気を遣う対象外なのか、はっきり言うなぁ。

 

「仕方のないことさ。結局、俺はあいつの抱えているものを取り除いてやれなかった。ライアンが上手くやってくれるとは思うが、そうなればいよいよ俺はお役御免だろう」

 

 もともとトレーナーとして突出した実力があるわけでもない若手だ。マックイーンが立ち直れば支えもいらないだろう。

 

「あ、ふーん。なるほどねー。頭悪いので似た者同士だったわけだ」

 

 誰の頭が悪いって?

 

「契約解除ってことはさ、トレーナーはフリーだよね? ボクが拾ってあげようか?」

 

「お前はもうトレーナーいるだろう」

 

「そこはほら、召使いとしてとか?」

 

 そんなもん誰がやるかよ。

 

「大きなお世話だ。せいぜい身の丈に合った相手を探すことにするよ」

 

「ありゃりゃ、振られちゃったか。もうちょい真面目に誘うべきだったかなー」

 

 真面目とかじゃなくて役割の問題なんだが。一応、心配してくれているんだよな?

 

「アホなこと言ってないで、ダービーのことを考えておけよ。実力なら文句なしでお前が勝つだろうけど、故障ってのは才能や戦績なんて関係なく起きるもんだぞ」

 

 こいつの才能に体はどこまで付いていけるのやら。

 

「だから! その不安を煽るのは止めてってば! ……それよりさ、ライアンが本気なのは分かるけど、マックイーンはあれどうしたの?」

 

 あー、あれなー。ライアンはともかくなんでマックイーンまでキレてるんだろうな。

 

「……神ならぬヒトの身では、他者を思い通りにすることはできなかったということだよ」

 

 本当はもっと早くにレースで敗北を経験してもらうつもりだった。

 

 ライバルとのレースを通じて、ウマ娘の本能と走る楽しさを思い出してもらう予定だった。

 

「まさか、クラシック級の連中を歯牙にもかけないとはな」

 

 結果、当初予定していた『マックイーン健全化』計画は頓挫。やだ、私の担当ウマ娘強すぎ。

 

「でも、その担当から外れてニートになるんでしょ?」

 

 ニートちゃうわ。一時的にフリーになるだけじゃ。

 

「あのマックイーンを担当したってことで、結構狙ってる娘が多いみたいなんだよねぇ」

 

 それはいいこと聞いたな。俺の未来は明るそうだ。

 

「……あのさ、もしかして本当にフリーになれると思ってる?」

 

 本当も何もそうなるしかないだろ。

 

「微妙に先見性もないんだ。ボクの予想では勝っても負けてもそうはならないから、隙を付いて唾付けに来たんだけど」

 

 なんだそれ、ばっちぃな。

 

「冗談はここまでにして応援しよっか。これ以上トレーナーをこっちに向かせてるとタダじゃ済まなさそうだし」

 

 ああ、すんごい目でこっち睨んでるものな。

 

――――――――――

 

 あの男、私が天皇賞を走るという時に他のウマ娘といちゃつくとか、どういう神経をしているんだろうか。

 

 ……いや、そういえば契約解除を言い渡したままだった。どうしよう、天皇賞が終わった後に考えをまとめるまで待ってくれるだろうか。

 

「へぇ、レース前にぼーっとよそ見してるなんて、余裕そうだね」

 

 ライアン……。

 

「そちらこそ、随分と気合いを入れて準備してきたようですが、私に勝つ公算はできましたか?」

 

 テイオーのことは後でシメるとして、まずはこの目の前の連中からだ。

 

『さぁ、ゲートインを控えた各ウマ娘たちですが、メジロマックイーンとメジロライアンがなにやら話しています。両者ともやる気の漲ったいい表情をしていますね!』

 

『殺る気が漲ってなければいいのですが』

 

「……あのトレーナーさんとの契約を解除するって噂が流れてるけど本気?」

 

「まだ答えを出し切れていません。全ては盾を獲ってからです」

 

「そう。忠告しておくけどさ、相当狙われてるから取返し付かなくなるよ?」

 

 トレーナーさんはそんな簡単に靡くような男では……、いやどうだろう。案外お調子者だしな。

 

「では、さっさとあなたたちに勝利して、そちらの問題を対処するとしましょう。お覚悟はよろしくて?」

 

 本当に寒さを感じない。自分の裡から、他のウマ娘たちから、燃え盛る熱が生まれていた。

 

