IS×UC~可能性の獣は無限の成層圏を駆ける~ 作:ガノタなエクセル
続きの催促が来るレベルだとは思わなかったので急に感想届いた時はほんとにびっくりしました。
あの時催促の感想くれた人!俺やったよ!
ナイトテーブルに備え付けられた小さな照明のみが儚く灯る部屋。
2つあるベッドにそれぞれ腰掛けながら向かい合う少年少女は一言も話さず、重苦しい空気が包む。
シャルルがシャワーから戻り、この状態になってからもうどれほど経ったのだろうか。実際は数分程度なのだが、まるで1時間以上も時間が過ぎていると錯覚してしまう。
「ごめんね。」
ぽつりと零れた言葉に一夏は反応できなかった。
なぜ、わざわざ男のふりをしていたのかわからないが、別段謝られるほどのことでもないと思っているから。
だからこそその謝罪に対する疑問を呈する。
「僕は正真正銘女で、世界に1人しかいない男性IS操縦者のデータを収集するために派遣された産業スパイだよ。」
曰く、デュノア社は量産型第二世代ISであるラファールを生み出しISシェア世界第3位の大企業ではある。
だが、第二世代のISの量産だけで終わっている会社でもある。
IS企業は国から援助を受けて開発を行なっている。
そんな中未だに第三世代の完成の目処が立たない企業に援助を贈る余裕などあるのだろうか。
そう、デュノア社は経営危機に瀕している。
そこで目を付けたのは
自分の娘を男性として送り込むことで世界で2人目の男性IS操縦者という広告塔兼織斑一夏に近づきやすくさせ、情報を収集させようとしたのだ。
「でもそれもおわり。」
「おわりって……どういうことだよ?」
「性別を偽ってまでスパイをしに来たんだよ。それがバレた今、もうこの学園にいることはできない。」
「いることは出来ないって……それじゃあお前はどうなるんだよ。」
「フランスに強制送還。その後はよくて牢屋行きかな。」
そう自嘲気味に話すシャルル。彼女の説明に納得がいかなかった。
一夏に両親はいない
だが、自身の姉である千冬から確かな愛情を受けて育った彼からすれば娘をまるで道具のように扱い使い潰す親がいるのかと疑ってしまいそうになる。
「そんな……自分の娘だぞ?それを道具みたいになんて……そんなの……」
「ありえない?まあ、普通の子供ならそうだったのかもね……」
普通なら その言葉の真意について問う前に彼女から答えが返ってきた。
「僕は妾の子供なんだ」
時が止まった
そう錯覚してしまうほどに一夏の脳は停止してしまった。
「僕の母は愛人でね……
*
僕と母さんは2人で暮らしていたんだ
母さんが言うには僕には父がいるらしいけど父親とは一度も会ったことがない
それを寂しいと思わなくはなかったけど、それでも優しい母と静かに過ごす日々は楽しかった
そんな日常がずっと続くものだと思ってた
僕の人生が変わったのは母さんが死んだ時
悲しみに明け暮れ、茫然自失となっていた僕の前にあの人は突然現れた
僕の父親だと名乗るその人はすぐに僕をある場所に連れて行った
それはデュノア社
僕の父親はデュノア社の社長だったんだ
僕が愛人の子だっていうことを知ったのはその時
凄く緊張したし不安だった
けど、これからの生活に少し心が踊ってたよ
それからの日々はとても素晴らしいと言えるものじゃなかった
どちらかと言えば最悪な、地獄の日々かも
父と親交を深めようと話しかけても淡白な返事が返ってくるだけでほとんど避けられてたし
本妻からは虐められることはなかったけど邪険に扱われた
そのことで僕はひとりなんだと感じてしまって毎日枕を涙で濡らした
ある日、僕のIS適正が高いことを知った父は僕をデュノア社専属のパイロットにした
それからは父との会話が増えたんだ
社長と社員の関係を思わせるようなものだったけど僕からすれば父との
家族との唯一の繋がりだったんだ
