人か喰種か両方か 作:札幌ポテト
テーマは
「巻き込まれながらなし崩しに一目置かれる存在になってしまう」です。
1話
パサパサと、ページを捲る音だけが広大な空間に響いている。
読んでいる男の名は和修常吉、CCGの総議長である。
その手にある書類はとある事件のレポートだ。
と言っても強力なグールが出てきたわけではない、それも解決済みであるのだが内容の方が問題なのだろう。
「……これが、やったのか?」
写真に写っているのは年端も行かない少年だ、資料によると身長155cmの14歳らしい。
だがその隣にある資料の写真には、とても言い表せないような惨殺現場がそこにあった。
「間違いありません、証言もあり、付近の監視カメラから確認が取れています」
書類を届けた男は確かな事実であると、答える。
虚偽の報告にしては些か突拍子もないものだろう、しかし総議長は別の疑念を述べた。
「喰種ではないのか?」
グール同士の殺し合い、それならば別に問題はない。
中学生であっても、その程度ならば起こってもおかしくはない。
ただ中学生の方も始末してしまえば終わりなのだ。
「血液検査の結果としては、そうではないかと」
しかし、現実としては違った。
検査結果も付属しているようで、それを見れば違和感を覚える点は見当たらない。
つまり、ただの中学生がグールを倒したのだという事が事実であると証明されてしまうのだ。
それも、一方的な惨殺という形で。
「御一考を、お願いします」
これを世に放つというのは危険だ、むしろ保護した方が利になる。
そう言っているのだろう、事実ここまで行った少年を解放するという考えは元から無いだろう。
幸いにも、孤児院で過ごしていたようで話は簡単につく。
「……いいだろう」
少しの静寂の後、重圧感のある声が響いた。
「
これから世界に幸か不幸か、影響を与える存在、その名が今初めて、世界へ認知されたのであった。
☆
おっす、オラの名前は成遼太郎!
突然襲ってきたグールをぶっ殺しちゃった14歳だよ!!
待て、変な目で見ないで欲しい。
違うんだ、色々と違うんだ。
確かにわたしの身体能力はズバ抜けている、ただそうは言っても同年代の中学生を封殺できる程度であり、正直グールとほぼ同じ動きが出来た時は鍛冶場の馬鹿力が発動しただけだと思うけど違うんだ。
偶々グールから出た羽と似た尻尾みたいなのが背中から出たけど人間なんだ、少なくとも血液検査では大丈夫だった。
両親は病弱のせいで実質居ないけど多分人間なのだ、だから私も人間だと思うがヤバイんだ。
何がやばいって、捜査官にならないかってスカウトされたんだ。
しかもほぼ強制的にである、ふざけてるのだ。
偶々出てきたグールを近くに落ちてた鉄パイプで殺る
↓
くそ長い事情聴取後に捜査官からスカウトされる
↓
孤児院まで根回しを済ませている上に卒業勧告がされる
↓
よく分からない部隊へ編入された
ここまでの流れをざっくりと纏めたが、どう見てもおかしいのだ。
幸いというか尻尾が出た時はテンパり過ぎて偶々弾丸みたいに飛んできた羽を弾けた後に消えて、監視カメラも狩りの為か元から壊されてたのでバレていない。
おかしい、色々おかしい。
私の身体もたぶんやばいが、命がそこらのゴキブリと同等に感じる捜査官へなれというのがかなりやばい。
しかも孤児院からお別れという名の退去宣告もされており、両親の医療費を稼ぐという意味では「良かったわね」とまで言われた。
まぁ孤児院という慈善事業は大人になるまで面倒を見るのではなく、生きていけるまで面倒を見る場所だ。
金稼げるようならば出ていけと言われるのも仕方ない。
というわけで、これからやばい人生を送る事になるのだ。
泣きそうである、というか泣いた。
とても14歳が背負って良い仕事ではないと思う。
ただ決まってしまったのでどうしようもない、1日1日を噛み締めて生きていくために、日記をつけようと思う。
遺書代わりにもなるだろうし、出来る限り命を大切にしていきたい。
☆
◯月×日
連れてこられたのは私の編入する部隊、0番隊である。
中を見てみれば殆ど自分と似たような所かそれ以下の年齢の者達で構成されている。
あ、なんだここは養成所か。0って言うのは1に至る為の訓練部隊って事ね、と納得した。
クインケというグールと戦う為の武器も貰えた、名前はユキムラで甲赫という部位を使用してるらしい。
少しだけ心の中にある厨二病が擽られたが、それは次の言葉で掻き消された。
「今から狩りに行くぞ」と。
◯月a日
久しぶりに日記を書く、いやマジで大変だったんだ。
怠けていたとかではない、自分で生きるのに精一杯だったのだ。
隊長+αでどこへ行くかと思いきや、地下に行ったのである。
それも、グールがいっぱいいる場所だ。
