人か喰種か両方か   作:札幌ポテト

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10話

月山家の一人息子、月山習の使用人、もとい護衛には優秀な者が就いている。

月山の騎士として名高い、松前もその1人だ。

盾と剣に分けた甲赫は才能こそ並であれど、高い技術で扱えており、月山家でも随一の使い手として知られている。

 

「お久しぶりですね」

 

その松前の前には、1人の少女がいる。

 

「お久しぶり、というかさよなら」

 

名を伊丙入、庭出身の上等捜査官だ。

彼女と松前が会うのは二度目であり、一度目は圧倒的な技量と動きの読めなさで撤退を余儀なくされた。

 

しかし、今回は許されない。

 

ビルの屋上では、ヘリを待つ皆の命を託されて御曹司がいる。

最低でも時間稼ぎ、それが松前達に与えられた使命である。

 

相対する捜査官の数は8人、明確な戦闘意思を持っているのは4人、そして要注意人物は2人だ。

 

伊丙は言わずもがなであるが、もう1人のつぎはぎの捜査官も松前達の記憶に強く残っている。

自分達の仲間を拷問し、動画で挑発したキジマ式だ。

手にはチェーンソー型のクインケ、ロッテンフォロウがありその血の後からもどれだけの同胞をビルに上がるまでに排除してきたかがわかる。

 

どちらも通すわけにはいかない。

 

「来ますよ」

 

松前は、伊丙に挑んだ。

彼女の持つクインケ(Aus)はS+レートの甲赫を使用した太刀型のもので、破壊力がある。

分離が可能である松前の壁は簡単に排除される。

 

「今日はやる気なんですね」

 

「無論」

 

一方、残りの戦える3人の捜査官の方であるが既に2人死亡している。残りのキジマは雑魚の処理をしながら使用人の1人、マイロと相対しており、やや優勢だ。

 

しかし、伊丙の方は盾に苦戦して攻めきれず押され始める。

その様子には伊丙のパートナーとクインケ持ち、そしてキジマも驚いている。

 

「良いですね、その盾」

 

だが伊丙には余裕がまだある。

その赫子から作られたクインケは素晴らしい物になるだろうと、今最も欲しいIXAに近しいものが手に入る、と少しだけ笑みを浮かべる。

 

「あっ、血」

 

しかし、足元にあった血で大きく体制を崩した。

それは、松前という実力者の前では大きすぎる隙だ、そのまま彼女赫子が伊丙の腹を貫くのも、必然であった。

 

 

「……あな、ぽこ」

 

赫子は伊丙の体を貫通した、彼女に死を連想させるほどの手傷を合わせた。

たった一度のチャンスを物にしたのだ、彼女の視界が少しぼやけ始める。

致命傷だ、もう戦える身体ではない。

ただ、彼女は消え入りそうな声で呟いた。

 

「岡平ァ……クインケェ……」

 

「は……何を」

 

「よこせっつってんだよ!はよせいっ!!」

 

瞬間、マグマのように彼女の怒声が吹き出した。

岡平もまさかこの状態から戦うとは思わず反応は遅れたが、そのまま手に持っていたクインケを投げ渡す。

 

羽赫のクインケ、名を『T-human』稲妻のような弾を出すレイピア型のクインケだ。

レートはS+のもので、その力は絶大過ぎる。

 

「散れや」

 

床を抉りながら猛進する雷撃、それを松前は盾で受けるが。

 

「(これは、持たない……)」

 

その捨て身とも言える攻撃に耐えることしかできない。

規格外の攻撃に耐えられるほど、彼女の盾は硬くない。

直に破られる、その時隣を誰かが飛び越えた。

 

「マイロっ!!」

 

「習様を頼むっ!!」

 

マイロだ、しかしマイロにはこの攻撃を耐えられるような盾はない。

 

それが命懸けの特攻であるのはすぐに理解する、勢を殺さずに直線でマイロは伊丙へと向かっている。

 

「じゃ、まっ」

 

目の前の脅威へと、目標を変える伊丙。

そして防ぐ力も気もないマイロの身体は泣き別れたなる。

いくら再生力のあるグールと言えど、こうなれば確実に殺せる。

 

「胴・体・無・要!!」

 

だが、跳躍した勢いまでは殺せない。

 

