人か喰種か両方か 作:札幌ポテト
「君はあれだね、自分がおかしい事に気付いてないね」
「おかしい側筆頭に言われたくないのですが」
芳村エト、彼女は目の前にいる青年に対して頭の中にあるデータを元に話をする。
今は成とエトの鍛錬、もとい殴り合いの時間だ。
クインケも赫子も使わない戦闘であるが、異次元の動きをするエトに喰らい付く成も、十分に人を辞めている。
そんな中ではあるが、殴り合い以外にも成についてやグールという存在についてなどの雑談の時間も多い。
かれこれ2年もの付き合いだ、同志として話せる人間というのは貴重であり、エトはこの会話そのもの楽しんでいる節がある。
成もまた断る理由もなく、むしろ有益な話を聞ける事が多いので面倒ながらも付き合っている。
「君のRc値、普段は人並みにまで落としているようだが……」
「調整できるように練習しましたからね」
「この数値は私と同等か、それ以上だよ」
成の頭の上にハテナが浮かぶ、それだからどうしたという様子だ。
別にRc値の制御はエトでもできる、人並みにまで落とす事も可能ではある。
ただ、目の前にいる青年はグールとしての自分を知ってから独学でそれを会得している。
「……しかも君、まだ上げられるだろ?」
「制御を考えなければ、ですけどね」
グールの赫子には2つの要素がある、赫子の大きさは才能であるが赫子の形は知識によるところが大きい。
そして、目の前の才能の塊はどちらもあり、それを感覚で捉えている。
「君、捜査官としては有馬ほどじゃないけど喰種としては天才だよ。私が保証してあげる、一緒に世界壊そうぜ?」
「壊すんでしょ、後さりげなくその貧相な体を擦り付けないでください」
何故か最近スキンシップが多くなっている事に冷や汗を垂らしている成を見てケラケラと笑うエト、実を言えばこの協定を組んでからは有馬よりも時間の割合はかなり大きい。
故にプライベートな話し合いをするまで、二人の仲というのは悪くない。
「君は枯れてるわけじゃないだろ?好きな女の子ぐらいいるんだろ?ほれほれ、おねーさんに何でも言ってみなって」
「おねーさん、痴女がいる」
「はは、ぶっ殺すよ?」
成からすれば、実は1番人としての関わりを持っているのが彼女だ。
付き合いの長さで言えば該当者は多数いるが、ここまで気の抜けた話し合いをする人というのがそもそも居ない。
エトは「まぁ後でそうするとして、話を戻そうか」と呟く。普通に無視したい内容だが耳元で囁かれれば嫌でも聞こえてしまう。
そしてまた、いやらしく成の心の中まで踏み込んでくる。
「もしかして、これから殺す子とか?」
エトというグールはお人好しでもなければ聖人でもない。
反応を見て楽しむだけの友人ですらない関係だ、彼のよく会う倫理観のぶっ壊れた存在筆頭であり、時間の長さとエトの興味だけで成り立っている関係だ。
だから、どんな反応をするのかとエトは顔を伺う。
「……あれは違いますよ、従兄弟ですし出来の怖い妹みたいなもんです」
「じゃあ居ないの?」
「少なくとも、こんな事してる間に結婚とか考えられると思いますか?」
伊丙入に対して、成は恋愛感情を抱いた事はない。
確かに容姿は良い、普段の性格も友達として築くなら悪くない。
ただ彼女はそういう事を考えられる程の話にならない中身を持つ。
まぁそもそも、成に女性の知り合いそのものが少ないのだ。
告白された事は中学時代にありはしたが、それっきりだ。
よく言われる事であるが、捜査官は2つのタイプに分かれる。
早々に身を固める者か、独身を貫く者か。
前者は真戸や黒岩が当てはまる。
「私は、出来るだけ他者の命を背負いたくないんですよ」
そして彼は後者側の人間である。
命の重さを知るからこそ、その責任を持ちたくない。
持たざるを得ない時を持つが、そこまでの業を背負いたくないのだ。
「君あれだね、殺した相手のこと覚えてるでしょ?」
「……まぁ、知性があったグールはだいたい」
「なるほどねー、殺した相手の命を背負ってるつもりなんだ。優しいじゃない、色々損しそう」