血の繋がりはあるはずなのに可笑しいよね
そしていつものように呼び出された僕に父は言ったんだ
「初の男性IS操縦者である織斑一夏に接触する為に、お前にはこれから2人目の男性操縦者としてIS学園に行ってもらう。」
正直言ってる意味を理解できなかった
あまりにも突然のことだったし、なにより
「2人目の男性IS操縦者って……もしかして男のふりをしろってことですか!?」
男のふりなんて僕ができるわけない
そんなことやってもすぐに化けの皮が剥がれてしまう
拒否、否定の言葉が溢れ出てくるけど僕はそれを吐き出すことはできなかった
父との唯一の繋がりを切りたくなんてなかったから
そうして生まれたのが
*
織斑一夏は激怒した。
これほどまでに家族の愛を求めている少女に対してなにも応えない父親に対して
否
「お前はどうしたいんだよ……」
「どうしたいって、もうどうしようもないよ。僕に選ぶ権利なんてあの時から……」
「無い訳ないだろ!!」
親の愛 自分の人生何もかもを諦めている彼女が許せなかった
「自分の思いを、自分の願いを主張する権利は誰にだってあるんだ!今のあんたは全てを諦めて自分の可能性を殺してる!それじゃあダメなんだ!」
「そんなこと……そんなこと言ったってじゃあどうしろって言うのさ!今の僕は犯罪者で罪も君にバレてしまった!あとはもうフランスに強制送還!それから僕は投獄されてデュノア社は倒産!それしかもう無いんだよ!」
「だからって自分の人生を、幸せを諦めていいのかよ!デュノア社のスパイじゃない、1人の女の子としてのお前の本心を教えてくれ!」
「そんなの学校にいたいに決まってるだろ!みんなと一緒に授業を受けていたい!そして学校であったことを父さんに話して笑い合いたいよ!」
「なら信じるんだ。自分の願う未来を、自分の可能性を。君が誰だって構わない。助けてって言ってくれ。そしたら俺は。」
君を助けてみせる
「助けて……助けてよ一夏……」
か細い声で呟く彼女の目から溢れる涙
彼女を助けると言った、彼女の力になると決めた
自分ができることは、自分が為すべきは
「IS学園特記事項第22:本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意が無い場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする。」
「それって……」
「全部で55個あるIS学園の特記事項。そのうちの1つさ。かいつまんで言えば、少なくとも学園に在籍している3年間は平穏が約束されるってことだ。」
「今の俺じゃこうやって時間稼ぎする為の方法を提案することしかできない。けれどその3年間で俺は俺にできることならなんでもやる。だからシャルルも自分の可能性を信じてくれ。」
ありがとう
涙で顔を濡らしながら感謝を述べた彼女の笑顔は
今までで一番輝いていた
*
夜も更け、もうすぐ日付が変わるかという時間。
一夏は隣のベッドで涙の跡を微かに残した寝息を立てる少女を起こさないようにと慎重になりながら部屋を出た。
音を立てずに扉を閉めた一夏は長く伸びる廊下を突き進む。明確な目的地があるかのように確かな足取りで歩いていた彼はとあるドアの前で立ち止まり、ノックした。
「誰だ。消灯時間はとっくに過ぎているはずだぞ。」
扉越しなためかややくぐもってはいるが、その凛とした声色は一夏自身何度も聞いた声だ。だからこそ彼女が少し酔っていることもわかってしまい気が抜けてしまう。
「俺だよ千冬姉。話したいことがあるんだ。」
扉の外から声をかけて数秒経ち、ドアが少しだけ開けられた。
「一夏か、早く入れ。こんなところを見られたら教師と生徒の逢瀬と勘違いされる。」
ドアの隙間から顔だけ出した千冬は目の前の弟を確認し、ドアを開け放つ。