 それなりにレースを走ってきたのに、本当の意味では一度も彼女たちと同じ場所に立っていなかったわけだ。

 

 けれど、気付けたのだから遅くはない。彼女たちと向き合い、メジロの使命にケリを付ける。

 

「……君に勝ちたいって思いはいまも変わらない。けど、あたしをちゃんと見てほしいって目的はもう叶っちゃったな」

 

「それについては本当に申し訳ありませんでした。言い訳にしかなりませんが、悪気はありませんでした」

 

 使命を一番の優先事項とした結果、家族すら蔑ろにしてしまっていたことは反省すべきだ。

 

「ううん、本気の君と勝負できる。それであたしは十分だよ。もちろん勝ちは譲らないけどね」

 

「ありがとう、ライアン。あなたたちの『期待』に応えられるよう、私も全力を尽くします。もちろん勝ちは譲りませんが」

 

 そういって互いに笑い合う。これが本来ターフでのあるべき姿なのだろう。

 

『二人とも互いに健闘を誓いあっているのでしょうか。とてもいい笑顔ですね!』

 

『犬歯をむき出しにして睨み合っているように見えますが……』

 

「お、ライアンもマックイーンも気合い入ってるね! でも、あたしも負けないからね!」

 

 パーマー、いたんですのね。

 

「あ、パーマーもいたんだ」

 

「ちょっとそれは二人とも酷くない!?」

 

 まぁ、さすがにライアンのは冗談だろう。私も出走することは知っていたが、ちょっとした意趣返しだ。

 

「メジロ家から家出して好き放題している放蕩娘。ええ、その選択をできることがあなたの強さだというのは分かっています。けれど、それだけでは納得し切れないのも事実。なにが言いたいのかというと、まずはあなたから潰しますね。パーマー」

 

「潰すとか穏やかじゃなくない!?」

 

「あ、ゲートイン始まるね。それじゃあマックイーン、いいレースにしよう」

 

 私も準備しましょうか。

 

「え、ちょっと! 潰す発言は撤回してくれないの!?」

 

 そりゃあ、冗談ではなく本当に潰すつもりですので。

 

 

――――――――――

 

 

『ゲートが開きました。レーススタートです!』

 

「スタートは全員綺麗に決まったね。序盤はパーマーがペースを作ると思うけど、どういう作戦にしたの?」

 

「さぁ?」

 

 奇をてらう必要もないし、いつもどおり三、四番手辺りにつけての先行策じゃないかな。

 

「さぁ、ってどういうこと!? もしかして無策なの!?」

 

 マックイーンに策はあるだろうけど、俺は相談受けなかったからなぁ。

 

「なんで一番大切なレースでそんなことするのさ。本当にアホアホコンビだなぁ」

 

 アホアホちゃうわ。中央のライセンスって頭良くないと取れないんだからな。

 

「そういう事じゃな……て、うそぉ!?」

 

 あらら、これはまた思い切ったことするなぁ。

 

『やはり先頭はメジロパーマー。序盤で大きく後続を突き放……せていません! 二バ身開いて二番手にメジロマックイーン! さらに一バ身開いてメジロライアン。メジロパーマーを逃がしません! 四番手はメジロライアンからも四バ身開いております』

 

『これは、メジロマックイーンが逃げウマを狙い打ったということなのでしょうが、状況が掴めず後続のウマ娘たちもペースを乱されましたね。むしろ、メジロライアンがほとんど動揺を見せずに追従したのはメンタルの強さが伺えます』

 

「ねぇ、こんなペースで走っちゃって大丈夫なの!? 3200mなんだよバテちゃわない!?」

 

 さすがにパーマーを潰して自分も潰れたんじゃ無意味だし、バテないと踏んだんだろう。

 

「レースは駆け引きだ。逃げでこの差じゃ意味がないとパーマーは速度を上げたし、後続はこのペースの維持は不可能と考えて脚を溜めることを選んだ。マックイーンとライアンはパーマーとの距離を維持してハイペース気味に見えるが、これはもうすでに一騎打ちだな」

 

 恐らく、マックイーンもライアンもここから更に加速する。後続は前半であの距離を開けられた時点で追い付けないだろう。

 

 パーマーは全く自分のペースで走れていない。まだ半分も来てないのにスタミナが切れかけてるし、どうやっても最後までもちそうにない。

 

 あとは、マックイーンがどのタイミングでスパートをかけるかだが。

 

「これってマックイーンとライアンのどっちが有利なのかな。やっぱり自分から仕掛けたマックイーン?」

 

