支援部は医療部と同じ階にあった。受付のカウンターにはやはり頭に動物の耳が生えた女の人が座っている。
「すみません。この子の為に宿舎の空いてる部屋を探してるんだけど……。」
「こんばんは。お名前は?」
「あ、えっと、カミルです。」
「カミルさんですね。ついさっきケルシー先生から連絡がありました。部屋は手配してあります。え~と、3階の355号室です。こちらが鍵です。」
「ありがとうございます。」
「それと、オペレーター用の衣服の予備が部屋にありますので、少しサイズが合わないかもしれませんが今日と明日はそれを着てください。あと明日の朝は医療部の者が迎えに行くので部屋で待っている様に、という事です。」
「分かりました。」
「へえ~。僕の部屋と同じ階だね~。」
「プロヴァンスさん、カミルさんを部屋まで案内して下さいますか?」
「もちろん!最初からそのつもりだよ~。」
「ありがたいです。お願いします。」
「俺は先に部屋に戻ってもいいかな?」
「大丈夫だよ~。」
「じゃあお先に失礼するね。」
「じゃあね~。」
レオンハルトはそう言うとどこかに行ってしまった。
「よし、僕たちも行こうか。」
*
「ここが君の部屋だよ。」
「あ、ありがとう。私の為にいろいろしてくれて……。」
「全然大丈夫だよ。カミルも何か吹っ切れたみたいで良かったよ。今日はシャワーを浴びてご飯を食べたらすぐに寝るんだよ。」
「うん。分かった。」
「僕の部屋は314号室だから何かあったらいつでも来てね。じゃあまたね~。」
プロヴァンスと別れた後、私は鍵を開けて部屋に入った。中は奥行きのある部屋で、中央にはテーブルとイス、奥の壁際にはデスクがあって、部屋の一番奥は窓がある。窓の手前にあるのはベッドだろうか。左の壁にはクローゼットがあるようだ。反対側にはドアが2つある。あと、照明の数のわりには妙に明るい。手前の扉を開けると、そこは簡単なキッチンがある。奥の扉の中はバスルームだった。
シャワーを浴びて着替えるために、クローゼットを開けてみる。中には服が数着入っている。その中から寝巻と下着を出して、バスルームに向かう。
バスルームには洗面台、トイレ、シャワーと浴槽、洗濯機がある。私は服を脱いで洗面台の鏡で改めて自分の体を観察してみる。少し瘦せた体だ。身長は前とほとんど変わらない。
角は手前から長いのが1本、短いのが2本の左右合わせて6本が、こめかみの上の方から斜め後ろに向けて伸びている。長いのは割と平たく、中央辺りでギザギザしてから、先端にいくに連れて急に細く尖っている。
尻尾は根本の太さは5cm程で、長さは1mくらい。仙骨の上から生えている。尻尾に意識を集中すると、割と細かい動きもできる。不思議な感じがするけど、練習すれば第三の手として使える様になるかも知れない。
……改めて見ても綺麗な顔だ。元の顔とは似てもつかないので違和感を感じるけど、慣れていかなければいけない。
自分の体を見るのもそこそこにして、シャワーを浴びる。
(気持ちいい……。)
3日ぶりに浴びるシャワーは温かく、とても心地よい。私は温かいお湯をたっぷり堪能した。
バスルームを出てしばらくすると、部屋のドアがノックされた。すぐにドアを開ける。
「失礼します。カミルさんですね?食事を届けに来ました。」
「はい。」
「食べ終わったら食器は台車ごと部屋の外に置いておいて下さい。後で回収しておきます。熱いので気を付けてくださいね。」
「ありがとうございます。」
料理を受け取ると、ふわっといい香りが立つ。口の中に溢れてきた唾を飲み込み、料理をテーブルに並べる。
料理はロールパン、シチュー、サラダの三種類。私が何も食べてない、と言ったのをケルシー先生は覚えてくれていたのか、どれも量は結構多い。
「い、いただきます。」
シチューを一口食べると、豊かな香りと濃厚な肉のうまみ、仄かな甘みが口の中に広がる。
「美味しい……。」
もう一口。体の芯から広がる温かさに、思わず涙がこぼれる。
温かい食事はこんなに美味しいものだったのか。最近はずっと作り置きの冷たい食事しかしていなかった。
シチューの中に入っている肉を口に含むと、舌の上でほろりととろける。
サラダは、レタスの様な野菜にドレッシングがかかった物だ。味や食感はレタスとほとんど変わらないけど、微かにハーブの様な香りがする。パンはふわふわで、焼き立ての様な香ばしい香りがする。
一口一口をゆっくりと噛みしめながら食べる。
温かい食べ物でお腹が満たされる感覚に、改めて生を実感した。
食べ終わると、満腹感からかすぐに眠くなってきた。
食器を台車ごと廊下に出した後、貰った薬を傷に塗って部屋の電気を消し、ベットに潜り込む。ふかふかでとても寝心地が良い。
私の意識はあっという間にに闇に沈んでいった。