まさかのいきなり実戦投入である、と言っても私は他の支援がメインであまり戦っていなかったのだが四方八方からグールに襲い掛かられている状況が数日間も続けば精神は摩耗する。
皆の見えないところで何回か吐いた、見られた所でも2回吐いた。血飛沫が舞う戦場を見て何とも思わないほど心は強くない。
そして何より私よりも年下の少女とかがメインで殺してるのだから恐ろしい、使えないゴミ呼ばわりされたがイラッとして貧乳扱いしたのは今更であるが大人気ないと思う。
後で伊丙三等には謝ろうと思う、まだ12歳だけど頭を下げる事には特に忌避感はない。最年少なんだよね、やばいよね。
あの子強すぎでやばいね、しかも周りの子達も年は私と同じか少し上程度だがほぼ同格だ。
そしてなにより有馬貴将が無双しまくりであった、あの動きヤバすぎる。0番隊らしいが、あの動きは異次元である。
真似しようと思って地下脱出後に練習してみたが、ほぼ無理だった。
これが捜査官のベーシックならばかなりやばい組織だ、CCG。
とりあえず完全にお荷物状態であったので、邪魔にならない程度に知識や練習をしたいと思います。
◯月b日
伊丙三等の小間使いになりました、成三等です。
呼び捨てされてます、クインケの使い方を教えてもらってますがこの子マジで強いのがわかります。
あれだ、人間の可動域とかを完璧に把握してるから動けるんだ。
なので無理矢理柔軟をされました、鳴っちゃいけない音が身体中からした時はケラケラと笑っていました。
いつか泣かせようと思います。
◯月c日
以前、私から出た尻尾なのだがあれは尾赫というものらしい。
ここ数日、映像データで確認したので間違いない。
深夜の森の中で試しに踏ん張ってみたら出てきた、ついでに甲赫も出てきた、私は人間じゃないかもしれない。
というかグールじゃないかと思い目を見たがしっかりと片目が人のものじゃなかった、これバレたら殺されるやん。
まだ10日程度しか身を置いていないが、少なくともモルモットにされる未来しか見えない。
頑張って隠し通したいが、もう少し自分についても調べる必要がありそうだ。
◯月d日
調べるとどうやらRc細胞という物が必要であり、それは人間にも元々あるようなのだが私のは嫌な事に気づいてしまった。
グールの武器である赫子、あれを暫く使うとRc値が著しく落ちるのだ。
自分の血を取って確かめたので間違いない。
たぶんそれで前回はバレなかったのだと思う、そして更に嫌な事に溜まる速度が成長してる、使えば使うほど筋肉みたいに増えてる。
筋トレしても中々筋肉痛にならないなと思っていたが、嫌な事を知ってしまった。
両親の家系図なんかをそれとなく聞いてみたが特に変な事はなかった、でも恐らく先祖返りなのだと思う。
グールとの間に子供が産まれるというのは知らなかったが、これからより一層気を引き締めなければならない。
というかこんな事書いてるの見られたら終わる、誰にも見せない理由が出来てしまった。
こっちも慎重にしよう、特に人との距離感を。
☆月×日曜
0番隊に編入されてから一ヶ月が経った。
早いものだと思うが、正直濃すぎた。
偶に顔を出しに来る有馬貴将の動きのヤバさを感じながら「バレたらこの人に殺されるなぁ」と思いながら伊丙三等にボコされている。
ただ気付いた、気づいてしまった。
たぶん、この人は倒せる。
今程度であってもグール特有の筋力と速度で圧殺する事は出来なくはない、有馬貴将の動きというだけで見れば同じパフォーマンスも不可能ではないかもしれない。
ただ動きに差があるのだ、反射やフェイントなどがわたしには全くできていない。
伊丙三等から雑魚呼ばわりされたのも慣れてきたが、正直これは好都合である。
強い者ほど、強い敵と戦う義務が出てきてしまう。
私は、強い存在になる必要はないのだ。
ただ自分がグールだとバレなければいい、それなら寧ろ戦果を出さない方がいい。
ただばれた時のために殺されないようにしなければならない、とりあえず伊丙三等の動きを真似しながらとりあえずそこそこ働きそこそこ戦果を出さないように頑張ろうと思う。
☆月a日
筋力がおかしい、片手でバーベルを上げれる。
そこそこ健康的な身体だね、と言われる程度の体でだ。
これがグールの力である、そりゃ人間程度簡単に捕食してしまうだろう。
そんな私であるが、未だに全力で動いた事がない。
いや一度グールを鉄パイプで殺した時はしたが、あの時よりも遥かに体は育っている。
適当なタイミングで、自分の限界というのを知っておくべきだろう。
☆月b日
来週、久しぶりに地下へ潜る事になった、と言っても前回よりも小規模で有馬さんはいない。
マッピングなどの作業を前回はメインでしていたが、今回もさせてくれるあたりまだまだ弱い奴で生きていけそうだ。
このまま何の憂いもなく生きていきたい。
☆月c日
もう手足の感覚がない、お腹が空いた……最後ぐらいステーキでも食べたかった。