「ライアンとも差を開けられればそうだったんだろうが、ぴったり一バ身でついて来てるからな。ライアンはバ群を突破して差せるパワーが持ち味のウマ娘で、この状況は得意ってわけではない。だが、今日のライアンはマックイーンを徹底的にマークして三番手にいる。バ群を抜けるのに力を使わなくていい分、最後までこの展開についていくだけの余力を残せる可能性はある」

 

「つまり?」

 

「五分五分」

 

 これどっちが勝つかなぁ。身も蓋もない才能って意味でも、あんまり差はないだろうし。

 

「えぇ……。もっとこう鋭い読みとか考察をカッコよく披露するとこじゃないの」

 

 そんなもんはない。というか聞く相手を間違ってるだろ。

 

「作戦や状況は関係ない。誰が勝つかと聞かれたら、俺はいつだってマックイーンと答える」

 

 それが担当トレーナーってもんだ。

 

「惚気が聞きたかったわけじゃないんだけど……」

 

「レースは始まってるんだから考えたって仕方がない。ターフで頑張るあいつを信じるだけだよ」

 

 さぁ、第三コーナーを超えて、ここからが正念場だぞ。

 

 

――――――――――

 

 第四コーナーに入った。ここからスパートだ。

 

「フッ!!」

 

 このすぐ後ろから聞こえる息づかい。完全に合わされた。

 

 パーマー対策として採った逃げへの追従。意図せず後続も引き離せたものの、ライアンに対しては効果がなかった。

 

 そしていま、ほぼ同時にスパートを掛けられた。先に仕掛けて状況を動かすつもりだったのに、タイミングを合わされて利点がほぼ消された。

 

「マックイーンッ!!」

 

 後ろからライアンが迫ってくる。押し潰されそうなほどの迫力を持って。

 

 他のウマ娘を全く意識していなかったが故に感じていた孤独と寒さ。意識してしまえば、今度はそれを焼き尽くすほどの熱量。どちらを選んでも体が震えるという結果は変わらなかった。

 

 ……だが、この震えは悪くない。自身へ向けられる嘘偽りのない剝き出しの感情。それに吞まれそうな感覚。

 

 大人たちの寄せてくる、へばりつく様な『期待』に比べれば遥かに爽快だ。

 

 他のウマ娘たちに負けたくないと、本能がそう思っていることを教えてくれる。

 

 呑まれそうになる感覚に追い付かれないよう、さらにスピードを上げる。……なのに。

 

「あたしはッ! 君に勝ちたいッ!!」

 

 後ろから聞こえた声と同時に、自分との距離が更に縮まるのが分かった。引き離せない。

 

『残り200m! 追い縋るメジロライアン! 後続も追い上げますが差は五バ身以上! メジロマックイーンも脚色は衰えません! この一騎打ち、制するのはどちらか!』

 

 また差が縮まった。スタミナは互いに切れかけのはずなのに、ライアンの方が私よりも速い。

 

「……っ!」

 

 脚から一瞬力が抜けそうになる。思った以上に消耗していて、限界が近い。

 

 負けるのか。大事な天皇賞で。やっと、色々なものと向き合うことができたのに。

 

 ……因果応報なのかもしれませんわね

 

 だが、それでいいのかもしれない。たとえ何着であったとしても、全力を出した結果であれば、()()()()は私を褒めてくれるだろう。

 

 ……あのヒト?

 

 そのヒトを、自分は既に切り捨てたのではなかったか。

 

 もうあのヒトの笑顔はなく、『失望』の視線が送られてくるだけではないのか。

 

 一瞬、胸に去来した恐怖から逃げるように、そこへ目を向ける。

 

 いつもの定位置。あの日からずっと、誰よりも近くで私を見守ってくれているヒトが居る場所。

 

「ああ、やっぱりそうですわよね」

 

 ……居た。

 

 切り捨てるような真似をした私に、それでも必死で声援を送ってくれている。

 

 負ける訳にはいかない。

 

 私が敗北するのは因果応報なのかもしれない。だが、私があのヒトの経歴に負けを付けさせていい訳がない。

 

 それに、どうせ褒めてもらうなら勝ったことも褒めてほしい。

 

 踏ん張りの効かなくなっていた脚を叩き起こすようにターフを蹴る。倒れてしまいそうなほどな体に前傾するのを、倒れるより先に脚を踏み出して無理矢理前に進める。

 

「ライアン! 私もあなたたちに負けたくありません! 全力で勝たせてもらいます!」

 

 息が上がる。汗が止まらない。歯を食い縛らなければ、立っていられない。でもっ!