恐らくであるが、これから死ぬ予定の有馬の命も彼は背負うのだろう。
そしてこれからこの事に巻き込まれて死ぬ人間、グール、その他諸々の命を背負うつもりで戦う。
「こういう人間なんですよ、私は」
世の不条理は当人の力不足、しかし力を付けることが彼の答えではない。
不条理そのものがなくなる事を、彼は望んでいるのだ。
だからこそ、巻き込まれた形とはいえ有馬達についていっている。
「うん、お人好しだ。でも逆に気になるけど、どういう時は殺してたの?」
「殺さざるを得ない時か、殺して楽にさせる時ですね」
グールを見逃した事はない、少なくとも相対したグールは全て捜査官として狩ってきた。
襲いかかってきたグールも、全て狩り取った。
ただ、自分が生きる為に手を抜いたことがあるだけだ。
その結果逃げられたり、そもそも戦わなかったりしただけなのである。
「君、捜査官向いてないね。いつか壊れちゃうよ?」
「いつも壊そうとしてくる人が何言ってるんですか」
それもそうか、と笑うエトに溜息を吐く。
「やっぱり、私ってメンタル弱そうに見えますか?」
「いや、むしろ強いんじゃないか。自分の精神を落ち着かせるのに、他者を見限っている事に何も感じてないだろ」
強いからこそ、脆い。
何かの拍子で内側から崩れていく、それがエトには分かる。
「整理をつけてるんですよ、こう見えて繊細なんです」
確かにね、そうエトは答えた。
そしてもう何度目か分からないが、核心をつく言葉を放つ。
「件の上等、君はある条件がなければさっさと殺してるんじゃないか?」
「何ですか、それ」
「例えば……その子に恋慕の情を抱く者が、君の世話になった上司だとか」
少し、目を見開いた。
エトの口から、そこまで読み取られているというのに畏怖した。
「それだけじゃないですけど……何でも知ってるんですね」
それだけ呟き、その事については口を閉じた。
エトもここをほじくっても反応しないのでは面白くないと思い話を変える。
「君人間の食事で生きれて良かったね、じゃなきゃ自分の生きる為に誰でも殺すバケモノになってたよ」
「それなら、有馬さんに殺されてますから」
自分の人生を認めているように、成は答える。
人を食べなければ生きていけないグールならば、彼はそれを正当な理由として食べていただろう。
だから、それで殺される事を不条理とは考えていない。
「あ、それと例の物が出来そうだよ」
「……あれですか」
ふと思い出したようにエトは呟く、成もまた分かっているようだがその顔はどうでも良さそうにしている。
「うん、一応は約束の物だしね?作るの大変だったんだから貰っといてよ」
「もう不要なんですけどね」
エトは弄るように体を押しつけ、彼の体を確かめる。
身長にして172cm、体重67kg、有馬の雰囲気を持ちながらそれとは完全に異なる青年の力を感じている。
「そろそろセクハラで訴えますよ」
「おや、誰にだい?」
「有馬さんに」
「手厳しいな、長い付き合いだろ?」
「会ってから8年したら考えてあげますよ」
ただ、そろそろ問答に疲れてきたのか。
体を離すと、柔軟を始める。
成も拒絶こそしなかったがやっと離れたかとほっと一息つく。
しかし、そう彼女は優しくない。
「そう言えば、君とは組み手とかしかやった事なかったね」
そう呟くと、背中から赫子を展開する。
「そろそろ、一回殺し合おうか」
いつもの冗談かと思いながらも、エトの方を振り向く成。
しかし目がマジであったので流石に危機感を覚えており、宥めるように後退りする。
「……あの、私貴方と違って手足の再生はできないと思うんですけど」
「大丈夫、そしたら最期まで養ってあげる」
瞬間、成へ赫子が向けられる。
「瓶漬けにして、ね?」
命懸けの戦闘訓練は、数時間にも及んだ。
幸いな事に手足の欠損は無かったが、成はこれ以降彼女と会う際は必ずクインケを常備するようになったのであった。
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