「逢瀬って……俺たち姉弟だぜ?みんなわかってるだろうしさすがにそんなこと思う人いないだろ?」
「あまり年頃の娘どもの妄想力を無礼ない方がいい。姉弟どころか兄弟ですら恋愛関係に発展させる妄想をする奴もいるからな。」
そんな訳ないだろう
彼女の話ぶり的にも半分冗談ぐらいの感じっぽそうだし気にする必要などないと思ったが、つまり半分は本気で言ってるんだ。そんなことに気がついてしまったため、冷や汗を感じながらノーコメントを貫く。
ドアを入った中、織斑千冬の部屋はまさに凄惨な現場だった。
あたりに散らばるゴミや着替えのせいで足の踏み場を確保するのも困難を極めており、机の上にはビールの缶が散乱している。
「千冬姉……いくらなんでも部屋が汚過ぎだろ……」
「仕方がないだろう。私が全く家事が出来ないのはお前も知ってるはずだ。」
「だからって限度があるだろ、下着まで床に置きっぱなしにして……女子力とは言わないからちょっとぐらい生活力無いと嫁に行けないぜ?」
「ずっとお前に世話をしてもらうからな。問題ない。」
「世話って……俺が卒業したら無理だろ。千冬姉基本的に家に帰らないんだし。」
姉弟の他愛無い会話を重ねながら唯一スペースが確保されているベッドに隣り合って座る。それからすぐ千冬は今まで優しい笑顔を浮かべていた顔を普段学校で見せる顰めっ面に変え、話を切り出した。
「それで、私と会話をしたいだけというわけでは無いだろう。用は何だ。」
一夏もまた千冬の言葉を受け、顔を引き締める。
脳裏に浮かぶはシャルルが最後に浮かべた笑顔
彼女の力になると決めただろと自身に喝を入れ、一夏はシャルルのことを話し出した。
彼女が男のふりをしてIS学園に入学し、世界でただ1人の男性IS操縦者である自分のデータ収集を行っていたことを
彼女がデュノア社長の愛人の娘という情報は話さない方がいいかと考えたが、下手に隠しても自分の姉ならば直ぐに勘づいてしまうだろうと思いそれを含めたシャルルから聞いた話の全てを千冬に語る。その間千冬は何も喋らずただ静かに話を聞いていた。彼女のその態度に自分が求める言葉を言ってくれる筈だ、自分の味方でいてくれる筈だと信じてはいるが、どこか不安を感じる。
「だからシャルルが父親と分かり合うために千冬姉の力を貸してくれ。」
「そうか……報告感謝する。お前の証言をもとにシャルル・デュノアを拘束しフランスに強制送還させよう。」
話を全て聞いた後の彼女の言葉はあまりにも事務的で無機質だった。
一夏自身千冬がこう言うことはなんとなく思っていた。なんなら情に厚いというわけでも無い大人であれば大体そう言うだろうとわかっていた。だが、それではダメだ。それじゃあ
「それじゃあシャルルもお父さんも救われない、分かり合えない!」
「さっきから言っているが分かり合えないとはどういうことだ?」
「シャルルもお父さんもお互いに愛してる、想いあっている。ただその想いがすれ違ってしまってるだけなんだ。」
「俺は2人の仲を拗らせたまま引き離したくない。そんなことをしてはいけないんだ。」
「……先程からお前はアルベール・デュノア。デュノア社長にはシャルル・デュノアに対する愛情があるように話すな。お前の又聞きとはいえ、話を聞く限りでは自分の娘を使い勝手のいい道具にしか思っていないように感じるぞ。」
「それは……」
「言っておくが、なんとなく が通用すると思うなよ。少しは具体的な根拠がなければ大人を納得させることも大人を相手に自分の意思を押し通すこともできんことを理解しろ。」
言えなかった。白式からユニコーンに変革する時に見た光景、そこに映っていた老年の男性。目の前で不器用ながらも確かな愛情を向けて死んでいった彼と似ているからなどと。