 

 貴方にカッコイイ私を見てほしいから、頑張ります!

 

「だから、後でたくさん褒めてくださいね、トレーナーさん!!」 

 

『残り100m! メジロマックイーン落ちない! 勢いそのままに突き進む! メジロライアン、それでも迫る! 並びかける!』

 

 これでもまだ詰め寄られるのか。それでも、それでも!

 

「勝つのは私です!」

 

『メジロマックイーンさらに伸びる! 差が開く! 残り一バ身が縮まらない! そのまま両バ衰えず、今ゴール!! 勝利したのは、メジロマックイーン!!』

 

 頭のなかが真っ白になるくらいの全力。けれど、体の中から昇ってくる熱とそれを冷ますように吹き抜ける風の心地よさは、一生忘れられないだろうなと思った。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「おめでとう、マックイーン。やっぱり君は強いね」

 

 息を荒げ、大量に汗を流しながら、それでもライアンは笑顔で私の勝利を祝ってくれた。

 

「ライアン。こちらこそ、本当にありがとう。あなたが私に本気でぶつかって来てくれたから、気付くことができました」

 

 そうでなければ、大切なものを捨ててなにもかも失くしてしまっていたかもしれない。

 

「あたしのことはいいよ。レースっていう自分の全てを出す場所でお互いの心を確かめたんだ。これまでのことに悔いはない。それに、あたしたちは家族なんだ。これからいくらでも話せる機会がある。だから、今は一番大切なことをしないとね?」

 

 そうだ。天皇賞は終わった。正式な手続きはまだでも、次の担当を探すことはなんの不義理にも当たらない。急がなくては。

 

 そう思い応援席に目を向ける。トレーナーさんは何一つ変わらず、私を見て笑ってくれた。

 

「トレーナーさん!」

 

 その優しさに、いまだけは甘えてはいけない。

 

「契約を解除するなんて言ってごめんなさい!」

 

 私は強くなんてなれていなかった。それが分かってしまった。折角、レースの楽しさを思い出せたのに、支えてくれるヒトがいないんじゃ走れない。

 

「もう寒さは感じないけれど、貴方に一番近くに居てほしい! 貴方に一番見ていてほしい! だから、これからも私のトレーナーさんで居てください!」

 

 いまさら都合の良いことを言っていることは分かっている。ウマ娘としてダメダメだったし、メジロ家のことで迷惑を掛けるかもしれない。でも、責務よりも、使命よりも、貴方が傍に居てくれないことが一番耐えられない。だから、どうか……!

 

「もちろんだ、マックイーン。俺はお前のトレーナーだからな。ずっと一緒だ」

 

「あぁ、トレーナーさん」

 

 ごめんなさい。ありがとう。きっと、貴方に相応しいウマ娘になってみせますから。

 

「さぁ、まだライブが残ってるんだ。最高のお前を見せてくれよ?」

 

「はい! いってきますね、トレーナーさん!」




パーマーは良い感じの笑顔でターフに倒れてます。

〇トレピ君とテイオーとメジロ家

トレピ君
「ぱ、パーフェクトコミュニケーション(震え声)」

テイオー
「そりゃあマックイーン視点ではそうかもしれないけど、かなり行き当たりばったりじゃない? ところで、その隣の不審な格好した泣いてる変態は誰なの?」

トレピ君
「メジロ家当主のおばあさま。変装までして現地見学とはご苦労なこって」

テイオー
「ええっ!? あの悪の組織メジロの首領にして、血も涙もない冷酷非情な女傑と噂の?」

おばあさま
「勝″て″て″よ″か″っ″た″よ″ぉ″! マ″ック″イ″ー″ン″ッ!! ラ″イ″ア″ン″も″か″ん″は″っ″た″ね″ぇ″」

テイオー
「ええ……」

トレピ君
「俺も最初勘違いしてたけど、マックイーンとライアンとパーマーのとこの当主だからなぁ。ほらほら、ライブも見るんでしょ。泣きすぎると体力持ちませんよ」

おばあさま
「み″る″ぅ″!!」

これにて完結です。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
と言いたかったのですが……
マックイーンへの甘やかしが入ってないやん! どうしてくれんのこれ?
とも思っているので、ぽろっと後日談的なのは書くかもしれません。
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