「伊丙上等っ……!!」

 

伊丙の前に、殺意を持った上半身がやってくる。

対応しようにも意識すら曖昧な彼女は咄嗟に動けない。

 

「(あ、死……)」

 

ふと、自身の頭に情景が浮かぶ。

若かりし頃、まだ黒髪であった頃の有馬の姿だ。

 

死神にあった、そしたらとても綺麗だった。

 

その記憶が彼女の心の柱だった。

 

そんな走馬灯が、一瞬で過ぎ去って行った。

 

 

誰もが思った、伊丙上等捜査官は死ぬと。

首が飛ばされて死ぬ、そうなる結果が誰の目に見えていた。

 

「とど、かず」

 

故に、誰も予期できなかった。

敵をぶった斬った直後に、伊丙の元へと走り込んでいた成一等捜査官の事を。

 

「岡平一等、止血だ」

 

「は、はい」

 

ギリギリで間に合い、伊丙の体を引っ張り捨て身の一撃を避けさせたのだ。

同時に飛び込んできたグールを壁際まで蹴り飛ばしている。

しかし咄嗟の影響か、伊丙の片腕が肩下から飛ばされてしまった。

ただでさえ多かった流血、岡平は言われるがままに止血をおこなっていくが助かる見込みは低い。

 

「彼女を医療班の所まで連れて戦線を離脱、死なせるな」

 

そしてグールとの間に、彼は立った。

自身のクインケを展開しながら。

まだ生きていた上半身のグールへは地面を這わせた触手で貫き絶命させている。

 

「何言ってんだ……」

 

だが、彼の指示を1番認めないのは彼女自身だ。

 

「雑魚成、利き腕ないくらいで戦えねぇとか思ってんのか」

 

「戦えないでしょ、腹に穴が空いてなくても今の上等では勝てません」

 

片腕が無い伊丙では、勝てない。

彼女が仮に腹の穴がなかったとしても、その実力は特等レベルから2段階は下がる。

腕とは、手数と重さに直結する部位だ。

手先の動きは技術であり、模造品を付けても元に戻ることは無い。

故に、成の分析は正しい。

 

しかし、そんな正論が言われても納得いかない。

言う言葉ではなく、言う人間が気に食わないのだ。

 

「私に指図すんな、さっさとクインケ寄越っ!!」

 

無理矢理立ち上がった伊丙の言葉を言い切る前に、それを上書きするように破裂音が鳴った。

 

「聞き分けろ、死にたきゃ後で死ね」

 

伊丙の頬を叩いたのである、力加減をしてるようには見えない。

顔には赤い紅葉が浮かんでおり、ジンジンと腫れ上がってきている。

だが伊丙は痛みに喚くわけでもなく、唖然としている。

 

まさかいつも他者への距離を取る成が、そこまでしてくるとは思いもしなかったのだろう。

いつもある上っ面の敬語も消え、軽蔑するように見下ろしている。

ごちゃ混ぜの頭の中には屈辱的な意識もまじっている、しかし言い返せるほどの余裕は本当にない。

 

それほど重い傷なのだ、生きている事どころか意識がある時点で怪物である。

へたり込み、岡平は彼女をそのまま背負い後方へ一気に下がる。

 

「キジマ准特等、あの2人だけで護衛は難しいです。彼女を連れて下がってください。ここの維持は私が」

 

だがグールのまだ残るこのビルで2人だけで下がらせるのは流石に危険だ、キジマへ成はそのまま下がるように促すがキジマは首を縦には振らない。

 

「お断りですよ、成一等。なぜ下がらねば?」

 

「私の言葉は宇井特等の言葉と同義であると取ってください」

 

キジマはそれを聞いていつもはすぐに引き下がるが、今回は言い分に顔を顰める。

越権行為だ。

キジマに対して命令が出来ていたのは監視役での事であり、現場での指揮は認められていない。

そしてそれはキジマですら分かっていることだ、ここでその言い分が使えるとは本人も思っていないはずだ。

 

だが、続けてこうも言った。

 

「まして必要以上の骸の上に出来た結果を、特等は望みません」

 

勝手な言い分だ、自己本位である。

ただここまで意識を発露させた瞬間をキジマは見たことがない。

それも、怒りとも焦りとも感じるような反応を。

 