話しても信じないだろうし、なぜかあの時の話をしてはいけないと思ったから。だからこそ自分の覚悟を姉に納得させる為の根拠を必死になって考える。
考えて 考えて 考えて
「おかしいんだ。」
「おかしい?」
「そう、おかしいんだ。おかしいんだよ。男のふりをすることで会社をアピールしながら同じ男だから近づきやすいという利点を活かして俺へのスパイ行為をする。確かに経営危機に陥ってる会社の立て直し策としては良いのかもしれない。けど、それにしたってバレた時のリスクが高すぎるんだ。」
「それこそ失敗した場合シャルルが言ってたみたいにシャルルは投獄されて会社は倒産する。俺と同い年の女の子がそれに気がついているんだ、大企業の社長が気がつないはずがない。ならそうさせてまで学校に通わせたい理由があるんじゃないか?」
「それが親の愛だと?」
「そうだと……いや、そうだ。」
一夏の言葉を受けた後黙り込む千冬。先程と同じ状況だが、それに対して一夏は何も不安を感じていなかった。
「親の愛という結論は腑に落ちんが、まあ及第点といったところか。」
「確かにお前の言うとおり自分の娘を男だと偽らせてIS学園に通わせるなどリスクが高すぎる。それこそデュノア社ほどの大企業ならば他社の研究員を引き抜くなり技術協力の提携を結ぶことだって出来るはずだ。それをせずにそのような手段をとったということはどんな手を使っても娘を入学させたいという理由があるはず。」
「それが愛故にとは思わんが、理由は不明ながらもシャルル・デュノアを引っ捕えるのを思いとどまらせる根拠にはなるだろう。」
「千冬姉それじゃあ!!」
「ああお前の頼みを聞いてやろう。ただし、条件がある。」
「条件?いったいなんなんだ……?」
「それは……」
「そ、それは……?」
「それは、月一で私の部屋を掃除してもらうことだ!」
「……プッ、あははは!条件だなんて勿体ぶって言うから何事かと思えばそんなんでいいのかよ!」
「それで?私のこの交換条件をのむか?」
「ああ、勿論だ。」
交渉は成立した証として握手をする2人。
そこには先程までの緊張感はなかった。
*
千冬は話し合いが終わり、一夏を自分の部屋に帰した後もベッドに腰を掛けていた。
思い出すのは一夏が部屋を出る直前の会話
「なあ一夏……お前は自分の両親についてどう思っている?」
自分の質問にキョトンとした顔を浮かべる弟。自分としても話の切り出し方があまりにも突拍子もなさすぎると思ったが、どうしても聞きたかった。
一夏には両親は一夏のものごころがつく前に2人揃って蒸発したという話にしている。だから、一夏は子供の頃から親というものに対していい印象を持っていない。
だからこそ気になったのだ。彼がなぜ他人の親のことをそれほどまでに信じられるのかを。
「う〜ん……ものごころついた時から親なんていなかったからなんとも……ただ、昔までは嫌いだったさ。子供を捨ててどっかにいって、そのくせ金銭的な援助とかも全くやらない人達なんて好きになれるはずが無い。けど、今は好きでは無いぐらいにはなったかな。もしかしたら両親が俺たちの前から消えていったのには何か理由があるのかもしれない。何も知らないからこそ俺はそう信じたいと思えるようになったんだ。」
「真実を知った際に、絶望することになったとしてもか?」
「ああ、それでも俺は人の心を信じる。それが生み出す未来を信じてる。その先が例え空虚なものだったとしても俺は人の心の光を示し続けるさ。」
その言葉を最後に部屋を出て行った一夏。自分の弟である筈なのにまるで人ではないような、人の枠すらも超えているかのように感じてしまった。
「人の心の光か……」
そう呟き、缶の中に少しだけ残っていたビールを飲む。
時間が経ち温くなってしまったビールはただただ苦かった。
次がいつ投稿されるかは自分でもわからないのでひとまずこう言っておきます。
2年後に10話で!!