「いくよ旧多くん、後でこの事は報告すれば良い」

 

何か特別な理由があったわけではない。

 

ただ、こうなった後を知りたいと感じたキジマは下がる事を決める。

 

結果として伊丙入は命を繋ぎ止め、被害も最小限に抑えられただろう。

 

ただ、これが成遼太郎の人生における分岐点となったのは知る由もないだろう。

 

 

5月w日

 

月山家の討伐が決行された。

当主と使用人は投降し、楽に終わったかと思いきや息子を逃していたのでそれの追撃戦が開始した。

 

ビルの先行部隊として伊丙上等、キジマ准特等達と潜入し、屋上前まで入り込んだ。

そこで剣と盾を使うグールに伊丙が血で足を滑らせ腹を貫かれた、ただそこからブチギレた彼女はT-human、有馬さんのナルカミのようなクインケで手練れの1人を撃破した。

 

が、決死の突撃を行いその凶刃は彼女の首に迫った。

今の伊丙なら確実に死ぬ、態々私が手を汚さずとも消える。

 

故に見殺しにしようとしたが、頭の中に宇井さんの顔が思い浮かんでしまった。

なので、利き腕を失うように助けた。

 

喚き散らしてきたが黙らせて、キジマさんと共に撤退させた。

 

その後、1人残った私だが進行地点の維持だけだったので、その旨をグール側に伝えると何人かは残りはしたが、引かせる事に成功した。

まぁ残って襲ってきたのは人の目もないので対処したが。

上ではエトさんが乱入したようで轟音が鳴っていた、しかし佐々木もとい金木となった彼が撃退したらしい。

 

結果として、梟の撃退に成功はしたが、月山家の子と当主は逃げた。

 

私も結果として殺せず、エトさんにも任せられずに終わった。

 

ただ捜査官としての彼女をその日殺したのは、私であった。

 

5月z日

 

伊丙を殺さなかったが、使えない駒にした事を有馬さんへ報告した。

甘さが出た事に関しては謝罪をしたが、今の伊丙は使い物にならない事を判断されたのでこのまま彼女は生かす運びとなった。

いや、正確には殺す必要がなくなったという所か。

 

あと関係ないがエトさんから今の金木が相当強いと聞いた、捜査官の時の私と同等以上との事だ。

 

6月x日

 

私に処分が下された。

勝手な指揮が問題となったらしい。

それと今回の作戦で目的としていた月山家のグール殲滅は失敗したので、それのスケープゴートとして選ばれたのだろう。

 

正確には成り行きでそうなったことを宇井さんから謝罪されたが、別に気にしていない。

二等になったのも、個人的にはどうでもいい事だ。

むしろ気が楽なる。

 

ただ宇井さんは元気がない、伊丙の命がある事に対して頭を下げてもらえたが、彼女はもはや捜査官どころか人間として死んでいる。

 

生きる意味を失しないかけている彼女は、未だに病室から出られていない。

 

7月y日

 

私の上司がキジマさんになった、代わりに旧多一等は准特等となった金木の元へ行った。

キジマさんの手足となり雑務をこなすだけなので楽だ、ただ彼は私が嫌いなのは知っている。

拷問しようと少しでもその態度があれば、階級なぞ関係なく苦言は呈していたのが染み付いてしまい、今でもしてしまう。

宇井さんの庇護が無くなったのではあるが、そういう関係になってしまった。

だが昔に比べて遥かに減った気もする、私が悉く個人倉庫を見つけまくったせいだろう。

今じゃ楽しまれてる節がある、そろそろ満足して欲しいところだ。

 

8月z日

 

エトさんや有馬さん、そして平子さんと話した。

有馬さんはこれから近い時期に、金木に殺されるらしい。

具体的には、コクリアで。

エトも、そう長くないと言う。

そしてその後のことを平子さんと私の2人に任せると言う話し合いをした。

 

やはり死ぬ事を選んだ人達は、何故か強い。

死んでも成し遂げたい信念があるから、強い。

 

今更ながら、2年も付き合っていれば情も湧く。しかし死んでほしくないなんていう我が儘は通らないし、それは彼等への冒涜になる。

2人の成就が叶わせる事、それが無理矢理とはいえ託されてしまった私達の責務なのだろう。

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